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スモーキーミルク【5】
それから八尋は、退院と同時に紹介されたミルキーオメガの保護施設に入ることになった。
特定オメガ専用保護施設『ホワイトフリージア園』。
その施設は民間経営で驚くほど豪華な建物だった。八尋にも高級ホテルのスイートのような広い個室が与えられ、ここで暮らせるなら悪くないかと思った。
――最初は。
「白駒さん、では毎朝これで搾乳してください」
八尋の担当だと言う施設職員の佐藤は、五十代くらいのキビキビとした女性だった。その佐藤から見慣れない機械を渡され、八尋は目が点になった。
「さ、搾乳……?」
「使い方わかります? この部分を乳首にかぶせてスイッチを入れると搾乳が始まり、このアルミ袋に溜まります。だいたい30㏄から70㏄くらいです。袋はこの冷凍庫に入れてください。毎日職員が回収します」
「は、はぁ……」
「回収したミルクは希望者に販売します。こんな感じで」
「なっ!」
佐藤は八尋にタブレットPCを見せた。
そこには番号と共に上半身裸の青年たちの写真が載っていた。どの写真の青年たちもみな扇情的なポーズをとり胸を強調している。
「こ、これを俺もやるんですか?!」
「そうです。ここでお客様に選んでいただき、ご購入いただけたほうが報酬が高いです。売れ残ったものは全部混ぜて一般医療用となります。それはあまり高くないんですよ」
笑顔で淡々と説明する佐藤だが、八尋は頭が真っ白になった。
「さらに高額なのはダイレクトです。個室でお客様に直接ミルクを飲んでもらうことをそう呼んでいます。でもダイレクトは強制ではありませんので、相手の方と会っていただき白駒さんが合意すれば、の話です」
「直接、ち、乳首を吸わせるってことですか?」
「そうです。大抵の場合はそのまま性行為につながります」
「へっ?!」
「αの方にとってオメガミルクは高い高揚感をもたらしますので。もちろんコンドームの使用は必須にしていますし、ハードなプレイは禁止です。皆さんエリートな紳士の方ばかりなので、その点はご安心を。当然報酬は高額ですよ」
なぜ保護施設が民間経営なのか。
なぜこんなにも豪華な建物なのか。
八尋は理解出来た気がした。
ここはいわば娼館なのだ。八尋は今そこに入っている。
「退所後の生活も考えて、皆さん資金を貯めていらっしゃいます。効率よく稼ぐことをお勧めいたしますよ。ご相談があればなんなりと!」
佐藤は何も悪いことは無いというような笑顔を向けてきて、八尋は思いの全てを飲み込み言葉を振り絞った。
「内容は、理解しました……」
冷静でいようと努めるが、胸の奥に拒絶と絶望がくすぶる。
高級ホテルのような造りは優雅だが、自由を奪われた閉塞感がジワジワと押し寄せてくる。
(ここでの生活に慣れるしかないのか……)
八尋は自分にそう言い聞かせながら、目の前のタブレット画面に映る写真を無表情で見つめた。
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