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スモーキーミルク【11】

「十時には多歌子さんが来ますが、それまではお一人ですのでくれぐれも外には出ないように。何かあれば内線でコンシェルジュを呼んでください。緊急でなければ僕にメッセージを。ああ、今日からリモート出社ですね。もう事情を知ってる社員もいますが、あまり詳しいことは言わなくても良いかと……」 「望、俺は大丈夫だから。遅刻するぞ」  靴を履いてもなおしゃべり続ける望から、八尋は靴べらを奪い取り、玄関扉を指し示す。 「そう、ですね。なんか心配で……。やっぱり二十四時間ボディガード入れようかな……」 「望、ほら、いってらっしゃい」 「あ、はい……。では八尋さん、いってきます」  八尋が無理やり会話を終わらせると望は渋々と玄関から出ていった。  『ガチャ』と扉が閉まると『ウィウィーン』と電動でロックがかかる音がする。ここは望が用意した八尋の為の要塞だ。  このマンションに来て今日で三日目。  月曜日の今日、望は通常通り出社し、八尋はリモートでの初出勤となる。  現在時刻は八時半。勤務時間は十時からで、多歌子が来るのも同じく十時。それまでに八尋には一人でやらねばならないことがある。  八尋は自室に入るとベッドの脇に腰を下ろし、ベッド下に置いた籠から器具を取り出した。着ていたパーカーを脱ぎ、吸水性の高いインナーを捲り胸を出し、吸盤のようなパーツを両胸に取り付け、電源を入れる。 「……っ」  機械が微かな作動音を響かせると、両胸の小さな突起から白い雫が盛り上がり吸い取られていく。 「んっ……はぁ……」  オメガミルクは母乳と似て非なるもの。  母乳と違い厄介なのは搾乳されると性的に興奮してしまうことだ。  八尋もそれを聞いた時は半信半疑だったし、初めて搾乳した時は何も感じなかった。しかし毎日搾乳を続け、約一カ月。もう乳首がしっかりと感じるようになってしまった。 「んっ! あっ……く、くそっ」  悪態をつきつつ、胸に器具をつけたままスウェットのズボン下ろす。八尋の男性器はしっかりと勃ち上がり先端に露を滲ませていた。  もう我慢しても仕方ないのでその男たる象徴を握りしめ扱く。ミルクを搾られながら性器を扱くのは実に無様な光景だと思うが、恐ろしいほどの快感だった。 「はぁんっ! あっ、あっ……!」  ヒートが来る前は自慰で声を上げることなど無かったのに、今では声を我慢することができない。 「んっ……くっ……!」  快感が絶頂を極め、八尋は右手の中に精を吐き出した。ミルクもアルミ袋一つ分溜まっている。  ティッシュで手を拭き、胸の器具を外すと部屋に備え付けのシャワールームへと駆け込み、全身を洗い流した。  きっとこの部屋は防音対策もされていて、他の部屋に声が漏れることは無いのだろうが、やはり近くに望がいると思うと搾乳しづらい。  昨日まで『まあ、別に毎日しなくてもいいか』と安易に考えていたのだが、昨晩風呂場で身体が温まったからか勝手に噴出しまいパニックになった。  このマンションにある一番大きな風呂で、この後望が入るはずだったので八尋は大いに焦った。  湯船のお湯をはらい濯いだが、その間も胸からはミルクが溢れ出てしまい、洗い場でオロオロするばかりだった。  αはΩが出すフェロモンやオメガミルクの匂いに敏感だと聞く。シャワーで流したが望には分かるはずで、仕方なく八尋は正直に謝った。  望は怒ることも無かったが首まで真っ赤になり、「部屋のシャワーを使いますので大丈夫です」と言ってくれた。しかし、八尋自身もめちゃくちゃ恥ずかしかった。  この失敗を踏まえ、毎日の搾乳は必須なのだと反省した。  平日はこの朝の時間が一人になるチャンスだが、望が休日の時はどうすべきかも課題ではある。風呂も体調が万全でない限りは自室のシャワーで済ませるか、望の後に入るかだ。  そんなことを考えながらシャワールームから出て、搾乳器を洗い、まだ温かいアルミ袋を持って廊下に出た。  一人なのを良いことにパンツとTシャツのまま廊下を歩き、玄関近くの物置部屋に置かれた冷凍庫に日付を書いたアルミ袋を入れる。ある程度溜まったら医療用に売却すると聞いている。ここに来て一個目のミルクだ。

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