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スモーキーミルク【13】
「ただいま! 八尋さん!」
「おかえり、望」
九時過ぎに帰ってきた望は犬のようにハイテンションだった。
「大丈夫でしたか? 何か問題ありました?」
「全然。すげぇ快適だった。夕飯、まだだろ? 今温めるから」
そう言い八尋はキッチンへ入った。夕食は多歌子が作ってくれているので温め直して皿に盛るだけだ。
「や、八尋さん! 僕やりますよっ」
「いいよいいよ、居候の身なんだからこれくらいやらせろ。あ、先に風呂入る?」
「え、あ……いえ、ご飯先で」
「ん、じゃ、座ってろ」
フライパンに入っている酢豚と、鍋の卵スープを火にかけ、その間にご飯をよそう。
ふとダイニングテーブルを見ると望と目が合った。望は慌てつつも照れたようにはにかんだ。
「な、なんか、帰ったら八尋さんがいるって、新鮮ですね……」
「そうか?」
八尋は微笑み答えた。
温めた夕食をテーブルに並べ二人向かい合い『いただきます』と手を合わせる。
「んー、酢豚うまっ! 多歌子さん、料理上手だよな」
「そうなんですかね。子供の頃から食べてるからよくわからないんですが」
八尋の胸の中にぼんやりと(コイツに嫁ぐ人は大変そうだな……)と感想が浮かんだが口にはしなかった。
この生活は始まったばかりだが、望に恋人が出来たらあっさり終了するのだ。その事を深く考えると気分が沈むのであまり考えないようにしようと思った。
「あ、タコウインナー、好きなんだって?」
「もう……多歌子さんですね。あの人の欠点はなんでも人のことを話しちゃうところです」
八尋がニヤリとからかうように視線を向けると望は困ったように眉を下げた。
それから食事を進めつつ、望の仕事の状況も聞いた。四月から第一営業部部長を務めている望だがやはり大変そうだと八尋は感じた。
「昨年まで第一と第二の合同で出展してた秋の展示会、今年は第一だけでやれって言われてて」
「えっ、あの規模を? うわぁ~就任早々スパルタだなぁ」
「いきなり酷いですよね! せめて来年にしてくれてもいいのに」
「え、じゃあその分空いた第二は何すんの?」
「それがですね!」
喫煙所の時と同じように愚痴り弱音を吐く望。でも社内ではそんなマイナスなことを言うタイプだとは誰も思っていないらしい。八尋だけに素直に泣きつく望をやっぱり八尋は可愛いと思った。
「八尋さんは……今日お風呂どうします?」
夕食を終え、食器を食洗機に入れていると望がおずおずと尋ねてきた。昨日のミルク噴射の大失敗が頭をよぎり恥ずかしく感じる。
「ん、望の後に入るよ。お湯そのままで良いからな」
ここにきて初日、望の後に八尋が入った時は湯が張り直されていたことを思い出し八尋は釘を差した。
ここの湯船はとにかく巨大だ。それを毎日二杯入れてたら、水道代やガス代がどうなるのか想像もできない。
(ガスで沸かしてんのかも知らんけどな……)
八尋の指示に望は少々戸惑ったように返してきた。
「いや、でも……八尋さんに残り湯なんて」
「いやいや、一人入っただけなんだからそのままで良いよ。もったいないし、普通は家族全員同じ風呂に入るもんなんだから」
「そう、ですか……」
望は渋々了承して風呂へと去っていった。
その後、八尋は自分自身のことが良くわかっていなかったことがわかった。
αはΩの出すフェロモンなどの匂いに敏感だとは知っていた。しかし、それは逆もまた然りだった。
浴室に入った瞬間、湯気とともに感じた望の匂い。決して強いわけでも臭いわけでもないのだが、確かに望だとわかる匂いだった。
『意識するな』と自己へ言い聞かせても、無意識に身体が匂いを探り求めている。
湯船に浸かったらもう駄目だった。
全身を望に抱き締められているような感覚に陥り、胸の突起がビクビクと勃ちあがりミルクを滲ませ始めた。
「あぁ……クソッ……!」
結局連動するようにムスコも元気になってしまい、八尋は洗い場で処理する羽目になった。
油断すると漏れそうな声を必死に殺し、竿を扱く。長湯すぎると望に不審がられそうなので、八尋は仕方なく、初めて自分で自身の胸に触れた。
「んっ!」
指先で突起に触れ、転がし、摘む。快楽と共にどんどんミルクも溢れてきた。
(ああっ、吸われたいっ!)
ふと頭によぎった思い。
――誰に?
しかしそれは追求してはいけない自問だった。
八尋は無心を心掛け快楽だけを追った。
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