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スモーキーミルク【18】

 結局少ししか入ってないアルミ袋をいつもの冷凍庫にしまっている時、ちょうど多歌子が出勤してきた。 「おはようございます」 「八尋さん、おはようございます」  ふと八尋は多歌子に質問した。 「そういえば、このミルクの業者への受け渡しって多歌子さんがやってるんですか?」  アルミ袋一つにこんなに少ない量でも問題無いのか確認したかった。しかし多歌子はきょとんとした顔で聞き返してきた。 「業者って……?」 「えっと……俺が出したミルクって医療用に業者へ販売してると思いますが、その手続きって多歌子さんがしてるのかなって」  多歌子が知らないとなると、望がやっていることになるが、多忙で休日出勤もある望が雑務をするのは大変だろう。もしそうならば自分で事務処理や業者への連絡など、出来るように教えてもらおうと思ったその時。 「あら、余ったら医療用にするつもりだったのかしら。でも望さんが全部召し上がっちゃうから余らないでしょう?」 「へ?」  多歌子が思わぬ発言に八尋は声が裏返った。 (ん? 聞き間違えか?) 「の、望が……これ、飲んでるんですか……?」 「もちろんよ〜。だってそのために八尋さんが来たんじゃない。望さんのお部屋に冷凍庫と電子レンジもあるし……」  ニコニコと語る多歌子の言葉に八尋はブワッと顔が熱くなるのを感じた。同時に自身の心臓がバコバコと激しく響き始める。 「あら? あらあらあら……私、話しちゃいけないこと話しちゃったのかしら?」  真っ赤になる八尋を見て多歌子は困ったように声を掛けてくる。 (望が……望が、俺のオメガミルクを……飲んでる?!)  落ち着こうと心の中で多歌子の発言を反芻し、八尋は余計にパニックになった。 「あ、あのっ……俺は聞かなかったことにしといてください!」  八尋は動揺を堪えながら多歌子に伝え、逃げるように自室に戻った。  もうリモート出勤の時間なので、八尋はPCに向かいチャットで同僚達に挨拶をし、いつもの業務を始めた。しかし全く集中できない。それどころかもう頭の中は望のことでいっぱいだった。  望は八尋にとても優しい。八尋が何を言っても怒らないし、愚痴を言うのも八尋だけだ。さらに先日の男に触られた事件もとても心配してとても怒ってくれた。  行き着く一つの答え。 (ひょっとして、望は俺のこと好きなのか?)  何よりホワイトフリージア園から出て一緒に暮らそうと必死に説得してくれたことが、その考えの裏付けになる気がしてきた。  しかしだ。もし違っていたら、恥ずかしすぎる。  望は大きな身体の割に気が小さくストレスに弱い。ストレス緩和の為にこれまでもオメガミルクを愛飲していたならば、コスト面で八尋のミルクを飲んでいるだけの可能性も高いのだ。 (期待しちゃダメだ)  心の中で自分自身に言い聞かせながら八尋はふと気付いた。 ――期待?  そのフレーズに心拍数がさらに上がった。頸動脈が血を送る音がする。  八尋は実感した。  そう、八尋は期待しているのだ。  望が自分を好きであって欲しいと期待している。  先日の無礼な痴漢野郎に性的な目で見られ、胸を触られ、ミルクが出なくなるほど嫌悪したのに、望が自分のミルクを飲んでいると知った今、嬉しくてたまらない。  αはオメガミルクを口にすると性的に興奮すると聞いた。望も八尋のミルクで身体を熱くしているのだろうか。 「ガーーーッ! 俺、絶対キモいヤツだっ!」  想像しかけたイメージに八尋は蓋をして悶絶した。  望は七歳年下の後輩なのだ。  本当に八尋のことをなんとも思ってなかったら、絶対に気持ち悪がられる。  八尋はこの想いは望に知られるべきではないと考えた。  望が好きだと言うこの想いを。

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