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スモーキーミルク【24】

 その日も、その翌日も、八尋はいつもと変わらない態度を心掛けたが、望の方はいつもよりだいぶ大人しくて静かだった。  だが、仕方ないことだろう。望は会社では部長を務める程だが、まだ二十四歳の若造なのだ。仕事が忙しくて苛立っている所に、善意で引き取った先輩のΩがフェロモン振りまいてきたら不快感が増しても仕方ない。  そう、仕方ない。  それに家でまで無理に愛想を振りまく必要もない。と、八尋は自分に言い聞かせていた。  水曜の夜。その日も深夜に帰宅した望は、スーツのままソファに座り、しきりにこめかみを揉んでいた。 「頭痛いのか?」 「少しだけ……」  肩こりなどから来る頭痛もある。八尋は『マッサージしようか?』と提案しようと思ったが、言葉を飲み込んだ。ベタベタ触るのは気持ち悪がられる気がするし、望に触れると無意識にフェロモンを出してしまいそうだ。 「風呂、沸いてるからゆっくり浸かってこいよ」  八尋がほほ笑みながら伝えると望は「そうですね」と小さく言って立ち上がった。しかし立ち上がってから思い出したかのように八尋を見た。 「ん? どうした?」 「あの……今、大賀峰全体で護衛チームが忙しくて、しばらく岩村も相田も時間取れなさそうで……」  珍しく望の方から話してきてくれたと八尋は一瞬喜んだが、内容はただの業務連絡で内心ガッカリした。そんな思いを悟られないように極力普通に応える。 「あ、そっか……。俺は全く問題無いよ」 「すみません……」  望は結局その一言だけで風呂へと行ってしまった。  その週の土日も望は休日出勤、平日は深夜帰宅と、マンションに望がいる時間はほとんど無い状況が続いた。  現状、家政婦の多歌子が八尋の唯一の話し相手。外出もできず、マンションに籠もりきりの八尋は、バルコニーで育てているミニトマトの苗とバジルの芽にも無意識に話しかけていた。 「今日も望遅いんかな。もうずっと夕飯一緒に食べてないんだぞ。信じられるか」  季節は六月に入っていた。  ジョウロでプランターに水をあげながら空を見上げる。なんとなくの薄曇り。そろそろ梅雨入りしそうだが、引きこもりで連日雨が降るようになったらさらに気分が落ちこみそうだなと八尋は感じた。

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