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第7話

なにか確信してるような声音だった。驚いて目を見開くと、軽く額を指で弾かれる。 「人間じゃないことは最初から分かってるけど、亡者って感じでもないし。だから妖精さんかな、って思ってた」 「何ですソレ」 可笑しくて吹き出す。さびれた地下通路を抜けながら、足音を殺した。 「妖精ではないですね。亡霊でもないし、悪魔でもないです」 「じゃあ、やっぱり天使か」 ふと、足を止めた。 「何で分かったんですか?」 「俺がそう呼んでも、一回も否定しなかったから」 アケミは振り返らずに告げた。 その背中は怖いほど頼り甲斐があって、大きく見える。 天使が地下にいるわけないのに、アケミは最初から見抜いていたかのようだ。密かに感じ入り、口端を上げる。 「ははっ、一発で言い当てちゃった俺ってすごくない?」 「はいはい、すごいですね」 「雑な対応だな!」 城の外周に続く外階段に出て、上へと登っていく。地上へ行く時しか許されない場所で、普段は見回りがいるはずだ。だが誰も見当たらない辺り、アケミが手回ししてくれたのかもしれない。 「君と初めて会った時……天使みたいだと思ったんだ」 目を奪われるほど綺麗だった。手を差し出す仕草も、宥める口調も、全て。 彼はそう言ってくれるけど、買い被り過ぎだと思う。 「俺は貴方と同じで、かつて冥王に攫われた。……と、思っていました。けど実際は、安寧の生け贄として天から引き渡された存在だったんです」 最上階に辿り着き、息するのも辛い熱風を受ける。 アケミの手を引き、重たいゲートを開けた。 「仲間から売られた、何の価値もない天使なんです。だから人を攫うこともできるし、悪魔にもなれた」 俺の心は醜く、膿んでいる。 追放されて当然のような天使だった。そう思って彼の背中を押したけど、逆に腕を掴まれた。 「それが何だ? 生憎俺は人間だから、天使の基準なんか知ったこっちゃない」 アケミは扉に手をかけ、もう片方の手でこちらを引っ張る。 「天使も奴隷もやめて、人間になればいいさ。そんで、俺とのんびり暮らす。ここにいるよりずっと良いだろう?」 「でも……そんなこと許されない」 「誰が許さないんだよ。むしろそれを言うなら、俺は君を服従させてる冥王も、君をここに追放した奴らも許せないよ。……だって今までずっと我慢してたんだろ。それならもう、幸せになる権利がある」 地上へ続くゲート。その奥から溢れる光がひと際強くなった時、体が前に傾いた。 しまった、と思った時には彼と一緒に向こう側へ落ちていた。 眩しい。何度も経験してるはずなのに、この時はとても怖く感じた。足がつかない浮遊感に怯えていたけど、優しく抱きとめられて瞼を開ける。 「よしよし、こっち」 「あ……」 アケミの方が先に地面に降り立っていて、俺は受け止めてもらった。 夜だが、見覚えがある街並み。偶然にも彼を攫った街に飛ばされたみたいだ。不幸中の幸いだろうか。
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