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第4話
「おはよう璃都 。身体は大丈夫?」
「ん・・・だぃじょぶ・・・じゃなぃ・・・」
「ふふ、寝起きも可愛いなあ」
朝起きて隣に誰かいるなんて・・・。
俺の初めてがどんどん更新されてくな。
陽が射して明るくなった寝室。
白いベッド、大きい窓にはブラウンのドレープカーテン、グレージュのカーペットにダークブラウンのインテリア・・・。
モデルルームみたい・・・。
「朝ご飯、食べる?」
「うん」
「昨夜 の肉まんも、殆ど食べないで落としちゃったからね。お腹空いてるでしょ」
誰のせいだと思って・・・。
まあいいや。
大学進学用貯金のために食費も節約してて、元々そんなに食べる方じゃないし・・・。
そんなこと考えながら、これまた広い洗面所でカイと並んで顔を洗う。
よかった、寝癖付いてない。
昨夜カイが丁寧にドライヤーかけてくれたからかな。
洗面台、2つあるの初めて見た・・・。
あ、コップと歯ブラシが2セット置いてある。
グレーとピンク。
・・・え、女の人も住んでるの?
「ピンクの方が璃都のだよ」
俺のか・・・。
せめて水色とかにしてよ・・・。
「朝はご飯とパンどっちがいい?」
「・・・どっちでも、いい」
俺の部屋には炊飯器なかったから、基本的に食パンかじってたけど。
「じゃあフレンチトーストはどう?準備してあるから」
「うん」
フレンチトースト・・・前にコンビニで買って食べた事あったな。
甘くて、美味しかった気がする。
リビングダイニングへ行き、カウンターチェアに座った。
カウンター向こうのキッチンでは、カイが手際よく朝食の準備を進める。
「料理、出来るんだ?」
「もちろん。あまり手の込んだものは作れないけどね」
上下グレーのスウェットに、ネイビーのシンプルなエプロンをしたカイ。
カイだって寝起きなのに、なんでそんなカッコいいんだよ。
身長も、190cm近くありそう。
「完成。メープルシロップと蜂蜜、好きな方かけて」
「おお・・・」
思わず感嘆の声が漏れた。
分厚くてふわふわ、綺麗な焼き目、軽く粉糖までかけてある。
料理までおしゃれ・・・。
メープルシロップか蜂蜜・・・って、どっちが正解?
「カイはどっちかけるの?」
「メープルが好きかな」
「じゃ、俺もメープルシロップにする」
ガラスのシロップポットを傾け、ちょっとどきどきしながらフレンチトーストにメープルシロップをかける。
甘い、いい匂い。
「ぃ、いただきます」
「召し上がれ」
ナイフで一口分切り分け、フォークで刺して口に運ぶ。
じゅわっと広がる、シロップと卵の甘味。
お・・・美味しい・・・っ!
「どう?」
「んっ、んーひぃっ!」
「ふはっ、ほんと可愛いな」
オレンジジュースと牛乳をグラスに注いで、俺の隣に座るカイ。
カウンターに頬杖を突いて、食べてる俺を見てる。
「んっ、・・・な、なに?」
「俺の璃都が、俺の作った朝食を美味しそうに食べてるのが嬉しくて。動画撮ればよかった」
「ぃ、いや、やめて・・・」
俺の璃都ってなに!?
恥ずかし過ぎる・・・っ。
顔の火照りを落ち着けようと、冷たい牛乳をごくりと飲んだ。
「・・・カイも食べなよ。美味しいよ?」
「ああ。食べたら探検しようか」
探検・・・あ、家の中を案内してくれるって言ってたっけ。
フレンチトーストを平らげ、カイはコーヒー、俺はオレンジジュースを飲んでから、家の探検を始めた。
2階には寝室、カウンターキッチンのあるリビングダイニングとバルコニー、バスルームと洗面所とトイレ。
寝室には扉のないウォークインクローゼットがあって、俺ならこの中だけで生活できる広さ。
高そうなブランド物の服やスーツが並び、白いチェストの中には下着や部屋着が入ってた。
チェストの上にはガラスの蓋のケースが置いてあって、高級腕時計がずらっと並んでる。
あ、昨夜脱がされた制服もきちんとかけてあった・・・いつの間に・・・?
「璃都の服もいくつか買ってあるから、好きなの着て」
「え、俺の服?」
アパートやバイト、学校も知ってたから、会う前に俺の事を調べたんだろうなとは思ってたけど、ここに連れて来る前提で準備してたのか?
いや、準備する前に本人に相談とかしてくれるのが先じゃないの?
突然現れて、そのまま拐 うみたいに連れて来るんじゃなくて・・・。
「恐くなっちゃった?」
「え?・・・ぃや、まぁ・・・」
恐くない訳ないじゃん!
でも、カイが俺の事を番だって言うなら、たぶん大事にはしてくれるはずだし・・・。
「次はこの隣の部屋」
寝室の隣は書斎だった。
壁一面が本棚になってて、難しそうな本が沢山ある。
あれ、でも、なんかちょっと不思議な感じが・・・。
「デスクが2つ・・・?」
しかも向かい合わせ。
「俺のデスクと、こっちが璃都のデスクだよ。勉強する時に使って。アパートにあった物も、大体この部屋に入れてあるから」
「うん・・・ねえ、なんで向かい合わせなの」
「勉強してる璃都を見ていたいから」
そーゆーとこも恐いんだって・・・。
これ、慣れるしかないのかな。
「次は1階に行こう」
「うん」
昨夜カイに抱かれて上がった階段を下りる。
吹き抜けの玄関ホール、ダイニングキッチン、仕事で使う事が多いっていう広いレセプションルームにはバーカウンターがあった。
あとはゲストルーム、パウダールームとトイレ、バスルーム、ランドリールーム。
玄関側の外にはガレージがあって、昨日乗ってきたのとは別の高級車が2台停まってた。
「庭も広い・・・」
「テラスでBBQも出来るよ」
やっぱBBQするんだ。
俺も参加してみたいけど、人が多いのはちょっと・・・。
「地下も行ってみる?」
「うん」
確か、シアタールームがあるって言ってた。
「わ・・・すご・・・」
「璃都は映画好き?」
「・・・わかんなぃ」
映画なんて、学校の授業で古い映画を観たくらいだし。
映画館には行った事ない。
「色々あるから、璃都の好みを探すのもいいな」
あとはワインセラー、ダーツやビリヤード台のあるプレイルーム。
もちろんダーツもビリヤードもやった事ない。
試しにって、ちょっとやらせてもらった。
ダーツはセンスなかったけど、ビリヤードは面白かった。
「そろそろ着替えて出かけよう。ランチに行って、璃都の欲しい物を買いに」
「うん。・・・え、俺の欲しい物?」
カイはにこっと笑って、俺の手を引き2階へ向かった。
ウォークインクローゼットで服を選ぶ。
選ぶのは俺じゃなくてカイだけど。
今着てる黒いスウェットだって、カイが着てるのと同じブランドのやつだ。
着心地いいし、高そう・・・。
「璃都は何色が好き?」
「・・・黒」
「そっか。アースカラーやパステルカラーも似合うと思うけど・・・じゃあ、これ着てくれる?」
渡されたのはブランドロゴ入りの白いロンT、黒いスキニージーンズ、少し大きめのラベンダーグレーのパーカー。
ジーンズ、ちゃんと俺のサイズだ・・・なんで服のサイズまで知ってんだろ・・・。
カイはヒースグレーのロンT、黒いテーパードジーンズ、黒いカーディガン。
カイに、首のガーゼを大きい絆創膏に交換してもらって、その上からちゅっとキスされ・・・昨夜噛まれた時の事を思い出しそうになって焦った。
玄関ホールに下りると、カイがシューズクロークからサイズ違いの黒いスニーカーを2足持ってくる。
シューズクロークも大きくて、いかにもブランド物の革靴やスニーカーたちがずらりと並んでた。
・・・昨夜、寝室で脱がされた俺の靴もちゃっかり置いてある。
渡されたスニーカーを履いてみると、当たり前の様にサイズぴったり・・・しかもカイのとお揃い・・・。
「さ、行こう」
また手を引かれ、ガレージへ。
1台はシルバーのSUV、もう1台は黒いスポーツクーペ。
どっちも外車でいかにも高そう。
「どっち乗りたい?」
「ふぇ?・・・ぇと、・・・こっち」
俺が選んだのは黒いスポーツクーペの方。
前に本屋で車の雑誌立ち読みした事あって、たぶんこれ、カマロって車種だったと思う。
SUVの方はアウディだ。
「シートベルトするね。よし。じゃあ、出すよ」
「ぁ、うんっ」
こんなカッコいい車に乗れるなんて、嬉しくてそわそわしてたら、カイが俺のシートベルトをしてくれた。
いや、シートベルトくらい自分で出来るのに・・・。
カイの運転でガレージを出ると、敷地の門扉が自動で開いた。
え、これどーゆー仕組み?
「自動なの?」
「登録してある車が近付くと開くんだよ」
へー・・・すごい・・・。
豪邸に、高級車、隣には色々と完璧な獣人。
一夜にして俺の人生が一変してしまった。
寝て、起きて、それでもまだ夢なんじゃないかって思っちゃうけど。
これからはここが俺の家で、この獣人 が俺の・・・番。
俺に、家族が出来たんだ・・・。
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