4 / 75

第4話

「おはよう璃都(りと)。身体は大丈夫?」 「ん・・・だぃじょぶ・・・じゃなぃ・・・」 「ふふ、寝起きも可愛いなあ」 朝起きて隣に誰かいるなんて・・・。 俺の初めてがどんどん更新されてくな。 陽が射して明るくなった寝室。 白いベッド、大きい窓にはブラウンのドレープカーテン、グレージュのカーペットにダークブラウンのインテリア・・・。 モデルルームみたい・・・。 「朝ご飯、食べる?」 「うん」 「昨夜(ゆうべ)の肉まんも、殆ど食べないで落としちゃったからね。お腹空いてるでしょ」 誰のせいだと思って・・・。 まあいいや。 大学進学用貯金のために食費も節約してて、元々そんなに食べる方じゃないし・・・。 そんなこと考えながら、これまた広い洗面所でカイと並んで顔を洗う。 よかった、寝癖付いてない。 昨夜カイが丁寧にドライヤーかけてくれたからかな。 洗面台、2つあるの初めて見た・・・。 あ、コップと歯ブラシが2セット置いてある。 グレーとピンク。 ・・・え、女の人も住んでるの? 「ピンクの方が璃都のだよ」 俺のか・・・。 せめて水色とかにしてよ・・・。 「朝はご飯とパンどっちがいい?」 「・・・どっちでも、いい」 俺の部屋には炊飯器なかったから、基本的に食パンかじってたけど。 「じゃあフレンチトーストはどう?準備してあるから」 「うん」 フレンチトースト・・・前にコンビニで買って食べた事あったな。 甘くて、美味しかった気がする。 リビングダイニングへ行き、カウンターチェアに座った。 カウンター向こうのキッチンでは、カイが手際よく朝食の準備を進める。 「料理、出来るんだ?」 「もちろん。あまり手の込んだものは作れないけどね」 上下グレーのスウェットに、ネイビーのシンプルなエプロンをしたカイ。 カイだって寝起きなのに、なんでそんなカッコいいんだよ。 身長も、190cm近くありそう。 「完成。メープルシロップと蜂蜜、好きな方かけて」 「おお・・・」 思わず感嘆の声が漏れた。 分厚くてふわふわ、綺麗な焼き目、軽く粉糖までかけてある。 料理までおしゃれ・・・。 メープルシロップか蜂蜜・・・って、どっちが正解? 「カイはどっちかけるの?」 「メープルが好きかな」 「じゃ、俺もメープルシロップにする」 ガラスのシロップポットを傾け、ちょっとどきどきしながらフレンチトーストにメープルシロップをかける。 甘い、いい匂い。 「ぃ、いただきます」 「召し上がれ」 ナイフで一口分切り分け、フォークで刺して口に運ぶ。 じゅわっと広がる、シロップと卵の甘味。 お・・・美味しい・・・っ! 「どう?」 「んっ、んーひぃっ!」 「ふはっ、ほんと可愛いな」 オレンジジュースと牛乳をグラスに注いで、俺の隣に座るカイ。 カウンターに頬杖を突いて、食べてる俺を見てる。 「んっ、・・・な、なに?」 「俺の璃都が、俺の作った朝食を美味しそうに食べてるのが嬉しくて。動画撮ればよかった」 「ぃ、いや、やめて・・・」 俺の璃都ってなに!? 恥ずかし過ぎる・・・っ。 顔の火照りを落ち着けようと、冷たい牛乳をごくりと飲んだ。 「・・・カイも食べなよ。美味しいよ?」 「ああ。食べたら探検しようか」 探検・・・あ、家の中を案内してくれるって言ってたっけ。 フレンチトーストを平らげ、カイはコーヒー、俺はオレンジジュースを飲んでから、家の探検を始めた。 2階には寝室、カウンターキッチンのあるリビングダイニングとバルコニー、バスルームと洗面所とトイレ。 寝室には扉のないウォークインクローゼットがあって、俺ならこの中だけで生活できる広さ。 高そうなブランド物の服やスーツが並び、白いチェストの中には下着や部屋着が入ってた。 チェストの上にはガラスの蓋のケースが置いてあって、高級腕時計がずらっと並んでる。 あ、昨夜脱がされた制服もきちんとかけてあった・・・いつの間に・・・? 「璃都の服もいくつか買ってあるから、好きなの着て」 「え、俺の服?」 アパートやバイト、学校も知ってたから、会う前に俺の事を調べたんだろうなとは思ってたけど、ここに連れて来る前提で準備してたのか? いや、準備する前に本人に相談とかしてくれるのが先じゃないの? 突然現れて、そのまま(さら)うみたいに連れて来るんじゃなくて・・・。 「恐くなっちゃった?」 「え?・・・ぃや、まぁ・・・」 恐くない訳ないじゃん! でも、カイが俺の事を番だって言うなら、たぶん大事にはしてくれるはずだし・・・。 「次はこの隣の部屋」 寝室の隣は書斎だった。 壁一面が本棚になってて、難しそうな本が沢山ある。 あれ、でも、なんかちょっと不思議な感じが・・・。 「デスクが2つ・・・?」 しかも向かい合わせ。 「俺のデスクと、こっちが璃都のデスクだよ。勉強する時に使って。アパートにあった物も、大体この部屋に入れてあるから」 「うん・・・ねえ、なんで向かい合わせなの」 「勉強してる璃都を見ていたいから」 そーゆーとこも恐いんだって・・・。 これ、慣れるしかないのかな。 「次は1階に行こう」 「うん」 昨夜カイに抱かれて上がった階段を下りる。 吹き抜けの玄関ホール、ダイニングキッチン、仕事で使う事が多いっていう広いレセプションルームにはバーカウンターがあった。 あとはゲストルーム、パウダールームとトイレ、バスルーム、ランドリールーム。 玄関側の外にはガレージがあって、昨日乗ってきたのとは別の高級車が2台停まってた。 「庭も広い・・・」 「テラスでBBQも出来るよ」 やっぱBBQするんだ。 俺も参加してみたいけど、人が多いのはちょっと・・・。 「地下も行ってみる?」 「うん」 確か、シアタールームがあるって言ってた。 「わ・・・すご・・・」 「璃都は映画好き?」 「・・・わかんなぃ」 映画なんて、学校の授業で古い映画を観たくらいだし。 映画館には行った事ない。 「色々あるから、璃都の好みを探すのもいいな」 あとはワインセラー、ダーツやビリヤード台のあるプレイルーム。 もちろんダーツもビリヤードもやった事ない。 試しにって、ちょっとやらせてもらった。 ダーツはセンスなかったけど、ビリヤードは面白かった。 「そろそろ着替えて出かけよう。ランチに行って、璃都の欲しい物を買いに」 「うん。・・・え、俺の欲しい物?」 カイはにこっと笑って、俺の手を引き2階へ向かった。 ウォークインクローゼットで服を選ぶ。 選ぶのは俺じゃなくてカイだけど。 今着てる黒いスウェットだって、カイが着てるのと同じブランドのやつだ。 着心地いいし、高そう・・・。 「璃都は何色が好き?」 「・・・黒」 「そっか。アースカラーやパステルカラーも似合うと思うけど・・・じゃあ、これ着てくれる?」 渡されたのはブランドロゴ入りの白いロンT、黒いスキニージーンズ、少し大きめのラベンダーグレーのパーカー。 ジーンズ、ちゃんと俺のサイズだ・・・なんで服のサイズまで知ってんだろ・・・。 カイはヒースグレーのロンT、黒いテーパードジーンズ、黒いカーディガン。 カイに、首のガーゼを大きい絆創膏に交換してもらって、その上からちゅっとキスされ・・・昨夜噛まれた時の事を思い出しそうになって焦った。 玄関ホールに下りると、カイがシューズクロークからサイズ違いの黒いスニーカーを2足持ってくる。 シューズクロークも大きくて、いかにもブランド物の革靴やスニーカーたちがずらりと並んでた。 ・・・昨夜、寝室で脱がされた俺の靴もちゃっかり置いてある。 渡されたスニーカーを履いてみると、当たり前の様にサイズぴったり・・・しかもカイのとお揃い・・・。 「さ、行こう」 また手を引かれ、ガレージへ。 1台はシルバーのSUV、もう1台は黒いスポーツクーペ。 どっちも外車でいかにも高そう。 「どっち乗りたい?」 「ふぇ?・・・ぇと、・・・こっち」 俺が選んだのは黒いスポーツクーペの方。 前に本屋で車の雑誌立ち読みした事あって、たぶんこれ、カマロって車種だったと思う。 SUVの方はアウディだ。 「シートベルトするね。よし。じゃあ、出すよ」 「ぁ、うんっ」 こんなカッコいい車に乗れるなんて、嬉しくてそわそわしてたら、カイが俺のシートベルトをしてくれた。 いや、シートベルトくらい自分で出来るのに・・・。 カイの運転でガレージを出ると、敷地の門扉が自動で開いた。 え、これどーゆー仕組み? 「自動なの?」 「登録してある車が近付くと開くんだよ」 へー・・・すごい・・・。 豪邸に、高級車、隣には色々と完璧な獣人。 一夜にして俺の人生が一変してしまった。 寝て、起きて、それでもまだ夢なんじゃないかって思っちゃうけど。 これからはここが俺の家で、この獣人(ヒト)が俺の・・・番。 俺に、家族が出来たんだ・・・。

ともだちにシェアしよう!