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第5話
閑静な住宅街から大通りに差し掛かった。
カイは運転も上手い。
何やっても完璧なのかな・・・。
「何が食べたい?」
「んー・・・はん、ばーぐ・・・」
言ってから、子どもっぽかったかなって後悔する。
でも、カイは馬鹿にしたりしなかった。
「わかった。美味しい店知ってるから任せて」
完璧獣人・・・ハンバーグの美味しい店まで知ってるのか・・・。
あ、そうだ、思い出した。
「バイト、15時からなんだけど・・・」
「もう行かないよ。シグマが手続きしたから。これからは学校か、俺と一緒に出かける以外は、俺たちの家に居てね」
「・・・うん」
それってつまり、軟禁ってやつなのでは?
・・・でも、監禁よりはマシ、だよね。
変に逆らって本当に監禁されるの恐過ぎるし。
学校は行かせてもらえるんだし。
カイと一緒なら外にも出られるみたいだし。
それに・・・俺たちの家・・・かぁ・・・。
「恐くなった?」
「んーん、もお諦めた」
「ふはっ、本当?それは良かった」
さっきも聞かれたけど、カイは俺に恐がられるのを気にしてるみたい。
なんか、声が・・・恐がってるの、俺よりもカイの方なんじゃ・・・。
「つ・・・番、なんでしょ。一緒にいて・・・大事にしてくれるなら、恐くないよ」
「璃都 ・・・っ、大事にするよ。一生傍に居て、絶対放さない」
金の瞳が鈍く光った気がした。
やっぱ恐いなー・・・。
「着いたよ。この近くにあるカフェなんだ」
パーキングに車を停め、車を降りると当然の様に俺の手を取って歩き出すカイ。
しかも、これ、恋人繋ぎってやつ・・・?
これじゃ誰がどう見ても、俺たちがそーゆー関係だってわかっちゃうじゃん。
俺は見た目とか普通であんまり目立たないけど、カイは・・・完璧が服着て歩いてるって感じだから凄く目立つのに・・・。
「ここ。ハンバーグランチも美味しいし、グラタンやドリアも人気なんだ」
完璧獣人おすすめのカフェ、やっぱりおしゃれ。
お客さんもいっぱいだ。
「え、グラタン?えー・・・悩むー・・・」
「ふふっ。じゃあ、俺がグラタン頼んで、半分こしようか?」
「いいの?」
「いいよ」
予約してたみたいで、すんなり窓側のテーブル席に案内された。
ハンバーグランチとグラタン、食前にアイスティーを注文する。
カイはアールグレイのストレート、俺はアッサムのミルクティー。
お家 探検して着替えてそのまま来たから、ちょっと喉渇いてたんだよね。
ストローで一気に半分くらい飲んでしまった。
「璃都は可愛いね。もう俺以外と喋ったらだめだよって言いたくなるなあ」
「んぐ・・・っ、けほっ・・・な、なに言って・・・」
アイスティーが変なとこ入って咽 せたじゃないか。
学校、行かせてくれるんだよね?
俺、親しい友達なんていないけど、教師や生徒と必要最低限のコミュニケーションは取るよ?
さすがにカイ以外と会話禁止はムリ・・・。
「言いたくなったけど、まだ言ってないよ」
「まだって・・・いつか言う気なんじゃん」
「璃都がいい子にしてたら言わないままだけど、先の事はわからないからね」
いい子、とは?
具体的にどんな?
「どおすればいい子って認めてもらえるの?」
学校の成績を落とすな、とかなら自信ある。
「はぁっ・・・その質問、可愛過ぎるんだけど。そうだな、俺以外に可愛い顔を見せない、俺以外に触らせない触らない、俺以外が作った物は食べない、俺だけに甘える・・・」
思ってたんと違う!
「ちょ、お、多い、決まりが多いっ。しかもカイ以外が作った物食べちゃだめって、ここのハンバーグもだめなの?」
「あ、俺と一緒の外食は可とします」
良かった、ハンバーグは食べて良し、と。
・・・あれ?
良かった・・・のか?
いやいや、良くない、問題はそこじゃない!
ここは異議申立てを・・・。
「いい子の判定が厳し過ぎませんか?」
「そんな事を言うなら、家から一生出られないようにするよ?」
「いい子にしますっ」
危ない、軟禁から監禁に昇格してしまうところだった。
カイ、本気の顔してた・・・恐い・・・。
「因みに、いい子にしなかったらお仕置きするから」
「・・・え」
理不尽。
お仕置きってなんだよ・・・お尻ぺんぺんとか・・・?
「頑張っていい子にする・・・」
「ふふ、良い心掛けだね」
先行き不安になったところで、ハンバーグランチとグラタンがサーブされた。
すごい美味しそう・・・!
「いただきまぁすっ・・・ふーっ、ふーっ・・・んむ・・・っ!」
「美味しい?」
「んーふぃっ!」
「ああもう可愛い・・・っ、俺には璃都が一番オイシソウ・・・っ!」
カイが口元を手で抑えて、ぐっと堪 えるように眉間に皺を寄せた。
なに言ってんのこのオオカミ。
「変な事言ってないで、カイも食べようよ」
「本気で言ってるんだけどな」
ハンバーグとグラタンを半分こしながら食べる。
ハンバーグランチにはライスとサラダとスープが付いてて、思ったより量が多くてすっごいお腹いっぱいになった。
「もうお腹いっぱい?璃都は食が細いな」
「そお?いっぱい食べたよ?」
「グラタンもハンバーグも、3分の2は俺が食べたんだけど」
そうかな。
スープは俺が全部飲んだし、こんな満腹になったのいつぶりだろ。
「それじゃ、ゆっくり歩きながら買い物しようか」
「うん。・・・なに買うの?」
「璃都が欲しい物」
俺が欲しい物・・・?
別に欲しい物なんて、ないけど・・・。
カイがさらっと支払いを済ませカフェを出て、また恋人繋ぎして歩き出す。
おしゃれなお店が多いなぁ・・・こんなとこ来た事なかったし・・・。
「ここ何のお店?」
「雑貨屋。入ってみようか」
「すご、このお店帽子いっぱい」
「入ろう」
「ここは?」
「何があったかな・・・とりあえず入ろうか」
こんな感じで何件もお店を見てまわり、俺が興味を示したり、気になって手に取った物を片っ端から購入するカイ。
もっちもちの手触りが気に入ったクッション複数、深目でツバの大きい黒キャップ、カッコいいけど凄くお高いスニーカー、最新ゲーム機、望遠鏡まで買っちゃって、キャップ以外は家に配送を頼んでた。
「か、カイ、ねえ、ごめん、俺そんな買ってもらうつもりなくて、ただちょっと気になっただけで・・・っ」
「ん?俺も欲しかったから、いいんだよ。クッションは家で一緒に使うし、スニーカーはお揃いにしたかったし、ゲームも一緒に遊ぶし、天体観測も璃都と一緒にしたい。キャップは耳があるから俺は被れないけど」
カイもゲーム機で遊んだりするんだ・・・。
俺はやった事ないから、やり方教えてもらいたい。
「次は俺の買い物に付き合ってくれる?」
「あ、うんっ、わかった!」
カイは何が欲しいんだろ?
お返しに俺が買ってあげたいけど・・・財布もスマホも持ってきてない・・・って言うか、俺のスマホどこいったんだろ。
制服のポケットかな・・・。
「ここ」
「うわぁ・・・」
ドアマンがいる・・・高級ブランド店・・・。
こんなお店、恐くて入れない・・・と思ってたのに、カイと手を繋いでるから一緒に入っちゃった・・・。
「いらっしゃいませ、ルプス様」
「どうも。採寸からお願いします」
「かしこまりました、こちらへどうぞ」
入店と同時に店員さんが挨拶に来て、カイが採寸を頼んだ。
奥の個室に案内され、カイに手を引かれた俺も付いて行く。
部屋に入ると、俺を大きな鏡の前に立たせてパーカーを脱がせ、それを持ってカイは横のソファに座ってしまった。
「え?」
「失礼致します」
「は?」
採寸って、俺の?
なんで?
カイの買い物じゃなかったの?
訳わかんないまま採寸され、カイが店員さんと生地を選び、お見送りされてお店を出た。
「・・・なんだったの?」
「璃都のスーツを注文したんだよ」
高校生にオーダーメイドのスーツなんて必要?
カイの買い物じゃないじゃん。
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