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第6話

「次はこっち」 「うわぁ・・・」 今度は高級宝飾店・・・。 カイの欲しい物を買うんだよね? 俺、アクセサリーとか買ったコトない・・・。 「いらっしゃいませ、ルプス様」 「どうも」 さっきと同じ流れだ。 また奥に案内されてるし。 「デザインはどの様になさいますか?」 「璃都(りと)、どんなのがいい?」 「え?俺が選ぶの?」 目の前には複数の指輪のデザイン見本。 カイ、指輪を買いに来たのかな。 カイが着けるなら、シンプルなデザインで、細過ぎなくて、んー・・・。 「これ、とかは?」 「それが気に入った?」 「カイに似合うかなって」 カイは、なぜか俺と見本の指輪を何度か見比べて少し考えてから、やっと納得した様に「そうだね、これにしよう」と言った。 「ではサイズを確認させて頂きます」 店員さんがカイと俺に、シンプルな指輪みたいなのを渡してきた。 え、これ、俺も()めるの? 「璃都、左の薬指だよ」 「え?・・・あ、ゆるい」 「ではこちらを」 「・・・あ、ぴったり、です」 カイと俺の指のサイズを確認して、店員さんが注文書みたいなのに書き込んでる。 これは、もしかしなくても、カイとお揃いの指輪を左の薬指に嵌める事になるんじゃ・・・。 生まれて初めてのアクセサリーがお揃いの指輪って・・・。 「Dカラーダイヤと、カナリーイエローダイヤ、コニャックダイヤをご用意致しました」 今度はダイヤ? 綺麗にカットされた、小さくても存在感のあるキラキラした宝石が、目の前に並べられる。 こ、恐い・・・絶対触れない・・・っ。 「Dカラーは大きさのバランスが合う物をそちらで選んでもらえますか。璃都、この中で俺の瞳の色に似てるのを選んで?」 「ひとみ・・・?」 店員さんがカナリーイエローダイヤって言ってた、黄色いダイヤから選べって事か。 うーん・・・もっと濃い色で、でもギラってしてて、うーん・・・。 「・・・あ、これ」 「ではこれを」 「かしこまりました」 あれ、また俺が選んじゃったけど、いいの? 「璃都、こっち向いて」 「ん?」 ・・・え、なに? めっちゃ見てくるけど、なんなの? 「あった、これだ」 あ、コニャックダイヤと俺の瞳を見比べてたのか。 俺の瞳はそんなキラキラしてないけど・・・。 「では、こちらで承ります」 「ええ、よろしく」 またお見送りされてお店を出た。 あのダイヤは指輪に埋め込むために選んだんだ。 俺の指輪にカナリーイエローダイヤ、カイの指輪にコニャックダイヤ、Dカラーって言ってた透明なダイヤはその両サイドに並べるんだって。 「初めてのアクセサリーがダイヤの指輪・・・」 「しかも俺の色の、ね」 諦めたとは言え、容赦なく囲い込まれるの、恐い・・・っ! 「たくさん歩いたから疲れたよね。帰ろうか」 「あ、うん」 車を停めてあるパーキングまで、相変わらず恋人繋ぎをしたまま歩く。 けど、すれ違う人たちの視線が・・・。 カイは長身でイケメンで獣人で、なのに手を繋いで一緒に歩いてるのが俺みたいな普通の男子高校生なんだから、そりゃ見るよね・・・。 買ってもらったキャップを深く被り、周りの視線から隠れようとしたら、カイが繋いでる俺の手の甲にちゅっとキスしてきた。 ちょ、こんなとこでなにしてんのっ!? 「可愛い璃都を俺以外に見せない様にしてくれてるの?いい子だね」 いや、違う、けど・・・。 「うん・・・いい子にするって約束したし・・・」 「ふふ。帰ったらご褒美あげなきゃね」 いいよご褒美なんて。 なんか、いっぱい買ってもらっちゃったし。 「夕飯は何がいい?」 車に乗り込んで、またカイが俺のシートベルトしてくれながら聞いてくる。 夕飯・・・何がいいかな・・・。 「カイは何が食べたい?」 「璃都」 「・・・真面目に答えて」 「璃都が食べたい。はぁ・・・やっぱりイイ匂い・・・っ」 運転席から身を乗り出して、カイが俺の顎を掴み噛み付く様にキスしてくる。 「んっう・・・むぅ・・・んっ、く・・・んはっ」 「美味しい・・・早く帰って璃都を喰い尽くしたい・・・」 恐い────っ!! 俺、滅多に泣かないけど、そろそろ本気で泣きそう・・・。 たくさん歩いたし、いっぱい買い物したし、恐いし。 助手席でぐったりしてたら、運転しながら機嫌良さそうにカイが声をかけてくる。 「璃都」 「・・・・・・」 「璃都ぉ」 「・・・・・・」 「りぃーとぉー」 「なぁーにぃー」 「ふはっ、返事した」 執拗(しつこ)く呼ぶからだろっ! 用がないなら呼ぶな。 「可愛いね。好きだよ。大好き。璃都は俺のモノだよね」 「・・・っ、恥ずかしいっ、もぉ黙っててっ」 「璃都は?俺の事好き?」 黙る気ないんだな。 でも答えないと、さっきみたいにずっと聞いてきそう・・・。 だからって、まだ好きって言える程カイの事知らないし・・・。 「・・・わかんなぃ」 「わかんないの?どうしたら好きになってくれる?」 「・・・わかんなぃ」 そもそもヒトを好きになるって、どおやって? 俺が知りたい・・・。 「そう。俺の事好きになって欲しいなあ。どうしようか、やっぱり閉じ込めようか。俺の事しか考えられなくなるまで・・・」 「やっ、やだ!ちゃんと考えるから・・・っ」 まずい、軟禁が監禁に進化しそう・・・。 好きって言葉を言うだけならきっと簡単だ。 でもそれじゃ、心が伴ってないから、ほんとの好きじゃない。 それなのに好きなんて言うのは、カイに失礼だと思う。 「ちゃんと、す・・・好きになったら、言うから・・・もぉちょっと、待って・・・」 「・・・ありがとう、嘘つかないでくれて。やっぱり璃都はいい子だね」 運転中だから前向いたままだけど、カイが優しく笑った。 こんなカッコいい完璧獣人・・・恐い部分はさて置き、好きにならないはずないってわかってる。 でも、ヒトを好きになるって事自体わからない俺が、ちゃんとカイを好きになれるんだろうか。 番だって言われて、一緒にいてくれるって言ってもらえて、家族が出来たんだって、嬉しかった。 このまま、カイの事好きにならずに一緒にいたら、自分が独りにならないためにカイを利用してるみたいになっちゃう。 それは嫌だ。 だから・・・。 「カイの事・・・好きに・・・なりたぃ・・・」 「・・・え?」 「ちゃんと、好きになって、好きって言いたい・・・っ」 カイが車を停めた。 あ、家のガレージに入ってる。 いつの間に帰ってきてたんだろ。 「ねえ璃都、どうしてそう思ったの?」 どおして、カイを好きになりたいか? それは・・・。 「俺の・・・家族になってくれたカイが、俺に・・・好きになって欲しいって、言ったから」 「俺のため?」 「そぉ、じゃなくて・・・俺のため、だと思う。俺の事好きって言ってくれたカイに、ちゃんと好きって言えないのが、嫌だから・・・」 そこまで言ったら、黙ってカイが車を降りた。 俺も降りようと思ってシートベルト外したら、助手席のドアが開いて、こっち側にまわってきてたカイに抱き上げられる。 「ゎ、な、なに・・・?」 「それってさぁ、もう俺の事が好きなんだと思うよ?」 「ふぇっ?」 「俺が璃都の事を好きなのに、璃都が俺の事好きじゃないのが嫌なんだよね?だからちゃんと好きになって好きって言ってくれようとしてるんだよね?しかも俺のためじゃなく自分のために」 ・・・まあ、要約すると、そおですね。 「うん」 「璃都は今まで誰かを好きになった事ある?」 「・・・な、ない」 「初めて好きになったから、わかんなかったんだよ。俺、また璃都の初めて奪っちゃったなあ。責任取って一生大事にして可愛がらないといけないね!」 なんかよくわかんないけど、カイがご機嫌で、閉じ込めるとかはなくなったみたいで、良かった。 俺の事抱いたまま、くるくる回り出したのには慌てたけど。

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