7 / 75
第7話
夕飯は冷蔵庫の中身と相談して、豚の生姜焼きになった。
もちろん作るのはカイだけど、俺もちゃんと手伝う。
味噌汁はアパートでもよく作ってて、ちょっと自信あるし。
2階のカウンターキッチンで、カイとお揃いのエプロン着けて料理する事になるなんて・・・昨日の今頃は思ってもいなかったな。
いつも通り粛々と本屋でバイトしてた頃だ。
カイが生姜焼き作ってる間に、俺が味噌汁を作る。
俺が好きな細切り大根の味噌汁にしよう。
「あとは作り置きのかぼちゃの煮物と、ほうれん草とにんじんの胡麻和え、かな?」
「それもカイが作ったの?」
「いや、ハウスキーパーが作り置きしてくれてるんだよ。食材も適当に買ってきてもらってる」
へえー・・・ハウスキーパーかぁ・・・。
そりゃ頼んでるよね、こんな広い豪邸をカイが独りで掃除出来るとは思えないし。
小鉢に移した料理も、美味しそう・・・さすがプロ・・・。
「ハウスキーパーさん、どんな人?」
「知らない。シグマなら会った事あると思うけど、俺は会った事ないから」
「え?会った事ないの?」
「外出中に入ってもらう様に言ってあるから。鉢合わせする事はないよ」
そおなんだ・・・。
お金持ちの常識なのかな・・・。
「本当は誰にも入って欲しくないんだけどね。ここは、俺と璃都 の家なんだから」
どくり。
・・・なんだ、今の。
心臓がぞくってした・・・?
まさか、変な病気・・・?
「璃都?」
「・・・あ、なんでもない」
ご飯と味噌汁もよそって、ダイニングテーブルの方に並べる。
豚の生姜焼きという庶民的なメニューなのに、カイが作ったからなのかおしゃれに見える、気がする・・・。
「いただきまぁす」
「いただきます」
「んんっ!」
「どう?」
「んーんー、んーふぃっ!」
「ふはっ!」
また笑われた・・・。
なんで俺が食べるの見て笑うんだよ。
「朝も笑ったよね、俺の食べ方変?」
「違うよ。俺の璃都が、俺の作った物食べて幸せそうな顔するから、俺も幸せだなって嬉しくなるんだ」
「な・・・なに、それぇ」
どくり。
・・・まただ、また心臓が変。
「・・・はぁ、・・・璃都の味噌汁、凄く美味しい」
「・・・っ、ほんと?昆布と鰹節でちゃんと出汁とって作ったから。俺、味噌汁とかお吸い物とか、汁物は得意」
「味噌汁上手なお嫁さん最高・・・死ぬまで・・・いや生まれ変わっても璃都の味噌汁飲み続けたい・・・っ!」
「はは、おおげさぁ」
「ご飯食べたら璃都を喰い尽くしたい」
「・・・はは、ご飯おかわりする?味噌汁もまだあるよ」
カイの恐い発言は、冗談という事にして笑って受け流していこう。
まともに聞いてたら俺、そのうち本気で泣きそうだし・・・。
「うん、ありがとう。璃都の味噌汁でお腹充たして、璃都の身体で欲も充たせるなんて、俺は幸せ者だね」
「はは、は・・・」
もームリ、恐い、泣く・・・。
カイのお茶碗を持ってキッチンに逃げる。
おかわりとは思えない量を盛りながら、あのオオカミを満腹にさせて寝かせてしまおうと画策していると、後ろからぎゅっと抱きしめられた。
「オオカミを満腹にさせて、井戸にでも放り投げるつもり?俺の可愛い赤ずきん」
「なっ、ち、ちが・・・っ」
耳元で囁くなっ!
誰が赤ずきんだっ!
でも俺の作戦バレてるっぽい!
万事休す・・・。
「味噌汁のおかわり取りにきたんだよ。まだ噛み付かないから安心して」
まだ・・・?
もう噛み付きませんと誓って欲しい。
「たくさんお食べ、オオカミさん」
「ふふっ、ありがとう奥さん」
おくさん・・・奥さん?
やめてよ、俺は男子高校生だぞ。
赤ずきんも違うからな。
最初の自己紹介で「夫」だなんて断言してたけど、本気で俺と夫婦になるつもり・・・?
いや、そっか、番イコール夫婦なの、か・・・?
「璃都、どうしたの?おいで」
「あっ、うん」
カイに山盛りのご飯を渡し、俺も食事の続きをする。
生姜焼きうまぁ・・・かぼちゃの煮物も美味しい・・・胡麻和えも・・・。
テーブルを挟んで向かいに座ってるカイも、俺が容赦なく盛ったご飯をぱくぱく食べている。
よく食べるな・・・だからあんなに大きく育ったのか・・・。
味噌汁、美味しいって言ってもらえて、良かった。
自分以外のために作ったの、初めてだったし。
初めてが、カイで良かった・・・。
「・・・っぅ」
また、心臓が、変・・・。
今のって・・・。
「ん?璃都、どうかした?具合悪い?」
「ぁ、ちが、だいじょぶ、なんでもない」
「なんでもないって顔じゃないけど?熱あるんじゃない?歩かせ過ぎたかな・・・」
カイが慌てた様に立ち上がり、俺の傍にきて額に手を当ててくる。
手がちょっと冷たくて気持ちい。
「医者を呼ぼう」
「はっ!?いや、いらない大丈夫っ!平気だからっ!」
どくんってなるの一瞬だし、すぐ治まるし、きっと病気とかじゃない。
・・・原因も、なんとなくわかったし。
「さっきも一瞬苦しそうな顔したよね?どこか痛いの?璃都、お願いだからちゃんと教えて?」
「だ、だから、具合悪いんじゃないって・・・」
両手で顔を固定され、カイと至近距離で強制的に向かい合わされる。
これ、言わないと放してもらえないやつかな。
言うの、めちゃくちゃ恥ずかしいんだけど・・・。
「その・・・自分以外に、味噌汁作ったの、初めてで・・・美味しいって、言ってもらえて・・・よかったな・・・って」
「さっきは?」
「か、カイが・・・俺も幸せって・・・俺と璃都の家って・・・言ってくれて・・・なんか、心臓がぞくってして・・・こんなの初めてで・・・」
ちゃんと白状したので手を離して俺の顔解放して!
金の瞳でじっと見据えられると、適当にはぐらかせなくなるから、恐い・・・。
「・・・っ、はぁー・・・わかった、璃都は具合が悪いんじゃなくて、可愛いんだね」
「はあっ!?」
すぐ俺を可愛いって形容すんのやめろ!
いや、そうだ、俺はきっと病気なんだ!
初めてがカイで良かった、なんて思うのは頭の病気だっ!
病院行って入院するっ!
「璃都の初めては全て俺のモノだ」
「な・・・んん・・・っ、ん、んぅ・・・っ」
まだ食事の途中なのに、急にスイッチ入ったぁ。
お、落ち着かせないと・・・。
「ん、ねぇ、まって・・・んっ、まだぁっ、・・・んんぅ、はぁ、ごは・・・んむぅっ」
「・・・っ、そうだった、璃都の味噌汁残すなんて俺が許せない。璃都も、今夜はちゃんと食べておかないと、体力もたないよ?」
体力?
なんで・・・?
「璃都もご飯おかわりする?」
「ぅ、ううん、もお大丈夫」
なんだかわかんないけど、とりあえずカイの変なスイッチはオフになったみたい。
このまま何事もなく、満腹になって寝てくれないかな・・・。
ともだちにシェアしよう!

