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第7話

夕飯は冷蔵庫の中身と相談して、豚の生姜焼きになった。 もちろん作るのはカイだけど、俺もちゃんと手伝う。 味噌汁はアパートでもよく作ってて、ちょっと自信あるし。 2階のカウンターキッチンで、カイとお揃いのエプロン着けて料理する事になるなんて・・・昨日の今頃は思ってもいなかったな。 いつも通り粛々と本屋でバイトしてた頃だ。 カイが生姜焼き作ってる間に、俺が味噌汁を作る。 俺が好きな細切り大根の味噌汁にしよう。 「あとは作り置きのかぼちゃの煮物と、ほうれん草とにんじんの胡麻和え、かな?」 「それもカイが作ったの?」 「いや、ハウスキーパーが作り置きしてくれてるんだよ。食材も適当に買ってきてもらってる」 へえー・・・ハウスキーパーかぁ・・・。 そりゃ頼んでるよね、こんな広い豪邸をカイが独りで掃除出来るとは思えないし。 小鉢に移した料理も、美味しそう・・・さすがプロ・・・。 「ハウスキーパーさん、どんな人?」 「知らない。シグマなら会った事あると思うけど、俺は会った事ないから」 「え?会った事ないの?」 「外出中に入ってもらう様に言ってあるから。鉢合わせする事はないよ」 そおなんだ・・・。 お金持ちの常識なのかな・・・。 「本当は誰にも入って欲しくないんだけどね。ここは、俺と璃都(りと)の家なんだから」 どくり。 ・・・なんだ、今の。 心臓がぞくってした・・・? まさか、変な病気・・・? 「璃都?」 「・・・あ、なんでもない」 ご飯と味噌汁もよそって、ダイニングテーブルの方に並べる。 豚の生姜焼きという庶民的なメニューなのに、カイが作ったからなのかおしゃれに見える、気がする・・・。 「いただきまぁす」 「いただきます」 「んんっ!」 「どう?」 「んーんー、んーふぃっ!」 「ふはっ!」 また笑われた・・・。 なんで俺が食べるの見て笑うんだよ。 「朝も笑ったよね、俺の食べ方変?」 「違うよ。俺の璃都が、俺の作った物食べて幸せそうな顔するから、俺も幸せだなって嬉しくなるんだ」 「な・・・なに、それぇ」 どくり。 ・・・まただ、また心臓が変。 「・・・はぁ、・・・璃都の味噌汁、凄く美味しい」 「・・・っ、ほんと?昆布と鰹節でちゃんと出汁とって作ったから。俺、味噌汁とかお吸い物とか、汁物は得意」 「味噌汁上手なお嫁さん最高・・・死ぬまで・・・いや生まれ変わっても璃都の味噌汁飲み続けたい・・・っ!」 「はは、おおげさぁ」 「ご飯食べたら璃都を喰い尽くしたい」 「・・・はは、ご飯おかわりする?味噌汁もまだあるよ」 カイの恐い発言は、冗談という事にして笑って受け流していこう。 まともに聞いてたら俺、そのうち本気で泣きそうだし・・・。 「うん、ありがとう。璃都の味噌汁でお腹充たして、璃都の身体で欲も充たせるなんて、俺は幸せ者だね」 「はは、は・・・」 もームリ、恐い、泣く・・・。 カイのお茶碗を持ってキッチンに逃げる。 おかわりとは思えない量を盛りながら、あのオオカミを満腹にさせて寝かせてしまおうと画策していると、後ろからぎゅっと抱きしめられた。 「オオカミを満腹にさせて、井戸にでも放り投げるつもり?俺の可愛い赤ずきん」 「なっ、ち、ちが・・・っ」 耳元で囁くなっ! 誰が赤ずきんだっ! でも俺の作戦バレてるっぽい! 万事休す・・・。 「味噌汁のおかわり取りにきたんだよ。まだ噛み付かないから安心して」 まだ・・・? もう噛み付きませんと誓って欲しい。 「たくさんお食べ、オオカミさん」 「ふふっ、ありがとう奥さん」 おくさん・・・奥さん? やめてよ、俺は男子高校生だぞ。 赤ずきんも違うからな。 最初の自己紹介で「夫」だなんて断言してたけど、本気で俺と夫婦になるつもり・・・? いや、そっか、番イコール夫婦なの、か・・・? 「璃都、どうしたの?おいで」 「あっ、うん」 カイに山盛りのご飯を渡し、俺も食事の続きをする。 生姜焼きうまぁ・・・かぼちゃの煮物も美味しい・・・胡麻和えも・・・。 テーブルを挟んで向かいに座ってるカイも、俺が容赦なく盛ったご飯をぱくぱく食べている。 よく食べるな・・・だからあんなに大きく育ったのか・・・。 味噌汁、美味しいって言ってもらえて、良かった。 自分以外のために作ったの、初めてだったし。 初めてが、カイで良かった・・・。 「・・・っぅ」 また、心臓が、変・・・。 今のって・・・。 「ん?璃都、どうかした?具合悪い?」 「ぁ、ちが、だいじょぶ、なんでもない」 「なんでもないって顔じゃないけど?熱あるんじゃない?歩かせ過ぎたかな・・・」 カイが慌てた様に立ち上がり、俺の傍にきて額に手を当ててくる。 手がちょっと冷たくて気持ちい。 「医者を呼ぼう」 「はっ!?いや、いらない大丈夫っ!平気だからっ!」 どくんってなるの一瞬だし、すぐ治まるし、きっと病気とかじゃない。 ・・・原因も、なんとなくわかったし。 「さっきも一瞬苦しそうな顔したよね?どこか痛いの?璃都、お願いだからちゃんと教えて?」 「だ、だから、具合悪いんじゃないって・・・」 両手で顔を固定され、カイと至近距離で強制的に向かい合わされる。 これ、言わないと放してもらえないやつかな。 言うの、めちゃくちゃ恥ずかしいんだけど・・・。 「その・・・自分以外に、味噌汁作ったの、初めてで・・・美味しいって、言ってもらえて・・・よかったな・・・って」 「さっきは?」 「か、カイが・・・俺も幸せって・・・俺と璃都の家って・・・言ってくれて・・・なんか、心臓がぞくってして・・・こんなの初めてで・・・」 ちゃんと白状したので手を離して俺の顔解放して! 金の瞳でじっと見据えられると、適当にはぐらかせなくなるから、恐い・・・。 「・・・っ、はぁー・・・わかった、璃都は具合が悪いんじゃなくて、可愛いんだね」 「はあっ!?」 すぐ俺を可愛いって形容すんのやめろ! いや、そうだ、俺はきっと病気なんだ! 初めてがカイで良かった、なんて思うのは頭の病気だっ! 病院行って入院するっ! 「璃都の初めては全て俺のモノだ」 「な・・・んん・・・っ、ん、んぅ・・・っ」 まだ食事の途中なのに、急にスイッチ入ったぁ。 お、落ち着かせないと・・・。 「ん、ねぇ、まって・・・んっ、まだぁっ、・・・んんぅ、はぁ、ごは・・・んむぅっ」 「・・・っ、そうだった、璃都の味噌汁残すなんて俺が許せない。璃都も、今夜はちゃんと食べておかないと、体力もたないよ?」 体力? なんで・・・? 「璃都もご飯おかわりする?」 「ぅ、ううん、もお大丈夫」 なんだかわかんないけど、とりあえずカイの変なスイッチはオフになったみたい。 このまま何事もなく、満腹になって寝てくれないかな・・・。

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