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第8話
「どおして一緒に入るかな!?」
「夫婦だからね。昨夜 も一緒に入ったし、璃都 の身体も髪も俺が洗ってあげたんだよ?」
「そ、それはどーも。でも今は起きてるし立てるし独りで大丈夫だからっ!」
「璃都はね、髪洗ってる時、寝てるのに気持ちよさそうな顔して可愛いんだよ」
「黙ってもらっていい!?」
夕飯を食べて、ゆっくりお茶飲んでから、お風呂入ろうってなったんだけど、カイが一緒に入るって言い出した。
最初は丁重にお断りしてたんだけど、まったく聞く耳を持たない強引オオカミに抱えられ、結局一緒に入る事に・・・。
まあ、昨日も一緒に入ったし、カイの言う通り全身洗ってもらったみたいだし、別に今更恥ずかしいって訳でもないし。
「じゃ、次、俺がカイの髪を洗ってあげる」
「うん、お願いします」
身体はなるべく自分で洗ったけど、髪はカイが絶対洗うって言って、抵抗したら噛みつかれそうだったからお願いした。
お返しに、俺もカイの髪を洗ってあげる事にして、さり気なく・・・あの肉厚オオカミ耳に触ろうと思う。
もしかしたら、カイの弱点を掴めるかも・・・!
バスチェアに座ったカイの後ろに立ち、少し上を向かせて髪にシャワーをかけ予洗いする。
耳にお湯が入らないように気を付けて・・・。
シャワーを止め、シャンプーを手に取って両手で泡立ててから、カイの髪に撫で付け広げていく。
耳に泡が入らないようにすんの、ちょっと難し・・・あれ?
「か、カイ、耳が・・・こ、こっち向いてる!?」
いつも正面を向いていたカイの肉厚もふもふオオカミ耳が、ぐりっと真後ろを向いている。
この耳、こんなに動くの?
逆向きに付いてるのかと思ってびっくりした・・・。
「璃都が後ろにいるからだよ」
「俺、カイの耳に監視されてるの?」
「ふふっ」
・・・笑って誤魔化された気がする。
それにしても、耳の可動域広いな・・・。
頭皮をマッサージしながらくしゅくしゅして、耳も丁寧にくしゅくしゅもみもみ、もみもみ、もみもみもみもみ・・・。
「・・・たまらん」
「ふはっ、俺の耳が気に入った?」
く・・・っ、思わず声に出ちゃった。
しかも、この反応からして、残念ながら耳は弱点ではないらしい。
気に入った・・・けど黙っておこう。
「はい、流すから、またちょっと上向いて。耳は倒して、出来るんでしょ?」
「出来るよ」
耳にお湯が入らないよう気を付けながら、しっかり泡を落とし、仕上げにコンディショナーしてもう一回流して完了。
「よし、完了っ」
「ありがとう、璃都」
バスタブに入ると、なぜか自然とカイを背もたれにする体勢に。
いや、楽だけどさぁ・・・近いよ・・・。
だからって向かい合わせも気不味 いけど・・・。
「カイって距離感バグってるよね」
「ん?なんで?番なんだから普通でしょ」
カイの腕が俺の腹にまわって、更に密着させられる。
番はこれが普通なのか・・・いや、だとしても・・・。
「俺たち、まだ出会ってから24時間も経ってないよ?番なのはわかったけど、こーゆう事はもーちょっと段階を踏んで・・・」
「12年」
「・・・え?」
カイが俺を抱きしめる力が強くなって、ちょっと苦しい。
今、12年って言った?
なんの事・・・?
「俺たちが出会ってから、12年だよ」
「・・・じゅ・・・ぅに?」
「やっぱり覚えてないんだね。公園で話しかけた時、獣人に会うのは初めてなんて言うから・・・その場に引き倒して犯し殺そうかと思ったよ。我ながらよく我慢したなあ」
物騒が過ぎる言葉が聞こえたんですけど・・・。
いや、だめだ、聞き流そう。
「ご、ごめん、俺、覚えてなくて・・・?」
「どうして忘れちゃったのかな。あんな事されて、絶対忘れられないはずなのに」
「あんな事・・・?」
12年前・・・俺が5歳の頃・・・忘れられないような事なんて、あったかな・・・。
「ここ、うっすらだけど、あの時の噛み痕が残ってる」
カイの指が、俺の頸 を撫でる。
噛み痕・・・?
頸に・・・噛まれた痕が・・・?
「・・・ぁ、れ・・・ま・・・って、それ・・・」
そうだ、あの時、俺は後ろから首を噛まれて、それで・・・。
「思い出してくれた?ずっと探してたって言ったよね。本当にずっと、ずっと探してたんだ・・・っ!」
頸に・・・あの時と同じ場所に、カイの牙が喰い込む。
「ひ・・・んん"────っ!」
叫び出しそうになって、咄嗟 に両手で口を抑えた。
「ごめん、恐いよね、ごめんね璃都、見つけ出しちゃってごめん、でも・・・もう逃がす気ないから」
「・・・っ、ちが、ぅ、俺、あの事・・・夢だと思って、た・・・っ!」
「・・・ゆめ?」
子どもの頃に見た夢だと思って、だから忘れてた。
まさか現実に起きた事だったなんて思わなくて・・・。
「璃都、どういう事・・・?」
「ぇと、は、話す、ちゃんと。そ、その前に、逆 上 せる、から、出よ・・・?」
ずっとカイの牙が頸に当てられててぞくぞくして、うまく喋れないし。
カイは少し考えてから、もう一回俺の頸にかぷっと噛みついた。
「んぅっ!」
「逃げようなんて思わないでね。絶対、逃さないから」
「わっ、わか・・・た、から・・・っ」
疑り深いオオカミだな・・・。
バスタブから出ようとしたらカイに片手で抱き上げられて、バスローブ着せられて頭にバスタオル被せられて、カイもばさっとバスローブ着て、俺を抱きかかえたまま寝室に向かった。
いや、ちゃんと服着て、リビングのソファにでも座って落ち着いてお話ししたかったのですが・・・。
「それで、夢ってどういう事?」
「んっ、と・・・それが・・・っ」
ベッドに座らされ、話そうとしたらカイにバスタオルで髪をわしわし拭かれた。
ピリピリしてても、ちゃんと俺の世話をしてくれるんだな、この完璧オオカミは。
「ぁ、あの日は、俺がいた施設の遠足的なので、たぶん都内に来てて、俺が迷子になって・・・」
「うん」
「わんこのおにーちゃんが助けてくれて・・・」
「覚えてるじゃないか!」
「だっ、だから夢だと思ってたんだってばっ!」
そう、獣人と初めて会ったのは昨日じゃない。
12年前、5歳の俺を助けてくれた「わんこのおにーちゃん」が初めてだったんだ。
「でも、わんこのおにーちゃん、なんか恐い事言って・・・俺がバイバイって言ったら・・・後ろから首噛まれた・・・」
「ごめん」
「・・・あれ、カイだったの?」
「うん、ごめん」
そっかー・・・12年も前に会ってたんだー・・・。
それから、ずっと、カイは俺の事、探してた、のか・・・。
「謝るの、俺の方・・・?」
「どうして?」
「だって、逃げちゃったから・・・」
「逃げるでしょ。いきなり俺のモノになってって言われて連れて行かれそうになって、帰ろうとしたら噛まれたんだから。5歳の子が」
「だよね、俺悪くないよね」
「だからごめんって」
「・・・ふっ、あははっ」
昨日会ってからずっと好き勝手してきたくせにまったく悪びれなかったカイが、何度もごめんって謝るなんて。
なんだかおかしくなってきちゃった。
「璃都・・・?」
「もぉ謝んなくていいよ。5歳の俺はわんこのおにーちゃんに怒ってない」
「・・・本当、に?」
「うん」
俺の言葉に、カイが心底安心したように笑った。
5歳児に怯えるなんて、小心者のオオカミだな。
「もお諦めた・・・って、言ったでしょ」
「・・・ああ、恐くなったか聞いた時?」
「そ。カイが色々恐いのは、もお諦めた。だからカイも恐がらないでよ、5歳の俺を」
「・・・っ、・・・うん、璃都・・・璃都ぉっ」
完璧イケメンハイイロオオカミ獣人が、縋り付くように俺に抱き付いた。
カイの弱点、俺だったのかもな・・・。
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