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第9話
俺に抱き付いてすりすりしてくるオオカミの背中を摩 ってたら、ぱっと離れてウォークインクローゼットに入って行った。
どうした、急に。
「カイ?」
「そのままじゃ風邪ひくから、これ着て」
あ、下着とスウェットを持ってきたのか。
「ありがと。カイも髪乾かしなよ、オオカミだって風邪ひくよ」
「璃都 が先」
2人でスウェット着て、洗面所行ってドライヤーをかける。
スウェットはお揃い、だけど、カイはチャコールグレーなのに・・・俺はピンクかよ・・・。
「ピンクの服なんて着た事ない・・・」
「ドーンピンクだよ。似合ってる」
後でクローゼット確認して、ピンクの服は隠しておこうかな・・・。
「わ・・・乾かしたらふわもふになった・・・これ欲しいっ」
「俺は璃都のモノだから、必然的に耳 も璃都のモノだよ」
ドライヤーかけた後のカイの獣耳は触り心地が良過ぎて・・・たまらんっ!
ずーっともふってたい。
「それで、俺が逃げちゃった後、わんこのおにーちゃんはどうしてたの?」
「暴れてた」
「あはっ、なにそれぇ」
今度こそ落ち着いて話そうと、キッチンでカイにロイヤルミルクティーを淹 れてもらい、リビングのソファに座った。
相変わらず距離感バグってるカイは、俺の横にぴったりくっついて座ってる。
寂しがりオオカミか。
「本当だよ。可愛い番 に怪我させて逃げられて、あの子が死んじゃったらどうしようって、大暴れしたんだ」
「な、なんか、ごめん。そう言えば、わんこのおにーちゃんは何歳だったの?」
「15歳」
5歳の俺、15歳の獣人に噛まれたのか・・・。
よく生き延びたな・・・。
「暴れ倒して一晩経って、探さなきゃって思った。まず警察に通報が来ていないか、病院に入院していないか。どっちもハズレで、途方に暮れた」
「あー・・・確か俺、ハンカチとかタオルとかで押さえて誤魔化して、そのまま施設に帰ったんだよ。問題起こすの良くないって思ってて。さすがに施設の人が怪我に気付いて、施設の近くの病院に連れて行かれたけど」
「璃都がいた施設は地方にあったんだよね。わかったのは今年の正月明け。知り合いの医者が去年末の同窓会で、10年くらい前に頸 を噛まれた5歳児を診 た級友がいたって知らせてくれたんだ」
凄い情報網・・・。
「お医者さんと友達なんだ?」
「頸を噛まれた男の子の情報集めるために、警察と医者に知り合いいっぱい作った」
そんな事のために・・・。
「医者に事情話して、なんとか施設の場所を教えてもらって、施設でやっと、璃都の名前を聞けた」
医者は守秘義務とかあるから個人情報は教えてくれなかったんだな。
でも施設の場所は教えちゃったんだ・・・噛まれそうになったのかな・・・。
「でももう施設を出て、都内で独り暮らししながら公立進学校に通ってるって聞いて、こっちにトンボ帰り。学校に問い合わせたらバイトしてるって聞いて、バイト先の本屋に行ったんだ」
「いつ?」
「5月2日」
あー、ゴールデンウィークか。
バイト三昧してたな。
それにしても、学校が個人情報を漏らしたなんて・・・。
「本屋に入った瞬間、あの子の匂いがして・・・ここに璃都が居るってわかって興奮して・・・でも直接会ったらまた恐がらせると思ったから、絶対逃げられなくなるように準備してから迎えに行こうって決めた」
「こわ・・・」
「諦めたんだよね?」
いやいや、諦めても恐いもんは恐いって。
「璃都・・・」
「恐くても逃げないから、そんな強く抱き付かないで、飲みにくい」
ロイヤルミルクティー美味しー・・・。
逃げないって言ったから少し腕の力は緩めたものの、俺の首に顔をすりすりしてくるカイ。
甘えんぼオオカミか・・・。
「で、俺がバイトしてる隙に俺のアパート勝手に解約して、荷物を運び出した、と」
「いや、学校行ってる間にだよ。午前中に荷物運び出して服や靴のサイズ確認して、午後は新しい服と靴を買いに行って、バイトから帰って来たら捕まえようと思ってたのになかなか帰って来ないから、探しに行った」
やってる事、かなりヤバいストーカーなんですけど。
お巡りさん、こいつです・・・。
「住人の同意なしに解約して荷物運び出すなんて・・・俺に家族がいなくて良かったな。いたら通報されてたよ」
「不動産関係にも伝手 があるんだ。それに、璃都の家族は俺だよ。夫婦が一緒に暮らすための準備なんだから、通報の必要はない」
うう、家族って言葉に弱いんだよなあ・・・。
知ってて言ってんのかな、このストーカーオオカミ・・・。
「璃都は俺のモノ、俺は璃都のモノ、俺たちは番、夫婦、家族・・・でしょ?」
「・・・はぃ」
「璃都はもう逃げない、よね?」
「・・・はぃ」
カイの築いた囲いは、木の柵なんてレベルじゃない。
セキュリティ完備の防壁だ。
逃げないと言うか、逃げられそうにないんだけど・・・。
「木曜日、学校は休んで。婚姻届出しに行くから」
「・・・こっ!?・・・え、だ、出すの?」
「法律的にも逃げられないようにしないと」
「こわぁ・・・ん?なんで木曜?」
「璃都の18歳の誕生日」
ああ、俺の誕生日か・・・忘れてた。
10月10日・・・俺は18歳・・・結婚可能な年齢になるって事か・・・。
「俺、結婚するんだ・・・」
「そうだよ。今は婚約者だね」
「こんやくしゃ・・・」
俺が、カイの、婚約者・・・なんかむず痒い・・・。
「結婚式はどうしたい?」
「んぐっ・・・ごほっ、こほ・・・っ、け、けっこんしき・・・?」
ロイヤルミルクティーが変なとこ入った・・・。
はぁ・・・そっか・・・結婚するなら式を挙げるのか・・・いや、でも・・・。
「あ、挙げなきゃ、だめ・・・?」
「璃都がやりたくないなら、やらないよ。でも新婚旅行は行こうね」
式を挙げるってなっても、俺は呼べる人なんていないし・・・。
人が多いのも、パーティーみたいのも苦手だし・・・。
「式は、挙げなくて、いい?」
「いいよ。新婚旅行はどこがいい?海外?」
新婚旅行・・・旅行かぁ・・・。
「修学旅行以外に旅行なんてした事ないから、カイに任せても、いい?」
「もちろん。色んなところに連れて行ってあげたいなあ。世界一周にしようか」
「いや、学校あるし、カイも仕事あるでしょ。あんまり大規模にしないで」
「ふふ、わかったよ奥さん」
奥さん言うな。
カイのピリピリした感じがなくなって、ごろすり甘えんぼオオカミになった。
・・・ネコか?
「カイってハイイロオオカミの獣人だよね」
「そうだよ」
「ネコかと思った」
「喉なんて鳴らしてないけど」
確かにゴロゴロは言ってないな。
でもずっとすりすりしてきて・・・って、ちょ、体重かけ過ぎ・・・だ・・・ってぇ・・・っ。
「ぉ、おも、重いぃ・・・っ」
ソファに押し倒され伸し掛かられる。
危うくティーカップ落としそうになったけど、カイがさっと奪ってテーブルに置いた。
「璃都・・・璃都・・・っ」
「んぶ・・・んっ・・・ふ、・・・んぁ」
唇を舐められ、逃げようとしたら手で顎を抑えられて、開いた口に舌をねじ込まれる。
スウェットの中に手も入ってきた。
これは、ヤバい、そーゆう事しようとしてる・・・。
「はぁっ、ま・・・てぇっ、んんっ・・・」
「ベッドに連れてくから、これ以上は我慢できない、抵抗しないで・・・っ」
無茶言わないでよっ!
反射で抵抗しちゃうんだってば恐いからっ!
でも・・・また縛られるのは嫌だし・・・。
「ゎ、わか・・・からっ、し、しばるのっ、やめて・・・っ」
「いい子にしてたらね」
カイにがばっと抱き上げられ、俺は問答無用で寝室へと連れて行かれた。
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