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第11話

昼食の後、バルコニーのガーデンカウチでのんびり、あったかいウーロン茶を飲む。 はぁー・・・日曜なのにバイトもしないでのんびりなんて・・・。 「明日、学校行っていいんだよね?」 「いいよ。璃都(りと)を送ってから、俺も仕事に行くから」 ・・・あ、学校で思い出した、課題出てたんだった。 これ飲んだらやらなきゃ。 「課題やるんだけど、デスク使っていい?」 「いいよ」 耐熱グラスを片付けて、書斎へ移動する。 そうするだろうと思ってたけど、カイも付いてきた。 「何の課題?」 「数学と化学・・・あと英語の予習」 「見てていい?」 「だめって言ったらどうするの?」 「学校行かせない」 なにその脅迫・・・。 「見てていーよ。暇だろうけど」 「ありがとう。動画撮っていい?」 「だめ」 書斎に用意してもらったデスクに向かうと、アパートに置いていた勉強道具がきちんと置いてあった。 それプラス、新しい参考書や筆記用具も。 通学用鞄もある。 お前、ここにいたのか・・・。 お前は解約されなかったんだな・・・。 数学の課題を解きながら、ちらっと目線を上げると、向かい合わせになったデスクでカイが読書をしていた。 ・・・どんな本を読んでるんだろ。 「読書オオカミが気になる?」 「んぇ!?いや、別に・・・」 見てるの気付かれた。 カイは本に視線を落としてたのに。 課題に集中しよ・・・。 窓の外から、小鳥の(さえず)りが聞こえる。 静かな書斎には、俺がカリカリと数式を書き込む音と、たまにカイが本のページを(めく)る音。 ・・・めっちゃ(はかど)るな。 アパートは壁も薄いし、周辺(まわり)も少し騒がしいところだったから。 数学の課題が終わり、化学の課題に取り掛かる。 あれ、今回の課題は思ってたより簡単・・・すぐ終わりそう。 英語の予習だって、そんなに時間がかかるようなものじゃないし、せっかくの快適な書斎時間が短くなっちゃうじゃん・・・。 「・・・もぉ終わっちゃった」 「早いね。璃都は頭いいもんなあ」 「奨学金かかってるからね」 「それなら辞退したよ」 「・・・は?」 鞄じゃなくて奨学金(そっち)かー・・・。 まさか、学費もカイが払ってくれるつもり・・・? 「学費も奨学金の返済もこっちで済ませるから。璃都が稼いだお金を学校が受け取るなんて許さない」 「ストーカーって、極めるとそこまでいくんだ・・・」 なんか、完全にカイに養ってもらう感じになってるな・・・。 あんまり甘えたくはないんだけど・・・大学進学とかどうしよう・・・。 「璃都に必要な物は全て俺が用意したいんだ。俺なしじゃ生きられないようになって欲しいから」 「こわ・・・」 終わらせた課題と英語のノートを鞄に入れ、せっかくだから書斎にある本を読もうと立ち上がる。 ・・・おっと、難しい専門書ばっかりだ。 英語の本もある・・・え、これ、フランス語? この辺は・・・医学書っぽいな・・・。 あとは・・・経済学・・・て、帝王学・・・? 「璃都」 「ひやっ!?」 カイ、いつの間に俺の後ろに立ってたの・・・びっくりしたぁ・・・。 「薬学関連はこっち。小説はここ」 「え、薬学書もあるの?」 「璃都が読みたいかと思って」 まさか、俺が薬学部志望って事も知って・・・るな。 カイだもん。 「志望大学の学校推薦型選抜、出願期間は11月の頭だったよね。出願要件もクリアしてるし、璃都ならきっと合格するよ」 「そこまで知られてるんだ・・・」 「璃都の事は何でも知ってるよ」 「やめて・・・」 あ、この薬学書、バイト先で見つけて読んでみたいなって思ってたやつ。 手に取って、イスに座って読もうとしたら、カイにひょいっと片手で抱き上げられた。 「ちょっと・・・?」 「読書なら、俺の膝の上でも出来るでしょ」 「寂しがりオオカミ・・・?」 「明日から学校に送り出さなきゃいけないんだよ?一緒に居られる時間は大切にしたいんだ」 カイが俺のデスクのイスに座り、俺はカイの膝上に横抱きにされる。 俺は諦めて手にしていた薬学書を開いた。 静かだけど、庭の木や鳥の囀りが微かに聞こえて、勉強も読書も捗る部屋だな・・・。 それと、もうひとつ。 触れているところから伝わる、カイの鼓動(こどう)。 自分のものではないのに、こんなに心地いいんだな・・・。 「・・・んっ」 額になにか触れて、目を開ける。 ・・・あ、俺、今、寝てた? 「おっと、起こしちゃった」 「んん・・・寝る・・・つもりじゃ・・・」 「本読みながら寝落ちする璃都可愛い」 「黙って・・・」 気を取り直して、また読もうとするけど、やっぱり・・・。 「ふふ、ベッドで昼寝する?」 「んーん、カイのせい・・・」 「俺のせい?」 「心臓の音・・・するから・・・きもち・・・よくて・・・」 「俺の心臓の音が気持ちいいの?可愛いなあ」 手から本を奪われ、ぎゅっと抱き寄せられる。 密着すると、更に鼓動が強く伝わって・・・。 「・・・ゃだ・・・ねなぃ・・・」 「ふふ、駄々捏(だだこ)ねる璃都も可愛い」 あーもー・・・。 だめだ・・・ほんとに・・・寝ちゃう・・・。 ─────── 「・・・ん、・・・んん?」 「あれ、もう起きたの?」 「いまなんじぃ?」 「15時48分」 相変わらずカイの膝上に乗せられてたけど、俺のデスクじゃなく、カイのデスクの前だった。 カイはノートPCで・・・仕事、してるのかな。 「邪魔だったでしょ、下ろせばよかったのに」 「眠ってる璃都を放置なんてしたら、仕事なんて手につかないよ」 そうですか・・・。 「起きたからどくよ。邪魔でしょ」 「璃都が邪魔になる事なんてあり得ないから。璃都が構ってくれるなら、仕事はお終い」 「え、いいの・・・んぅっ」 ぱたん、とノートパソコンを閉じたかと思ったら、俺の唇に噛み付くオオカミ。 当たり前のように舌を入れてくるな・・・。 「んっ・・・ふぁ・・・っ、んん・・・っ」 日曜の穏やかな午後・・・いいのかこんなんで・・・ずっとくっついて・・・い、いちゃいちゃ、してて・・・。 俺、このままだと・・・。 「ん・・・っ、も、待ってってば。この・・・ダメ人間製造オオカミめっ」 「ふふっ、早く立派なダメ人間になってね、俺の璃都」 ヤバい・・・ほんとにそーなりそうで、恐い・・・。 しっかりしなきゃ・・・! 「俺、なんかするっ!家事とか・・・」 「ハウスキーパーの仕事を奪ったらいけないよ。それに、家に居る時は俺の傍に居て、俺だけの璃都でいてくれないと」 「でも・・・」 「学校行かせないよ?」 「その脅し文句はずるいよ・・・」 学校に行くために、ダメ人間になれ、と・・・。 でも、学校にちゃんと通って真面目に勉強してれば、完全なダメ人間じゃない、よね? うん、ちゃんと学校行くためにも、家ではちゃんとダメ人間してよう・・・。 色々矛盾してるけど・・・。 「ダメ人間は喉が渇きました」 「はいはい。紅茶にする?」 「冷たいのがいい。麦茶ある?」 「あるよ」 カイは俺を抱いたまま立ち上がり、キッチンへ向かった。 俺をカウンターチェアに下ろす、と思ったのに、片手で抱き上げたまま冷蔵庫を開ける。 「下ろしてよ」 「やだよ」 「片手でやると危ないよ。落とすならコップじゃなくて俺にしてよね」 「璃都を落とすなんて・・・俺に堕ちてくれるならいいけど」 カイに落ちる? カイを下敷きにすればいいって事かな。 「わかってないね?」 「ん?なにが?」 「璃都が俺に堕ちるって事は、俺がいなきゃ息も出来なくなって、俺が欲しくて欲しくて仕方なくなるって事だよ」 「こわぁ・・・」 よくわかんないけど、それじゃ学校も行けなくなるじゃん。 落ちないように気を付けよう・・・。

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