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第13話
「なあ橘花 、朝さ、獣人に送ってもらってたのって、橘花だよな?」
「ねえ橘花くんて、あのヒトの番なの?」
「あのヒト何獣人?」
教室に着いたら早速質問攻めにされた。
最悪だ・・・。
「・・・ぇっと、まあ、一応」
「獣人の番だったの!?凄いっ!」
「なあなあ何獣人?イヌ系だよな?」
「すっごいイケメンだったよね!」
言いたくないな・・・オオカミだって・・・。
でも言わないと終わらなそうだし・・・。
「・・・ハイイロオオカミ」
「「「まじで!!?」」」
そ、そんなに驚く事?
監禁なんてされてないぞ。
軟禁状態ではあるけど・・・。
「ハイイロオオカミって超エリートで有名じゃん!」
「まさか・・・ルプス家のヒト・・・じゃないよな?」
「え、なんで知って・・・?」
「「「まじで!!?」」」
ルプス家って有名なの?
俺知らなかったんだけど?
だめだ、なんかこれ以上話すと騒ぎが大きくなりそう・・・。
「どこで出会ったの?」
「いつから付き合ってたんだよ?」
「なんて名前のヒトなの?」
「ご、ごめん、これ以上は・・・あんま聞かないで・・・恥ずかしい・・・もう授業始まるし・・・」
俺が逃げ腰なのに気付き、クラスメイトたちは少し残念そうに自席に戻って行った。
あいつらが騒ぐから、他の生徒からの視線も俺に集まってるんだが・・・。
はぁ・・・先が思いやられる・・・。
───────
3限が終わって昼休みになった。
そこでやっと思い出したんだ。
俺、昼ご飯、買ってきてない・・・。
仕方ない・・・購買行くか・・・。
財布を取ろうと鞄の中を探っていたら、スマホに着信が入っているのに気付いた。
発信者は「ダーリン」。
・・・後で「ストーカーオオカミ」に変更しておこう。
「・・・はい」
『璃都 、出てきて。お昼食べに行こう』
「はい?」
窓から外を見ると、ロータリーに朝乗ってきた車と、その横に立つカイ。
手ぇ振るなっ!
「い、行くから車ん中で待っててっ!」
通話を切り、急いで教室を出る。
ヤバい、既に数人の生徒が様子を見に来てる・・・。
「璃都」
「車の中で待っててって言ったよね?」
「会いたかったよ、璃都。ぎゅってさせて」
「ここ学校だってばっ!」
問答無用でぎゅっとされ、額にキスされ、後部座席に押し込められた。
学校には昼休みの外出許可を得ている、というカイの言葉に安心しつつ、わざわざ昼ご飯のために来るなんて、と少し呆れてしまう。
「忙しいんじゃないの?わざわざ昼ご飯のために来なくても・・・」
「璃都が最優先。どうしても来られない日は、俺がお弁当作って持たせるからね」
そこまでするのか、ハイスペックストーカーオオカミは・・・。
「ランチはオムライス頼んであるんだけど、璃都はオムライス・・・」
「好き」
「だと思ったんだ」
俺の好物はたぶん、わかりやすい。
目玉焼きが乗ったハンバーグ、オムライス、親子丼、厚焼き卵。
・・・あと、カイが作ったフレンチトースト。
そう、卵料理が好きなんだ。
まさか、バレてる、のかな・・・。
「璃都は卵料理が好きなんでしょ?」
「やっぱりバレてる・・・」
学校から車で5分くらいでレストランに着いた。
小ぢんまりとした可愛らしい佇 まいで、隠れ家っぽい雰囲気もある。
「いらっしゃいませルプス様。こちらへどうぞ」
綺麗な中庭の見える窓側のテーブルに案内され、カイが引いてくれたイスに座る。
・・・完璧イケメンオオカミ、さらっとエスコートしてくる。
俺は女性じゃないんだけどな・・・。
座ってすぐに、飲み物とオムライスがサーブされた。
俺たちが来るタイミングに合わせて作ってくれてたみたいだ。
「ぉ、美味しそ・・・」
「さ、食べよう」
「その前にスマホしまって」
動画なら朝撮ったじゃん。
もう撮らせないからな・・・。
「お願い璃都、午後は憂鬱な会議が2つも入ってるんだ。俺を助けると思って・・・」
「・・・わかったから、耳ぴんとして。折れちゃってるよ、どーゆう仕組み?」
可哀想な子犬のフリをするなんて・・・卑怯なオオカミだな・・・。
気を取り直してオムライスにスプーンを入れる。
卵がふわとろ、中は具沢山のケチャップライス・・・これ絶対美味しい・・・!
「ふー・・・ふー・・・んっ・・・んんっ!」
「美味しい?」
「ん!んーふぃ!」
「・・・かっ・・・わいいなあ・・・!」
カイのオオカミ耳・・・略してオオカ耳がぷるぷる震えてる。
なにその動き可愛い。
・・・俺もその動画撮りたかった。
「このジュースも美味しい・・・」
すっきりとした甘さと芳醇なブドウの香り。
これ好き・・・。
「白ブドウのジュースだよ。この店のワイナリーで作ってるんだ。気に入ったなら買って家に送ってもらおうか」
「いいの?ありがとカイっ!」
「ふふ、璃都が喜んでくれて俺も嬉しいよ」
食事を済ませ、ジュースのおかわりを飲んで少しゆっくりしてから店を出る。
・・・あれ、お会計してない?
「カイ、お会計は?」
「シグマが済ませたよ」
あ、そうなんだ。
シグマさんって、カイの秘書とかなのかな?
車に戻り、再び学校へ。
昼休みで、朝より生徒たちの視線が多い中、朝同様カイに手を引かれて車を降りる。
「今日は5限までだよね?」
「あ、うん」
「帰りも迎えに来るから」
「いや・・・はい、わかりました」
独りで帰る、なんて言ったら学校辞めさせられそうな気がして、カイに従う事にした。
カイはまた、俺にキスをして送り出す。
・・・学校で、そのような行為は、教育上、よろしくないと思うのですが?
仕方ない、監禁生活回避のために、ここは俺が諦めよう。
教室に戻ると、またクラスメイトたちに囲まれてしまった。
「どこ行ってたんだよ?話聞こうと思ったのに」
「あ、ちょっと、お昼食べに・・・」
「やっぱり!朝見た車が来てたから、番と一緒に食べに行ったんだ?」
「うん・・・」
「もしかして帰りも迎えに来るの?」
「うん・・・」
「え!もしかしてこれから毎日高級車で送り迎え?すげー!」
「はは・・・」
午後の授業が始まり、食後の眠気を噛み殺しながらノートを取る。
もうすぐ中間考査だし、先生が「ここテスト出ます」と言うのを聞き逃さないようにしないと。
カイが学校推薦型選抜の話してたけど、俺は大学受験していいんだろうか。
カイは俺の学費を払うって言ってくれてるけど、大学も・・・って言うのちょっと気が引ける。
でも、自分からちゃんとお願いしなきゃだめだよな。
もやもやしてると勉強に影響出そうだし、今日帰ったらちゃんと自分からお願いしよう。
5限が終わり、ホームルームで担任が中間考査のスケジュールとかの話をした。
通常は15時半までだけど、特に連絡事項がなければちょっと早めに終わる事も多い。
今日も10分早く終わった。
鞄にノートと今日出された課題を入れて、カイが来る前に学校手前で待ち伏せようと思ってたら、担任の戸次 先生に呼ばれた。
「橘花、ちょっといいか」
「・・・あ、はい」
なんだろう・・・先生に名指しで呼び出される事なんて今までなかったのに・・・。
学校からの特別奨学金を受けるためと、学校推薦型選抜のために、俺は成績も生活態度も教師から常に褒められるレベルにしてきた。
それなのに、呼び出し・・・。
初めての呼び出し・・・。
品行方正清廉潔白を地で行く橘花璃都が呼び出し・・・。
屠殺場に連れて行かれる子牛の気持ちで、俺は先生の後に付いて行った。
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