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第17話

今日は月曜。 結婚した誕生日の翌日は、ホテルの部屋で目を覚まし、俺はカイのせいで立てず、学校へ行ける状態でもなかったので休む事になった。 まあ、最初から金曜も休むとシグマが学校には連絡を入れていたらしいけど。 中間考査が始まるって言ってんのに・・・。 「えっ、橘花(たちばな)くん指輪してる!」 「すげー高そう・・・」 「ぁ、えと、これは・・・」 目敏(めざと)いクラスメイトに指輪がバレて、なんて説明しようか迷っていたら、担任の戸次(とつぎ)先生が教室にやって来た。 「たちば・・・ルプス、休んでいた時に出ていた課題と、提出していたノートの返却だ」 「・・・ぁ、ありがとう、ございます」 名前・・・言い直した・・・。 なにもみんなの前で言わなくても・・・。 「ええー!?ルプスって・・・じゃ、じゃあ結婚したの?」 「まじかよ!?もう!?」 「そりゃそうでしょ、だってオオカミの獣人だもん・・・」 「高校生で人妻かぁ・・・」 ひとづま・・・やめてくれ・・・その呼称は・・・。 「たち・・・ルプス、その、大丈夫か?」 「・・・はぃ、なんとか」 俺の首の噛み痕を心配してるのかな・・・。 大丈夫ですよ先生、治りが遅いんじゃなくて、治ってから新しい噛み痕を付けられてるだけですから・・・。 ─────── 「お帰りなさいませ璃都(りと)様。カイザル様は会議中のため私がお迎えに上がりました」 「ありがとうシグマ。俺は先に家に帰るの?」 「いえ、カイザル様の執務室にてお待ち頂くようにとの仰せです。おやつもご用意しております」 「おやつ・・・!」 シグマが後部座席のドアを開けてくれたので乗り込む。 その時に、あまりにもさり気なく流れるような所作で、シグマに鞄を取られてしまった。 参考書とか入ってて重いのに・・・。 返して、と言おうかと思ったけど「何か?」とでも言いたそうな圧のある笑顔を向けられ、そのまま預ける事に。 ・・・あ、今日は自分でシートベルト出来た。 「本日から中間考査と伺いましたが、いかがでしたか?」 「あ、うん、悪くはなかったと思うけど・・・土日もカイに邪魔されて、なかなか勉強出来なかったから・・・」 いつもより、点数は低いだろうな・・・。 後で自己採点してみよう・・・。 「過去の中間、期末考査では、(ほとん)どの教科で100点をお取りになっていたとか。担任教師からも、(こん)を詰め過ぎる嫌いがあると聞いております。カイザル様のお相手をしながらが丁度良いかもしれませんよ」 「そ・・・んな事は・・・」 成績は、特別奨学金や学校推薦型選抜のためにも出来るだけ良くしておきたくて。 だから常に目標は100点にしていた。 まあケアレスミスしたり、100点取らせる気ないだろってテストもあったりしたけど。 「到着いたしました。ご案内致します」 シグマがドアを開けてくれて、車から降りる。 あれ、先週行ったのとは別のビルだ。 3つも会社経営してるんだもんな・・・。 綺麗なエントランスから入ると、受付の人がお辞儀をして挨拶してくれた。 「お疲れ様です、奥様」 「・・・ぉ、お疲れ様です・・・」 奥様って・・・まじか・・・なんで受付の人が知ってんの・・・シグマが一緒だからかな・・・。 エレベーターで上の階に行き、広いフロアを通って奥にあるカイの執務室へ入る。 ・・・フロアに居た人たち、俺の事見てたな。 急に高校生が入ってきたら、そりゃ見るか・・・。 シグマが用意してくれたおやつのモンブランを食べてから、今日やったテストの自己採点を始める。 「・・・うそ・・・89点・・・最悪・・・」 高校に入学してから、どんなテストでも90点を下回った事なんてなかったのに・・・。 ケアレスミスもあるけど、そうじゃないところはしっかり復習して二度と間違えないようにしなきゃ・・・! 「璃都、俺が来たのに気付かないなんてどうしたの?」 「・・・っ!?ぁ・・・カイ・・・?」 いつの間に隣に座ってたんだろ・・・びっくりした・・・。 「なにかあった?誰かになにかされたの?」 「ち、違う、その・・・テストが・・・自己採点してて・・・」 「うん?」 「89点なんて過去最低の点数だから・・・ショックで・・・」 そう言うと、カイがテスト用紙を手に取って目を通し始めた。 カイは頭いいから、こんなの満点取れて当たり前なのかな・・・。 「・・・うーん、この内容で89点なら、学年最高点なんじゃない?」 「最高点なら100点でしょ。90点未満なんて、悔しくて・・・」 「こっち来なさい璃都」 「ぅわっ」 カイに抱き上げられ、膝上に横抱きにされた。 だから、会社でこーゆうのやめてってば! 「数Ⅲの応用問題だね。ちょっと意地悪な問題だな・・・」 「そ、そぅ、だけど・・・」 「数学の教師は性格が悪いのかな。俺の璃都を苦しめるなんて・・・変えてもらおうか」 「やめてっ」 ほんとにやりそうで恐い。 そのままカイの膝上でよしよしと慰められ、もう1科目の自己採点は出来ないまま帰宅した。 ─────── 中間考査が終わり、週末の昼下がり。 課題とか学校推薦型選抜の対策とかで午前中は書斎に(こも)ってたんだけど、お昼食べたらカイが「参考書と俺、どっちが大事?」とか聞いてきて・・・。 結局、リビングの壁に掛けられた大型液晶テレビにゲーム機を繋いで、カイとゾンビ系FPSをプレイ中。 「・・・ぅぐっ、んにゃっ!?」 「・・・っふ」 「笑わないで、俺真剣なんだから・・・あっ・・・や、あーっ!」 「ふはっ、あーもう、璃都が可愛過ぎてゲームに集中できないなあ」 だって、いきなり大量のゾンビが襲いかかってきて、しかも凄い走ってくるんだもんっ! ゾンビってもっと、のろのろ動くもんじゃないの? 「次はこれやってみる?」 カイがダウンロードしたのは、色んなステージをスポーツカーで爆走するカーレースゲーム。 ・・・あ、ガレージにあるのと同じカマロが選べる。 これにしよ。 「あっ、抜かないでぇっ!」 「レースなのに?」 「んーっ、カイうま過ぎる、練習した?」 「ふふ、俺も初めてだけど?」 結局、5レースやって、俺がカイに勝てたのは1回だけだった。 完敗・・・いや、1勝はした、完全に負けたわけじゃない・・・! 「カイが居ない間に練習しよ」 「ずるい子だな。じゃあ次これ、VRゲームやってみる?」 カイにヘッドセットを被せられ、軽く操作説明をされてゲームをスタートする。 凄いこれ、ゲームが現実で起こってるみたいに見える・・・! でもこれ、どんなゲームなんだろ? 家の中に居るみたい・・・進めばいいのかな・・・奥の部屋が暗いけど・・・あ、このボタンで電気が点く・・・。 「きゃああっ!!」 「ふはっ!・・・ふ、くく・・・」 なんか目の前に飛び出して逃げてった!? なにあれ!? 四つん這いで手足が長いヒトみたいななにか!? 「・・・か、かい、こ、これって、こ、こわ・・・」 「・・・・・・」 返事がない。 俺、心臓がどっくんどっくんいってるんだけど・・・。 でも今やめるのは、ちょっと悔しい。 も、もうちょっと、先に・・・。 「・・・ぅぅ、で、出てこないでぇ・・・」 ドアを開けて、中を確認・・・ちょっとずつ前進して・・・なっ、なんか後ろから足音した!? 振り返ってもなんにもない・・・気のせい・・・? あれ、あのドア、さっきは閉まってたのに、開いてる・・・? ええ・・・これ、確認しに行かなきゃだめぇ・・・? 現実だったら絶対見に行ったりしないけど、これはゲームだし、確認しに・・・。 「うにゃあああっ!!?」 「あっはははは!」 後ろからがばっと何かに抱き付かれたあっ!! 感覚がリアル過ぎてどうしたらいいのかわかんな・・・って、あれ? 「ちょ・・・とカイっ!びっくりするじゃんっ!」 「あー・・・ごめん、可愛過ぎて我慢できなかった。びっくりした?」 ゲームじゃなくて現実で抱き付かれてたんだ。 本当に心臓が飛び出るかと・・・。 「もぉこれやだぁ・・・心臓痛いぃ・・・」 「うんうん、そうだね、やめようね。よしよし怖かったねえ」 カイに抱き上げられ、背中をとんとんされる。 子どもあやすみたいにするのやめて・・・。 もう二度とVRホラーなんてやらないっ!

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