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第19話
目が覚めて、よろよろと起き上がる。
腰から下がだるい。
あちこち痛い。
けど、身体は綺麗で、部屋着も着てて、血が出るほど噛まれた首や肩、脚にはガーゼがあててあった。
いつもと違うのは、起きた俺の傍にカイが居ない事。
この家に来てから、独りで目覚めたのは初めてだ。
「・・・ふ・・・っ、・・・ぅうっ」
勝手に涙が溢れる。
痛いからじゃない、恐かったからじゃない。
カイが傍に居ないから。
ぐすぐすと泣きながら寝室を出る。
「ぅっ・・・ふぇ・・・っ、どこぉ・・・っ」
「璃都 ?」
声がして、顔を上げる。
スポーツドリンクのペットボトルを手に、驚いた顔で立ち尽くすカイ。
よかった、家に居た・・・。
「かぃ・・・ぇぐ・・・っ、いかな・・・で・・・っ」
「どこにも行かないよ」
カイが俺を抱き上げて、寝室に戻る。
そっとベッドに下ろされたけど、またカイがどこか行かないように慌てて縋り付いた。
「璃都、大丈夫だよ、ここに居るから。そろそろ起きると思って、飲み物を取りに行ったんだ。飲める?」
「ごめ、ん、なさぃ・・・っ、も、うそ・・・つかな・・・っ」
「うん。ごめんね、酷くして。恐かったね、ごめん・・・」
俺の頭を撫でながら、謝ってくれるカイ。
悪いのは俺なのに。
カイ以外に触らせたからじゃない。
その事を隠せるって、カイを騙そうなんて考えた、俺が悪いんだ。
俺の事を大事にしてくれて、俺の家族になってくれて、約束を破ってもまだ大事にしようとしてくれるカイを・・・裏切ったんだから・・・。
「俺以外に触られて、俺に怒られると思って恐かったんでしょ。だから隠そうって思っちゃったんだよね。仕方ないよ・・・」
違う、そうじゃない。
「仕方なくないっ!俺、カイの事、裏切った!隠さないで、ちゃんと話さなきゃいけなかったのに・・・好きって・・・愛してるって、言ってくれるカイの事・・・傷付けた・・・ごめんなさい・・・」
「璃都・・・」
カイは怒ってたんじゃなくて、傷付いてたんだ。
だって、完全に意識を失う前に見たカイの顔は、泣きそうだったから。
「愛してるよ、璃都。あんなに酷くしたのに、俺の事、まだ好きでいてくれる?」
「・・・ぅん、好き・・・大好きだよ・・・傍に居て・・・」
俺からキスをして、改めて見たカイの顔は、凄く嬉しそうな、泣きそうな笑顔だった。
───────
学校が5限で終わり、部活に向かうクラスメイトに挨拶して校舎を出る。
いつものようにロータリーで迎えの車が待っていて、カイが笑顔で手を広げてた。
「ただいまっ」
「おかえり、璃都」
カイの腕の中に飛び込んで、ぎゅっと抱き付く。
カイもぎゅうっと抱きしめてくれる。
「早く帰って、着替えなきゃね」
俺の頬にキスをして、車に乗せるカイ。
今日は10月31日、ハロウィンだ。
11月中旬に学校推薦型選抜の試験があるから対策勉強に勤しんでたんだけど、勉強の邪魔するぞオオカミが煩くて・・・。
1つお願いを聞いてあげるから大人しくしてって言ったら「ハロウィンにコスプレして欲しい」とお願いされてしまった。
「それで、コスプレってどんなの?」
「帰ってからのお楽しみ」
「・・・まあいいけど、ちょっと不安」
「2着用意したから、お色直ししようね」
「お・・・おいろなおし・・・?」
ハロウィンのコスプレでお色直しって・・・。
でも、やるって約束しちゃったし、1着だとも言ってなかったし、仕方ないか・・・。
「で、1着目が、これ、か・・・」
帰宅し、ウォークインクローゼットで用意された衣装に着替えたんだけど・・・鏡の前に立ち愕然とする。
襟、裾、袖にふわふわのボアがあしらわれた白いクロップドニット。
もこもこボアの白いカボチャパンツ。
白いニーハイソックス。
白い耳とぐるぐるの角が付いたカチューシャ。
「これ・・・羊・・・かな・・・」
相手はオオカミなんですが・・・この格好で「トリックオアトリート」と言え、と・・・?
負け確じゃん。
だがしかし、やると言ったからにはちゃんとやる!
男に二言はないっ!
俺が着替える間、カイは書斎で仕事の電話をしてくるって言ってた。
よし、敵陣に乗り込むぞ・・・あ、でもなんか、武器欲しい・・・素手じゃ勝ち目ないし・・・。
なんかないかなー・・・。
「おや、こんなところにイタズラ羊が」
「ひゃうっ!?」
クローゼットを漁っていた俺は、後ろからがばっと捕まえられてしまった。
まだ武器手に入れてないのにっ。
「と・・・トリックオアトリートぉっ」
「Trick, of course !」
「のっ、No!Treat please !」
イタズラを求めてどうする・・・。
お菓子ちょーだいよ、いっぱい用意してくれるって言ってたじゃん。
「ええー、可愛い羊さんがどんなイタズラしてくれるのか、興味があるんだけど」
俺を後ろから抱え上げたまま、寝室へ移動する襲撃オオカミ。
・・・ちょっと、ベッドに連れて行こうとするなよ、リビング行こうよ、お菓子ちょーだい。
「武器が見つからなかったので降参です。お菓子ください」
「武器なら璃都はたくさん持ってるよ」
ん?
武器なんて何も・・・。
だから、ベッドに下ろすなってば。
「可愛いおへそ」
「ひぅっ」
「やわらかい太もも」
「ぅあっ」
「敏感な乳首と耳」
「んぅう・・・っ」
俺がイタズラされてるんですけど!?
あとそれ、武器ではなく弱点なのでは?
「ゃ、あ・・・ぉ、おかしっ!お菓子あげるからイタズラやめてっ!」
カイが用意してくれたお菓子だけど・・・。
「いいの?じゃあ、いただきます」
・・・あれ、そのフレーズ、前にも聞いた気がする。
「むうぅっ!?」
やっぱり・・・。
俺はお菓子でも肉まんでもないっ!
口を食うなあっ!
───────
「お菓子の城だあーっ!!」
リビングに行ったら、テーブルの上に大きなお菓子の城が!
凄い、本当に全部お菓子で出来てる・・・全部食べられる城だぁ・・・。
チョコレートのレンガ、マカロンの塔、クッキーの壁、飴細工のバラ園、その他ありとあらゆるお菓子で構成された夢の城・・・。
「凄い・・・こんな城に住んだらあっと言う間に太る!」
「ふふっ、住むなら屋根は最後に食べないとね」
「写真撮りたい!あ、俺のスマホどこ・・・」
「羊の毛皮に引っかかってないなら、制服のポケットかな。俺が撮るから、可愛いポーズして?」
無茶言うな・・・。
とりあえず、城の後ろにまわって、大口開けて襲いかかるポーズをとってみた。
「ふはっ、可愛い。凶暴な羊だね」
「んふふー、オオカミもマカロンにはさんでぺろりだよ!」
「へえ・・・それは楽しみ」
「嘘ですオオカミさんには敵いません」
それから、ソファに座ったカイの膝上に座らされた状態で、お菓子の城を攻略した。
城を攻めるならまず城壁を崩す・・・このバタークッキー美味しい・・・バラはいちご味・・・扉はミルクチョコだ・・・あ、中は生クリームのカーペット敷いてある・・・柱のスティックチョコに付けて食べよ・・・。
「んっ、・・・このプチシューも美味しい。カイも食べる?」
「うん」
カイにプチシューを餌付けしようとして気付いた、動画撮られてる・・・。
いつから撮ってんの・・・。
「はい、お食べ」
「んぐ・・・っ、乱暴な羊だなあ」
「あはっ」
「可愛いから許しちゃうけど」
許してくれるのはいいけど、さっきから俺のお尻揉んでない?
カボチャパンツがもふもふだからって、揉み過ぎじゃない?
俺、ちゃんと気付いてるからね?
「んで、お色直しはいつするの?」
「夕食の後、かな」
「・・・なんの衣装なの?」
「ふふ」
笑って誤魔化された・・・。
その後、お菓子を食べ過ぎた俺は夕飯のパンプキングラタンを食べきれず、でも美味しかったから絶対明日の朝にまた食べるって言って冷蔵庫にしまった。
それからクローゼットへ行き、カイに渡されて着替えた衣装は・・・赤ずきんだった。
しかも・・・。
「ねえ、赤ずきんって、こんな露出多かったっけ・・・?」
「堪 らなく美味しそう・・・似合ってるよ璃都」
嘘でしょ・・・。
真紅のベルベット生地に金糸で刺繍されたケープマントは、無駄に高級そうでコスプレ衣装とは言い難い。
それはいいんだけど、このケープマントの下が問題・・・大問題なんだよ・・・。
「さあ、ベッドへ行こうね、俺の可愛い赤ずきん」
「変態オオカミめぇ・・・っ!」
赤いレースの紐パンだけって・・・なんでだよーっ!!
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