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第21話

璃都(りと)っ!どうしてこんなところに・・・どうしたの?具合悪い?」 「・・・カイ・・・お、お帰り、なさい・・・」 いつの間に帰ってきたんだろう。 いけない、余計な心配させちゃったな。 「ごめん、星見るのに夢中になっちゃって。大丈夫、なんでもないから・・・」 「大丈夫じゃない。こんなに冷たくなって・・・おいで」 俺を抱き上げて、リビングに入るカイ。 なんで、そんなに心配してくれるの。 カイは優し過ぎる。 間違って噛んだくらいで、ここまでしなくていいのに。 「カイ、大丈夫だってば・・・」 「大丈夫には見えない。泣いてたよね?目が赤いよ、何があったの?」 泣いてたの、気付かれるなんて・・・。 目元を(こす)り過ぎたな・・・。 「な、なにも・・・」 「もう嘘つかないって約束したよね?ちゃんと話して、お願いだから。俺の璃都がどうして泣いたの?」 俺の璃都。 カイはいつも、そう呼んでくれる。 そう呼ばれるの、好きだ。 「ちょっと・・・考えちゃって・・・」 「うん、なにを?」 「カイの事・・・なんにも知らないな・・・って・・・」 「俺の事?」 俺を抱いたまま、カイがソファに座った。 ちゃんと話さないと、放してもらえないみたいだ。 「家族についてとか・・・挨拶とかしてないのなんでだろうとか・・・俺を・・・番にしたのは・・・間違って噛んじゃったからじゃ・・・」 「璃都、間違って噛んでなんかいない。璃都が俺の番だから噛んだんだ。まさか俺の愛を信じられないなんて言わないよね?」 「しっ、信じてないとかじゃなくてっ、でも、俺・・・人間だし・・・男だし・・・」 「それが何?俺は璃都だから番にしたんだ。璃都である以外に必要な事なんてない」 俺だから、番にした・・・? 本当・・・? 「俺、カイの番で・・・家族でいて、いいの・・・?」 「そうあってくれないのなら、俺は璃都を閉じ込めて、どこへも行けなくするよ。一生傍に居て欲しい。俺には璃都が全てなんだ。死んでも放さないし、璃都の全てが俺のモノでないと嫌だ」 「・・・でも、じゃあ・・・なんで・・・」 なんで俺はカイの家族の事を知らないの? カイがそう思ってても、カイの家族は反対してるんじゃないの? 俺みたいな、親に捨てられた孤児なんて、ルプス家に相応しくないって思われてるんじゃないの? 「はぁ・・・璃都、なにか誤解してるみたいだけど、俺の家族は璃都の事を知ってるよ」 「・・・え?」 「そうか、人間の夫婦は結婚する時お互いの親に挨拶に行くんだっけ。ルプス家(うち)はその習慣ないから、俺も考えてなかったな・・・」 「・・・習慣が、ない?」 「そうだよ。まあ、あったとしても会わせなかっただろうね」 「・・・ど、どうして?」 「璃都が俺以外に(なつ)くなんて絶対に嫌だ」 家族に紹介してもらえないのって、俺がカイの家族に会って仲良くなるのが嫌だったから・・・? え、そんな理由、なの・・・。 「その、反対とかは、されてないの?」 「する訳ないよ。12年前から俺が璃都を探してたのも知ってるし、見つけてから囲い込むまでの準備も手伝ってもらったし」 「え、手伝ったの・・・?」 家族ぐるみで、俺を軟禁する準備をしてたのか・・・。 「また恐くなった?でも手遅れだからね。俺たち結婚してるんだから。璃都は俺から逃げられないよ」 「・・・なんかごめん。勝手に変な想像して、独りで落ち込んでた。オオカミ獣人の執着甘く見てた俺が愚かでした」 急に馬鹿らしく思えてきた。 ムダに思考回路酷使したな。 「因みに、兄姉(きょうだい)は5つ上の兄と2つ上の姉。どっちも番持ちだけど、用がない限り璃都に会わせるつもりはないよ」 「へー・・・」 「あ、どうでもよくなっちゃった?良かった。璃都は俺だけ見ていればいいからね」 「・・・お風呂入って寝る」 「身体冷えちゃってるからね。一緒にあったまろうか」 そのままカイに抱き上げられて、バスルームへと向かった。 ─────── 「リシドさんって、どんなヒト?」 「は?」 バスタブで、いつも通りカイを背もたれにして(くつろ)ぎながら、何気なく聞いてみただけなのに。 「璃都、俺以外の男に興味を持ったの?」 急にバスルームの気温が下がった気がする。 興味って・・・カイの従弟だって言うからどんなヒトか聞いてみただけなんだけど・・・。 「その言い方は語弊(ごへい)があるんだけど・・・従弟なんでしょ?仲いいの?」 「別に普通。璃都もあいつと仲良くする必要なんてないから」 「でも食事に誘われ・・・」 「璃都を喰っていいのは俺だけだから」 なんで俺が食卓に並ぶ事になってんの。 でも、これ以上は恐い事になりそうだから、やめとこ。 「わかった。社交辞令だったという事で、忘れる」 「そうして」 ふぅ────・・・。 あったかー・・・い・・・。 「・・・ちょっと」 「ん?なあに?」 「手」 「手?ああ、璃都の肌を楽しんでる俺の手が気になる?」 気にならない訳ないよね。 わかってるならやめてくれないかな。 「やめないよ」 「いや、やめてよ」 変態オオカミの猛攻をなんとか(かわ)しつつ、バスルームを出る。 ドライヤーをかけ終えたカイのオオカ耳をもふりながら、ふと思い出した。 おい邪魔するな、おいやめろ、と言う普段と違うカイの声を。 「カイって、俺と話してる時と、リシドさんに対する時と、印象違うよね」 「また他の男の名前を・・・」 従弟の名前を出しただけで機嫌を損ねるのなんでだよ。 「リシド(あいつ)と話す時は、シグマと話す時と変わらないよ。璃都には話し方も特別」 「ふぅん」 そう言えば、シグマに対してもちょっと冷たい感じに話してたな。 俺だけ、特別なんだ・・・。 キッチンに行き、冷蔵庫からミネラルウォーターを出す。 グラスを2つ出して、自分とカイの分を注いだ。 「璃都も俺に対して特別な話し方してくれてもいいよ?」 「なにそれ。どんな?」 「可愛く甘えた声で、語尾ににゃんて付けてみて?」 ・・・なんか言い出したぞ、変態オオカミが。 カイに渡そうとしたグラスを落としそうになったじゃないか。 「オオカミのくせに、にゃんがいいの?」 まあ言わないけど・・・と思ってるのに、また可哀想な子犬のフリをし始めるカイ。 俺がその折れ耳に弱いの知っててやってるだろ・・・。 「はぁー・・・にゃんで俺がこんな事、言わなきゃいけないにゃん・・・」 「可愛い・・・その調子でベッドでもネコちゃんのまま鳴いて?」 「嫌だにゃ」 変なプレイさせないでよ・・・。 ハロウィンの赤ずきんだって、凄い恥ずかしかったのに・・・。 「璃都は根が真面目過ぎて、やるってなったらちゃんとやるからいい子だよね」 「褒めてもなんも出ないにゃ。耳よこせにゃ」 「お好きにどうぞ」 飲み終わったグラスを置き、俺を抱き上げて歩き出すカイ。 俺は遠慮なくカイのオオカ耳をもふる。 「いつかもぎ取られそうだなあ」 「そしたらキーホルダーにして持ち歩くにゃ」 「ふふっ、大事にしてね。・・・あ、噛み付いたりしないでよ?」 ・・・なに? 噛み付くなって? 俺には散々噛み付いてくるくせに? 大事なオオカ耳には噛み付くな、と? ・・・そんな事を言われて、俺が大人しく従うとでも思ったか! 「・・・いつものお返しにゃあっ!」 がぶっ! びくっとカイが反応した。 ・・・よし、効いてる、効果覿面(てきめん)だ! あむあむ・・・食べ応えあるな。 (つい)に俺がハイイロオオカミに勝利し・・・。 「うにゃっ!?」 ベッドに勢いよく押し倒され、あむあむと齧り付いていたオオカ耳を取り上げられた。 え、そんな痛かった? 俺の方がいつももっと痛い・・・って、なんでそんな嬉しそうな顔して・・・? ・・・あれ、まさか・・・。 「イタズラネコちゃんには・・・躾が必要かなあ。たっぷり、時間をかけて、いい子になれるように、頑張ろうね?いっぱい鳴くといいよ」 「ごっ、ごめ・・・んあっ」 ああ、俺は失敗した・・・大失敗だ・・・。 せめて・・・明日が休みでなければ・・・まだ助かったかもしれないのに・・・。

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