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第22話
学校推薦型選抜の試験も無事に終わり、合否発表を待ちながら念の為一般試験に向けての勉強をしている11月下旬。
今日は学校帰りにシグマが迎えに来てくれて、カイの執務室に連れて来てもらった。
おやつを食べてから、いつも通り勉強をしていると、コンコンとノックの音が。
誰だろ、カイが居ない時に誰か来るのは初めてだ。
シグマがドアを開けて応対する。
「よ、シグマ」
「リシド様、申し訳ございません、カイザル様は会議中で・・・」
「知ってるよ。あっ!見ぃつけたっ!」
え、リシドさん?
このヒトが・・・?
灰褐色の髪に金の瞳、垂れ目気味でチャラそうな雰囲気の獣人だ。
「こんにちは璃都 ちゃん。この前電話で話したリシド・ルプスです」
「あっ、橘花 ・・・じゃなかった、璃都です。こんにちは」
もう橘花の姓じゃないんだった・・・。
未だ慣れない・・・。
「へぇ・・・すっごい美人さんだあ・・・カイザルがなかなか会わせてくれない訳だ」
美人て・・・そんな訳ないじゃん・・・。
「リシド様、怒られますよ」
「触ってないからセーフだって」
いつも落ち着いてるシグマが、明らかに狼狽えてる・・・珍しい・・・。
カイがリシドさんの事、他の男呼ばわりしてたから、従弟とは言え触ったらアウトなんだろうな。
もう絶対お仕置きは嫌だ・・・!
「何してたの?」
「あ、おやつ食べて、勉強を・・・」
「偉いねえ。有名な進学校の首席だってテオドア兄さんが言ってたけど、もしかして大学進学するの?」
テオドア兄さん?
「はぃ、一応そのつもりです・・・」
「そっかあ。カイザルが許してくれるといいけど・・・」
・・・え?
大学進学なら、いいよって言ってくれたけど?
「カイはいいって・・・言ってくれました」
「ええっ!?ほんとに?カイザルが?」
そ、そんなに驚く事?
もしかして、オオカミ獣人は番を監禁するのが当たり前とか?
「そーなんだー・・・俄 には信じがたいけど・・・あのカイザルも我慢できるようになったんだ、よかったね!」
我慢・・・あれで・・・?
「あの・・・カイの希望としては、やっぱり監禁なんですか?」
「当然そうすると思ってた。でも高校通わせてるって聞いて、マジかよって。璃都ちゃん気を付けなよ?誰かに触られたりしたら・・・」
「あ、その試練は経験済みです」
「あっはは!そっかあ・・・って、それでも外出許されてんの?カイザルすげえな・・・喰い殺しそうなもんなのに・・・」
物騒な単語聞こえた・・・。
まあ正直、何回か死ぬかもとは思ったけど・・・。
「リシド様、璃都様のお勉強の邪魔になりますし、そろそろカイザル様もお戻りになりますので・・・」
「どうせ来た事は匂いでバレるって。璃都ちゃんと一緒に待つよ。何の勉強してるの?」
あ、居座るつもりだ。
リシドさんが俺の向かいのソファに座った。
大丈夫かな・・・。
「学校推薦型選抜の試験は終わったんですけど、一応一般試験の勉強を」
「真面目だなあ。そう言えば大学どこ受けるの?」
「えと、国立の薬学部です」
「そっか・・・あいつ、それで製薬会社を・・・」
製薬会社・・・?
「あの、さっき言ってた、テオドアさんて、誰ですか?」
「え?璃都ちゃんのお義兄 さんだよ?カイザルの兄」
ああ、5つ上の兄がいるって言ってたな。
どうでも良くなって名前すら聞いてなかった・・・。
「あの、2つ上のお姉さんもいるって聞いたんですけど・・・」
「ヘラルダ姉さん?璃都ちゃんは会わない方がいいよ。お人形にされちゃう」
「お、お人形・・・?」
蝋人形にでもされるんだろうか・・・こわ・・・。
「お待たせ璃都・・・おい、何してるリシド」
勉強が殆ど進まない内に、カイが戻って来てしまった。
笑顔で部屋に入って来たのに、リシドさんを見るなりスンっと無表情に。
「カイザルお疲れ。璃都ちゃんと食事の約束してたからさ、迎えに来たよ。お前の事もちゃんと待ってたんだぜ?」
「そんな約束はしてない」
「したよー、ほら行こう。店予約しておいたからさ」
リシドさんに押し切られ、3人で食事する事になった。
しかも、リシドさんが呼んでおいてくれたリムジンで向かう・・・すっごい目立つ・・・。
着いたのは会員制のレストラン・・・俺、制服だけど大丈夫かな・・・。
個室に案内され、カイにエスコートされて席に着く。
リシドさんと話すカイは機嫌が悪いのか無表情で、受け答えも冷たい。
俺と居る時にはあんまり見せないけど、素なのかな。
「カイ」
「なあに、璃都」
「カイザル」
「煩い、璃都と話してる」
リシドさんも態度の違いが面白いのか、わざとカイにちょっかい出してるみたいだ。
正直、俺もちょっと面白いって思ってしまった。
「カイ、リシドさんに冷た過ぎない?」
「冷たくなんてないよ、ちゃんと返事してやってるし。そんな事より璃都、もう他の男の名前呼ばないで」
あ、本人の前で他の男呼ばわりした・・・。
「他の男って・・・あ、璃都ちゃん、僕の事さん付けしなくていいよ?敬語もいらないし、寧 ろあだ名で呼んで欲しい!」
「もう呼ばないから敬称の有無も関係ないし、あだ名も必要ない」
「ちょっとー、僕は璃都ちゃんと話してんだけど?」
「勝手に璃都をちゃん付けで呼ぶな」
カイは普通って言ってたけど・・・この2人、仲悪いのかな・・・。
リシドさんはカイの事、嫌ってる訳じゃなさそうだけど。
「あだ名・・・り・・・りし・・・りっくん?」
「あはは!シドじゃないんだ?いいよ、りっくんで」
え、そっか、シドの方が良かったのかな。
りっくんじゃ、子どもっぽい?
・・・まあ、本人は嫌そうじゃないし、りっくんでいいよね。
「だめだ璃都!俺以外の男の名前を呼ぶな!」
「もぉ、名前呼ぶくらいで我儘言わないの。狭量オオカミだなぁ」
カイ以外の男の名前がだめとなると、シグマも呼べなくなるじゃん。
生活に支障が出そうなので文句を言ったけど、カイはすっと表情を暗くして言った。
「璃都・・・俺に冷たくするとお仕置きだぞ」
「なっ・・・ご、ごめん、そんなつもりじゃ・・・」
狭量って言ったのが気に障ったのかな・・・。
お仕置きは回避したい・・・どうしたら機嫌をなおしてもらえるかな・・・。
「おいおい、璃都ちゃんを虐めるなよ。嫌われるぞ?」
「璃都を可愛がるのも虐めるのも泣かせるのも、俺だけだ。璃都は俺を嫌いになったりしない。そうだよね、璃都?」
「はぃ・・・」
その自信はどこから・・・。
圧に負けて思わず肯定しちゃったけど・・・。
「璃都ちゃんが優しい子で良かったな。可愛がる方向に重きを置けよ?」
「当然だ。璃都がいい子にしてたらな」
はいはい、いい子にしてますよ・・・。
それから、フレンチのフルコースを食べて、カイとりっくんはワイン飲んで、カイってお酒飲むんだって思って・・・。
「カイ、お酒強いの?」
「普通かな」
「こいつ酒弱いよ。僕は結構飲めるけどー」
「煩い」
え、弱いの?
・・・大丈夫かな、りっくんと同じペースで飲んでる気がするけど。
「璃都ちゃんも飲んでみる?」
「いや、俺は・・・」
「・・・りぃ、お酒飲みたい?おうち帰っていっしょに飲む?じゃあ帰ろっかぁ。おいで、りぃ」
「え、カイ?ちょ、ちょっと待って・・・っ?」
カイがオオカ耳をぴこぴこさせながら、俺を抱き上げてすりすりしてきた。
りぃって、俺の事?
まさか・・・カイ、酔ってる・・・?
「え、カイザル、璃都ちゃんがいるとそんななんのー?甘えちゃって・・・あ、ごめん璃都ちゃん、これだめかも。車呼ぶから連れて帰った方がいい。ここでヤり始める・・・シグマ、来てくれ」
「はい?なにを・・・んぅっ!?」
りっくんが見てる前でキスされた・・・。
やめろっ、ヒト前で舌を入れてくるのやめろぉっ!
「璃都ちゃん、車来てるから、うまくカイザル誘導して乗って!」
「んぇ・・・んんっ」
誘導ってどうやって?
口塞がれちゃってるんだけど?
「んっ、かぃ・・・ね、待って・・・んんっ、帰りゅ・・・んーっ」
「ん、帰るぅ?りぃ帰りたい?おうちのベッドがいいのぉ?」
「ん、ぅんっ、おぅち・・・んぅ・・・っ」
な、なんとか伝わったみたい・・・。
キスやめてくれないけど、迎えに来てくれたシグマにも誘導されてなんとか車に乗ってくれた。
「璃都ちゃんまたね。その・・・頑張って!」
なにを!?
手を振るりっくんに見送られながら、家路に着いた。
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