24 / 75
第24話
今日は学校推薦型選抜の合否発表日だ。
日曜なので、午前中は普通に勉強してたんだけど、お昼は緊張してカイの作ってくれたオムライスが喉を通らなかった。
「大丈夫だよ璃都 。合格してるから」
「何を根拠に・・・」
「学校の成績と生活態度と試験の自己採点結果」
「・・・・・・」
合格・・・してるといいけど・・・でも狭き門だし・・・。
もうすぐ大学のサイトに合否発表が掲示される。
カイがリビングにノートPCを持ってきてくれて、大学のサイトを開いて待機してるんだけど、落ち着かなくてソファに座ったり立ったり座ったり立ったりを繰り返してしまう。
「ほら、おいで璃都。抱っこしててあげる」
「うん」
いつもなら、こんな素直にカイの膝上に座ったりしないのに、思わず向かい合わせで座ってカイに抱き付いてしまった。
「よしよし、可愛い璃都は絶対合格だから大丈夫だよ」
「ぅぅー・・・」
俺が珍しく素直に甘えるので、カイは機嫌が良さそう。
甘やかしオオカミに頭や背中を撫でられてたら、少し落ち着いてきた。
13時・・・よし、時間になった・・・受験番号を確認して・・・サイトを・・・。
「璃都、目を瞑ってたら確認できないよ」
「ゎ・・・わかってる・・・」
覚悟を決めて目を開け、画面をスクロールしながら番号を確認する。
うわ、次の列だ・・・。
スクロールするの、恐い・・・。
「・・・カイ」
「ん?」
「・・・あった」
「でしょ」
あった。
俺の受験番号。
合格した。
「・・・ぅ・・・ぅえ・・・ひっく・・・ぅぅ・・・っ」
「おめでとう。よしよし、良く頑張りました」
「・・・ぁ、りが・・・と・・・っ」
カイに抱き付いて、嬉しくて、ほっとして、気が済むまで泣いた。
───────
「あの、ルプスです。はい、合格、しました」
学校に電話し、休日出勤していた戸次 先生に報告する。
先生が「おめでとう!」と言ったら電話の向こうから、わっと歓声と拍手が聞こえた。
他の先生たちも喜んでくれたみたいだ。
担任以外の先生たちにも色々お世話になったし、なにかお礼したいな。
『お前の事だから、これから期末考査の勉強しようとか思ってるだろうけど、今日くらいは楽しい事だけしてリフレッシュしろよ』
「あはは、バレました?カイ・・・夫にも言われて、これから出掛ける予定です。今日はもう勉強させてもらえないと思います・・・」
『そうか、しっかり甘えとけ。報告、ありがとな』
電話を切って、手を付けていなかったオムライスを食べ始める。
カイは大人しく、俺のイス役だ。
「んんーっ!んーひぃ!」
「良かった。食べたら遊びに行こうね」
「どこ行くの?」
「着いてからのお楽しみ」
オムライスを食べ終わって、ウォークインクローゼットで着替える。
お揃いのジーンズとお揃いの黒いダウンジャケット。
中に着るパーカーもお揃いなんだけど・・・。
カイのはマラカイトグリーン、俺のはオレンジ。
「俺のオレンジ・・・派手じゃない?」
「可愛いよ。璃都は明るい色も似合うね」
カイに手を引かれ家を出て、カマロに乗って30分くらい。
到着したのは・・・。
「ゆ・・・遊園地・・・だ・・・」
「璃都は絶叫系、得意?」
「遊園地・・・初めて・・・だからわかんない・・・」
いつか、行ってみたいと思ってた。
ジェットコースターとか、観覧車とか、乗ってみたいって。
「璃都、手袋して」
「うん・・・んぶっ!?」
渡された手袋をしようとしたら、頭からなにか被せられた。
「なに?」
「ネックウォーマー」
グレーの手袋とネックウォーマーも、カイとお揃いだ。
・・・これ、あったかいな。
「じゃ、どれから乗る?」
「ジェットコースターっ!」
「ふふっ、了解」
カイに手を引かれ、念願のジェットコースターに乗る。
空に向かってレールを登り、視界からレールがなくなった瞬間に急降下。
体感した事のない浮遊感や遠心力。
凄い恐い・・・けど楽しい!
叫びながら、笑いが止まらなくなってしまった。
「璃都、大丈夫そ?」
「うんっ!楽しいっ!次あっちのジェットコースター乗るっ!」
今度は俺がカイの手を引っ張って、次のジェットコースターへ。
この遊園地にはジェットコースターが3種類あるらしい。
3つとも乗って、次はバイキング、空中ブランコ、メリーゴーランド、ゴーカート、コーヒーカップ・・・。
「璃都、そろそろラストだよ。飲み物買って観覧車乗ろう」
「うん!」
カイはコーヒー、俺ははしゃぎ過ぎて暑かったからジンジャエールを買ってもらい、観覧車へ。
え、ゆっくりだけど、動いたままのゴンドラに乗り込むの?
「カイ・・・」
「ほら、おいで」
カイに肩を抱かれ、一緒に乗り込む。
・・・ちょっと緊張した。
「初めての遊園地、どうだった?」
「楽しかった!カイ、ありがとっ!」
「ふふっ、璃都が喜んでくれて俺も嬉しいよ」
ジンジャエールをごくごく飲みながら、カイを引っ張り回していた事を思い出す。
カイは、絶叫系とか、大丈夫だったのかな・・・。
「カイ、俺はしゃぎ過ぎちゃって、大丈夫だった?疲れてない?」
「大丈夫だよ。璃都こそ、はしゃぎ過ぎて疲れたなら、おんぶして帰ってあげるよ?」
「カイって、ほんとに弱点ないんだね・・・」
すっかり暗くなって、ライトアップされた景色を眺める。
結構遠くまで見えるんだな。
「もうすぐ頂辺 だね。璃都、こっちおいで」
カイが膝をぽんぽんと叩く。
そっち行ったら、ゴンドラ傾かない?
立ち上がって恐るおそるカイの方に行くと、抱き寄せられてカイの膝を跨ぎ、向かい合わせで座らされた。
「なに?」
「キスしよう」
「・・・いいよ」
ずっと行ってみたかった遊園地に連れて来てもらって、乗りたかったジェットコースターや観覧車にも乗れて、楽しかったから。
俺から、カイにキスをした。
ぎゅうって強く抱きしめられて、何度も唇を重ねて、息が苦しくなってもやめないで・・・。
「・・・ん、そろそろ下に着くな」
「ふぁ・・・もぉ・・・?」
観覧車は、降りる時ももちろん動いていたので、カイにくっついて転びそうになりながら降りた。
そのまま遊園地を出て、帰るのかと思ったら高級料亭に行って懐石料理を食べる事に。
「いつの間に予約なんてしたの?」
「1ヶ月くらい前かな」
「俺が合格してなかったらキャンセルするとこだったじゃん・・・」
「璃都は絶対合格するって思ってたから」
自信満々の笑顔・・・なんで本人よりカイの方が自信持ってたんだろ・・・。
懐石料理も初めてだったけど、豪華で美味しくて。
今日はほんとにいい日だな・・・。
家には22時頃に着いた。
明日は学校だし、遊園地ではしゃぎ過ぎたし、今日はもうお風呂入って寝ようってなって・・・。
「ねえ璃都、今日はいいけど、学校の前日は1回までって制限、撤廃 しない?」
いつも通り洗いっこしてからお湯に浸かったら、カイが唐突に提言してきた。
学校前日はエッチ1回まで・・・って俺から頼み込んでなんとか認めてもらった、俺が身を守るための制度なんだけど・・・。
そもそも、1回なのはカイだけで俺自身は何回もイかされてるし。
寧 ろ2日に・・・いや、3日に1回とかでもいいんじゃないかな。
「・・・なんで」
「1回じゃ璃都を喰い足りない。せめて2回にして」
「・・・その代わり頻度を低くしてもらえますか?」
「無理」
即答すんなよ。
でも、完全撤廃されちゃうと、今の頻度で回数無制限なんて最悪の事態に陥 る可能性もあるし・・・。
「・・・じゃあ、これから出す問題に正解したら、2回までに改訂しましょう。不正解だった場合は頻度を低くしてもらいます」
「ふうん・・・いいよ、受けて立つ」
よし、食い付いた。
悪いけどこの勝負、勝たせてもらう・・・!
「では問題です。今日は嬉しい事がいっっっぱいありました。さて、俺はどれが一番嬉しかったでしょーか?」
志望大学合格、初めての遊園地、ジェットコースター、観覧車、懐石料理・・・。
嬉しい事だらけの今日、俺が一番嬉しかった事。
それは・・・。
「オムライス」
「ふぇっ!?」
まさかの即答・・・。
なんで・・・。
「正解、でしょ?」
「な・・・んで・・・」
合否発表の前は喉を通らず、合格と知ってから安心して食べた、カイが作ってくれたオムライス。
どうして、わかったんだ・・・。
「理由、教えて」
そんなの知ってそうな顔してる癖に、理由を言えだなんて。
勝ち確だと思って出題した結果が、これか・・・。
「・・・凄く、緊張してて・・・苦しい時に・・・カイが・・・俺のために、作ってくれた・・・大好きなオムライス・・・だった、から」
「喜んでくれて良かった」
・・・恥ずか死ぬっ!!
そんな、愛おしそうに俺を見るなっ!!
最悪だっ!!
「璃都、顔真っ赤。逆上 せちゃいそうだから、出ようか」
「・・・ぅん」
「今日から2回にするね」
「えっ?だって、今日はしないって・・・」
「ごめん、璃都が可愛過ぎて我慢できない。抵抗しない方が身のためだよ」
優しげな笑顔なのに、目が笑ってないオオカミ。
恐い・・・。
明日・・・学校行けるかな・・・。
ともだちにシェアしよう!

