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第25話
「やっと、終わったぁ・・・」
大学受験が早々にひと段落したのをいい事に、執拗さが増したお邪魔虫オオカミ。
その猛攻に耐えながら勉強し、今日が2学期期末考査最終日。
カイのせいで大変だったけど、昨日までの自己採点は全て90点以上だったし、今日の分も良く出来たと思う。
本当に・・・俺、良く頑張った・・・。
「あ、ルプスくん、お迎え来てるよー」
「・・・あぁ、ありがと」
カイの送り迎えは、既にこの学校の日常と化している。
俺も、一々恥ずかしがる事もなくなった。
「・・・あれ?」
今日は用事があるとかで、迎えはシグマだけのはずなんだけど、車の前にもう1人立ってる。
あ・・・あれは・・・。
「璃都 ちゃーん!お迎えに来たよー!」
「りっくん、なんで・・・?」
カイが酔っ払った日以来会ってなかったけど、まさか迎えに来るなんて。
カイは知ってるのかな・・・。
「期末考査お疲れ様。それと、大学合格おめでとう!明日からの土日は予定ないでしょ?一緒に温泉に行こう!」
「ありがと・・・って、温泉?いきなり過ぎ!」
確かに、俺自身には予定はないけど、そもそも俺の予定はカイ次第なので、カイに聞かなきゃわからないし。
「カイは知ってるの?」
「もちろん、カイザルも一緒に行くよ」
「いや、そっちじゃなくて・・・」
迎えに来る事は知ってるのかって事なんだけど。
「璃都様、カイザル様はリシド様がお迎えに来られる事を一応ご存じです。一応・・・」
「一応・・・」
きっと納得はしてないんだな。
「ほらほら乗って!僕が乗せてあげてもいいけど・・・触ったら僕も璃都ちゃんもカイザルに怒られちゃうから」
「じ、自分で乗ります・・・」
お仕置きは嫌だ。
車はオフィス街ではなく、家に向かった。
あれ、カイを迎えに行かなくていいのかな。
「お帰り、璃都」
「カイ?先に帰ってたの?」
家に着いたらカイが出迎えてくれた。
スーツでなく、普段着だ。
「ほら、入って。着替えておいで。荷物は積んでおくから」
「にもつ?」
どうやら、先に帰宅したカイは荷造りをしていたらしい。
俺の頭を撫で、唇にちゅっとキスをしてから、ブランドロゴ柄の中型ボストンバッグを持ってガレージのSUVへ積みに行った。
え、今から行くの?
とりあえず、言われた通り2階のウォークインクローゼットで着替える。
制服をかけ、ワイシャツはランドリーバスケットへ。
ランドリーバスケットに入れた服は、未だ会った事のないハウスキーパーさんが、俺たちが不在の間に洗濯をしてくれてる。
因みに、スーツや制服も定期的にクリーニングしてくれてるみたい。
いつかちゃんと、お世話になってるお礼を言いたいけど・・・。
「璃都、このコート着て」
「あ、うん」
いつの間に上がって来たのか、カイが新しいコートを渡してきた。
ファー付きのモッズコートだ。
「・・・俺の、ピンクなの?」
「スモーキーピンクだよ。俺とお揃い」
「カイのはカーキじゃんっ」
カイと色違いのコートを着て、玄関を出る。
送り迎えの車はもう居なくて、代わりに初見のSUV・・・あのエンブレムはベンツかな・・・。
「あ、璃都ちゃん、紹介するね。僕の番で嫁の玲 央 」
ベンツの運転席から降りて来たのは、ちょっと恐そうなお兄さん。
黒髪だけど、ピアスをいっぱいしてる・・・。
「どうも、玲央です。シドが迷惑かけてすみません」
「え、あ、いえ・・・璃都です、よろしくお願いします」
この人が、りっくんの番・・・で、嫁・・・。
りっくんも結婚してるんだ。
話すと落ち着いていて、恐い人ではないのかもしれない。
「ちょっと、僕迷惑なんてかけてないよー」
「お前は存在が迷惑だろ。カイザルさんの番を迎えに行くとか、何考えてんだよ」
「だって、璃都ちゃんをびっくりさせたくて」
りっくんの番、玲央さんは男前な人だな・・・。
オオカミ獣人相手にあんなはっきり言うなんて。
俺なんて、後でお仕置きとかされんの恐くてあんまり強く言えないのに・・・。
「黙れ。いいから車乗ってろ。カイザルさんも、すみません」
「いや、リシドが迷惑なのは今に始まった事じゃない。玲央くんも苦労するな」
カイ、玲央さんにはちょっと好意的に見える。
口調も少し穏やかだ。
「璃都、おいで」
「・・・あ、ぅん」
俺はカイの運転で、りっくんは玲央さんの運転で現地に向かうらしい。
カイは玲央さんと、仲いいのかな。
付き合い長い、のかな。
玲央さんて、いくつなんだろ。
カイとも歳近そうだな・・・。
「・・・んぅっ!?」
俺のシートベルトをしながら、いきなりキスしてきたカイ。
玲央さんの事考えてたから不意打ちくらった・・・。
「ぼーっとしないで璃都。期末考査が終わったんだから、俺だけ見て俺の事だけ考えてよ」
「・・・はいはい」
───────
「おお・・・凄い・・・」
玲央さんが運転する車を追走し、高速も使って1時間半程。
高級旅館に到着した。
りっくんだけが車を降りて旅館に入って行き、少しして出て来たと思ったらまた車に乗った。
あれ、間違えたのかな・・・?
「チェックインだけ済ませて来たんだよ。俺たちは離れに泊まるから、もう少し先まで行くよ」
「へー・・・」
高級旅館の離れ・・・どんなだろ・・・。
竹林に挟まれた道を少し進むと、さっき寄った本館よりモダンな造りの離れに到着した。
車を停め、4人で中に入る。
「すご・・・」
入って左に広い和室、右には綺麗な日本庭園を臨 むテラス、奥にツインの寝室が2部屋、パウダールームと内風呂があって・・・。
「露天風呂だぁ・・・!」
竹林に囲まれた、源泉掛け流しの岩風呂。
・・・あ、俺、温泉も露天風呂も、初めてだ。
「璃都ちゃん気に入った?」
「うん、凄いね!」
「璃都、おいで。コート脱いで。玲央くんがお茶淹れてくれるから、座ろう」
「うん!」
カイは寝室に荷物置いて、玲央さんはお茶の用意してくれてる。
俺、なんにもしないではしゃいで・・・恥ず・・・。
「あの、玲央さん、俺も手伝います」
「いえ、大丈夫。璃都くんは座ってていいですよ。おいシド、遊んでないで手伝え」
「はぁい」
な、なんか、すみません・・・。
りっくんが手伝うみたいだから、俺は大人しくカイの隣の座椅子に座った。
「お風呂見て来たの?」
「うん。俺ね、温泉とか露天風呂とか、初めて。入るの楽しみ」
「ふふ。璃都が楽しそうで俺も嬉しいよ。玲央くんとは、仲良くなれそう?」
・・・え、仲良くしていいの?
りっくんの番とは言え、従弟の事すら「他の男」呼ばわりする嫉妬オオカミが、玲央さんと仲良くしていいって?
「カイは、玲央さんと仲良いの?」
「普通だよ。リシドと違って彼は常識人だし、玲央くんとなら、俺の璃都が仲良くしても許せるかな」
「ふーん・・・」
同じオオカミ獣人の番と言う立場もあるし、玲央さんと色々話してみたいな。
でも、りっくんは俺が玲央さんと仲良くするの、嫌じゃないのかな。
「はいお茶。あと茶菓子ね」
玲央さんの淹れてくれたお茶をりっくんが運んで来てくれた。
本人に聞いてみよう。
「ありがと。・・・あの、りっくん、俺が玲央さんと話したりするの、嫌じゃない?」
「なんで?璃都ちゃんと玲央が仲良くなってくれるといいなと思って、4人で旅行に来たんだよ?」
あ、そうなんだ。
りっくんは執着しないタイプのオオカミなのかな。
「璃都が俺以外に仲良くしていいのは、玲央くんだけだからね」
「玲央も俺以外に親しくさせられるの、璃都ちゃんだけだからさ」
・・・あ、成程。
オオカミ獣人の番同士なら、仲良くしても良し、と。
りっくんも、執着してない訳じゃないんだ・・・。
「玲央も璃都ちゃんに会うの楽しみにしてたんだよねー?」
「ああ。同じ立場の人間同士、悩みとか愚痴とか・・・愚痴とか話せたらって」
愚痴大会か。
俺も愚痴りたい事いっぱいあるよ。
「玲央さん・・・よろしくお願いしますっ!仲良くしましょうっ!」
「こっちこそよろしく。あと、敬語やめよう?普通に玲央って呼んでくれていいし」
「うん。よろしくね、玲央!」
お着き菓子とお茶で一息つきながら、りっくんと玲央の事を色々聞いた。
りっくんはカイと同じ28歳で、りっくん曰 くルプス家ではカイと一番の仲良し。
玲央は25歳、俺が行く大学のOBだった。
法学部に通ってた時、玲央と逢って今に至る、と。
りっくんが、15歳のカイが大荒れしてた時の話をしようとしたけど、カイに止められて温泉に入る事にした。
ちょっと聞きたかったのに・・・。
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