25 / 75

第25話

「やっと、終わったぁ・・・」 大学受験が早々にひと段落したのをいい事に、執拗さが増したお邪魔虫オオカミ。 その猛攻に耐えながら勉強し、今日が2学期期末考査最終日。 カイのせいで大変だったけど、昨日までの自己採点は全て90点以上だったし、今日の分も良く出来たと思う。 本当に・・・俺、良く頑張った・・・。 「あ、ルプスくん、お迎え来てるよー」 「・・・あぁ、ありがと」 カイの送り迎えは、既にこの学校の日常と化している。 俺も、一々恥ずかしがる事もなくなった。 「・・・あれ?」 今日は用事があるとかで、迎えはシグマだけのはずなんだけど、車の前にもう1人立ってる。 あ・・・あれは・・・。 「璃都(りと)ちゃーん!お迎えに来たよー!」 「りっくん、なんで・・・?」 カイが酔っ払った日以来会ってなかったけど、まさか迎えに来るなんて。 カイは知ってるのかな・・・。 「期末考査お疲れ様。それと、大学合格おめでとう!明日からの土日は予定ないでしょ?一緒に温泉に行こう!」 「ありがと・・・って、温泉?いきなり過ぎ!」 確かに、俺自身には予定はないけど、そもそも俺の予定はカイ次第なので、カイに聞かなきゃわからないし。 「カイは知ってるの?」 「もちろん、カイザルも一緒に行くよ」 「いや、そっちじゃなくて・・・」 迎えに来る事は知ってるのかって事なんだけど。 「璃都様、カイザル様はリシド様がお迎えに来られる事を一応ご存じです。一応・・・」 「一応・・・」 きっと納得はしてないんだな。 「ほらほら乗って!僕が乗せてあげてもいいけど・・・触ったら僕も璃都ちゃんもカイザルに怒られちゃうから」 「じ、自分で乗ります・・・」 お仕置きは嫌だ。 車はオフィス街ではなく、家に向かった。 あれ、カイを迎えに行かなくていいのかな。 「お帰り、璃都」 「カイ?先に帰ってたの?」 家に着いたらカイが出迎えてくれた。 スーツでなく、普段着だ。 「ほら、入って。着替えておいで。荷物は積んでおくから」 「にもつ?」 どうやら、先に帰宅したカイは荷造りをしていたらしい。 俺の頭を撫で、唇にちゅっとキスをしてから、ブランドロゴ柄の中型ボストンバッグを持ってガレージのSUVへ積みに行った。 え、今から行くの? とりあえず、言われた通り2階のウォークインクローゼットで着替える。 制服をかけ、ワイシャツはランドリーバスケットへ。 ランドリーバスケットに入れた服は、未だ会った事のないハウスキーパーさんが、俺たちが不在の間に洗濯をしてくれてる。 因みに、スーツや制服も定期的にクリーニングしてくれてるみたい。 いつかちゃんと、お世話になってるお礼を言いたいけど・・・。 「璃都、このコート着て」 「あ、うん」 いつの間に上がって来たのか、カイが新しいコートを渡してきた。 ファー付きのモッズコートだ。 「・・・俺の、ピンクなの?」 「スモーキーピンクだよ。俺とお揃い」 「カイのはカーキじゃんっ」 カイと色違いのコートを着て、玄関を出る。 送り迎えの車はもう居なくて、代わりに初見のSUV・・・あのエンブレムはベンツかな・・・。 「あ、璃都ちゃん、紹介するね。僕の番で嫁の()()」 ベンツの運転席から降りて来たのは、ちょっと恐そうなお兄さん。 黒髪だけど、ピアスをいっぱいしてる・・・。 「どうも、玲央です。シドが迷惑かけてすみません」 「え、あ、いえ・・・璃都です、よろしくお願いします」 この人が、りっくんの番・・・で、嫁・・・。 りっくんも結婚してるんだ。 話すと落ち着いていて、恐い人ではないのかもしれない。 「ちょっと、僕迷惑なんてかけてないよー」 「お前は存在が迷惑だろ。カイザルさんの番を迎えに行くとか、何考えてんだよ」 「だって、璃都ちゃんをびっくりさせたくて」 りっくんの番、玲央さんは男前な人だな・・・。 オオカミ獣人相手にあんなはっきり言うなんて。 俺なんて、後でお仕置きとかされんの恐くてあんまり強く言えないのに・・・。 「黙れ。いいから車乗ってろ。カイザルさんも、すみません」 「いや、リシドが迷惑なのは今に始まった事じゃない。玲央くんも苦労するな」 カイ、玲央さんにはちょっと好意的に見える。 口調も少し穏やかだ。 「璃都、おいで」 「・・・あ、ぅん」 俺はカイの運転で、りっくんは玲央さんの運転で現地に向かうらしい。 カイは玲央さんと、仲いいのかな。 付き合い長い、のかな。 玲央さんて、いくつなんだろ。 カイとも歳近そうだな・・・。 「・・・んぅっ!?」 俺のシートベルトをしながら、いきなりキスしてきたカイ。 玲央さんの事考えてたから不意打ちくらった・・・。 「ぼーっとしないで璃都。期末考査が終わったんだから、俺だけ見て俺の事だけ考えてよ」 「・・・はいはい」 ─────── 「おお・・・凄い・・・」 玲央さんが運転する車を追走し、高速も使って1時間半程。 高級旅館に到着した。 りっくんだけが車を降りて旅館に入って行き、少しして出て来たと思ったらまた車に乗った。 あれ、間違えたのかな・・・? 「チェックインだけ済ませて来たんだよ。俺たちは離れに泊まるから、もう少し先まで行くよ」 「へー・・・」 高級旅館の離れ・・・どんなだろ・・・。 竹林に挟まれた道を少し進むと、さっき寄った本館よりモダンな造りの離れに到着した。 車を停め、4人で中に入る。 「すご・・・」 入って左に広い和室、右には綺麗な日本庭園を(のぞ)むテラス、奥にツインの寝室が2部屋、パウダールームと内風呂があって・・・。 「露天風呂だぁ・・・!」 竹林に囲まれた、源泉掛け流しの岩風呂。 ・・・あ、俺、温泉も露天風呂も、初めてだ。 「璃都ちゃん気に入った?」 「うん、凄いね!」 「璃都、おいで。コート脱いで。玲央くんがお茶淹れてくれるから、座ろう」 「うん!」 カイは寝室に荷物置いて、玲央さんはお茶の用意してくれてる。 俺、なんにもしないではしゃいで・・・恥ず・・・。 「あの、玲央さん、俺も手伝います」 「いえ、大丈夫。璃都くんは座ってていいですよ。おいシド、遊んでないで手伝え」 「はぁい」 な、なんか、すみません・・・。 りっくんが手伝うみたいだから、俺は大人しくカイの隣の座椅子に座った。 「お風呂見て来たの?」 「うん。俺ね、温泉とか露天風呂とか、初めて。入るの楽しみ」 「ふふ。璃都が楽しそうで俺も嬉しいよ。玲央くんとは、仲良くなれそう?」 ・・・え、仲良くしていいの? りっくんの番とは言え、従弟の事すら「他の男」呼ばわりする嫉妬オオカミが、玲央さんと仲良くしていいって? 「カイは、玲央さんと仲良いの?」 「普通だよ。リシドと違って彼は常識人だし、玲央くんとなら、俺の璃都が仲良くしても許せるかな」 「ふーん・・・」 同じオオカミ獣人の番と言う立場もあるし、玲央さんと色々話してみたいな。 でも、りっくんは俺が玲央さんと仲良くするの、嫌じゃないのかな。 「はいお茶。あと茶菓子ね」 玲央さんの淹れてくれたお茶をりっくんが運んで来てくれた。 本人に聞いてみよう。 「ありがと。・・・あの、りっくん、俺が玲央さんと話したりするの、嫌じゃない?」 「なんで?璃都ちゃんと玲央が仲良くなってくれるといいなと思って、4人で旅行に来たんだよ?」 あ、そうなんだ。 りっくんは執着しないタイプのオオカミなのかな。 「璃都が俺以外に仲良くしていいのは、玲央くんだけだからね」 「玲央も俺以外に親しくさせられるの、璃都ちゃんだけだからさ」 ・・・あ、成程。 オオカミ獣人の番同士なら、仲良くしても良し、と。 りっくんも、執着してない訳じゃないんだ・・・。 「玲央も璃都ちゃんに会うの楽しみにしてたんだよねー?」 「ああ。同じ立場の人間同士、悩みとか愚痴とか・・・愚痴とか話せたらって」 愚痴大会か。 俺も愚痴りたい事いっぱいあるよ。 「玲央さん・・・よろしくお願いしますっ!仲良くしましょうっ!」 「こっちこそよろしく。あと、敬語やめよう?普通に玲央って呼んでくれていいし」 「うん。よろしくね、玲央!」 お着き菓子とお茶で一息つきながら、りっくんと玲央の事を色々聞いた。 りっくんはカイと同じ28歳で、りっくん(いわ)くルプス家ではカイと一番の仲良し。 玲央は25歳、俺が行く大学のOBだった。 法学部に通ってた時、玲央と逢って今に至る、と。 りっくんが、15歳のカイが大荒れしてた時の話をしようとしたけど、カイに止められて温泉に入る事にした。 ちょっと聞きたかったのに・・・。

ともだちにシェアしよう!