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第27話
目が覚めたら7時を過ぎてた。
隣のベッドに寝かせたはずのカイが、俺のベッドで俺を抱きしめて寝てる事には今更驚いたりしない。
「カイぃ・・・起きてぇ・・・」
「んー・・・起きてるよ・・・」
起きたなら腕をどけてよ。
俺が起き上がれないじゃん。
「温泉入るぅ、放してぇ」
「あー・・・朝風呂しようって言ってたね・・・」
やっと起き上がった寝ぼけオオカミ。
俺を抱きしめたままなので、自動的に俺も起き上がる事が出来た。
ベッドから出ても俺を後ろからだきしめたままのカイを連れ、脱衣所へ。
脱衣所に入るとりっくんと玲央 が居て、浴衣を脱いでいた。
「おはよぉ」
「おはよー璃都 ちゃん、くっつきカイザル虫」
「おはよう璃都・・・その、大丈夫か?」
「ん?なにが?」
玲央が自分の首元をとんとんと指差した。
え、なに?
首になんかある?
「・・・はあ!?」
浴衣を脱ぐのでカイが離れ、俺も脱ぎながら鏡を見たら、愕然とした。
真新しい、噛み痕とキスマーク。
え、なんで、どうして・・・?
カイは先に寝かしつけたのに・・・。
「璃都ちゃん、寝てる間にめちゃくちゃマーキングされてるー」
人が寝てる間に・・・こんな・・・。
しかも、首だけじゃない、鎖骨も、胸も、お腹も・・・え、待って、どこまで・・・。
「・・・っ、カイ!変態オオカミっ!なんで大人しく寝てられないんだよっ!」
「璃都が同じベッドに入って来ないのが悪い。俺が悲しむってわかってて意地悪したんでしょ」
「意地悪って・・・ベッド2つあるんだから、同じベッドで寝なくても・・・」
「あー璃都ちゃん、それはカイザルが可哀想だよ。番が別のベッドで寝るなんて、結構傷付くよ?」
「・・・え?」
そ、そうなの?
でも、だって、同じ寝室で、隣のベッドだし・・・。
「うーん・・・さすがにカイザルさんが可哀想かな・・・マーキングだけなら、カイザルさんがかなり我慢してくれたんだと思うし・・・」
「え・・・」
そんな・・・玲央は、仲間だと・・・俺の味方してくれると思ったのに・・・。
え・・・俺が悪いの・・・かな・・・。
また・・・カイの事・・・傷付けた・・・のか・・・。
「・・・その・・・カイ、ごめん・・・」
「いいよ。二度と別のベッドで寝たりしないでね。お家 から出してあげられなくなるから」
「き、肝に銘じます・・・」
カイは笑顔だったけど、やっぱり目が笑ってなかった。
気を取り直して朝の露天風呂へ。
冷たく澄んだ空気と、温かい温泉・・・とてもいい・・・けど・・・。
「ぅぅ・・・滲 みる・・・っ」
「大丈夫か?結構ヤられたみたいだな・・・」
玲央が憐 れんで声をかけてくれた。
噛んだオオカミは澄ました顔で、俺を膝上に座らせてる。
「うん・・・俺、こんなに噛まれてて、よく起きなかったなって・・・」
「確かにな・・・」
「可愛い声は出てたよ」
「カイ黙ろうか」
露天風呂から出て服を着て、和室に行ったら朝食が用意されてた。
食べながら、今日の予定を聞く。
「車で少し行ったとこで、クリスマスマーケットやってるんだ。運転手はジャンケンで決めよー」
俺だけ運転出来ない・・・免許取ろうかな・・・。
ジャンケンで負けたのは、言い出しっぺのりっくん。
助手席に玲央、俺とカイは2列目シートに座り目的地へ向かった。
───────
「おお・・・人いっぱい・・・」
クリスマスマーケットに到着。
雑貨や食べ物を売ってる店がずらっと並んでいる。
「璃都、手を放さないでね。欲しい物を見つけたら言うんだよ?」
「おっ、グリューワイン飲みたーい」
「待てシド、帰りの運転どうすんだよ」
「カイザルとジャンケンしてよー」
「玲央くん、帰りは俺が運転するから、そいつの面倒を頼む」
りっくんと玲央は飲み物売ってるお店に行った。
俺はカイと手を繋いで、手前の店から覗いて行く。
白や銀、金や赤のボールや星・・・あ、ツリーのオーナメントか。
いろんな種類があるんだな・・・どれも綺麗・・・。
でも、うちにツリーなんて・・・。
「帰ったらツリーに飾り付けるから、好きなオーナメント選んで」
「え?ツリーあるの?」
「今日、搬入されるはずだよ」
搬入・・・?
シグマにでも頼んだのかな。
「んー・・・赤と金のやつがいいかな・・・これとかは?」
ピカピカの、赤と金のボールが何種類かセットになってる。
あと、頂辺 に付ける星も選ばなきゃ・・・。
「璃都、これだけじゃ足りないよ?」
「え?足りない?・・・ツリーの大きさって、どれくらいなの?」
「240cm」
「でっ・・・か」
・・・頂辺 に星、付けたかったのに、届かないじゃん。
これだ、と思った星型オーナメントを手に取っていたけど、諦めようか悩んでしまう。
「それ、気に入った?」
「うーん・・・でも、240cmじゃ届かないし、星ももぉちょっと大きい方がいいかな・・・カイが付けてくれる?」
「俺が抱っこしてあげるから、璃都が付けていいよ」
抱っこ・・・は若干屈辱だけど、自分で付けたい。
じゃあ・・・これがいいな。
「星はこれがいい。あとは・・・他のお店も見ていい?」
「もちろん」
いくつかの店をハシゴして、赤と金のピカピカ、キラキラ、柄付きのボール型と、白い雪の結晶型なんかをそれぞれ何種類か買ってもらった。
「買い過ぎちゃった?」
「いや、これくらいあった方がいいよ。あそこにリシドたちが居るから、俺たちも何か飲もうか」
飲食スペースで、りっくんと玲央が座って手を振ってる。
俺も手を振り返して、カイと向かった。
2人はフルーツの入ったホットワインを飲みながら、ちゃっかりソーセージの盛り合わせとか食べてる。
カイが持ってた戦利品を玲央に託して、俺たちも隣の店でホットチョコを2つ購入した。
たっぷりの生クリームと、マシュマロの雪だるまが乗ってる。
「ふー、ふー・・・んっ」
「璃都、火傷しないようにね」
「んーっ、んふー・・・」
美味しい・・・すっごく・・・美味しい・・・っ!
「ふふ、本当に可愛いな。ほら、クリーム付いてるよ」
「んぅっ!?」
口元に付いた生クリームを当たり前のように舐めとるなっ!
人がいっぱいいるのに!
「あー、僕もあれやりたーい」
「グリューワインにクリームは乗ってねぇよ」
りっくんが、カイの真似をしたいと言い出した。
なんか、不本意ながら俺たちばっかいちゃいちゃしてる。
りっくんと玲央がいちゃいちゃすんの見て、俺も揶揄 いたい。
玲央にもこの居た堪れない気持ちを味わって欲しい。
「はい、玲央も一口飲んで。ぜひっ!」
「璃都・・・嫌がらせか?」
「ほら玲央、璃都ちゃんの厚意を無下にしないで。カイザルに怒られるよ?」
渋々といった感じに、最新の注意を払いながらホットチョコを飲む玲央。
ふふ、どんなに頑張っても絶対にクリームが付く仕組みになってるんだよ、それ。
「ん、あま・・・んんっ!?」
ほらね。
りっくんが嬉々として玲央の口に喰い付いた。
割とクールな玲央が耳まで赤くなってる。
「あれぇ、玲央ってば酔っちゃったぁ?耳まで赤いよぉ?」
「・・・覚えとけよ璃都」
またチャンスあったらけしかけよう。
「璃都、マシュマロ食べる?」
「食べるっ」
自分の分の雪だるまマシュマロはもう食べちゃってる。
だからカイの分ももらえると思って、カイの方に向き直ったんだけど、むにっと唇にマシュマロを押し付けられた。
反射的にぱくっと咥えたんだけど、それがまさかの口移しで・・・。
「んむーっ!?」
「璃都って、なんかチョロいよな・・・」
「ガードゆるゆるだよねー。カイザルがマーキング激しくするの、気持ちわかるなー」
なんか、玲央とりっくんに馬鹿にされてる。
チョロいとかゆるゆるとか、失礼な。
「ちょろ璃都・・・略してちょりとだな」
「いーね、ちょりと。僕もちょりとって呼ぼ」
「やめてよ!」
「おいで、ちょりと」
「カイまで!?」
こんな感じで、俺の不名誉なあだ名が定着した。
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