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第29話
朝食前、俺は上機嫌のカイと一緒に朝風呂に入っていた。
昨夜 は本当に酷い目に遭ったな・・・。
1回で済んだとは言え、アレはないよ・・・。
「おっはよー。2人とも早いねー」
りっくんが入って来た。
玲央 も後から付いて来たけど、あれ、なんか元気ない・・・?
「・・・おはよ、玲央・・・大丈夫?」
「・・・そっちこそ・・・痕、増えてるぞ」
玲央も痕だらけじゃん。
初日に言っていた「旅館 ではセックスしない約束」ってのはなんだったんだ・・・。
「カイザル、機嫌いーじゃん」
「まあな」
「ちょりと、トイレ・・・行かせてもらえたのか?」
「聞かないで・・・忘れたい・・・」
番を膝上に座らせて機嫌のいいオオカミ獣人2人と、番の膝上に座らされ深いため息をつく人間2人。
なんだこの状況・・・。
「それで、昨夜の喧嘩の原因はなんだったの?」
「喧嘩じゃない。璃都が、俺と玲央くんの仲に嫉妬したんだ」
「してないっ!」
もやっとしてただけで、別に嫉妬なんかじゃないっ!
「あのな、ちょりと、ハイイロオオカミ獣人の番が、嫉妬なんてするだけ無駄だぞ。番以外に気をやってくれる事なんてないんだから。なんなら浮気してくれた方が番 の負担が減って楽に・・・」
「れぇーおぉー?浮気なんて許さないよぉー」
「俺がするって話じゃないだろ」
昨夜、寝る前にカイから聞いた。
玲央とは6年前、りっくんと結婚した時に紹介されたんだって。
りっくんは、カイが俺の事ずっと探してるのも、俺に恐がられるのを危惧してるのも知ってて、番の不安を和らげるためにもお互いの番同士は交流させようって約束したらしい。
玲央も了承してくれて、なんなら俺を囲い込む手伝いもしてたって・・・。
玲央・・・お前も加担してたのか・・・。
「かわい子ちゃんたちお疲れだねー。今日は帰る前に人気のオルゴール館行こうと思ってたけど、どうする?」
「「行く」」
玲央と返事が被った。
俺はそーゆうの行った事ないから行ってみたいと思ったけど、玲央も行きたいのか。
なんか意外・・・。
「ちょりとー、意外って顔してるね。玲央は小物が好きなんだよ。オルゴールとか、昨日もこっそりスノードーム買ってたしねー」
「スノードーム?」
そう言えば、クリスマスマーケットで売ってる店があったな。
あーゆうの好きなんだ。
「玲央、なんか可愛いね」
「ちょりとに言われたくない」
最終日の露天風呂を堪能してから、用意された朝食を食べて、竹林を少し散歩してからチェックアウトした。
「僕運転するよー」
「いい、俺が運転する」
りっくんと玲央は、どっちが運転するかで揉めてる。
俺も運転出来たらなー・・・。
大学進学用の貯金で教習所に行こうかな・・・。
「璃都、おいで」
「・・・ぅん」
「どうしたの?」
「え?・・・えっと、俺も免許取ろうかなって」
「どうして?」
「いつもカイにばっか運転してもらうの、悪いかなって・・・」
「そんな事気にしなくていいんだよ。璃都は助 手 席 に座っていてくれればいいから」
えー。
カイは運転が好きなのかな。
でも俺だって運転、してみたい。
「気にするって言うか、俺も運転してみたいってだけ」
「ああ、運転がしたいの?なら、いいよ」
「え?いいの?」
やった。
教習所はいつから通おうかな。
春休み中に取れるかな・・・。
「その代わり、俺が個人指導するから、教習所には行かせないよ」
「え?個人・・・指導・・・?」
え、教習所に行かなくても、免許って取れるもんなの?
助手席に乗り込み、カイにシートベルトしてもらって、前のベンツは結局どっちが運転する事になったんだろうと考える。
・・・あ、助手席から手が伸びた・・・て事は玲央が運転してりっくんがちょっかい出してるのかな。
「璃都もオルゴール好きなの?」
「ん?・・・うーん、どうだろ。オルゴール館がどんな所なのか興味があるってだけで・・・」
「そう。璃都がどんな顔するか、楽しみだな」
目的地には30分くらいで到着した。
広い駐車場に車を停め、チケットを購入してゲートを潜 る。
敷地内は綺麗な庭園と噴水、いくつか洋風の建物。
建物毎に展示内容が違うらしい。
自動演奏楽器コンサート、大きなディスクオルゴール演奏、ピアノとバイオリンの生演奏・・・。
「すっ・・・ごかった・・・!」
「瞳がきらきらして可愛い。璃都は音楽も好きなんだね」
「ディスクオルゴールが気に入ったみたいだな」
「ピアノもバイオリンも、カイザル出来るから今度演奏してもらったら?」
「えっ!?」
カイ・・・楽器も演奏出来るんだ・・・完璧オオカミだ・・・。
レストランで昼食を摂り、玲央希望のオルゴール制作体験へ。
好きな曲のドーム型オルゴールを選び、ドーム内に好きなガラスパーツを組み合わせて作る。
玲央はガラスパーツ選びに真剣になってる。
俺は・・・先ずどの曲のオルゴールにしようかな・・・。
「クラシックだけじゃなくて、今どきの曲とかもあるんだね」
「璃都は好きな曲とかあるの?」
「んー・・・」
特に音楽を聴いたりはしてなかったけど、本屋 で有線が流れてたから、タイトルはわかんないけど好きな曲はいくつかある。
とりあえず、見本の音を片っ端から聴いて選ぼう・・・。
「・・・あっ、この曲、結構好きだったやつ」
「それにする?」
「うん」
次はドーム内に入れるガラスパーツ。
・・・こっちも色々あるな。
「・・・これにしようかな」
岩の上で遠吠えをするグレーのオオカミ。
小さいのによく出来てるな・・・。
「番も一緒に入れてよ。1匹じゃ寂しいから」
そう言ってカイが選んだのは、まさかの赤ずきんちゃん。
え、こんなパーツまであるの?
「・・・レイアウト難しい」
「オオカミをこっちにしたら?」
カイに渡されたのは、普通におすわりをしたグレーのオオカミ。
赤ずきんちゃんより少し大きい。
これを並べて・・・。
「向かい合わせがいい」
「ちょ・・・ちょっと、くっつけ過ぎっ!」
それじゃオオカミと赤ずきんちゃんがキスしてるみたいじゃん。
「ハートのパーツも並べよう」
「こらこら勝手に・・・」
ドーム内が完全に、オオカミと赤ずきんちゃんのラブラブ空間になってしまった。
・・・ちょっと可愛いな。
「どう?」
「・・・悔しいけど、可愛い」
パーツを固定して、ガラスドームを填 めて完成。
オルゴールのネジを回すと、ドームの中がゆっくり回るようになってる。
・・・オルゴール、いいな。
「そっちも出来た?あ、それってカイザルとちょりと?かわいー!」
・・・う、そーゆう目で見られると恥ずかしいんだけど。
玲央が作ったオルゴールは、ドーム内に見事な妖精の森が出来上がっていた。
・・・プロなの?
「それじゃ、そろそろ帰ろっかー。ちょりと、また遊ぼうね。カイザルも連絡無視するなよー」
「ちょりと、またな。いつでも連絡してこいよ」
ここからは追走せず、それぞれ帰路に就 くらしい。
・・・楽しかった分、また会えるってわかってても、寂しいな。
「うん・・・楽しかった、から・・・また遊ぼうね、りっくん、玲央」
「おい泣くなよちょりと」
「泣いてないっ!」
2人が先に車へ乗り込み、出発する。
手を振って見送って、寂しいって気持ちがまた込み上げて来て、たまらなくなって・・・。
「璃都?そんなに寂しい?俺がいるのに」
「わかってる。けど、ちょっとだけ・・・」
カイにぎゅうっと抱き付いてしまった。
だって、友だちと旅行して、楽しく遊ぶなんて、初めてだったし。
だから、友だちとバイバイするのも、初めてなんだ。
「よしよし、俺の璃都は可愛いね。帰ったらいっぱい甘やかしてあげる」
「・・・ぅん」
カイに頭をよしよししてもらって、少し気持ちが落ち着いてきて・・・やっと周りの視線に気付いた。
なにやってんだ俺・・・恥ずかし過ぎる・・・。
慌てて助手席に乗り込み顔を伏せたけど、運転席に乗り込んで来たカイはやたら機嫌がいいようで・・・。
「璃都、明日の学校は諦めて?」
「は?なんで?」
迂闊 に抱き付いたりしなければ良かった・・・。
高速に乗りスピードが上がる車中で、頭の中は「帰るの恐い」でいっぱいだった。
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