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第35話
冬休みに入って、受験も終わったし、カイが出社中は家でごろごろしてみようかなって思ってたんだけど・・・。
「なんで俺まで出社するはめに・・・」
「執務室にゲームも用意しておいたし、ソファも璃都 専用の寝心地いいの置いたから。おやつもあるよ」
「しょーがないなー」
おやつで釣れる俺・・・我ながらちょろいのでは・・・。
カイと一緒に執務室へ行き、俺は用意してもらった新しいソファへ。
・・・おお、ほんとに寝心地良さそう。
カイはシグマと少し話してから、ソファに寝転びそうになってる俺の所へ来た。
「ん?なに・・・んぅっ」
「会議に行ってくる。いい子で待ってるんだよ」
「・・・ふぁい」
シグマと2人になった。
勉強道具は持って来なかった・・・と言うか待たせてもらえなかったし、どうしよ・・・。
「璃都様、ゲーム機をご用意しております。いかがですか?」
「あ、うん」
壁掛けの大型モニターに、家にもある最新型ゲーム機が繋いである。
・・・いや、会社の備品にゲーム機繋いで遊んじゃっていいの?
起動すると、既にいくつかゲームがダウンロードしてあった。
・・・あ、このレーシングゲームやろ。
練習して次こそカイに勝つ・・・!
「ねえシグマ」
「はい」
「一緒にやろう?」
「申し訳ございません。カイザル様に叱られますので」
あー、やっぱだめかー。
仕方ない、1人で遊ぼ。
「・・・え・・・あれ・・・?」
「璃都様、先程ルートを逸脱なさいました。少しお戻りください」
「・・・あっ、こっちか」
「はい」
シグマに助言をもらいながら、少し上達してきた頃、カイが戻って来た。
「璃都、いい子にしてた?」
「うん。ちょっと上達した」
「ふふっ、それは良かった」
あ、馬鹿にしてるな。
絶対勝って「参りました」って言わせてやる・・・。
「5分休憩・・・」
カイがソファにごろっと横になり、俺の膝を勝手に枕にした。
俺より先にソファで寝たな・・・。
「よしよし、お疲れさま。休憩は5分だけなの?」
オオカ耳をもみもみしながら聞いてみる。
ついでに頭も撫でてやる。
「んー・・・次の会議がねー・・・終わったらランチ行こー・・・」
「うん」
カイでも疲れる事あるんだ。
珍しい・・・これこそ動画に撮りたいんだけど。
さらさらと、アッシュグレーの髪を撫でながら、瞼を閉じたカイの顔を眺める。
意外と睫 長いんだな。
鼻もすっと通って高いし。
唇は薄くて・・・でも柔らかいんだよ・・・な・・・って、なに考えてんの俺。
「俺の顔、好き?」
「はっ?・・・な、なに言ってんの・・・」
瞼を閉じたままなのに、なんで俺が見てたってわかるんだろ。
・・・耳にも目が付いてんのかな。
「俺は璃都の顔、大好きだよ。美人は3日で飽きるとか言うけど大嘘だ。寝ても覚めても璃都の顔を見ていたい」
「それは俺が美人じゃないからだと・・・」
「璃都は美人だよ。鏡見た事ないの?」
「だいたい毎日見てる」
クラスメイトやりっくんにも言われたけど、俺って美人なの?
自分では普通の顔だと思って生きてきたんだけど。
それに、俺は男子なので美人よりイケメンになりたい・・・。
「あー・・・そろそろ行かなきゃー・・・璃都ぉ・・・離れたくないー・・・」
「大事な会議なんでしょ。頑張って」
「やだー・・・」
駄々っ子かよ。
シグマが困った顔して、俺に目で訴えてくる。
なんとかしてくれ、と。
しょーがないなー・・・。
「会議に行くなら、頑張ってねのちゅーしてあげ・・・」
「ほんとっ!?」
がばっと起き上がったイケメンオオカミ。
なんて現金なやつ・・・。
「頑張ってね」
両手でオオカ耳を掴み、カイの額にキスをする。
誰も口にするなんて言ってないし。
「璃都はキスも可愛い」
「黙って。ほら、行かなきゃ・・・んっ・・・むぅ・・・」
仕返しなのか、貪るようなキスをされる。
・・・ちょ、長い・・・長いって・・・!
そのままソファに押し倒されそうになっていたら、コンコンと軽いノックの音がした。
「失礼いたします。CEO、次の会議が・・・あっ、失礼いたしましたっ」
見られたあああーっ!!
だっ、誰っ!?
「今行く。じゃあ璃都、いい子にしててね」
「・・・ふぁい」
カイが出て行って、深呼吸し、シグマに確認する。
「シグマ、今入って来た男性 は誰ですか」
「この会社でカイザル様の秘書を務 めている高良 さんです。ご安心ください、口は堅いですから」
「ソーデスカ」
安心もなにも・・・あんなとこ見られたなんて・・・恥ずか死ぬ・・・。
ゲームをする気にもなれず、ソファに横になった。
シグマはずっと立ってるのに、悪いなとは思うけど・・・。
あー・・・ほんとだー・・・寝心地いー・・・。
───────
「璃都・・・りーとー」
「・・・ん・・・あれ、寝ちゃった・・・?」
このソファ、本当に寝心地いい。
起き上がってあくびをする。
「あくび可愛い」
「可愛くないから・・・ランチ行くの?」
「うん。まだ眠いなら抱っこして行こうか?」
「けっこーです」
すぐ抱っこしようとするの、やめてくれないかな。
いつか歩き方忘れそうで恐い・・・。
「なにが食べたい?」
「んー・・・カイは?」
「り・・・」
「りんご?」
「ふはっ、違うよ」
「リゾット?」
「違うってば」
「り・・・漁師飯?」
「よく思いつくね。璃都に決まってるでしょ」
その答えが聞きたくなくて言ってたんですけど。
「俺は食べ物ではありません」
「俺の大好物なのに」
「黙って」
そんな言い合いをしながら執務室を出ると、奥のエレベーターから女の人が降りて来た。
すっごい美人だ。
「璃都おいで」
「ふぇっ?」
有無を言わさず抱き上げられ、執務室へ逆戻り。
ぽすっとソファに下ろされる。
「ちょっと待ってて」
「う、うん・・・」
俺とシグマを置いて、カイだけ執務室を出て行った。
え、なに?
なんで置いてった?
ランチ行くんじゃなかったの?
「ねえシグマ」
「はい」
「カイはどこ行ったの?」
「執務室の前でお話をされていらっしゃいます」
「はなし?」
話だけなら俺を執務室に戻さなくても・・・。
聞かれたくない話なのかな。
それとも、俺を執務室に隠したかったとか?
たぶん、話してる相手って、エレベーターから降りて来た女の人だよね。
あの人と話すのに、俺が邪魔だった?
それって・・・。
「なにあいつ、やっぱ女の人の方がいいって事・・・?」
「り、璃都様!?そのような事は決してございませんっ!誤解でございますっ!」
なんでシグマがそんなに慌てるの?
逆に怪しいんですけど?
「シグマはあの女の人、知ってるの?」
「は・・・はい、存じ上げております」
「カイと親しい方ですか?」
「い、いえ、そのような事は・・・」
なんかはっきりしないな。
本当は親しいけど、口止めされてるとか?
なにそれ、俺には知られたくないって事?
・・・なんか、もう、どーでもいいや。
「シグマ、帰るから車を出して」
「ですが、璃都様、これからカイザル様と昼食に・・・」
「・・・じゃあ歩いて帰るからいい」
シグマは俺に触れないから、俺が執務室のドアを開けて出て行っても止められない。
ドアの前にはカイと美人の女の人がいて、出て来た俺にびっくりしてたけど、俺は黙ってその横を走って通り過ぎた。
「璃都?待って、どこ行くの?璃都っ!」
「お待ちください璃都様っ!」
煩い。
好きなだけ美女と話してろ。
シグマもカイの味方するなら知らない。
エレベーターが他の階に止まってるみたいだったから、横に見えた階段へ向かった。
「璃都っ!」
カイが追いかけて来てる。
なんで?
美女とお話し中でしょ?
来ないでよ。
放っといてよ・・・!
「璃都待って!どこ行くの!?行かないで!だめだっ!!」
「ぅわっ!?」
階段の途中で追い付かれて、がばっと抱き上げられる。
なんで一々抱き上げるかな。
今そーゆう気分じゃないから。
「放してっ」
「嫌だっ!璃都が俺から逃げるなんて許さないっ!どうして?俺の事また恐くなった?諦めたって言ってくれたのに!逃がさない・・・絶対に・・・!」
「な・・・んで・・・く、苦し・・・やだ・・・放し・・・」
骨が軋みそうなくらい、強く抱き締められる。
待って、ほんとに苦しい。
息・・・できな・・・。
「カイザル様!落ち着いてください、璃都様が苦しそうにしていらっしゃいます。少し力を緩めてさしあげてください」
「だめだ。璃都が逃げる」
うう・・・気絶しそぉ・・・やばい・・・。
「・・・に・・・げて・・・な・・・っ、くる・・・しぃ・・・っ」
「本当?もう絶対逃げない?俺から離れたりしない?約束する?」
疑り深いオオカミめ・・・。
「・・・や・・・そく・・・する・・・はぁっ・・・はぁ・・・」
やっと拘束が緩まった。
放してはもらえないけど、息は出来る・・・。
「シグマ、帰るぞ」
「・・・はい」
「高良に午後はキャンセルだと伝えろ」
「かしこまりました」
カイとシグマのやり取りを聞きながら、俺は結局意識を失ってしまった。
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