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第36話
あれ・・・俺、また寝てた・・・?
ここ・・・どこだろ・・・。
「・・・べっど?」
「起きた?」
声がした方を見ると、ベッド横に腕組みしたカイが立って、俺を見下ろしてる。
あ、ここ、家の寝室だ。
起きあがろうとして、違和感に気付いた。
「・・・え、なに、これ・・・」
俺はカイのであろうオーバーサイズのシャツだけを着てて、下着も着けてない。
首に何か・・・なんだこれ・・・鎖・・・?
「何度も言ったはずだよ。逃がさないって」
ああ、そっか、俺、独りで帰ろうとして・・・。
「璃都 、どうして逃げようとしたの?」
違う、逃げようとしたんじゃない、ただ家に帰ろうとしただけなのに・・・。
「首輪して、鎖で繋いでおく事にしたから。もう外には出さない」
・・・首輪?
え、この首のやつ、首輪なの?
「・・・なっ!?なんで?俺、逃げてなんか・・・」
「逃げただろ!俺から逃げた!何度も呼んだのに振り返りもしないで!なんで!?また俺から逃げるなんて!もう・・・あんな思いはしたくない・・・っ!」
カイがこんなに声を荒げたの、初めてだ。
それに・・・どうして、泣いてるの・・・。
俺、逃げてないよ。
家に・・・ここに帰ろうとしただけだよ。
「俺・・・家に・・・帰りたかった、だけ・・・」
「・・・家?」
「ここに、帰ろうとしただけだよ」
泣かないでよ、カイ。
こんな状態になって、泣きたいのはこっちなのに。
「カイが・・・女の人と話してるから・・・俺、邪魔なのかなって思って・・・」
「はあ!?俺には璃都が全てなのに、璃都が邪魔になる訳ないだろ?」
いつもより少し乱暴な口調でそう言ったカイは、膝を突いてベッドに顔を埋めてしまった。
・・・そっか、俺が走って行ったの見て、12年前の事、思い出しちゃったのか。
「カイ・・・逃げてないよ・・・走ったりしてごめん・・・」
力なく伏せたオオカ耳に触れる。
・・・反応がない。
そっとしておいた方がいいかなと思い、手を離そうとしたら、ぱしっと手首を掴まれた。
び・・・っくりしたぁ・・・。
「・・・ほんとに・・・逃げたんじゃない・・・?」
「うん。家に帰ろうとしただけ。シグマに聞いてよ」
「なんで・・・独りで帰ろうとしたの?」
「だから・・・それは・・・」
言いたくないなあ・・・。
でも言わないとまた怒り出しそうだし・・・。
「言う・・・けど、1回しか言わないからちゃんと聞いて」
「・・・うん」
カイが顔を上げた。
イケメンは泣き顔も綺麗なんだな。
袖で涙を拭ってやりながら、意を決して言う。
「俺を置いて美人の女の人とカイが話したりするから・・・ムカついたので勝手に帰ろうとしました。ごめんなさい」
「・・・それ・・・って・・・嫉妬したって事・・・?」
「・・・っ、そーだよ悪かったなっ!俺は男だし、女の人の方がいいんだろって・・・」
「璃都、前にも言ったけど、それが何?璃都である以外に必要な事なんてない。本当にもう逃げたりしないで・・・次は殺しちゃうかもしれない・・・」
・・・おいちょっと待て、物騒な言葉を聞いたぞ。
物騒なオオカミは、涙を拭ってた俺の手を掴み、薬指に噛み付く。
やめてよ、なんか頸 がビリビリする・・・。
「なんだ・・・嫉妬してくれたのか・・・だからって逃げるなんて・・・酷いよ璃都・・・」
まだ文句は言ってるけど、ちょっと落ち着いてきたのかな。
泣き止んでくれた・・・けど、指噛むのはやめてくれない・・・。
「だから逃げてないってば。そもそもカイが俺を放って女の人と話したりするから悪いんじゃん」
「だって・・・璃都に女性を近付けたくなくて・・・」
「・・・はい?」
近付けたくないって・・・やっぱあの女の人とカイは・・・。
「誤解しないで欲しいんだけど、俺には璃都だけだから。あの女性 は企画部の部長。ただの社員。会議の内容で少し確認に来ただけ。女性って璃都みたいな可愛い子を見るとすぐ触ろうとするから、嫌なんだ」
「ぶ・・・ちょう・・・?」
あー・・・社員で部長ならシグマも「存じ上げております」だし、親しいかと聞かれてもただの社員扱いなのであれば「そのような事は・・・」って曖昧な返事にもなる・・・のか・・・?
彼女が俺に触るのが嫌で、執務室に隠したって事・・・?
んー・・・カイが言ってる事が本当なら・・・完全に俺の勘違い・・・。
「・・・恥ずっ!」
「俺、彼女の個人情報は名前しか知らないんだけど、そんな人にまで嫉妬しちゃうくらい俺の事が好きなの?」
「黙ってっ!」
なにやってんの俺・・・。
今更、玲央 の「ハイイロオオカミ獣人の番が、嫉妬なんてするだけ無駄だぞ」って言葉、思い出した。
俺の指をかみかみしてたカイが、今度は手首に噛み付き始めた。
い・・・痛くはないけど、ぞわぞわする・・・。
「んっ・・・あの、誤解も解けた事ですし、首輪 外してもらえませんかね?」
手で探ってみたけど、小さい鍵みたいなの付いてるっぽくて、自力じゃ外せなさそう。
「嫌だ」
がぶ。
「んぃ・・・っ、でも、逃げてないし、これからも逃げないし、外して・・・」
「嫌だ」
がぶ。
「ひぅ・・・っ」
・・・どうしよう、このまま本当に監禁されちゃったら。
カイがベッドに上がって来て、俺の脚を掴む。
・・・あ、次は脚ですか。
「ね、ねえ、俺のスマホ、取って・・・」
ダメ元で玲央に助けを求めよう・・・。
「嫌だ」
がぶ。
「いだっ・・・や・・・噛まないでぇ・・・っ」
「大好物には噛み付くよ。大人しく、逃げずに噛まれ続けたら、鎖は外してあげる」
「うぅ・・・」
鎖は外してくれる・・・って事は首輪はそのまま?
いやいや、首輪ごと外してよっ!
「ひ・・・んぐっ・・・いぅっ・・・ぅあっ」
右の爪先・・・くすぐったい、左足首・・・痛い、右ふくらはぎ・・・痛い、左腿・・・い、痛い、右腿裏・・・いたいいたいっ。
「ふぇ・・・痛いぃ・・・っ」
「泣いてもだめ。ここも噛まれたい?」
「やっ、やだっ!そこはだめっ!」
ソコ噛まれたら死んじゃうよっ!
獣人だってソコは急所でしょ?
掴まれていた右脚をぐっと押し上げられ、脚の付け根に噛み付かれる。
「ん・・・ぅ・・・っ」
「ふふ、大人しくなった」
どうしよ・・・カイの恐さランクが上がってる。
このまま本当に監禁されて、そのうち噛み殺されるんじゃ・・・。
逃げたい・・・けど、さっきカイが「次は殺しちゃうかもしれない」って言ってたから、絶っ対に逃げちゃダメだ・・・。
「ぃ・・・いい子に、する、から・・・っ、も・・・許して、くださ・・・っ」
「まだ全身喰い尽くしてないよ」
全身噛むまで終わらないやつかー・・・。
・・・噛むだけで終わるといいけど。
「ひぅっ・・・ぃひゃ・・・っ、ひんっ」
「ふふ、くすぐったい?」
くすぐったいよ脇腹はやめてっ!
痛いのとくすぐったいのとで、頭おかしくなりそう・・・。
「やらっ、も・・・しつこ・・・んひっ」
「柔らかくて美味しい」
たっ、食べられちゃうっ!?
肉食獣は獲物を食べる時、柔らかい腹から内臓を・・・。
ひいいっ!
「こわ・・・恐いぃっ!やだっ、お腹やだっ!食べないでぇっ!」
「いい子にするんじゃなかったの?」
「いい子にするから内臓食べないでぇっ」
「ふはっ」
笑うとこ?
内臓なんて食べないよって事?
俺、死なない?
「可愛いなあ。許してあげたくなっちゃう」
「ありがとうございます許してくださいっ」
「まだ噛んでないとこあるから、だめ。可愛い璃都のために午後の仕事全部キャンセルしてきたから、ゆっくり楽しもうね」
楽しくないっ!
もう痛くてもなんでもいいから、さっさと全部噛んで終わらせてっ!
「噛んで、もお全部噛んでっ!我慢するから噛んでっ!」
「そんな可愛くおねだりされたら・・・明日の朝のミーティングもキャンセルしなきゃね」
「違うそーじゃないぃっ!」
・・・結局、夕飯の時間になるまで鎖で繋がれたまま、全身をかみかみねちねちがぶがぶされました。
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