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第37話
「玲央 様、助けてください」
『・・・何やらかしたんだよ』
カイが俺を置いて仕事に行ったので、さっそくスマホを入手し玲央 に電話してる。
電話の向こうの救急隊員は呆れ声だ。
「昨日、カイの前から走って帰ろうとして・・・逃げてないのに逃げたと判断され首輪をされて鎖で繋がれています」
『・・・ご愁傷様』
「見捨てないで」
冷たいじゃないか。
同じハイイロオオカミ獣人の番だろ?
仲間を助けようって気持ちはないの?
『いや、俺にどうしろと?』
「ペンチ持って来て」
『俺にその鎖を切れと?無理に決まってんだろ。そんな事して、また逃げようとしたって判断されたらどうなると思ってんの?』
「・・・次は殺しちゃうかもしれないって言ってました」
『かもしれないって言ってくれてるだけ、カイザルさんは優しいよ。良かったな』
良くない。
友だちなのに、全然助けようって気がなさそうなの、なんで?
「俺どうしたらいい?昨日は大人しく噛まれてれば鎖は外してくれるって言ったから頑張ったのに、今朝出掛ける前にまた鎖付けられちゃったんだけど。せっかくの冬休みなのに家の2階しか歩き回れないんだよ?」
『2階ならどこでも行けんの?すげえ自由じゃん。やったな』
「俺と玲央に温度差があんの理解できない」
俺が拗ねると、玲央が電話の向こうで笑った。
笑い事じゃないのに。
『・・・あーウケる。じゃあ先輩から助言してやるよ。カイザルさんが帰ってきたら、カイザルさんと一緒にいられないのが寂しくてつらいって言え。独りで家に置いていかないでって、可愛く泣きながら縋り付くんだぞ。そうすれば、明日からは鎖は外して連れ歩いてくれるから』
ひとしきり笑ってから、玲央先輩がくれた助言。
ちょっと俺には難しそうです。
「・・・他になんかない?」
『一生そのまま』
「わかった、泣いて縋ってみる」
玲央が本気で言ってるっぽいので、従うしかないらしい。
・・・でも待って、連れ歩くって事は会社に連れてかれるって事じゃ?
冬休み終わったら、どうなんの?
「学校はどうしたらいい?あと首輪も外して欲しい」
『首輪の事は黙っとけ。そのうちチョーカーとかピアスとか違うのにしてくれるから。学校は・・・』
「ちょっと待って、ピアスってどーゆう事?玲央のピアスってまさか・・・」
『・・・そのまさかですよ』
先輩も苦労したんですね・・・。
玲央のピアス・・・確か・・・右の耳たぶ 1つ、軟骨 2つ、左のイヤーロブ3つ、ヘリックス1つ・・・だったかな。
「ヘリックスはやっぱり痛いですか?」
『人それぞれみたいだけど、俺はまあまあ痛かったです。あ、言っとくけど、俺の脱走歴は5回だぞ。左のイヤーロブ3つは1回分だ』
「玲央も懲りないね」
『何年番やってると思ってんだ。ま、ちょりとは5回で済まなそうだけどな。カイザルさんはシドよりヤバそうだし、腱 切られたりしないように気を付けろよ』
「物騒っ!!」
それは完全に傷害罪でしょ?
通報していいやつだよね?
「それで、学校は?」
『ああ、カイザルさんの送り迎えで学校行きたいって言ってみろ。目的は学校よりもカイザルさんに送り迎えしてもらう事だって。甘えて、ちょっと我儘っぽく言う方がたぶん喜ばれると思う。ちょりと甘え下手だから』
「なるほど」
我儘とか甘えるとか、確かにあんまり得意ではないけど。
脱監禁するにはやるしかない。
『・・・あ、シドからキャッチ入った。ごめん、またな』
「あ、うん。相談乗ってくれてありがと」
通話を切り、ベッドの上で膝を抱いてため息をつく。
・・・泣いて縋り付く、か。
嘘泣きとか出来ないんだけど・・・。
一緒にいられないのが寂しくてつらい・・・つらいとまではいかないけど、独りで家に居るのは寂しいし、独りでご飯食べるのもカイのせいで苦手になった・・・。
独りで家に置いていかないで・・・これは言えそうだな。
「・・・カイ・・・はやく帰って来てよぉ・・・」
「ただいま、璃都 」
「ぅえっ!?」
びっくりして顔を上げると、寝室の入り口でカイが嬉しそうな顔をしてた。
い、いつの間に帰って来てたの?
「・・・ぉ・・・かえり」
「うん。出掛けてから2時間しか経ってないけど、寂しかった?俺が居ないと嫌?」
さっきの、はやく帰って来てよぉって、絶対聞かれてるよね。
恥ずかしい・・・っ。
もう、どーせ恥ずかしいならこのまま恥をかききってしまえ!
ベッドを下りて、カイに飛び付く。
「さ、寂しかったっ!置いてかないでっ!ご飯も独りで食べるのや・・・んぅっ」
「んー・・・可愛い。首輪の効果が出てきたかな」
出てますよ、それはもう。
だから外して・・・とりあえず鎖を。
「明日から俺も冬休みだから、ずっと一緒にいられるよ。もう寂しくないね」
「いつまで?」
「5日まで。6日から仕事」
「あ、俺も学校6日から。一緒だ」
さり気なく、学校を話題に出してみる。
6日から、今まで通りの生活に戻れる事を期待して。
「・・・学校?」
なにそれ美味しいの?みたいな顔しないでよ。
「お願いします、冬休み終わったらまた学校行かせてください・・・カイに送り迎えしてもらって学校行きたいっ」
玲央の助言通り、カイに送り迎えして欲しいと言ってみる。
ついでにカイの首に腕をまわし、抱っこをせがむ。
「ふーん・・・玲央くんに相談でもしたの?まあいいか、上手におねだり出来るようになれば」
俺を抱き上げて、ウォークインクローゼットへ向かう。
あれ、着替えるの?
今日の仕事はもう終わり?
仕事納めって半日もかからないもんなの?
「それ、誘ってる?」
「え?ち、違うよ、着替えるんでしょ?手伝ってるだけっ」
カイのネクタイを緩めてあげてたら変な勘違いをされた。
「着替えるのは俺じゃなくて璃都。独りでお留守番が嫌なんでしょ?」
「あ、そっか」
なんだ、仕事終わったんじゃないのか・・・。
緩めたネクタイをきちんと締め直す。
「俺を脱がせられなくて残念?」
「なっ・・・そ、そんなんじゃないからっ」
カイが俺を下ろし、内ポケットから出した小さな鍵で首輪に付いた鎖を外してくれた。
それから着替えて、すぐ抱き上げられ、1階へ。
「璃都様、ご無事でなによりです」
「うん、なんとかね」
玄関ホールで待っていたシグマがほっとした顔をした。
まあ、全身噛み痕だらけで首輪も着いてるけど、生きてはいるよ。
車に乗ってカイと出社したのはいいけど、車から執務室まで抱っこされたのは恥ずかしかった。
まあ、なんとなくそうなるんじゃないかとは思ってたけど。
拒否したら機嫌を損ねそうなので、会社で抱っこも諦める事にする。
「お昼までここでいい子にしてて」
「はぁい」
昨日とは別のビルだけど、こっちにも新しいソファとゲーム機が置いてあった。
カイが執務室を出て行き、俺はソファにごろんと横になる。
「いたた・・・」
「大丈夫ですか?」
「ちょっと全身噛まれまして・・・シグマは大丈夫だった?」
「幸い、叱責で済みました。その分、璃都様にご負担がかかったのでは・・・」
あ、シグマも怒られちゃったんだ。
シグマは悪くないのに・・・俺のせいだな・・・。
「ごめんねシグマ」
「いえ、璃都様が謝られる必要はございません。私が璃都様を混乱させてしまったせいですので」
2人でしょんぼり反省会・・・。
それからシグマが紅茶を淹れてくれて、一息つきながら今日の予定を聞く。
「本日はランチミーティングと、午後は会議が2件のみです。17時頃にはご帰宅いただけるかと」
「そっか・・・え、ランチミーティング?」
なんだ、じゃあついて来たってお昼は独りで食べるんじゃん。
家に居れば良かったかな・・・。
「恐らく、璃都様をお連れになると思います」
「・・・え?ランチミーティングに?俺も居ていいの?」
「はい。カイザル様の番ですから」
うーん・・・だとしても・・・ちょっと嫌な予感がするんだよなー・・・。
紅茶のおかわりをもらいながら、考えるのをやめ、カイが迎えに来るのをのんびり待った。
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