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第38話
「璃都 、いい子にしてた?」
「うん、してた」
カイが執務室に戻って来た。
ソファから立って駆け寄ると、抱き上げられてキスされる。
「んぅ・・・っ」
「ランチに行こう。他に何人か居るけど、璃都は俺だけ見て俺とだけ話していればいいから」
「・・・ふぁい」
あー、やっぱこのまま抱っこして行くんだな・・・。
いーですいーです諦めましたから。
ランチミーティングは下の階のカフェスペースでするみたい。
執務室以外に初めて来た。
「こんにちは奥様」
「初めまして」
「ようこそ」
テーブルには男性2人と女性1人が待っていて、俺に挨拶してくれる。
「こんにちは、すみませんこんな体勢で・・・」
「璃都、話すのは俺とだけだよ」
「挨拶くらいいいでしょ?」
それより、このテーブル、イスが4つしかないんだけど。
俺はどこに座るのかなー・・・って、案の定カイの膝上かよ。
「カイ、ミーティングでしょ?俺がこんなとこ座ってたら邪魔じゃん」
「璃都が邪魔になる事なんてない。璃都が俺から離れるならランチミーティングはなしだ」
えー、なんでそんな・・・。
・・・あれ、他の人たちから向けられる懇願するような表情はなんなんだろ。
俺が膝上やだって言って、カイがランチミーティングをキャンセルするのが困る・・・ってとこかな。
仕方ない・・・。
「膝上 に座ってランチミーティング見学したいなー」
「ふふ、いいよ」
「「「奥様ありがとうございます!」」」
俺の予想と対応は間違ってなかったみたいだ。
さて、お腹すいた。
ランチの内容はサンドイッチとスープ。
サンドイッチは色んな種類があるけど、たまごサラダサンドとだし巻きサンドが俺の食べたいやつだ。
あと、ローストビーフサンドとコンビーフサンドも、ひと口食べたい。
スープも数種類・・・あ、ミネストローネがいいな。
「たまごサラダ?」
「うん」
カイは当然のように俺が食べたい物を当ててくる。
俺にたまごサラダサンドを取って、ミネストローネスープも取ってくれた。
スープも当ててきたな。
ミーティングの内容は、聞いててもよくわからない。
経営とか取引とかの話してるみたいだけど・・・IT系・・・そうだ、ここ、サイバーセキュリティの会社だった。
たまごサラダサンドを食べながら、カイがちゃんと仕事してるのを密着状態で見学する。
・・・悔しいけどカッコいい。
たまごサラダサンドを食べ終わり、スープを飲んでいたら、今度はローストビーフサンドを差し出してきた。
ひと口かじると、残りはカイが食べてくれる。
・・・なんでひと口食べたいって事までわかったんだろ。
「次はコンビーフ・・・いや、だし巻きサンドかな」
「ねえ、なんでわかるの?」
「璃都の事だから、わかるよ」
ほんと恐い。
・・・あ、だし巻きサンド、からしマヨきいてて美味しいな。
「璃都、ひと口ちょうだい?」
「ん」
カイの口元にだし巻きサンドを持っていくと、がぶっと食い付いた。
・・・この牙で全身噛まれて生きてる俺、偉い。
そんな事考えながら残りのだし巻きサンドを食べてると、生暖かい視線に気付いた。
そうだった、ランチミーティングしてるんだった。
皆さん、俺の存在は無いものとして進めてください・・・。
「奥様は、志望大学に合格されたとか。おめでとうございます」
「え?あ、はい、ありがとうございます」
「璃都」
「お祝いのお礼くらい言わせてよ」
ミーティングの内容は終わったみたいで、後は食べながら雑談をした。
俺が応える度にカイが注意してきたけど・・・。
───────
「それじゃ、またここでいい子にしててね」
ランチを終え、再び執務室に連れてこられた。
午後は会議が2件あるんだっけ。
「カイ」
「ん?」
「頑張ってね」
なんとなくしたくなって、カイのオオカ耳を掴んで引き寄せ、キスする。
もちろん額に。
「行って欲しくなくて、してるの?」
「ちがむぅ・・・っ」
本当は、額にキスすればカイから唇にしてくれるって、わかっててやってる。
だって、自分からするのは恥ずかしいし。
・・・だからって舌を入れてくるな。
「ん・・・んぅ・・・んむっ?」
ソファに押し倒すなっ!
会議はどうしたっ!
「んんっ・・・ぷぁっ、もぉ、会議行くんでしょっ。俺のせいで遅刻とかやめてっ」
「番に可愛く引き止められたからって言えば、誰も文句なんか言わない」
「俺が言うからっ!」
カイを執務室から追い出し、ソファでぐったりする。
そう言えば、カイはあんまり執務室に居る事ってないな。
他の会社でもそうだけど、ほぼ俺の部屋と化してる気がする。
CEOみたいな偉いヒトって、自分の執務室で立派なイスに座って偉そうにしてるんだと思ってたけど・・・違うのかな。
「ねえシグマ」
「はい」
「カイってさ、俺が来てない時は執務室で仕事してたりする?」
「璃都様がいらっしゃる時と変わらず、あまりお使いになりません。そもそもこちらの部屋も、璃都様がいらっしゃる時のためにご用意されましたので」
え、なんで俺のため?
カイの執務室なんだからカイのための部屋なんじゃ・・・。
「璃都様に逃げ・・・いえ、出逢われてから、璃都様を、その・・・囲う準備をずっとされていらっしゃいましたので」
「囲う準備・・・」
恐ぁ・・・。
そうだ、もう1つ気になった事があったんだ。
「さっきのランチミーティングに女の人が居たんだけど、あの人には会ってよかったのかな。昨日は執務室に隠したのに」
「彼女はCFOで、ライオン獣人の番です。璃都様に触れてはならないと良く理解していらっしゃるので、カイザル様も良しとされたのではないでしょうか」
「なるほど」
あの女性 も獣人の番だったのか。
ライオンって一夫多妻だったよね。
俺みたいに首輪着けられちゃったりとかしないんだな・・・ちょっと羨ましい・・・。
「璃都様、念の為申し上げますが、カイザル様の前では女性の話題は出さない方がよろしいかと」
「うん?どうして?」
「浮気を疑われ、今度こそ確実にご自宅から出られなくなります」
「・・・肝に銘じます」
話題に出しただけで浮気って・・・カイなら言いかねない・・・。
気を付けよう・・・。
「よっし、気を取り直してゲームでもやろっかなー」
「はい。飲み物をご用意いたしますね」
今日はシューティングゲームにしよう。
・・・ってこれ、ゾンビが猛ダッシュしてくるやつだ。
今度こそ駆逐してやる・・・!
それから、時間を忘れて熱中してたら・・・。
「璃都、終わったよ帰ろ・・・」
「うにゃあああっ!」
「・・・璃都?」
やっと新しいステージに進んだと思ったら、初見殺しな展開に叫んでしまった。
ゲームオーバーだ・・・。
「・・・あ、カイ、お帰り」
「璃都の悲鳴って可愛いよね」
「黙って」
ゲーム機の電源を切って、ソファまで来てくれたカイに両手を伸ばす。
「抱っこ」
「ほんと可愛い。順調に俺好みのダメ璃都に育ってくれてて嬉しい」
「やっぱ歩く」
「だぁめ」
片手で抱き上げられ、よしよしと頭を撫でられる。
カイの機嫌は良さそうだ。
「お家 帰る?」
「うん、帰るよ。寄り道したい?」
寄り道かぁ・・・夕飯の買い物はハウスキーパーさんがやってくれてるだろうし、別に特に行きたい所もない・・・。
「しない」
「璃都は真面目な子だもんね」
「そーゆう訳じゃないけど・・・じゃあ寄り道する」
「ふふ、いいよ。どこ行きたい?」
うーん・・・そーだなー・・・。
学校帰りに行くっていったら、本屋 かスーパーかコンビニだったし・・・。
クラスメイトは学校帰りにどこで寄り道してたんだっけ・・・。
んー・・・確か・・・。
「・・・カラオケ?」
「お、いいね」
俺、カラオケ行った事ないんだけどね。
人前で歌うとか、音楽の授業とか合唱祭くらいだったし。
自分で提案しといて、不安な気持ちのまま、カイに抱っこされて車へ乗り込んだ。
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