39 / 75

第39話

寄り道(カラオケ)に行く事になって、車で移動してたらりっくんからカイに電話がきた。 りっくんも仕事が早く終わったみたいで、忘年会しようって誘われたんだ。 カラオケに行くって言ったら、りっくんが店を押さえてくれて、先に玲央(れお)と待ってるって。 車から降りてすぐ、カイに抱き上げられる。 外でもこの状態かぁ・・・他のお客さんとかに見られるの嫌だなぁ・・・。 「ちょーりと!あは、首輪似合ってるじゃーん」 「はは・・・どーも」 りっくんは目敏(めざと)く首輪に気付いた。 似合うとかないから・・・。 「どう?うまく甘えられた?」 抱っこされてる俺に、玲央が話しかけてきた。 カイには玲央の助言を受けた事バレてるし、玲央もバレてるのわかってるみたいだ。 「自分なりに頑張った。泣きはしなかったけど。寄り道もさせてもらえたし、先輩の助言のおかげです」 「うむ、くるしゅうない」 あ、もしかして、忘年会誘ってくれたのは俺のためだったのかな。 温度差感じてたけど、ちゃんと心配してくれたとか・・・? 「ありがとう、玲央」 「ん?どーいたしまして」 「璃都(りと)、せっかくだから玲央くんに上手な甘え方を見せてもらったら?」 「えっ!?」 カイの言葉に顔を引き攣らせた玲央。 それはいい、是非先輩の甘え方を見せていただきたい。 「玲央先輩、よろしくお願いします!」 「おいちょりと、お前な・・・」 「いいねー!玲央、いーっぱい甘えていいよ。ちょりとの成長のためにも、しっかりお手本見せてあげなきゃね」 俺ばっかこんな状況なの恥ずかしいし、こうなったら一蓮托生(いちれんたくしょう)だ。 「ほら、玲央」 りっくんが両手を広げて待ってる。 抱っこをせがめって事かな。 「ぐっ・・・仕方ないから・・・抱っこさせてやる」 「もー恥ずかしがり屋さんだなー」 玲央はそっぽ向きながら言ったけど、りっくんは嬉しそうに抱き上げた。 ・・・そーゆう感じでもいいの? 「玲央はねー、ツンデレさんなんだよ」 「つんでれ・・・」 「シド!ちょりとに変な事言うな!」 「ツンデレって言うのはね、普段はツンツンした態度をとってても、たまにデレデレ可愛くなっちゃう人の事だよ」 「カイザルさん説明しないで!」 へー、玲央はツンデレなのかー。 ふんふん、参考にしよう。 「ちょりとも割とツンデレなんじゃないか?」 「え?なんで?」 「カイザルさんに対して結構ツンツンした物言いしてる」 ツンツンした物言い・・・してたかな・・・あ、してるな。 「でもちょりとは玲央よりデレ度高いよねー。根が素直なんじゃない?」 「なんかやだ・・・俺もっと我儘な感じになってカイを従わせるくらいになりたい」 そしたら首輪とか監禁の心配もなくなりそう・・・。 「璃都は女王様っぽくしてみたら?似合いそう」 「じょうおうさま・・・」 前に、俺が王様って言ったらカイに女王様って言い換えられた事あったな。 なんで王様じゃだめなの・・・。 「じゃ、カラオケ中はちょりと女王様ね。玲央もお手本のために女王様やってあげて」 「よろしくてよ」 「え?言葉遣いからなの?」 初めてのカラオケなのに、変な要素が追加された・・・。 店に入り、個室に案内される。 4人で使うにはちょっと広くない? 奥に一段上がったステージみたいなのもあるし、カラオケってこんな感じなんだ・・・。 「璃都陛下、お飲み物は何になさいますか?」 カイがわざわざ跪いて(うやうや)しく聞いてくる。 執事・・・いや、騎士みたい・・・? 悔しいけどカッコいいんだよな・・・。 「玲央陛下はいかがなさいますか?」 「そうね、ジンフィズにするわ。つまみも注文してちょうだい」 「かしこまりました」 玲央・・・ちゃんと女王様やってる・・・。 俺もやらなきゃ・・・なのか・・・? 「オレンジジュース・・・いいえ、ジンジャエールがいいわ。お菓子も用意して」 「かしこまりました」 ・・・ねえこれ何の罰ゲームなの!? 俺の高飛車な態度に、なぜかカイは嬉しそうだけど・・・。 店員さんが来たらやめていいんだよね? でも、温泉旅館で語尾ペナルティやった時も妥協してなかったし、たぶん続けるんだろうな・・・。 「では、僕から玲央陛下へ、愛の歌を捧げます」 タッチパネルで選曲したりっくんが、ステージに立ってマイクスタンドを掴んだ。 垂れ目気味でチャラそうな雰囲気の彼は、マイクを持つとアイドルみたいに見える。 「・・・ぅゎ、りっくん歌うまい」 「璃都陛下、俺だけを見ていてくださいませんか。貴方への歌は俺が捧げます」 「・・・わかってるわ。ただ感想を言っただけで・・・カイザル卿が歌ってくれるの、楽しみにしてる」 俺を膝上に座らせていたカイが、りっくんの歌を褒めたら怒ってしまったのか、腕の締め付けが強くなった。 ちょっと、苦しいんですけど。 落ち着かせようと、オオカ耳をもみもみする。 これ、カイより先に俺が落ち着いちゃうな・・・。 そこへ、店員さんが注文した飲み物と食べ物を運んで来た。 ・・・はいはい、首輪してイケメン獣人の膝上に座って獣耳をもふってる男子が珍しいですよね。 でもあんまり見てると・・・。 「俺の番になにか?」 低く唸るようなカイの言葉に、店員さんが慌てて謝罪し青ざめて退室して行った。 「カイザル卿、庶民を恐がらせてはだめよ」 「璃都陛下・・・陛下に噛み付いてもよろしいですか」 「・・・どうしてそうなるの?」 りっくんが歌い終えたので、とりあえず乾杯をする。 カイはシャンディガフ、りっくんはハイボールだ。 「次はカイザル歌えよ」 「ああ」 俺を膝上からそっとソファに下ろし、カイがステージに立ってマイクを持つ。 ・・・なにやっても様になってて羨ましい。 だけど・・・。 「・・・ぅぅ」 すっごいイイ声で歌いながら、俺から目を離さないのやめてくれないかな。 歌詞見なくていいの? 俺、たぶん顔赤くなってる・・・すっごい熱い・・・。 「いかがでしたか、璃都陛下」 「・・・と・・・とても、良かったわ」 席に戻り、俺を抱き上げて再び膝上に座らせるカイ。 ハイスペック獣人は歌も上手いんだな・・・と思ってたら。 「玲央も歌が上手いなんてっ!」 「あら、ご不満かしら?次はちょりとが歌う番よ」 えー・・・初めてのカラオケで、しかも皆んな歌上手いとか・・・最悪なんだけど・・・。 「はぁー・・・俺カラオケ初めてなんだからねっ。笑ったりしたら首を()ねるわよっ」 曲は・・・オルゴールにも選んだ、バイト中の有線で流れてたやつにしよう。 ステージに立ち、マイクスタンドを両手で握る。 ・・・え、カラオケってこんな緊張しながらするものなの? クラスメイトたちは何が楽しくて行ってるんだろ・・・。 周りのリアクションを見ないように、歌詞が表示された画面だけを凝視して歌った。 歌い終わって、急いで席に戻り、ジンジャエールをごくごく飲む。 あ、カイの膝上に座った方が良かったのかな・・・。 「璃都、歌声も可愛いなんて・・・もう絶対俺以外の前で歌わないで。璃都の歌声も俺のモノだから」 グラスをテーブルに置いた途端、隣に座ってたカイにがばっと抱き付かれた。 はい? なに、どーゆう事? 「ちょりと、歌上手いじゃん。びっくりした」 「うん、女王様と騎士の設定なかった事になるくらいの衝撃だった」 りっくんと玲央まで、俺の歌を褒めてくれる。 ・・・え、俺って歌上手いの? 自分でも知らなかった。 「ありがと。でももう歌っちゃだめってカイに言われちゃった」 「カイザルー、ちょりと初めてのカラオケなんだから、いっぱい歌わせてあげなよー」 「・・・今日だけ特別だぞ」 カイが折れた。 まあ、あんまり知ってる曲ないし、俺以外の3人の方が上手いと思うし・・・。 とか思ってたけど、代わりばんこで何曲か歌った。 「わかんないとこ、うにゃうにゃ誤魔化してるの可愛い」 「う・・・だって有線でなんとなく聴いてただけだったし・・・」 「俺のりぃはほんとに可愛い」 酔っ払いオオカミがずっとくっ付いて離れなくなった・・・。 いつの間にそんな飲んだんだよ・・・。 「なあちょりと、この曲一緒に歌おうぜ。俺ハモれるから」 「はも?」 玲央と一緒に歌ったり、カイとりっくんがアイドルの曲をデュエットしたり、追加注文したロシアンルーレットたこ焼きでからし入りのをりっくんが食べたり、金魚鉢パフェなる物を食べたり・・・。 最初は皆んなが歌うまくて最悪とか、緊張して何が楽しいんだろとか思ってたけど・・・カラオケ、楽しいかも。

ともだちにシェアしよう!