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第41話
「璃都 、デートに行こう」
「デート?」
今日は12月30日。
早起きしたから大掃除でもするのかと思ったら、カイは出掛けるつもりらしい。
「大掃除しないの?」
「ハウスキーパーの仕事だよ」
未だ会った事のないハウスキーパーさん、こんな年末までご苦労様です。
俺たちは出掛けちゃうけど、よろしくお願いします。
「どこ行くの?」
「少し遠出して、ホテルで1泊してこよう」
お泊まりか・・・って、なにそのボストンバッグ?
いつの間に荷造りしてたんだよ。
俺はカイが用意してくれた服に着替えて身支度を整え、黒いスポーツクーペに乗り込んだ。
「シートベルトしようね」
「ありがと」
なんか、シートベルトはカイにしてもらうの当たり前になってきちゃってるけど、いいの?
ダメ人間希望オオカミには、これでいいのかな。
「遠出って、どこまで行くの?」
「海の方」
「海?」
泳ぐ・・・訳ないか、12月だもん。
海の方ってだけで、海が目的とは限らないし・・・。
「サービスエリアで朝ご飯食べよう」
「うん」
高速で1時間弱、大きめのサービスエリアに到着した。
お茶とコーヒーと、カツサンドとホットドッグを買って食べる。
「そーいえば」
「ん?」
「個人指導の件はどーなりましたか?」
「・・・ああ、免許か。まあ、そのうちね」
そのうち・・・。
数日前に逃げた逃げないで揉めたし、仕方ないか・・・。
なかった事にされないだけ良かった、と思おう。
食べ終わってトイレに寄り、再び車で目的地へ。
「カイってさぁ」
「ん?」
「妥協してくれてる?」
「・・・妥協?なにを?」
「俺の事。学校行かせてくれたりとか、大学進学許してくれたりとか・・・」
りっくんと初めて会った時、カイの希望は監禁なのかって聞いたら「当然そうすると思ってた」って言われたし。
「うーん・・・璃都に関して妥協した事はないけど・・・どうしてそう思ったの?」
「本当は監禁したいの、我慢してくれてるのかなって・・・」
「ああ・・・」
運転しながら、少し笑ってカイが言った。
「我慢はしてる。俺の希望を全て叶えようとすれば、璃都は恐がって手の届かない世界 に行っちゃいそうだから。璃都を失うくらいなら、全部じゃなくていいから、璃都が許してくれる範囲で俺の希望を叶えようって思ってる」
「俺をダメ人間にしたいっての、希望の最 たるものじゃないの?」
「可愛い俺だけのダメ璃都は、我慢した上での最たるものかな」
我慢してダメ人間なのか。
じゃあ、我慢しなかったら・・・?
「希望の全て・・・って、聞いたら俺は恐がりそう?」
「うん、恐くて泣いちゃうと思う。そうなったら逃げられる前に、叶えてしまうけど」
・・・これ、聞いちゃダメなやつだ。
カイには悪いけど、我慢した上での最たる希望を叶えるに留 めてもらおう。
「学校行くけど、頑張ってカイのダメ璃都になるから、我慢してね」
「うん。学校以外では俺無しじゃ生きられないような子でいてね」
「・・・善処します」
カイ無しじゃ生きられない子って・・・。
とりあえず、家ではずっと抱っこしてもらおうかな。
「璃都の自立心を根刮 ぎ奪うのが来年の目標かな」
「ねこそぎ・・・」
こわ・・・。
ねえ、ほんとにそれで我慢してんの?
自立心根刮ぎ奪われたら・・・ダメ人間になるのか、そっか。
「璃都、着いたよ」
「・・・おおっ!」
到着したのは、海沿いに立つ大きな水族館だった。
本屋 で、雑誌の表紙になってたの見た事ある。
「わあ・・・潮の匂いっ」
車から降りると、少し強い潮風にテンションが上がる。
海の匂いだぁ。
「絶対放さないって約束するなら、抱っこじゃなくて手を繋いで行こうか」
「約束するっ!絶っ対放さないっ!」
良かった、抱っこじゃなくて。
人結構いるし。
「もし手を放したらすぐ抱っこするからね」
「うんっ、わかった!」
カイと恋人繋ぎをして、館内へ。
ゲートを通ってすぐに現れた大水槽にびっくりする。
「いきなり凄いっ!」
「璃都、水族館は初めて?」
「うん。綺麗・・・だし、新鮮で美味しそ・・・なんて言ったら怒られちゃうかな」
「ふはっ、そうだね、確かに新鮮で美味しそうだね」
そこから順路に沿って、色んなテーマの水槽を見ていく。
「食べるとこいっぱい!」
「タカアシガニだね。確かに食べ応えありそう」
「マンボウ ・・・生きてる?」
「ふふ、ちゃんと生きてるよ」
「あはっ、ねえ今の見たぁ?水槽にぶにゅって顔くっつけたよ?」
「ゴマフアザラシって、サービス精神旺盛なんだねぇ」
水族館・・・思ってたより楽しいな。
館内のレストランでお昼ご飯食べてから、また別の水槽を見て廻る。
「これ・・・いい・・・」
「欲しいの?」
お土産屋さんで見つけた、大きなミズクラゲのクッション。
ぷにょもちっとした触り心地が気に入ってしまった。
たぶん、黙っててもカイは買ってくれると思うけど、甘える練習も兼ねて、おねだりしてみよう。
「・・・買って?」
「ぐ・・・可愛い・・・っ、うん、店ごと買おうか」
ミズクラゲをぎゅってしながら、上目遣いでおねだりしてみたけど、カイには効果覿面 だった。
でもさすがに店ごとは、いらない。
「2個でいいです」
「そう?何色が欲しいの?」
「水色」
「ピンクがいいよ」
結局、間を取ってうす紫のにした。
それぞれ1個ずつミズクラゲを抱え、手を繋いだまま水族館を出て車へ。
後部座席にミズクラゲを置いて、カイにシートベルトをしてもらい出発する。
「もうホテル行くの?」
「まだだよ」
20分くらい走って到着したのは、フラワーパークだった。
時刻は17時過ぎで、暗くなってきてる。
「冬なのに、フラワーパーク?」
「今は花じゃなくて、イルミネーションがメインになってるんだよ」
へえ・・・だからこの時間に来たのか。
入園してすぐ、大きな藤棚で鈴なりになった藤の花が光っているという非現実的な光景が・・・。
よく見ると、花の形をしたイルミネーションだ。
「す・・・っごい」
「璃都、手袋して」
渡されたのは左手用の手袋。
・・・え、右手のは?
「右手はこっち」
カイと恋人繋ぎした右手は、そのままカイのコートのポケットへ突っ込まれた。
「・・・あったかい」
「カイロ入れてあるんだ」
寒いけど、風がなかったからゆっくりイルミネーションを見て廻れる。
それにしても広いな・・・。
「あっ、さっきと違う光り方になってる!」
「ふふ、璃都はイルミネーション好きだよね。クリスマスツリーも気に入ってたし」
うーん・・・好きかも。
自分でも知らなかった。
今までイルミネーションなんてわざわざ見に行く事もなかったし、あんな綺麗なクリスマスツリーも持ってなかったし。
「カイのおかげで好きな物増えた気がする」
「一番好きなモノは俺にしておいてね」
「うん。カイのオオカ耳が一番好き」
「俺自身を一番にして欲しいんだけど」
2人で手を繋いで笑いながら、きらきらした世界を歩いて行く。
寒いけど暖かくて、楽しくて穏やかで、こんなに幸せでいいのかなって思うくらい、幸せな時間。
「まだ3ヶ月くらいなんだよな」
「ん?」
「カイと暮らし始めてから」
「うん」
金曜の夜に公園で拉致られ・・・一緒に暮らす事になり・・・18歳の誕生日に結婚・・・お仕置きされたりコスプレさせられたり・・・りっくんに会ってカイが酔っ払って・・・大学合格して遊園地行って・・・玲央にも会って温泉旅行・・・クリスマス・・・首輪と鎖・・・。
「ねえ、俺の人生がこの3ヶ月で一気に波乱万丈なんだけど!?」
「ふはっ!」
笑い事じゃないんだが?
・・・まあ、楽しい事も、18年生きてきた中で一番あった3ヶ月だったのも事実だし。
「カイ」
「ん?」
「ずっと・・・探してくれて、ありがと」
カイは「見つけ出しちゃってごめん」って謝ってきたけど、別に謝らなくていいんだよ。
カイが探して、見つけてくれて、今俺は幸せだって思てるんだし。
「璃都・・・っ。うん・・・捕まってくれて、ありがとう。もう絶対放さないから。愛してる・・・っ」
「ちょ、な、泣かないでよっ」
ポケットからハンカチを出してカイの涙を拭い、めそめそオオカミを連れて車へと戻った。
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