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第42話
眠い・・・。
まだ23時42分なのに・・・。
「璃都 、無理しないで寝たら?」
「・・・やだぁ」
リビングのソファにカイと並んで座り、テレビで年越し特番を見てる。
このまま日付が変わるのを待つって決めてたのに、急に眠くなってきてしまった。
だめだ、今寝たら朝まで起きられる気がしない。
「昼寝すれば良かったのに」
「・・・だってぇ」
ホテルから帰ってきて、大晦日チョコレートファウンテン祭したくて色々準備して、フルーツの他にミニワッフルとかプチシューとかも用意したら食べ過ぎちゃって・・・。
年越し蕎麦を食べたのが22時半で、食べ終わったら眠くなってきて・・・今に至る。
「・・・カイぃ」
「なあに?」
このままじゃ俺は絶対に寝る。
だから、これしか方法がない、と思う。
「・・・噛んでぇ」
「・・・いいの?気絶させちゃうかもよ?」
「なんでぇ・・・かぁむぅだぁけぇ・・・」
起きてたいから眠気覚ましに噛んで欲しいのに、気絶するような事までしなくていいから。
眠いのもあってちょっとイライラして、新入りのミズクラゲクッションをぐにぐにしてしまう。
「俺のネコがふみふみしてる・・・可愛い。わかったよ、おいで。いっぱい噛んであげる」
カイの膝上に向かい合わせで座らされ、ぐにぐにしてたミズクラゲを取り上げられた。
さあ噛め。
起きて年越しするためだ。
「・・・んっ」
あれ、それ、噛んでないよね。
首筋に、ちゅ、ちゅ・・・って、キスしてるだけじゃん。
「んん・・・ちが・・・噛んでぇ・・・っ」
「そんなやらしいおねだり、俺以外にしたら噛み殺しちゃうよ」
「カイに噛んでほしいのぉっ」
俺が言ってる事の意図を理解してる癖に、なんで言う事聞いてくれないんだよ。
意地悪オオカミだ・・・。
「俺に噛んで欲しいの?」
「そぉだってばぁっ・・・眠いからぁっ・・・噛んでぇ・・・」
「可愛い。でも、眠気覚ましって理由なら、噛んであげない」
「んんぅ・・・」
俺の頭を撫でながら、また首筋にキスをしてくるカイ。
くすぐったい・・・眠たい・・・あったかい・・・気持ちい・・・。
「・・・ん・・・ゃだ・・・おきて・・・たぃ・・・」
「どうして?」
「・・・さぃしょ・・・言ぃたい・・・」
日付が変わった瞬間、最初にカイに「明けましておめでとう」って言いたい。
そんな事、したいと思ったの初めてだし、ちゃんと言いたい。
「・・・んぐっ!」
首に噛み付かれ、強制的に覚醒させられた。
い・・・痛い・・・っ。
「あと2分だよ」
「うぅ・・・目ぇ覚めた・・・い"っ!?」
もう起きたから!
もう噛まなくていいです!
「あと1分30秒」
「んぅっ」
カウントダウンしながら耳を噛むな!
やっと希望を聞いてくれたのはいいけど、目が覚めたので1回でいいです!
「いだっ」
「あと1分」
今度は鎖骨。
30秒後にまた噛まれるな、これ・・・。
「もお起きたからっ、もお噛まなくていいっ」
「いっぱい噛んであげるって言ったよ。あと30秒」
「んむぅ・・・んちゅ・・・んん・・・っ」
キスで口を塞がれた。
カイが消したのか、さっきまで聞こえてたテレビの音がしない。
これじゃカウントダウンできないじゃんっ!
「ん・・・あふ・・・ぢゅ・・・んんぅっ・・・・・・ぷぁっ」
「明けましておめでとう、璃都」
「ふぇ・・・?」
・・・あ、先に言われた!?
「ぅぅーっ、明けましておめでとっ!俺が最初に言いたかったのにっ!」
「ふはっ、大丈夫だよ、俺に最初に言ってくれたのは璃都だから」
まあ、そうなんだけど。
そーじゃなくて。
カイより先に言いたかったのに・・・。
「意地悪オオカミ・・・」
嫌いになるぞって言おうとして、やめた。
新年早々、物騒な事になるのは避けたい。
「璃都を可愛がるのも虐めるのも泣かせるのも、俺だけだって言ったよ?」
「・・・言ってたっけ?」
あ、そうだった、りっくんと3人で食事した時に言ってた。
「可愛がる方向に重きを置いてよね」
「璃都がいい子にしてたらね」
まったくこの意地悪オオカミは・・・。
・・・まあいいや、思ってたんと違う感じだったけど年越しカウントダウンも終えたし、寝よ。
カイの膝から下りようとしたら、ぐっと抱き寄せられた。
「・・・え、どこ行くつもり?」
「ん?ベッド・・・あ、抱っこして連れてって・・・」
「ああ、そうか、姫初めだね」
「・・・ひめ、なに?」
なぜかご機嫌オオカミになったカイが、俺を姫抱きして寝室へ向かう。
初夢見れるかな。
なに見たら縁起がいいんだっけ?
確か・・・1富士、2鷹、3・・・あれ、3は・・・。
「なに考えてるの、璃都」
「3がなんだったっけなって思って・・・え?」
「ん?」
「どうして、脱がす、の?」
初夢について考えてる内に寝室に到着していて、ベッドに下ろされたんだけど、カイが当然のように部屋着のズボンを脱がそうとしている事に気が付いた。
年越し早々、ナニしようとしてんの変態オオカミ!
「どうしてって、璃都がベッドで姫初めシたいって言うから・・・」
「その、ひめはじめって、なに?」
「・・・実地で教えるね」
「いや、待って、だからなんで脱がす・・・ちょ・・・んゃ・・・っ」
そのまま、姫初めのなんたるかをたっぷり教え込まれたのだった。
───────
「明けましておめでとー!」
「今年もよろしく!」
「カイザル様、璃都様、明けましておめでとうございます」
「本年もよろしくお願いいたします」
元旦10時半。
りっくんと玲央 、シグマとローが家にやって来た。
俺がこの家に住むようになってから、初めてのお客様だ。
「みんな、明けましておめでとう!」
「ちょりと、玄関開けられるようになったのか?」
「ううん、開けられない。カイが開けた」
「そっか・・・まあ、頑張れよ」
この玄関の鍵、ほんとどーゆう仕組みになってんだろ。
みんなで1階のレセプションルームに行き、シグマはキッチンへ、ローは持ってきた包みを広げる。
「わ、すごい!」
出てきたのは漆塗りの重箱。
中身はもちろん、おせち料理だ。
「あっ、卵焼きいっぱい!」
「ちょりとが卵好きだから、たくさん焼いてきたんだー」
「え、このおせち料理、りっくんが作ったの?」
「もちろん。お雑煮も作ってきたよー」
シグマがキッチンに持って行ったの、お雑煮の鍋か。
りっくん、洋食だけじゃなく和食も作れるんだ、凄いな。
「玲央も料理するの?」
「カップラーメンが限界」
「それ料理じゃないし」
「ちょりとはできんのかよ?」
「まあね。独り暮らしで自炊してたし」
「・・・そうだった、お前お嬢様みたいな顔して苦労人なんだった」
「誰がお嬢様だ」
温めたお雑煮をシグマが運んできてくれて、6人でおせち料理を食べる。
普段、シグマが俺たちの前で座ったり食べたりしてるの見たことなかったから、なんか新鮮だな。
当然のように、カイとりっくんと玲央は日本酒を飲んでる。
食べたらみんなで初詣行くって言ってたけど、あんまり飲み過ぎないでよ・・・?
「カイ、りっくんのペースで飲まないで」
「んー?大丈夫だよ、りぃ」
「ほら酔ってる」
俺のことをりぃ呼びするのは酔ってる証拠だ。
カイのお猪口を下げて、お茶に変えとこ。
「ちょりともしっかり奥さんやってるじゃーん」
「そう?」
りっくんに言われて、ちゃんと奥さん出来てるのかって思うと、少し嬉しくなった。
それに、奥さんとか呼ばれるの、ちょっと慣れてきてるんだよな。
俺、これで大丈夫なのかな・・・。
「高校生で人妻、しかもハイイロオオカミ獣人の番とか、ちょりとは天性の苦労人だよな」
「玲央だって大学生でそうなったじゃん。まあ、苦労はしてきたけど、カイと一緒になってからは別に苦労してないし。毎日楽して暮らしてるよ」
「りぃに苦労なんてさせないよぉ。りぃが欲しい物はなんでも買ってあげるぅ」
「カイはお茶を飲め、お茶を」
あれ、そう言えば、シグマとローはどうなんだろ?
番いるのかな。
「シグマとローは、結婚してるの?」
「はい、私もローも番がおります」
「そうなんだ。え、いいの?俺たちの面倒なんて見てて」
「我々はそのための執事ですし、家族も良く理解しています。それに、普段はよくお休みをいただいておりますし、リシド様もカイザル様も、最近では手がかからなくなりましたから」
ローの言葉に、りっくんが「でしょー」とか言っておどけてるけど、俺は「最近では」って言葉が気になった。
「璃都様がいらしてくださって、カイザル様が定期的にあば・・・ご乱心なさる事もなくなりましたし、本当に安心しております」
定期的に暴れてたんだ?
困った暴れオオカミだったんだな、カイは・・・。
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