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第44話

冬休み最終日。 明日から学校・・・そう、学校なんだ。 「カぁイぃー、俺のリュックどこぉー?」 「リュックって?」 「オオカミサンタに貰ったリュックぅ!学校に持ってくのぉっ」 「学校?」 だから、なにそれ美味しいの?って顔、やめてってば。 しかも、リュック隠してるだろ? 返してよぉ! 「明日から学校だよ?カイも明日から仕事でしょ?送り迎えしてくれるよね?一緒に通学通勤してくれるよね?」 「んー・・・」 「カイぃ・・・もぉ、どーしたらリュック返してくれて、学校送り迎えもしてくれんの・・・?」 リビングのソファに座って、優雅にカフェラテを飲むカイに、後ろから抱き付く。 ・・・特に反応なし、か。 このまま首にでも噛み付いてやろうか・・・いや、怒らせたらどうすんだ。 カイのオオカ耳をもみもみしながら、カイの機嫌を取る方法を考えてたら・・・。 「璃都(りと)は甘えるの上手になってきたね」 「ほんと?じゃあ学校行ける?」 「もう一歩かな」 もう一歩・・・なんだろう、なにが足りないんだろう。 この冬休みは、ほとんど歩いてない。 家の中を移動する時はカイに手を伸ばし、抱っこしてもらったり、おんぶしてもらったりしてた。 昨日なんて、外に食事に行ったんだけど、完全に癖になってて人前でも普通に抱っこをせがんでしまったし・・・。 カイがもの凄く嬉しそうだったから、まあいっかって、そのまま抱っこしてもらっちゃったんだけど。 ・・・心なしか自力で歩く力が衰えた気がする。 「なにが足りないんだろ・・・」 「ふふ、なんだろうね」 カイの正面に回って、膝上に座って考える。 ・・・あ、座るのもカイの膝上って、完全に刷り込まれたな。 躊躇なく、当たり前に腰を下ろすようになってしまった。 ・・・あれ? 「カイ?」 「なあに?」 「なあにって、なんで?」 「うん?」 違和感すごいんだけど。 俺が膝上(ここ)座ったら、お腹に腕まわして支えてくれるんじゃないの? カフェラテはテーブルの上で、両手あいてるじゃん。 「こう」 カイの両手を掴んで、自分の腹の前にまわす。 よし、これで安定した。 「ふふっ、そうだったね」 嬉しそうに笑ったかと思ったら、俺の(うなじ)にちゅっとキスするカイ。 ・・・新学期早々、痕だらけとか困るんで控えていただきたいんですが。 「璃都は覚えが良くていい子だね。もうひとつできたら、学校へ行かせてあげる」 「やった!・・・え、もうひとつ?なに?」 「さて、なんでしょう」 なんなんだ・・・もうひとつ? 抱っこも、膝に座るのも、この冬休みで完全に習慣になった。 他に習慣になったものなんて・・・・・・・・・あ。 「あ、あれは・・・」 「そろそろ練習の成果を見せて欲しいな」 練習の成果と言われましても・・・。 やるしかない、か。 それで学校行けるなら、やろう。 覚悟を決めて身体を反転させ、カイの膝を跨ぐ。 カイの余裕の表情がムカつくな・・・。 「目ぇ瞑って」 「どうして?」 「マナー」 「ふはっ、どうして俺の璃都はそんなに可愛いのかな」 なんかわかんないけど喜んでる。 いいから早く目ぇ瞑れってば。 「瞑らないよ。ほら、して?」 ぐうぅ・・・変態オオカミめぇ・・・。 「学校、行かせて?」 そう言って、カイの唇に自分の唇を重ねる。 おねだりする時は、上目遣いだけでなくキスもするように言われた。 頑張ってね、の額にするキスじゃなく、ちゃんと唇に。 重ねてから、ぺろりと舐めて、カイが口を開けて舌を絡めるとこまで。 これの練習方法は、それはもう酷いものだった。 ベッドの上で「イかせてください」と言いながらキスで懇願するという、変態鬼畜オオカミ式の練習方法だ。 俺も必死で覚えたさ・・・。 「ん。可愛い。いいよ、学校行かせてあげる」 「わーい。で、リュックどこ?」 「シグマが持ってる。必要な物もちゃんと入れてあるよ」 なんだ、良かっ・・・ん? 「それって、最初から学校行かせてくれるつもりだったって事?」 「ん?」 「おねだりキスする必要あった?」 「うん」 「うん?いやないよね?キスしなくても俺、学校行けたよね?」 「ふふっ」 笑って誤魔化すなーっ! ─────── 「おはようございます、カイザル様、璃都様」 「おはよう」 「おはよシグマ俺のリュック持ってる?」 「お預かりしております」 ほんとにシグマに預けてたんだ・・・。 家中探しても見つからないはずだ。 「宝探しみたいで楽しかったでしょ?」 「ぜんっぜん・・・・・・ちょっと楽しかった」 「ふはっ」 なんだよ、子ども扱いして・・・。 仕方ないだろ、ほんとにちょっと楽しかったんだから。 ビリヤード台とかランドリールームとかパントリーとか、ちょこちょこ色んなとこにお菓子隠してあったし。 後半はリュックのこと忘れて、完全にお菓子探ししてたし・・・。 車に乗り込み、カイにシートベルトをしてもらって学校へ。 今日は始業式と授業が5限まで、その後ホームルームがあるから終わるのは15時半。 お昼は、カイが忙しいらしくお弁当を作ってくれた。 学校に到着し、カイに続いて車を降りる。 「行ってきます」 と言っても手を放してくれないカイの頬にキスして、俺は学校へ行くぞと意思表示する。 カイは「仕方ないな」って顔をして、俺の頬にキスのお返しをくれた。 「うん、行っておいで。いい子にしてるんだよ?」 「うん!」 教室に行くと、また騒がしいクラスメイトたちに囲まれた。 正直、鬱陶しい・・・なんて思っちゃうけど、俺に触らないよう気を使ってくれたり、他のクラスや他学年の生徒への警戒もしてくれてて、助かってはいる。 みんな、いいやつらだな。 騒がしいけど。 「ねえねえ、ルプスくんさ、元旦に初詣に来てたわよね?」 「俺も見た!すっごいオーラのヒトたちといたよな?誰?」 「ああ、旦那の従弟(いとこ)とその奥さんと、執事の兄弟」 「「「「執事!?」」」」 あー、うん、俺も「執事って現実に存在したんだ」って思った事あった。 いるんだよ、執事、有能だよ。 「執事のヒトも獣人?」 「うん。シェパードの獣人」 「従弟の奥さんは?」 「人間」 始業式を終え、授業を受けて、昼休み。 お弁当を食べようとしたら、スマホに着信が。 「玲央(れお)?」 『よっ。学校は行かせてもらえたか?』 「うん。今からお弁当食べるとこ」 『いいね。俺も今から飯食うとこ。話してていい?』 「いいけど、ちょっと待って、片手でお弁当開けられない」 『ハンズフリー用のヘッドセットあるだろ』 ハンズフリー用のヘッドセット・・・あ、そうだった。 カイが持たせてくれてたんだった。 「ヘッドセット持ってた。食べながら喋れる」 『ちょりとって頭いいのに、抜けてるよな』 「失礼だな」 学校の机で、玲央と話しながら弁当を食べる。 いつもは昼にりっくんが帰って来て一緒に食べてるらしいけど、今日はマンションで独りでご飯食べるから寂しいんだってさ。 玲央はりっくんの会社の法務部で働いてて、ほとんど在宅勤務。 たまにりっくんと一緒に出勤することもあるらしい。 毎日学校に行けるの羨ましいって。 『毎日外に出して貰えるのなんて、学生の間だけだからな。精々(せいぜい)楽しめ』 「ちょっとぉ、将来への不安を煽らないでよ。でも、在宅でも仕事はさせてもらえそうで、そこはちょっと安心してる」 『カイザルさんに「ちょりとの将来の夢はお嫁さん」って言っちゃおうかな。仕事なんてしないで家を守りたいって言ってましたよって』 「やめてよ、あのオオカミ本気にするから」 そんなこと話して笑いながら弁当を食べ終わり、そろそろ昼休みも終るので電話を切った。 その途端・・・。 「ルプスくん、電話の相手は旦那さん?」 「めっちゃ仲良さそうだね!」 「あ、いや、今のは従弟の奥さん。家で独りでご飯食べてて寂しかったみたいで・・・」 「従弟の奥さんとも仲良いの?」 「何歳?」 みんな、なんでそんなに知りたがるんだろ。 まあ別に、隠すことでもないし・・・。 「仲良いよ。従弟も含め4人で旅行行ったり遊んだりするし。奥さんは25歳、因みに旦那と従弟は28」 予鈴が鳴って、みんな席に戻り担任の戸次(とつぎ)先生が教室に入って来た。 戸次先生は物理の教師・・・つまり食後の授業が物理ということ。 ヤバい・・・あくびを噛み殺し過ぎて涙が止まらない。 授業に集中しなきゃ・・・。 「ルプス」 「・・・っ!?は、はいっ」 「ホームルームの後、職員室に来てくれ」 「・・・はぃ」 再びの、名指しで呼び出し。 あくびを噛み殺すことも許されないのか・・・戸次先生厳し過ぎない・・・?

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