44 / 75
第44話
冬休み最終日。
明日から学校・・・そう、学校なんだ。
「カぁイぃー、俺のリュックどこぉー?」
「リュックって?」
「オオカミサンタに貰ったリュックぅ!学校に持ってくのぉっ」
「学校?」
だから、なにそれ美味しいの?って顔、やめてってば。
しかも、リュック隠してるだろ?
返してよぉ!
「明日から学校だよ?カイも明日から仕事でしょ?送り迎えしてくれるよね?一緒に通学通勤してくれるよね?」
「んー・・・」
「カイぃ・・・もぉ、どーしたらリュック返してくれて、学校送り迎えもしてくれんの・・・?」
リビングのソファに座って、優雅にカフェラテを飲むカイに、後ろから抱き付く。
・・・特に反応なし、か。
このまま首にでも噛み付いてやろうか・・・いや、怒らせたらどうすんだ。
カイのオオカ耳をもみもみしながら、カイの機嫌を取る方法を考えてたら・・・。
「璃都 は甘えるの上手になってきたね」
「ほんと?じゃあ学校行ける?」
「もう一歩かな」
もう一歩・・・なんだろう、なにが足りないんだろう。
この冬休みは、ほとんど歩いてない。
家の中を移動する時はカイに手を伸ばし、抱っこしてもらったり、おんぶしてもらったりしてた。
昨日なんて、外に食事に行ったんだけど、完全に癖になってて人前でも普通に抱っこをせがんでしまったし・・・。
カイがもの凄く嬉しそうだったから、まあいっかって、そのまま抱っこしてもらっちゃったんだけど。
・・・心なしか自力で歩く力が衰えた気がする。
「なにが足りないんだろ・・・」
「ふふ、なんだろうね」
カイの正面に回って、膝上に座って考える。
・・・あ、座るのもカイの膝上って、完全に刷り込まれたな。
躊躇なく、当たり前に腰を下ろすようになってしまった。
・・・あれ?
「カイ?」
「なあに?」
「なあにって、なんで?」
「うん?」
違和感すごいんだけど。
俺が膝上 座ったら、お腹に腕まわして支えてくれるんじゃないの?
カフェラテはテーブルの上で、両手あいてるじゃん。
「こう」
カイの両手を掴んで、自分の腹の前にまわす。
よし、これで安定した。
「ふふっ、そうだったね」
嬉しそうに笑ったかと思ったら、俺の頸 にちゅっとキスするカイ。
・・・新学期早々、痕だらけとか困るんで控えていただきたいんですが。
「璃都は覚えが良くていい子だね。もうひとつできたら、学校へ行かせてあげる」
「やった!・・・え、もうひとつ?なに?」
「さて、なんでしょう」
なんなんだ・・・もうひとつ?
抱っこも、膝に座るのも、この冬休みで完全に習慣になった。
他に習慣になったものなんて・・・・・・・・・あ。
「あ、あれは・・・」
「そろそろ練習の成果を見せて欲しいな」
練習の成果と言われましても・・・。
やるしかない、か。
それで学校行けるなら、やろう。
覚悟を決めて身体を反転させ、カイの膝を跨ぐ。
カイの余裕の表情がムカつくな・・・。
「目ぇ瞑って」
「どうして?」
「マナー」
「ふはっ、どうして俺の璃都はそんなに可愛いのかな」
なんかわかんないけど喜んでる。
いいから早く目ぇ瞑れってば。
「瞑らないよ。ほら、して?」
ぐうぅ・・・変態オオカミめぇ・・・。
「学校、行かせて?」
そう言って、カイの唇に自分の唇を重ねる。
おねだりする時は、上目遣いだけでなくキスもするように言われた。
頑張ってね、の額にするキスじゃなく、ちゃんと唇に。
重ねてから、ぺろりと舐めて、カイが口を開けて舌を絡めるとこまで。
これの練習方法は、それはもう酷いものだった。
ベッドの上で「イかせてください」と言いながらキスで懇願するという、変態鬼畜オオカミ式の練習方法だ。
俺も必死で覚えたさ・・・。
「ん。可愛い。いいよ、学校行かせてあげる」
「わーい。で、リュックどこ?」
「シグマが持ってる。必要な物もちゃんと入れてあるよ」
なんだ、良かっ・・・ん?
「それって、最初から学校行かせてくれるつもりだったって事?」
「ん?」
「おねだりキスする必要あった?」
「うん」
「うん?いやないよね?キスしなくても俺、学校行けたよね?」
「ふふっ」
笑って誤魔化すなーっ!
───────
「おはようございます、カイザル様、璃都様」
「おはよう」
「おはよシグマ俺のリュック持ってる?」
「お預かりしております」
ほんとにシグマに預けてたんだ・・・。
家中探しても見つからないはずだ。
「宝探しみたいで楽しかったでしょ?」
「ぜんっぜん・・・・・・ちょっと楽しかった」
「ふはっ」
なんだよ、子ども扱いして・・・。
仕方ないだろ、ほんとにちょっと楽しかったんだから。
ビリヤード台とかランドリールームとかパントリーとか、ちょこちょこ色んなとこにお菓子隠してあったし。
後半はリュックのこと忘れて、完全にお菓子探ししてたし・・・。
車に乗り込み、カイにシートベルトをしてもらって学校へ。
今日は始業式と授業が5限まで、その後ホームルームがあるから終わるのは15時半。
お昼は、カイが忙しいらしくお弁当を作ってくれた。
学校に到着し、カイに続いて車を降りる。
「行ってきます」
と言っても手を放してくれないカイの頬にキスして、俺は学校へ行くぞと意思表示する。
カイは「仕方ないな」って顔をして、俺の頬にキスのお返しをくれた。
「うん、行っておいで。いい子にしてるんだよ?」
「うん!」
教室に行くと、また騒がしいクラスメイトたちに囲まれた。
正直、鬱陶しい・・・なんて思っちゃうけど、俺に触らないよう気を使ってくれたり、他のクラスや他学年の生徒への警戒もしてくれてて、助かってはいる。
みんな、いいやつらだな。
騒がしいけど。
「ねえねえ、ルプスくんさ、元旦に初詣に来てたわよね?」
「俺も見た!すっごいオーラのヒトたちといたよな?誰?」
「ああ、旦那の従弟 とその奥さんと、執事の兄弟」
「「「「執事!?」」」」
あー、うん、俺も「執事って現実に存在したんだ」って思った事あった。
いるんだよ、執事、有能だよ。
「執事のヒトも獣人?」
「うん。シェパードの獣人」
「従弟の奥さんは?」
「人間」
始業式を終え、授業を受けて、昼休み。
お弁当を食べようとしたら、スマホに着信が。
「玲央 ?」
『よっ。学校は行かせてもらえたか?』
「うん。今からお弁当食べるとこ」
『いいね。俺も今から飯食うとこ。話してていい?』
「いいけど、ちょっと待って、片手でお弁当開けられない」
『ハンズフリー用のヘッドセットあるだろ』
ハンズフリー用のヘッドセット・・・あ、そうだった。
カイが持たせてくれてたんだった。
「ヘッドセット持ってた。食べながら喋れる」
『ちょりとって頭いいのに、抜けてるよな』
「失礼だな」
学校の机で、玲央と話しながら弁当を食べる。
いつもは昼にりっくんが帰って来て一緒に食べてるらしいけど、今日はマンションで独りでご飯食べるから寂しいんだってさ。
玲央はりっくんの会社の法務部で働いてて、ほとんど在宅勤務。
たまにりっくんと一緒に出勤することもあるらしい。
毎日学校に行けるの羨ましいって。
『毎日外に出して貰えるのなんて、学生の間だけだからな。精々 楽しめ』
「ちょっとぉ、将来への不安を煽らないでよ。でも、在宅でも仕事はさせてもらえそうで、そこはちょっと安心してる」
『カイザルさんに「ちょりとの将来の夢はお嫁さん」って言っちゃおうかな。仕事なんてしないで家を守りたいって言ってましたよって』
「やめてよ、あのオオカミ本気にするから」
そんなこと話して笑いながら弁当を食べ終わり、そろそろ昼休みも終るので電話を切った。
その途端・・・。
「ルプスくん、電話の相手は旦那さん?」
「めっちゃ仲良さそうだね!」
「あ、いや、今のは従弟の奥さん。家で独りでご飯食べてて寂しかったみたいで・・・」
「従弟の奥さんとも仲良いの?」
「何歳?」
みんな、なんでそんなに知りたがるんだろ。
まあ別に、隠すことでもないし・・・。
「仲良いよ。従弟も含め4人で旅行行ったり遊んだりするし。奥さんは25歳、因みに旦那と従弟は28」
予鈴が鳴って、みんな席に戻り担任の戸次 先生が教室に入って来た。
戸次先生は物理の教師・・・つまり食後の授業が物理ということ。
ヤバい・・・あくびを噛み殺し過ぎて涙が止まらない。
授業に集中しなきゃ・・・。
「ルプス」
「・・・っ!?は、はいっ」
「ホームルームの後、職員室に来てくれ」
「・・・はぃ」
再びの、名指しで呼び出し。
あくびを噛み殺すことも許されないのか・・・戸次先生厳し過ぎない・・・?
ともだちにシェアしよう!

