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第45話
短いホームルームの後、戸次 先生に連れられて職員室へ。
職員室の奥の、パーテーションで区切られたスペースで、向かい合ってイスに座る。
「それで、冬休みはどうだった」
「・・・え?あ、はい、普通に・・・その、すみません、あんまり勉強してなかったかもです・・・」
年末も遊んでたけど、年始もりっくんと玲央 と4人でご飯行ったり、映画観たり、オンラインゲームしたりして遊びまくってた。
書斎で勉強したのなんて、2日に1回長くて2時間とかだったし。
「それはいいが、ルプス・・・つらいことがあったんじゃないのか?」
「・・・つらい、と言いますと?」
「言い難 いことなのか?その・・・泣いてただろ」
・・・・・・あっ!
誤解だ、あくびを噛み殺してただけなんだけど、でもそれを言ったら授業中にあくびしてたのかってなるし、ど、どうしよ・・・。
「えっ・・・と、その、大丈夫です、つらくて泣いたとかではないです、ほんとに。ご心配をおかけしてすみません」
「ならいいが・・・。大学も合格したし、3学期は登校しないかもしれないと思ってたんだ。旦那さんは反対しなかったのか?」
カイは反対・・・してるって感じでもなかったけど、どちらかと言うと行かなくていいってスタンスじゃないかな。
おねだりすればちゃんと行かせてくれるし。
「そんなことないです。行かせてって言えば行かせてくれますし。お弁当も作ってくれましたし」
「そうか・・・それならやっぱり、あの涙はあくびが原因か」
バレとる。
「・・・すみません」
お説教が始まるかと思ったら、スマホがぶーぶー鳴り始めた。
ナイスタイミング!
「先生、迎えが来てしまったようです」
「ああ、気を付けて帰れよ」
「はい、さよならぁ」
職員室を出てスマホをポケットから取り出す。
「カイ?今出るから」
「うん。教室にいないみたいだけど、何処にいるの?」
ロータリーから教室の窓が見えるから、俺が教室にいないのもバレてる訳ね。
「職員室。理由は車で話すから」
靴を履き替え昇降口を出て、車の前に立つカイの元へ走る。
「ただいまっ」
「お帰り。おいで」
俺からリュックを下ろさせシグマに渡し、当然のように抱き上げて車に乗り込むカイ。
帰りは膝の上かー・・・。
「会社行くの?」
「いや、今日は遅くなるし会食もあるから、璃都 を連れて帰って夕飯作ってから、また出るよ」
「そっか・・・」
なんだろ、冬休みずっと一緒にいたから、なんか・・・。
「それで、職員室にはなんの用で行ったの?」
「あ、それが・・・午後イチが担任の授業だったんだけど、あくびが止まらなくて・・・」
「俺の璃都だけ呼び出されて注意されたってこと?担任の嫌がらせ?それとも、まさか・・・」
車内の空気がピリついた。
「違うよ!俺が泣いてるって誤解して、心配してくれたみたいで、注意されたとかじゃないから!」
「・・・心配?璃都の涙に興奮して、人気 のない空き教室に呼び出したんじゃなく?」
「なに言ってんの?戸次先生は生徒の涙に興奮なんてしないし、そーゆうことしない。変な誤解しないで」
カイじゃあるまいし。
まったく、ほんとなに言ってんの。
嫉妬オオカミはちょっと面倒臭いな。
・・・でも、そんなあり得ないシチュエーションまで想像しちゃうくらい、俺に執着してるんだなって思うと、なんか・・・嬉しいとか思わなくもない。
無意識に顔が緩 んじゃって、それを隠そうとカイの首元に顔を埋める。
「璃都?・・・俺と離れて、寂しかった?」
・・・それ、言っちゃう?
この後、俺を家に置いてまた仕事に行く癖に。
「・・・・・・言わない」
「ふふっ、可愛い」
俺の頭を撫でながら、額にキスしてくれるカイ。
たった1日、学校に行ってる間離れてただけで、寂しかったとかなに言ってんだろって思うのに、こんなに離れ難 いんじゃ認めざるを得ない。
俺、こんなんで大丈夫かな・・・。
「学校、やめる?」
「やめないぃ」
「仕方ない子だな」
家に着き、カイに抱っこされたまま帰宅。
俺は寝室に着替えに行き、カイはキッチンへ。
忙しいのに、わざわざ俺の夕飯作りに帰ってきてくれるんだから、完璧オオカミだよな。
着替え終わってキッチンへ行くと、スーツのジャケットを脱いでワイシャツの袖を捲 り、エプロンをして手際よく料理をする完璧オオカミがいる。
・・・なんか、見てるとうずうずしてきた。
「璃都?やっぱり寂しかったんだね。もう一生そうしてくっ付いててくれていいよ」
「一生はしない・・・邪魔になるし・・・」
カイの背中にしがみ付いて、邪魔だってわかってるのに離れられない。
俺、どうしちゃったんだろ。
「璃都が邪魔になることなんてないよ。なんなら、俺にとっては璃都以外が邪魔だし。ねえ、言いたいことあるんでしょ?言ってごらん」
「・・・やだ。それ言ったらカイにも他の人たちにも迷惑だし、人としてダメだし」
カイが、嬉しそうな顔のまま、ため息をついた。
「可愛い可愛い俺のダメ璃都になるには、まだ調教が足りなかったかな」
調教って・・・俺は猛獣か。
カイは言って欲しそうだけど、俺の中の常識人が踏み止 まらせてる。
無責任に「行かないで」なんて言えない。
カイは3つの会社のCEOなのに、自分勝手に甘えて引き止めたりなんて・・・。
よし、話題を変えよう。
「俺も手伝う!メニューなに?」
「親子丼と、ほうれん草とにんじんのナムル。あとは、作り置きのレンコンの柚子胡椒和え・・・」
「じゃあ味噌汁作ろ」
「ほんと?俺の分も残しておいてね、帰ったら飲みたいから」
俺の好物を完全把握してるカイの好物は、俺の作った味噌汁らしい。
1番は初めてカイに作った細切り大根の味噌汁。
2番は具だくさんの豚汁。
3番はカボチャとナスの味噌汁と、豆腐とワカメの味噌汁と、しじみのすまし汁。
いつも、美味しいって言って、オオカ耳を伏せながら幸せそうな顔して飲んでくれる。
それを見てるのが、凄く好きだ。
今日の味噌汁は・・・カブとあおさにしよう。
───────
「ねえ璃都、やっぱり言って欲しい。ちゃんと仕事行くって約束するから、言うだけ言って欲しい」
夕飯の支度を終え、玄関ホールまでカイを見送りに来たんだけど、さっき言わなかった言葉を言えと宣 う。
・・・言わなきゃ行かない雰囲気だし、そこまで仰るのでしたら言うだけ言いましょうか。
顔見て言うのが恥ずかしいから、カイにぎゅっと抱きついて。
「カイ・・・行かないで。一緒にいて・・・」
「わかった行かない」
抱き付く俺より強い力で抱きしめ返してくる嘘つきオオカミ。
話が違う!
「こら!ちゃんと行くって約束したのにっ」
「だって・・・璃都が可愛くて・・・置いて行けないよ・・・」
「それでも仕事だからって言って、嫁を振り払って仕事に行くのが旦那でしょ?」
「俺は嫁の言うことには逆らわない旦那なので」
責任ある大人がなに言ってんの。
「カイがダメ獣人になるなら、俺が頑張って働きに出ないとだね」
「嫌だよなんで璃都が外に出るの!?家に居て!ちゃんと行って、急いで帰ってくるから、俺たちの家に居て。璃都は絶対外に出ないで、俺のことだけ考えて、俺のこと待っててよ・・・」
「はいはい。出ないし、出られないし、待ってるから。行ってらっしゃい、旦那様」
「うん・・・愛してるよ、俺の可愛い奥さん」
そう言いながらいつまで経っても放してくれなかったけど、痺れを切らしたシグマに促され、やっと出かけて行った。
世話の焼ける旦那様だな・・・。
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