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第46話
1月の最終週に卒業考査があり、2月からは自由登校期間になった。
受験も済んでる俺は、本格的に暇になってしまう。
クラスのみんなは、一般受験に向けて勉強に来たり、受験が済んでるやつは部活に遊びに行ったりしてるみたい。
部活に参加してなかった俺は、自由登校期間中、学校には居場所がない訳だ。
「用事がないなら、璃都 は学校に行く必要ないよね?俺と一緒に通勤しようか。勉強がしたいなら、大学で使う参考書を買い揃えておいたから、好きなの持っておいで」
こんな感じで、大体はカイと一緒に通勤し、カイの執務室で参考書読んだり、部屋に戻ってきたカイをあやしたり、ゲームしたり、カイとランチ行ったり、玲央 と電話したり、おやつ食べたりしてた。
そして今日、俺は家から出ない宣言をする。
「お留守番してる」
「そう?本当に?俺が居ないのをいいことに家から勝手に出たり・・・」
「だから俺、玄関開けられないんですけど?そろそろ開け方教えてよ」
「絶対教えない」
「意地悪オオカミ」
まあいい。
別に外に出ようなんて思ってないし。
本当に留守番するんだから。
「行ってらっしゃい」
「行ってきます・・・ねえ、やっぱり一緒に会社においで?」
「今日は行かない。ほら、遅刻するよ」
カイ、耳が折れた状態で出かけて行った。
ちょっと可哀想だったかな。
でも、帰ってきたらイイコトあるから、仕事頑張って。
「よし、やるか!」
そう、今日は2月14日、バレンタインデーなのだ。
なにを作ろうか色々迷ったんだけど、自分も食べたいと思ってオペラを作ることに。
レシピを確認しながら作り始め、割と早い段階で「ガトーショコラにしとけば良かった」と後悔することになった。
「工程が多い・・・」
そりゃそうだよね、生地、コーヒー風味のバタークリーム、チョコレートガナッシュ、コーヒーシロップ、グラサージュを作らなきゃいけないんだから。
生地をオーブンで焼いている間にバタークリームとガナッシュを作り、焼き上がった生地をケーキクーラーに乗せて冷ましながらコーヒーシロップとグラサージュを作る。
悪戦苦闘しながら生地を切り、コーヒーシロップを染み込ませてからバタークリームを塗り、生地を重ねてコーヒーシロップを染み込ませてからのガナッシュ・・・を繰り返す。
生地を重ねていきながら、カイとクリスマスケーキを作った時を思い出した。
・・・カイと一緒に作ったら、もっと楽しかったんだろうな。
「・・・なに考えてんだ。それじゃサプライズになんないじゃん」
グラサージュをかける前に、クリームを重ねた生地を冷蔵庫に入れて冷やし固める。
やっとひと息つけるな・・・。
白ブドウジュースをグラスに注ぎ、カウンターチェアに座ったらスマホがぶーぶー・・・。
「カイ?ちゃんと仕事してる?」
『してるよ。璃都はなにしてるの?』
「ん?・・・ゲームしたり、参考書読んだり・・・」
『キッチンでジュース飲んだり?』
・・・え?
なんで、知って・・・?
『ランチの誘いに来たんだけど、冷蔵庫に何かしまった?』
「なっ!?」
監視カメラか!?
どこだ?
どこ・・・・・・ってカイいるしっ!
「お、お帰り、なさぃ」
『ただいま』
「いやもう通話はいいから。いつからそこに居たの?」
てか、なんで居るの?
・・・あ、そっか、俺のお昼を用意してないからわざわざ迎えに来たのか。
今日はお昼も自分で作るって、言っておけば良かった・・・。
「ついさっき。璃都が何か冷蔵庫に入れて、代わりに白ブドウジュースを出してるとこから、見てたよ」
・・・何かってことは、ケーキ作ってたことはバレてないみたい。
よし、しらばくれよう。
グラスの白ブドウジュースを一気飲みし、立ち上がる。
「ランチね、行こう。すぐ着替えてくるから、冷蔵庫に触らずに待ってて!いややっぱり一緒に来て、俺の傍にいて!」
「ふふっ、わかった。冷蔵庫の中見ないから、着替えてるとこ見てていいよね?」
「へんた・・・ぃいよ」
サプライズのためだ・・・。
───────
「んんっ!んーふぃ」
「ほんと、璃都が美味しそう」
「んぐ・・・っ、俺じゃなくてパスタ食べてよ・・・」
ランチはイタリアン。
スープとサラダとパスタのランチセットだ。
ドルチェセットにしないのか、とカイに聞かれたけど、スープとサラダもあってお腹いっぱいになっちゃうからと断った。
・・・冷蔵庫に作りかけのドルチェあるし。
「ランチ食べたら一緒に出社しない?」
「しない。今日はお留守番したい気分なの」
「ふふっ、そっか。オーブンで火傷しなかった?」
「してな・・・いや、オーブンてなに?俺は参考書読んで遊んでただけだしっ!」
「璃都は参考書で遊ぶ子なんだね」
・・・なんか、バレてるっぽいんですけど。
なんのために生着替え見せたと思ってんだよ・・・。
「ごめん、怒らないで。もう聞かないから。じゃあ、午後も璃都はお留守番ね」
「うん。カイの留守は俺が守る」
「頼もしい番 ネコさんだ」
ランチの後、お茶しながら少しゆっくりして、家に送ってもらった。
玄関ホールでカイを見送り、2階のキッチンへ行く。
冷蔵庫から取り出した生地に、湯煎したグラサージュをかけて、また冷蔵庫へ。
冷えてグラサージュが固まったら、切り分けて金箔を飾って完成だ。
・・・我ながら、とても良くできた。
使った調理器具の後片付けをしながら、俺はやっと気付く。
このキッチンを見れば、明らかにケーキ作ってるのバレバレだったじゃん・・・。
ケーキは上手 くできたけど、サプライズは失敗だな・・・。
───────
「美味しい・・・!璃都の将来の夢って、パティシエだったの?」
「違うよ。製薬会社の研究職」
サプライズは失敗でも、ケーキは大成功だった。
自分でも食べたけど、上出来だと思う。
「璃都からバレンタインに手作りケーキ貰えるなんて、俺、本当に幸せだよ」
「大袈裟ぁ。でも、喜んでくれて俺も嬉しい」
俺が作ったケーキを美味しそうに食べてくれるカイを見てると、本当に嬉しくて顔が緩みっぱなしになる。
前にカイが「俺の作った朝食を美味しそうに食べてるのが嬉しくて。動画撮ればよかった」って言ってたの思い出した。
「ねえ、動画撮ってもいい?」
「いいよ」
「あはっ、いいんだ?」
許可が出たから撮っちゃお。
ケーキ食べながら、こっちに笑いかけてくれるイケメンオオカミ獣人にスマホを向ける。
・・・ああ、好きだな、このヒトのこと。
「カイ、大好きだよ。愛してる」
動画を撮りながら、思わず口にした言葉。
この愛おしさは、言葉なんかじゃ言い表せないけど、ほんの少しでも伝わるなら。
「璃都・・・っ、愛してる・・・璃都は俺の全てだ・・・っ!」
どんな花より美しい顔 で、どんな宝石より綺麗な涙を流しながら、俺の最愛が笑った。
───────
「そう言えば、どうして製薬会社の研究職なの?」
ベッドの上でカイに腕枕されながら、何時間か前に言った将来の夢について聞かれる。
・・・ちょっと今、それどころじゃないんだけど。
喉痛いし。
「・・・じゅ・・・じんの、くすり・・・つくり、たくて・・・」
「獣人の薬?」
獣人と人間は基本的に同じ薬を処方されるけど、獣人特有の肉体的、精神的疾患に対する薬は少ない。
ずっと家族が欲しくて、番になった相手を生涯大切にする獣人の番になれたらって思ってた俺が、俺を選んでくれたヒトのためにできることだと思ったから。
「そっか。璃都は将来の夢も、俺のために選んでくれたんだね」
まあ、そう・・・そうなんだけど。
ちょっと方向を変えようかと思い始めてる。
「オぉカミのせぇてきこぉふんを抑えるくすり、つくる・・・」
「ふはっ、なにそれ、やめてよ。薬なんかじゃ到底抑えられないから。諦めて抱かれて、璃都」
「ぃや、もぉむり・・・んんぅ・・・っ」
そっか、薬効かないか・・・。
じゃあ、獣人の番になった人間を救 ける薬、開発しよ・・・。
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