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第47話
「7日金曜 が予行練習、8日土曜 が卒業式本番だね」
「うん」
「答辞 は読まないの?」
「読まないよ。成績は良かったけど、バイトするために部活参加してなかったし」
夕食後のまったりタイム。
カイと卒業式について話してる。
「そっか・・・あ、式場に璃都 専属のカメラが入るから、気付いたら視線ちょうだいね」
「はあっ!?」
なぜ一生徒に専属カメラが付くのか・・・。
やめてよぉ・・・。
「大丈夫、プロだから他の生徒に気付かれないように動くはずだよ」
「そーですか・・・」
イケメン完璧ハイイロオオカミ獣人が夫として参列する時点でめちゃくちゃ目立つのに、専属カメラが付くなんて・・・。
卒業式という高校最後のイベントで、悪目立ちしそうだな・・・。
「式にはカイと、シグマも来るの?」
「一緒に行くけど、式場に入るのは俺とリシドと玲央 だけだよ」
「えっ!?ちょ、なんでりっくんと玲央も参列するの?更に目立つじゃんっ」
うう・・・必要以上に注目される・・・けど・・・。
「・・・でも、嬉しい、かも」
「そう?良かった」
「うん。だって、独りで卒業するはずだったから。家族が来てくれるなんて、思ってなかったし・・・」
カイに逢うまでは、独りで生きていくんだって覚悟してた。
施設から引っ越した時も、入学式も、面談も、俺独りでやってきた。
「なら・・・もっと呼ぼうか?」
「ううん!大丈夫!3人で充分過ぎるからっ!」
もっとって、誰をもっと呼ぶつもりなんだ・・・。
カイだけでも、凄く嬉しいのに。
学校行事がこんなに楽しみなの、初めてだな。
───────
「ちょりと!お従兄 ちゃんたちもちょりとの晴れ姿、見てるからなー」
「答辞読むと思ってたのに、違うんだって?」
卒業式当日。
学校に着いたら、りっくんと玲央も来てくれてた。
生徒だけでなく、卒業生の保護者たちからも注目を浴びているが・・・今日限りだし、気付かないフリしとこ。
俺以外の3人は、注目されるのなんて慣れっこなのか気にしてないし。
「それじゃ、後でね」
「目が合ったら手ぇ振ってねー」
「シド、騒ぐなよ?」
「待って璃都」
教室に向かおうとしたら、カイに呼び止められた。
カイは俺を抱き寄せて、唇にちゅっとキスをしてくる。
生徒も保護者も周りにたくさんいるのに。
・・・これ、人が多いとこでカイがよくやる、視覚的マーキングだ。
「ここ、学校ですよ?」
「俺たちは番ですよ?」
いやいや、教育的に良くないって話なんだけど。
まあ、いっか。
「教室行くね」
「うん。式場で待ってる。俺には手を振るだけじゃなくて、投げキスもして?」
「しない」
教室へ行き、久しぶりに会うクラスメイトたちと話す。
クラスメイトとよく話すようになったのも、カイのおかげなんだよね。
「イケメンと美人のカップル、ほんと絵になるよねー」
「旦那さんの従弟 もその奥さんも、綺麗だったな!」
「はは・・・ありがと」
胸花の、小さな桜のブーケを制服の左胸に飾る。
担任の戸次 先生と最後のホームルームを過ごしてから、式場へと向かった。
「卒業生、入場」
厳 かな雰囲気の中、保護者席の間を進む。
カイたちは・・・保護者席の最前列の真ん中に座ってた。
目立つからすぐわかるな・・・。
宣言通りりっくんが満面の笑みで手を振ってる。
玲央まで一緒になって振ってるし。
控えめに振り返すと、りっくんがはしゃいで玲央に抑え付けられた。
カイは・・・優しい笑顔でずっと見つめてくる。
投げキスなんてさすがにできない・・・けど、これくらいなら、と思って。
カイに向かってウインクしてみせた。
「・・・っ!?」
カイの驚いた顔、珍しい。
いいもの見れたな。
卒業生が席に着き、式が進んでいく。
卒業証書の授与で壇上に上がり、校長先生から卒業証書を受け取って一礼。
壇上を下りる時も、カイと目が合った。
・・・もぉ、そんな甘過ぎる笑顔・・・やめてよ、泣いちゃうじゃん・・・。
その後も粛々と式は進み、閉式して、卒業生退場となった。
「良い式だったねー」
「ちょりと、壇上で泣いてなかった?」
「なっ、泣いてないっ」
「俺は泣いちゃった。ここで俺の璃都が頑張ってきたんだなって思ったら・・・璃都が愛おしくて・・・」
「カイ、泣かないで、俺まで泣きそうになるからっ」
俺に抱き付くめそめそオオカミをあやしながら、車へ向かおうとしたら・・・。
「ルプス様、最後に皆様揃って、校舎前でお写真を撮らせていただけますか?」
「ええ、お願いします」
「・・・え、誰?」
突然現れたと思ったその男性は、俺に付いてた専属カメラマンさんだった。
・・・今まで全然気付かなかった・・・さすがプロ。
4人並んで、普通にすました笑顔で撮ったり、ちょっとふざけて撮ってみたり、カイに抱き上げられて撮ったり、カメラマンさんにのせられて色んな表情で撮ってもらった。
人生で一番、写真撮ったな・・・。
「それでは、お写真はアルバムにして、DVDと合わせてお送りいたします」
「ええ、お願いします」
カメラマンさんが帰り、俺たちも車に乗り込んだんだけど、ちょっと気になって聞いてみる。
「DVDって、写真データ?」
「それもあるけど、動画も撮ってもらってるはずだから、写真データと合わせて編集してくれるはずだよ」
「そ、そこまで・・・カメラマンさん独りだったよね?」
プロって本当に凄いな・・・。
───────
卒業式から1週間後、届いたアルバムとDVDを見てる。
凄いカメラマンさんだったみたいで、動画なんてまるで映画みたいだった・・・。
「すご・・・この動画で泣きそ・・・」
「本当に良くできてるね。写真も全部、璃都の可愛い瞬間を完璧に捉えてる。ヘラルダ姉さんに頼んで正解だった」
あ、カメラマンさんはお義姉 さんに紹介してもらった人だったんだ。
お義姉さんは超有名デザイナーで、複数のブランドを経営してるんだって。
「・・・もしかして、あのカメラマンさんて」
「うん?有名なカメラマンみたいだよ」
「そんな人に、高校生の卒業式の写真を撮らせるなんて・・・」
でも、アルバムも凄く良くて・・・嬉しい。
特に、校舎前でみんなで撮った写真と、カイが俺を抱き上げて笑顔の写真・・・この写真一番好き。
「璃都のウインク、可愛く撮れてる」
「はっ!?嘘、撮られて・・・恥ずっ!」
カメラマンさん、どこにいたんだろ。
ほんとに全く気付かなかった・・・。
「次は大学の入学式だけど、その前に新婚旅行へ行こう」
あ、そうだ、結婚式は挙げないけど新婚旅行は行こうって言ってたんだった。
世界一周とか言い出したから、大規模にしないでって言っといたけど、どこに行くのかな。
「どこに行くの?」
「島」
「しま・・・え、島?」
カイがパンフレットを見せてくれる。
完全プライベートのリゾートアイランド、3月は乾季で晴れの日が続き、暖かいプライベートビーチで過ごすひと時は最高・・・って、ここ海外じゃん。
「俺、パスポート持ってない・・・」
「代理申請で取得済みだよ」
「やった!初海外!どおしよ!凄い!」
「ふふっ、喜んでくれて良かった」
日程は、来週の水曜から1週間。
現地の気温は平均27℃だって・・・あったかいな。
夏服なんて持ってな・・・。
「璃都が新婚旅行で着る服、ヘラルダ姉さんから送られて来てるから、それを持って行こう。全て姉さんがデザインして作ったって。試着してみよう?」
「え!?お義姉さんが作ってくれたの?」
それ、俺なんかが着ていい服?
着こなせる気がしないんだけど・・・。
「姉さんに、璃都にモデルになって欲しいって言われたんだけど、ごめん、勝手に断った。その代わり、全ての服を着た璃都の写真を送るよう言われてるから、試着したら写真撮らせて?」
「断ってくれて良かった。モデルなんてムリ。全て・・・って、何着あるの?」
「コーディネート済みセットアップ25セット、水着3セット、内緒のが10着」
「・・・ないしょとは?」
それから、おしゃれ且 つサイズぴったりな服を着ては撮影し脱ぎ、着ては撮影し脱ぎを何回も繰り返す事になった。
しかも、寝室の窓の前とかリビングのソファとかバルコニーとか庭のテラスとか、家中の撮影スポットでポーズをとらされて・・・。
内緒の10着がなんなのかは教えてもらえなかったけど、疲れてどうでもよくなってた。
お義姉さん、もう服は送ってこないでください。
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