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第48話

璃都(りと)、クラゲ連れて行く?」 「え?なんで?別にクラゲいないと眠れないとかないけど?」 「フライト5時間ちょっとだけど、我慢できる?」 「子どもじゃないんだから・・・5時間か・・・え、どおしよ、1匹連れて・・・いや余計な荷物になるじゃん」 今日から新婚旅行。 早朝から出かける準備でばたばた・・・と思いきやそうでもなく、いつものお出かけ気分で身支度を整えてる。 荷物は既にカイが荷造りして、シグマが向こうのホテルに送ってくれたらしく、1週間の海外旅行に行くとは思えない軽装だ。 つまり、俺は手ぶら・・・だからミズクラゲクッションを持って歩くことはできる。 ・・・って、いやいや必要ないだろ。 「カイは5時間、飛行機の中でなにするの?」 「璃都を見てる」 「俺の観察・・・じゃあ俺もオオカミ観察しよ」 目には目をだ。 それに、飛行機に乗るのも初めてだし。 「飛行機って、揺れる?」 「天候によっては・・・クラゲ連れて行こうか」 「・・・カイがそこまで言うなら、連れてく」 ソファの上でくったりしているミズクラゲクッションを掴み、ぎゅっと抱えた。 そう、これは俺が飛行機ちょっと恐いからとかじゃない。 カイがクラゲを連れて行きたそうだからだ。 それから、車に乗り込んで空港へ向かったんだけど、まさかのジェット機横付け。 プライベートジェットだって・・・初飛行機がプライベートジェットって・・・。 因みに、空港まではシグマが付いてきてくれたんだけど、現地ではコーディネーターを頼んでいるからここでお別れ。 「いってらっしゃいませ、カイザル様、璃都様」 「ああ。お前も楽しめよ」 「いってきまぁす!」 シグマも明日から奥さんと旅行に行くんだって。 ゆっくり楽しんで来てね。 飛行機に乗り込むと機長さんに挨拶され、ゆったりしたシートに座る。 俺は窓側、カイは隣の通路側。 奥にはキッチン、バーカウンター、テーブルを挟んで向かい合わせに座れる席もある。 飛行機って、普通こんな感じなの? プライベートジェットだから? 「シートベルトするよ」 「ん」 膝上でクラゲをぐにぐにしながら飛行機が飛び立つのを待つ。 機体が滑走路を走り出し、窓の外の景色がどんどん流れていく。 カイが俺の右手を取って握ってくれた。 俺が緊張してるの、わかるのかな・・・緊張してる匂いって、どんななんだろ。 ジェットコースターに乗った時みたいな圧がぐってかかって、一瞬ふわってなった。 ・・・と・・・飛んだ・・・? 「璃都、大丈夫?」 「・・・ん、だいじょぶ」 「もう、クラゲは放してあげよう?俺がいるから」 「・・・あ」 無意識に、左腕でぎゅうーっとクラゲを締め上げてたみたいだ。 ぱっと放すと、元のぽよんとした形に戻った。 「やっぱり飛行機恐かった?ごめんね」 「ううん、ちょっと緊張しただけ。もう平気」 嘘。 ほんとは結構恐かった。 でも、ちょっとの間だし、子どもじゃないんだから我慢できる。 「よしよし、恐かったね。良く頑張りました」 「もおっ、子ども扱いしないでよっ」 「ふふっ」 カイに肩を抱き寄せられ、そのまま頭を撫でられながら窓の外を見る。 もうこんな高いとこまで来たんだ・・・。 「た・・・っかい。あ、雲が下にある」 窓にくっ付いて外を眺めてたら、カイが大人しいのに気付いて振り返ったんだけど、例の如く動画撮影オオカミになってた。 ・・・せっかくの新婚旅行だし、サービスしとくか。 「初ひこーきっ」 「・・・っ、可愛い・・・っ!」 にこっと笑ってピースして見せただけなのに、オオカ耳をぷるぷるさせて悶絶するカイ。 そのぷるぷる耳の方が可愛いんだけど。 「かして」 カイの手からスマホを奪い、カメラをカイに向ける。 あ、もう耳ぷるぷるしてない。 「ねえ、もっかいやって?」 「なにを?」 「耳ぷるぷる」 「意識してできる動きじゃないんだけどな」 そんな事してたら、CAさんが来て飲み物を勧められた。 カイはコーヒー、俺はオリジナルフルーツジュース。 うん、美味しい。 それから、シートベルトを外してテーブル席に移り、備え付けの大きなモニターで映画を観たり、機内食を食べたりした。 もうすぐ着陸態勢に入るって頃になって、間の悪い事に俺はうとうと。 カイが俺を最初の席に運び、シートベルトをしてクラゲを持たせて、ちゅってキスしてから言った。 「このまま寝ちゃっていいよ。抱っこして降りるから」 「ん・・・」 カイの言葉を聞きながら、持たされたクラゲを軽くむにむにして、俺はそのまま寝てしまった。 ─────── 「・・・はっ?」 「あ、起きた?」 「ここどこ?」 「本島のマリーナ。ここからクルーザーで俺たちが宿泊する離島に行くんだよ」 「くるーざー・・・」 目が覚めたら、クラゲを抱いた俺を片腕で抱き上げたカイが、クルーザーに乗り込もうとしているタイミングだった。 ・・・あ、暑い。 あれ、俺もカイも半袖Tシャツ姿になってる。 上に着てたパーカーとジャケットは? 「服は?」 「飛行機降りる時に脱がせた」 そっか。 ん? それで、脱がしたパーカーとジャケットはどこやったの? 相変わらず、俺の荷物はクラゲだけだし、カイは黒いボディバッグだけだし。 「あれ?パスポートの確認とかは?」 「済ませたよ」 「俺寝てたのに?」 「簡単なチェックだけだから」 え、そんなもんなの? 俺のイメージだと入国審査で「Business(仕事) or pleasure(観光)?」とかの質問に答えるんだと思ってた。 「俺、For pleasureって答えるのちょっと楽しみだったのに・・・」 「そこはHoneymoon vacation(新婚旅行)でしょ」 あ、そっか。 クルーザーに乗り込んだら、カイの腕から下ろしてもらった。 船に乗るのも初めてだ。 「クラゲ、海だよ。・・・お前は帰れないけど」 「ふはっ、残酷。落っことさないでね」 クラゲを慰めながら綺麗な海を眺めてたら、コーディネーターのヒトが挨拶してくれた。 「初めまして璃都様、ルーク・コーテッドと申します」 ルークさんはふわふわの金髪に垂れ耳の獣人。 ・・・たぶん、ゴールデンレトリバーの獣人じゃないかな。 にっこにこの笑顔もそれっぽい。 「よろしくお願いします、ルークさん」 「こちらこそ。色々プランはご用意してますが、気になる事ややりたい事があれば、なんでも言ってくださいね」 カイはルークさんと仕事で何度か一緒になった事があるんだって。 「お世話になっているカイザル様と、璃都様の新婚旅行ですから、気合いを入れてご案内いたします」 「ありがとうございますっ」 ルークさんの笑顔、癒されるな・・・。 「璃都・・・ルークに和み過ぎ。俺を見て」 「毎日見てるよ。俺の旦那なんだから」 やれやれ嫉妬オオカミが・・・と思いながら言ったら、むすっとしてたカイの表情がぱあっと明るくなった。 え、なに、どーした? 「そうだよね。俺が璃都の旦那だもんね」 「なっ・・・あ、改めて言わないでよ恥ずかしいなっ」 カイはよく「俺の璃都」って言う。 俺はカイを「俺の」って言う事なんてなかったから、それが気に入ったのかな。 せっかくの新婚旅行だし、言えそうなシチュエーションがあったら、また言ってあげよう。 「見えてきました、あの島です」 青い海に浮かぶ、緑の美しい島。 クルーザーで島の周りをぐるっと一周して見せてくれた。 レストランやスパなどがあるホテル本館、俺たちが宿泊するヴィラ、マリンスポーツが楽しめる遠浅のビーチ・・・。 「綺麗なとこだね・・・」 「気に入った?」 「うんっ!」 ここで1週間、カイとたくさん楽しもう!

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