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第50話
島に来て、2日目にグラスカヌー、3日目にシュノーケリングと島歩き、昨日はパラセーリングとウィンドサーフィンをした。
毎日遊んでる・・・参考書の1冊でも持ってくれば良かったかな・・・。
そんな事考えながら昼食後のテラスで、俺の手荷物であるクラゲを揉んでる。
「What's wrong , honey ?」
「Just looking at the ocean , darling 」
島では、ルーク以外とは英語で話している事もあり、カイはこうやってたまに俺にも英語で話しかけてくる。
俺も一応英語で返すけど、たまに発音を直されたりして、ちょっと勉強にはなってるかな。
因みに、ハニーと呼ばれたらダーリンと返すよう覚えさせられました。
しかも意地悪オオカミは、人前で呼ばなきゃいけないシチュエーションを作ってくるので厄介だ。
「まさかとは思うけど、参考書を持ってくれば良かったなんて、考えてないよね?」
「・・・まったく考えてない。ダーリンの事しか考えてない」
「ほんとかなぁ」
笑いながら、持ってきてくれた飲み物をテーブルに置くカイ。
番の考えを読むの、やめてくれないかな。
いや、本当に読めるのか?
ネコ語で話した時も普通に理解してたし・・・まさか・・・。
「ねえ、ふみふみするならクラゲじゃなくて俺にしたら?」
「・・・・・・」
「・・・・・・円周率?」
「やめて読まないでっ!」
脈略のない考えなら読まれないと思ったのに、なんでわかったんだ・・・。
しかも、3.141592までは覚えてるけど、そこから先は覚えてないから適当だったし・・・。
「素数かなとも思ったけど、円周率で正解だったんだね」
「・・・次は素数にしようと思ってた」
もう恐いオオカミとかのレベルじゃない、宇宙人・・・いや宇宙獣人だ。
未知の生物・・・。
「なあに?未知の生物でも見るような顔して」
「そう思えばなにも恐くないし不思議じゃない」
「璃都が納得できたなら、それでいいよ」
いいんだ。
───────
夕方、唐紅 色の空の下、砂浜をカイと手を繋いで歩く。
水平線へ沈みゆく夕陽の反対側は、もう夜色だ。
「空、綺麗だねぇ」
「そうだね。璃都はもっと綺麗だ」
「あはっ、そーゆう事平然と言うカイの方が綺麗な顔してるけどね」
島 でだって、ホテルの人や他の宿泊客がカイを見て振り返るのは当たり前で。
そんなカイに手を引かれて歩き、ハニーと呼ばれ世話を焼かれてる俺は・・・なんて言うか、恥ずかしいのと、誇らしいのと、あと・・・。
「璃都は綺麗だよ。どこにいたって傍で護ってないと、あっという間に攫 われてしまいそうで恐い」
「誘拐 するの、カイだけだと思うけど」
俺の言葉に、カイが立ち止まって真剣な顔をした。
「いい加減、自覚してくれない?璃都は美人で魅力的で可愛いんだ。みんな璃都を見てる。どんなに俺がマーキングしたって、璃都しか見てないやつらには関係ないんだから」
「そ、そんな真剣に言わないでよ。みんなが見てるのカイでしょ?俺じゃな・・・」
「昨日、海で遊んでた時、何人と目が合った?」
「え?」
カイはちょっと怒ったような顔で俺の返事を待ってる。
何人って・・・そんなの覚えてないけど・・・。
「・・・な、何人かと、目が合ったかもしれないけど、覚えてない」
「俺は誰とも目が合ってない」
・・・ん?
だから、なに、どーゆう事?
「目が合ったって事は、そいつは璃都を見てたって事だよ」
え、そう、なの?
俺は、みんなカイを見てるんだと思って、それで・・・。
「帰ったら、閉じ込めちゃおうかな」
「・・・は?」
「誰にも璃都を見せないように、奪われないように、俺だけの璃都でいてくれるように、閉じ込めて・・・二度と外に出さない」
夕焼けのせいで、カイの金の瞳が、妖 しい銀朱 に染まる。
少し前なら、恐くてたまらなかっただろうな。
「だったらカイも、一緒に閉じ込められてくれる?」
「え?」
俺の返答が予測できなかったらしいカイは、言葉の意味を探るように瞳を揺らした。
この反応は、宇宙獣人らしくないな。
「俺だって、みんながカイの事見てるの、いい気分しない。誰かがカイに言い寄ってきて、このオオカミは俺のですって言っても構わず連れて行っちゃったらって・・・そうなるのが閉じ込められるより恐いって、思うようになってきた」
「璃都、それ・・・ほんと・・・?」
なんでこの状況で嘘つくと思うんだよ、バカオオカミ。
「カイも、いい加減自覚してくれない?カイは格好良くて完璧なハイスペック獣人なんだから」
「・・・ふふ、そっか。お互い様か」
カイの瞳から妖しさが消えたみたい。
まったく・・・閉じ込めるとか二度と外に出さないとか、ヤバい事言い出さないでよね。
来月から大学に通うんだから・・・。
「じゃ、帰ったら2人で家に引き篭もろうね。仕事は全部在宅 でするから」
「・・・はい?いや、ちが、そーじゃない!引き篭もり断固反対っ!」
「ふふっ」
笑ってるし。
良かった、冗談っぽい。
・・・え、冗談だよね?
───────
楽しかった島暮らしも、今日が最終日。
朝食を食べたらクルーザーに乗って本島へ行き、お土産を買ってプライベートジェットで帰国する。
「背中、ちょっと痛い・・・」
「日焼け止めちゃんと塗らせてくれなかったから。赤くなっちゃってる」
「カイに任せると手付きがやらしいんだもん・・・」
昨日は1日中、ヴィラの前のプライベートビーチで遊びまくった。
水着を着て、泳いだり、砂の城作ったり、潜ったり、砂に埋まったり埋めたり・・・。
ルークさんを呼んでBBQもして、いっぱい食べていっぱい飲んだ。
・・・カイもルークさんもお酒弱いから、ノンアルコールを飲ませたんだけど。
「旦那の手付きがやらしくなるのは、奥さんが気持ち良さそうにするからだよ。期待に応えようとした結果」
「はいはい。ほら、荷造りしないとでしょ?服まとめて・・・」
「バトラーがやってくれるからそのままでいいよ。璃都はクラゲを忘れないように持ってればいいから」
え、荷物まとめるのもやってくれるの?
ほんとに、至れり尽くせりだ・・・。
「カイの荷物もボディバッグ だけだけど、何が入ってんの?」
「財布とスマホとパスポート」
「・・・だけ?」
「だけ」
パスポートがなければ、ちょっとそこのコンビニまで行ってくるみたいな荷物だな。
・・・まあ、クラゲ1匹抱えて来た俺こそ、どこ行くんだって感じだけど。
ルークさんと合流し、クルーザーに乗って島を後にする。
楽しかったなぁ・・・いいとこだった。
「また来たい?」
「うんっ、また来たい」
「じゃあ、来年もまた来よう。璃都が気に入ったなら、毎年ここでバカンスしようか」
「え?いいの?嬉しいっ!」
思わずカイに抱き付く。
俺を抱きとめたカイは、ぎゅってしてから抱き上げてきて言った。
「捕まえた。もう下ろさないから」
「えっ、これから本島で買い物するのに?さすがに街中でこれは・・・」
「いえ、そのままがいいかもしれません。璃都様の安全と、島民の安全のためにも」
「はい?なんで島民の安全・・・?」
ルークさんの言ってる意味はわからなかったけど、カイが俺を下ろす気がないようで、結局街中でもカイに抱き上げられたままだった。
ルークさんにお店を案内してもらい、お土産を買う。
りっくんには地ビールとつまみになりそうなお菓子。
玲央 には貝の形のシーシェルチョコレートと島を模 ったオルゴール。
シグマとローには島特産のお茶とクッキー。
「璃都は欲しい物ないの?」
「え?んー、お菓子は食べたし、お茶も・・・あっ」
通りかかった雑貨屋に、あいつがいる。
間違いない、あいつだ!
「サメ!」
「サメが欲しいの?」
「ネムリブカですね。璃都様の天敵の」
1mくらいの、大きいネムリブカのぬいぐるみだ。
持ってみると、さらっとした手触りと、くったりした頼りなさがなんとも言えず・・・。
「クラゲ・・・喜べ、海に帰れない仲間だ」
「ふはっ」
「あっはっはっはっ」
2人に笑われながらも、新たなお供を手に入れたのだった。
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