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第51話

「お帰りなさいませ、カイザル様、璃都(りと)様」 「ただいまぁ!」 「ただいま」 プライベートジェットで帰国すると、シグマが出迎えてくれた。 買ってきたお土産を運転手が車に積み込んでくれてる間に、俺たちは後部座席に乗り込む。 「あっ、これシグマにお土産。奥さんと一緒にどうぞ」 「ありがとうございます、いただきます。そう言えば璃都様、新しいお仲間が増えたようですね」 「うん。サメ。クラゲの・・・海に帰れない仲間」 「「ふふっ」」 あ、シグマまでカイと一緒になって笑うのかよ。 「グラスカヌーに乗った時見たんだ。普通にいるんだね、サメ」 「ネムリブカだよ。璃都が手を食べられちゃうって、恐がって・・・」 「恐がってないっ!」 膝上にクラゲを置き、その上にサメを乗せて、腕で抱える。 行きより手荷物がいっぱいになってるな、俺。 ・・・なんか、はしゃぎ過ぎかな。 「俺・・・ぬいぐるみ買うとか・・・子どもっぽかったかな・・・」 「大人だってぬいぐるみ好きな人はいるよ。子どもっぽくなんてない。思い出の品なんだから」 そう、かな・・・そうだよね。 俺って、ぬいぐるみ好きだったのか? 海に帰れない仲間、増やそうかな。 俺の口角が上がったのを見て、カイが言った。 「好きなだけ仲間を増やしていいよ。リビングを海に帰れない仲間でいっぱいにしよう」 「いいの?本気にするよ?どっか行って見つける度に買ってもらうよ?」 「いいよ。ラグやカーテンの色も青にしようか。ああ、熱帯魚の水槽も置く?」 「インテリアのカタログをご用意いたします。水槽はオーダーメイドで注文いたしましょう」 こうして、リビング水族館計画が始まった。 ─────── 帰国した翌日の夕食は、クリスマスランチをした会員制レストランに来た。 ここはりっくんの隠れ家的なレストランで、新メニューの考案をしたり、家族を招いて食事したりするために用意した場所なんだって。 「いらっしゃーい。新婚旅行はどうだった?」 「楽しかったよ!お土産持ってきた」 「ちょりと日焼けしてないな。こんがりして帰ってくると思ったのに、白いままじゃん」 「赤くなったけど、治った。俺、日焼けしないんだよね」 りっくんと玲央(れお)にお土産を渡し、4人で席に着く。 テーブルにはたくさんの中華料理が。 「りっくん、中華も作れんの?」 「材料さえあればなんでも作れるよー。尊敬する?」 「・・・くっ・・・悔しいけど・・・」 「悔しがるなよー」 島での事を話しながら、わいわい食事をする。 案の定、カイはりっくんたちと一緒に飲んでて・・・。 「もお、ちょっと飲み過ぎじゃない?」 「そぉんな事ないよぉ。りぃも飲むぅ?」 「飲まない」 ・・・そうだ、このまま飲ませまくって、酔い潰れて寝るのを待つって手もあるのでは? 「そう言えば、りっくんと玲央は新婚旅行とか行ったの?」 「行ったよー。カーニバル見に行ったんだよねー」 カーニバル? サンバとか踊る、あの有名なやつかな。 「行ったな、カーニバル・・・大変だった・・・」 紹興酒を(あお)った玲央が、その時の事を話してくれた。 「目当てのカーニバルは見れたんだよ。楽しかった。でもその帰りにシドが迷子になって・・・」 「迷子になったのは僕じゃなくて玲央でしょー?」 なるほど、人が多くてはぐれたんだな。 それ、大丈夫だったの? 「俺は土地勘なんてないし、ホテルの場所もわかんなくて、必死で旦那を探してたわけ」 知らない場所、しかも海外で独りぼっちになったら、俺でも泣くかも・・・。 「やっとの思いで、見つけたんだよ、シドを。それなのに・・・」 「玲央ぉ、誤解だってばー」 誤解? いったい何があったんだ? 「こいつ、ほとんど裸の女とイチャついてたんだっ!」 「はあ!?」 「だから誤解だってぇ」 番が独りぼっちで心細い思いしてたのに、女とイチャイチャしてた? なにそれ赦せないんだが? 「玲央かわいそうっ!そんなの離婚だっ!」 「だろ!?赦せないだろ!?その場でこいつ捨てて帰国しようかと思ったよ!」 「もーだから誤解なのー。ちょりとも煽んないでよー」 「黙れ浮気オオカミっ!」 「浮気なんかしないよ!カイザルと同じで僕だって玲央だけなんだからっ!」 なんか面白くなってきちゃった。 それにしても、りっくんが新婚旅行で浮気するなんて・・・。 「あの女性(ひと)は、あんな格好してたけど現地の警察官だったんだよ。僕の命より大事な番がいなくなったから探して欲しいって頼んでたんだ。玲央にも説明したのに、(いま)だに信じてくれない・・・」 「ほんとかなぁ。でも玲央、離婚しなかったって事は、その時は信じたの?」 まあなんとなく、りっくんが言ってる事は本当なんだろうって思うけど、それでもよく赦したよな。 玲央はまた紹興酒を呷る。 「その後3日間、ホテルから出してもらえなかった」 「え・・・それって・・・」 まさかとは思うけど・・・。 「ナニされたかは、ちょりとなら想像できるだろ。あと、左の3連ピアスはそん時やられた」 「りっくん最低っ!」 「話も聞かずに別れるなんて言うからじゃん。僕だって必死に玲央探してたのにー。僕のお姫様は聞き分けなくて、わからせるのに3日かかっちゃった」 こわ・・・。 これだからハイイロオオカミ獣人は・・・。 「玲央、苦労したんだね」 「まぁな。だから俺の助言はしっかり聞いとけ」 「はい、先輩」 ・・・あれ、なんかカイが大人しいな。 酔い潰れたか? 寝たか? 「ねえ、りぃ」 あ、起きてる。 けど、目が()わってません? 「な、なに?」 「りぃは、別れるなんて、絶対言っちゃだめだよ」 「ぅ・・・うん?」 「そんな事言われたら、璃都を殺して俺も死ぬ」 ひぃ・・・っ。 前に玲央が「カイザルさんはシドよりヤバそう」って言ってたけど、本当にそうなのかも。 「やめて。落ち着いて。言わないから」 「りぃ・・・ほんとにぃ?俺の事恐がって逃げようとする癖にぃ・・・やっぱり外に出すのやめようかなぁ・・・毎日立てなくなるまで子宮犯して・・・」 俺を抱き寄せ、下腹部を撫でながらなんか言い出した変態酔っ払いオオカミ。 「ちょっ、黙って!もう飲み過ぎっ!ほらもう帰るよっ!シグマ呼ぶから帰って寝よっ!」 りっくんと玲央の前なのに・・・。 「ちょりと、華奢だからすぐ子宮届きそうだねー」 「お前、まさか毎回ソコまで()れられてんの?かわいそ・・・」 「ゔあ"ーっ!黙れ酔っ払いどもっ!!」 即行でシグマに電話をかけ助けを求めたら、有能な執事はそろそろだと思っていたようで店の前に来てくれていた。 一緒にローも来たので、ローにもお土産も渡せたし。 「私にまで、ありがとうございます」 「いえいえ。それじゃ、りっくんと玲央をよろしく。俺はこの変態酔っ払いオオカミを連れてかえ・・・わっ」 座ったままだったカイを立たせようと手を引っ張ったんだけど、逆に引っ張られて膝上に座らされてしまった。 「りぃ、愛してる・・・俺にはりぃが全てだからね・・・どこにも行かないでぇ・・・」 「わかったから立って、行くよ?」 「()って?イく?りぃはエッチだなぁ」 変態バカオオカミめ、変な変換するなよ・・・。 「璃都様、カイザル様を車まで誘導していただけますか?」 「どーやって?」 まったく、無茶言うよな・・・。 うーん・・・どうするか・・・。 「カイ、抱っこして車に乗せて?お(うち)帰りたい」 「うん、わかった」 カイが俺を抱き上げて歩き出す。 「りっくん、玲央、またね!」 「またねー」 「頑張れよ、ちょりと」 いや、頑張りたくないから・・・。 相変わらず、酔っても足取りがしっかりしてるカイだけど・・・これ、酔ってるフリとかじゃないよね? 酔ったフリして好き放題やってるんだとしたら、絶対赦さん。

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