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第53話
今日は大学の入学式だった。
午前中に終わり、一度キャンパスの外に出てレストランで昼食を摂る。
午後は学部のオリエンテーション、明日は学科のオリエンテーションだ。
「璃都 、午後のオリエンテーションから俺は一緒にいられないけど、くれぐれもいい子にしてるんだよ?」
「うん」
「イオ、警戒を怠るなよ」
「お任せください」
並んで座る俺とカイの前に座っている、イオと呼ばれた獣人の青年。
彼はシグマとローの従弟 で、大学内で俺のボディーガードをしてくれるらしい。
ドーベルマンの獣人で、黒い短髪にピンと尖った耳、いかにもな強面 。
要人警護や軍に勤めてるヒトが多い家系だとか。
大学通うのに、ボディーガードを付けられるとは思わなかったな・・・。
午後のオリエンテーションからは、イオと行動する事になる。
仲良くなれるといいけど・・・。
「えっと・・・よろしくね、イオ」
「はい。奥様の安全は必ずお護りいたします」
「お・・・学校では名前で呼んで・・・」
「いえ、ルプス家の奥様である事を周りに知らしめる必要がございますので」
「そ・・・っかぁ・・・」
ルプス家の奥様・・・なんか重そうな肩書きだな・・・。
でも、嫌だとか恥ずかしいとか、言ってる場合じゃないのもわかる。
誰かと接触して、俺がお仕置きされるだけならまだしも、相手にも迷惑がかかる可能性が高いんだし。
「それじゃ、そろそろキャンパスに戻るね」
「うん。オリエンテーションの会場まで送るよ」
別にいいよ・・・と言おうとしたけど、たぶん視覚的マーキングをしたいんだろう。
それを拒否するとカイの不満ゲージが上がるから、黙って従うようにしてる。
車でキャンパスへ移動し、オリエンテーション会場の講義室前までカイも一緒に来た。
受付に並ぶ前に、同じ学部に通う事になるまあまあな数の生徒の前で・・・。
「帰りはさっきの駐車場で待ってるからね。何かあったらすぐ電話して、迎えに来るから。わかった?」
「うん、わか・・・んぅ・・・っ」
当然のようにキスしてくるカイ。
周りがちょっとざわっとしたけど、俺は慣れたし諦めたから、気にしない・・・気にしないぞ・・・。
「んっ・・・ほら、カイも仕事あるでしょ?また後でっ」
「うん。イオから離れないようにね」
「はいはい。お仕事いってらっしゃい」
いつまでも俺にすりすりしてる甘えんぼオオカミを送り出し、イオと受付に並ぶ。
イオは常に俺の後ろに立って、俺の前後左右を警戒してるみたい。
・・・みんな、イオを怖がって半径2m以内には入って来なさそうだな。
講義室に入り、一番後ろの列で、出入り口に近い長机に座るようイオに言われた。
イオも隣に座るのかと思ったら、俺の後ろに立ってるって・・・疲れるから座ればいいのに・・・。
長机には固定式のイスが備えられていて、最大5人座れるようになってる。
俺は通路側から1つ空けた、右から2番目の席に座った。
「あの・・・さっきの方は貴方の番ですか?」
「えっ?あ、はい、そうです」
俺に話しかけてくる勇者がいた。
同じ長机の、俺が座ったのとは反対側の端に座る勇者・・・もとい獣人。
淡灰色の髪に灰黄色の瞳、小さめで丸みを帯びた三角耳はもっふもふ。
「ニクス・レパードといいます。ユキヒョウの獣人です。僕も番の夫がいます」
「え?そうなんですか?あ、璃都・ルプスです。見ての通り人間ですけど、旦那はハイイロオオカミの獣人です」
「ハイイロオオカミですか・・・お触り厳禁ですね」
2人でくすくす笑ってから、ニクスくんも席を通路側から1つこっちに詰めてきた。
真ん中の席を空けて、並んで座る。
「あの・・・彼は璃都くんの私服 警官 ですか?」
「いや、ボディーガードのイオです。俺を護ると言うより、周りの生徒が後々、嫉妬オオカミの被害に遭わないようにするため・・・と思って居てもらってます」
「成程」
ニクスくんは、丁寧で穏やかで、女の子みたいに可愛い。
俺よりニクスくんの方がボディーガードが必要なのでは・・・。
「璃都くんと一緒にいれば、僕も安心して大学生活が送れそうです。希望学科も同じみたいですし、もしよかったら友達になりませんか?旦那さんにも挨拶させてください」
「もちろん!俺からもカイに紹介したいし。あ、敬語もやめない?」
「うん、ありがとう。よろしくね」
オリエンテーションが終わり、ニクスも連れて駐車場へ。
ニクスの旦那さんも同じ駐車場に迎えに来てるらしくて、そっちにも挨拶しようと思ってたら・・・。
「お帰り、璃都」
「おや、ニクスも一緒でしたか。もしかして、友達になったんですか?」
「ネネ、璃都くんの旦那さんと知り合いだったの?」
カイと一緒に待っていたのは、ニクスと同じユキヒョウ獣人の男性。
長い髪を緩く束ねて眼鏡をかけた、優しそうなヒトだ。
「彼はネージュ・レパード。俺の主治医で、友人だ」
え、カイって友達いたんだ?
しかも、俺が友達になったニクスの旦那さんと友達だったなんて。
ニクスがネネって呼んでたけど、愛称かな。
「君が、カイザルが必死に探していた、頸 を噛まれて出血したまま逃げてしまった男の子ですね。ご無事でなにより」
「はは・・・無事とは言い難いですが、なんとか生きてます」
ネージュさんは獣人専門医の家系で、前は彼のお父さんがカイやりっくんの主治医だったんだって。
今はネージュさんに診てもらってるらしい。
「カイ、ニクスとも連絡先交換していい?」
「そうだね、いいよ。でも、大学でのお友達はニクスくんまでね」
ええ・・・まあいいか。
どうせ友達作りとか苦手だし、イオが側に居て寄ってくる人もいないだろうし。
「ネージュさんは、いいですか?」
「もちろん構いませんよ。私は番の交友関係まで厳しく管理したりしません」
まあ、そうだよね。
一々連絡先交換するのも確認しなきゃいけないなんて・・・俺、可哀想・・・。
「束縛するのも程々にするよう言ってはいたんですが、こればかりはオオカミの性分なのか矯正しきれず・・・すみません」
「いえ、ネージュさんが謝る事じゃないです!寧 ろ、監禁されずに済んでるのネージュさんの矯正のおかげだと思いますし」
ネージュさんが言ってくれてなかったら、きっと俺は大学進学どころか高校も卒業できず、家の2階に鎖で繋がれてたかもしれない。
まともな考えのヒトがカイの主治医で良かった・・・。
「俺は璃都を管理してるんじゃない、心配してるんだ。外は危険がいっぱいなのに、不特定多数と関わらせたりなんかできないだろ。まあ、璃都が家から一歩も出ないでいてくれるなら、こんな心配しなくていいんだけど・・・」
俺のせいですか?
いや、違いますよね?
「俺、外出たい」
「はぁ・・・俺の可愛いネコちゃんはお外が好きなんだよねぇ。仕方ないなぁ」
誰がネコちゃんだ、頭撫でるな。
俺は人間だってば。
「璃都、僕たち同じネコ科だね」
「ニクス、俺はヒト科だよ」
今度みんなで食事に行こうって約束して、ニクスとネージュさんと別れた。
迎えの車に乗るんだけど、イオは自分の車で帰宅するって。
「イオ、ありがとう。ニクスも含めて、これからよろしくね」
「はい奥様、誠心誠意努 めます。よろしくお願いいたします」
なんて真面目な・・・ほんと、軍人って感じだな・・・。
そういえば、イオっていくつなんだろ。
車に乗って、カイにシートベルトしてもらいながら聞いてみる。
「ねえカイ、イオっていくつ?」
「イオは今23歳・・・だったかな」
「やっぱり年上なんだ。敬語使った方がよかったかな・・・」
「シグマに怒られるよ」
それはだめだ。
タメ口にしといて良かった。
「璃都様を叱ったりいたしません。イオが何か不敬を働きましたらすぐ仰ってください。私がイオを厳しく叱りますので」
「イオは頑張ってくれてるよっ!叱らないでっ!」
シグマ、怒ると恐そう・・・俺がイオを守ってあげなきゃ・・・。
あ、そうだ。
「もしかして、カイもシグマに怒られた事あるの?」
「・・・え?」
「ございますよ」
あるんだ。
なにやって怒られたんだろ。
「なんで怒られたの?聞きたいっ」
「それはですね・・・」
「シグマ」
「申し訳ございません、どうやら記憶が飛んでしまったようです」
「ええーっ?」
なんだよ、完璧ハイイロオオカミ獣人がなんで怒られたか聞きたかったのに。
今度シグマと2人の時にこっそり聞こう。
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