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第57話

明日は4月28日、カイザル・ルプスの29歳の誕生日である。 しかし月曜でカイ本人が仕事のため、前日祭と称し日曜の今日、遊びに行く事にした。 ・・・寝坊したからゆっくりブランチしてからだけど。 「うわっ!またクラッシュした・・・」 「璃都(りと)が雪道コースなんて選ぶからだよ。待っててあげようか?」 ここは大きなゲームセンター。 カイは前、りっくんに連れて来られた事があるんだって。 俺はゲームセンターも初めて来た。 まずはレーシングゲームで遊んでるんだけど、対戦相手が追いつくの待ってくれてるって、どういう事・・・。 それでも結局勝てなかったので、次へ行く事にする。 クレーンゲームの方に行こうとして、手前にあったお菓子すくいゲームが目に留まった。 今にもこっちに倒れてきそうなチョコタワーに誘われて、カイに100円玉を入れてもらう。 「なんでいっこも落ちてこないの・・・」 「なんでだろうねぇ。もっといっぱいやってごらん?」 下からすくったお菓子でチョコタワーを押し出そうとしてるんだけど・・・だめだ、チョコタワーが重すぎるみたいで全然倒れてこない。 なんだこれ、詐欺じゃんっ! 「お菓子ならこっちは?」 「でかっ!これ取るっ」 大きなポテチのクレーンゲームだ。 3回やってみたけど(らち)が開かない。 仕方ないな、封印するつもりだったのに・・・。 「カイ、これ取って?」 上目遣いでお願いしながら、背伸びしてカイの唇にちゅっとキスをする。 俺もなりふり構わなくなってきたな・・・。 「璃都のおねだり可愛い」 「俺じゃなくてポテチをゲットして」 俺の腰に腕を回して捕獲すんのやめろ。 「取れたよ」 「わぁいっ!」 1回で取られてちょっと思うところはあったけど、こんな大きいポテチの袋持った事ないからテンション上がった。 「あっ、ねえ見て!あいつを連れて帰る!」 「海に帰れない仲間だね」 クレーンゲームの中で俺を待っていたのは、真っ白まんまるボディにくりっとした黒目をした、アザラシの赤ちゃん・・・の、ぬいぐるみ。 サイズは家にいるサメよりひと回り小さい。 ・・・え、これ、どうやって取るの? 「あっ・・・あーっ!」 「惜しかったね」 「しっぽの方を掴めば・・・あー・・・そぉだよね、頭の方が重いから落ちるよね・・・」 「タグに引っ掛けてみたら?」 「そんなテクニック持ち合わせてないって」 結局、またカイにおねだりして取ってもらった。 カイは2回で取る・・・解せぬ。 「おおっ、ふわふわぁ・・・」 ポテチをカイに預け、アザラシの抱き心地を確認してたら「きゅっ」て鳴いた。 「このアザラシ、お腹押すと鳴く」 「ふふ、鳴いたね」 リビングを模様替えしたから、ここで海に帰れない仲間を増やすのアリだな。 他になんかいないかな・・・。 「璃都・・・大変だ、璃都がいっぱいいる」 「なにを言って・・・」 急に、カイがクレーンゲームにお金を投入し始めた。 中には15cmくらいのぬいぐるみがいっぱい詰まってる。 どれも海の生き物の被り物をした、ネコだ。 「サメとカワウソとペンギン被ってる璃都は絶対欲しい」 「俺じゃなくてネコね。まあ頑張って・・・」 俺はポテチとアザラシを抱きかかえた状態で見学。 宣言通り、青いサメとオレンジのカワウソを被ったネコをゲットしてる。 完璧獣人はクレーンゲームも得意なのか・・・。 ピンクのペンギンを被ったネコに狙いを定めたカイ。 順調すぎて悔しいので、後ろから抱き付いて邪魔をしてみる。 「ふふっ、俺のネコちゃんが(じゃ)れてきて可愛い」 「手元狂わないくせに。・・・ねえ、そのちっちゃいのと俺、どっちがだ・・・」 「璃都が一番大事」 言い終わらない内にぎゅっと抱きしめられた。 よし、これで失敗したはず・・・と思ったのに。 「なんでピンクのペンギン取れてんだよ」 「璃都が可愛く甘えてくれたおかげかな」 くそぉ・・・俺だって、次こそ自分で取ってみせる・・・! そんな決意を胸に、発見したのはまあまあリアルなカニのぬいぐるみ。 これ、リビング水族館計画を推し進める俺以外に需要あるのか? 500円玉を投入し、取れるまで諦めないと心に決めて挑む。 「やっと取れたぁ・・・カニぃ、食べ応えある大きさだぁ・・・」 「ベニズワイガニかと思ったら、茹でたタラバガニなんだね」 え、ぬいぐるみなのに、違いがわかるの? 「こいつ、調理済み?なんでタラバってわかんの?」 「生だと紫がかった茶褐色のはずだから。ズワイとタラバは足の本数が違うんだよ」 「へぇ」 そっか、タラバガニは茹でないと赤くならないのか。 それにしても、普通に買った方が安かったんじゃないかってくらい500円玉を消費してしまった・・・。 「次、太鼓叩くのやりたい」 「では、海に帰れない仲間たちはお預かりいたします」 今までどこに居たのか、さっとシグマが現れてポテチとぬいぐるみたちを預かってくれた。 日曜なのに付き合わせちゃって悪かったかな・・・。 何曲か太鼓を叩いて、スコアでカイに勝てないから諦める。 「次っ!」 シューティングゲーム、格闘ゲーム、◯リオカート・・・。 ここまでやって、俺の勝率は25%ってとこ。 「・・・カイ、お腹すいた」 「ふふっ、そうだね。そろそろ行こうか」 カイに手を引かれ、駐車場へ。 なんか疲れたから抱っこして欲しいとか思っちゃったけど、カイの誕生日の前日祭なのに世話させちゃだめだ。 シグマが車の前に立って待っててくれて、後部座席のドアを開けてくれた。 後部座席にはアザラシとカニ、3匹の被り物ネコが先に鎮座している。 乗り込もうとしたらカイに抱き上げられ、そのまま膝上に座らされた。 「晩ご飯、何が食べたい?」 「和食以外」 「わかった。じゃあ、昨日テレビ見ながら食べたいって言ってたビーフシチューを食べに行こうか」 「やった!」 どうして今夜、和食がだめなのか。 それは、明日のメニューが和食だからだ。 シグマを通してハウスキーパーさんに食材を揃えてもらって、俺が作るって決めてるから。 料理だって完璧なカイだけど、誕生日の晩ご飯は俺が作ってあげたくて。 喜んでくれるといいな・・・。 ─────── 「おはよ、カイ」 「おはよう璃都。どうしたの、俺より先に目が覚めちゃうなんて・・・」 カイはアラームなしで起きるんだな。 起きたら言おうと気負って寝たせいか、俺は珍しく6時前に目が覚めた。 眠ってるカイのオオカ耳をもふりたいのを我慢して、起きるの待ってたんだ。 「誕生日おめでと」 ベッドに横になったまま、隣で横になってるカイに言う。 このための早起き。 「ありがとう璃都・・・生まれてきて良かった・・・」 「待って、これくらいで泣かないで」 誕生日のお祝いはこれだけじゃないんで。 俺に抱き付いてすりすりが止まらないカイをよしよしして、もう我慢しなくていいからオオカ耳をたっぷりもふってから、2人で身支度を整える。 「今日は早めに帰れるんだよね?」 「うん。午後の会議が15時までの予定だから、15時半には帰って来られるよ」 カイのネクタイを締めてあげながら、今日の帰宅時間を確認する。 本当は、留守番してこっそり晩ご飯とケーキを作ろうと思ってたけど、バレンタインデーの教訓を()かし、ケーキは一緒に作る事にした。 なにより、誕生日なのにカイを独りで出社させるのが可哀想な気がして・・・。 「昨日の内に、パントリーに色々入れられてたみたいだけど」 「そこは気付かないフリしろよ。今日の晩ご飯は俺が作るからね。その前にケーキは一緒に作ろ」 「うん。楽しみだな」 嬉しそう・・・オオカ耳がぷるってなったし。 留守番するって言わなかったの、やっぱ正解だったみたいだ。

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