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第59話
目が覚めて、最初に目に入ったのは、綺麗な胸筋。
これ、誰かさんにがっちり抱きしめられてるな。
見上げると、眠っているカイの顔。
見上げる時に動かした首から順番に、全身の痛みを知覚する。
「いっ・・・ぅ・・・」
「・・・ん、璃都 ?・・・ああ、そうだ、手当てしなきゃ・・・いや先にお風呂行こう、抱っこするね」
一眠りしてオオカミは正気に戻ったらしい。
少し狼狽 えてるみたいだな。
抱き上げられて気付いたけど、事件の発端となったベビードールは、ずたずたにされベッドの上で散り散りになっていた。
なんて無惨な・・・。
一歩間違えれば、俺自身がああなってたかもと思うとぞっとする・・・。
「璃都、大丈夫?傷が酷いから、シャワーだけするね。滲 みるだろうけど我慢して?」
「・・・んっ・・・ぃ・・・っ」
「いい子。我慢できて偉いね、いい子だね」
シャワーで身体を流してもらい、何ヶ所かビリっと痛んだけど、耐えた。
その間、カイが子どもをあやすみたいに、ずーっとよしよししてくる。
痛みが紛 れる気がするから、されるがままにしておいた。
身体を拭かれ、バスローブを着せられて、寝室のカウチへ下ろされる。
カイが救急箱を持ってきて、噛み痕に薬を塗り、腕とか脚とか何ヶ所もガーゼをあてた。
首のガーゼには、その上から包帯を巻く。
首、そんな酷いんだ・・・。
「璃都・・・ごめんね。自制できなかった。あまりに扇情的過ぎて・・・」
「ううん、謝んなくていいよ。俺が煽ったせいでもあるし・・・」
扇情的な格好は、カイを凶暴化させるという事を学んだ。
「・・・ところであれ、どうしたの?」
俺にスウェットを着せながらカイが聞いてきた。
あれ?
あ、ベビードールの事か。
「お義姉 さんが送ってくれた、秘密の10着の内の1つ」
残りの9着も、アレ系だったんだよな・・・。
もう、あのままチェストの奥深くに封印しとこう。
「・・・まだあと9着あるんだね」
「嬉しそうにするな。封印するって決めたんだから」
俺はあんな格好で死にたくない。
カイがベッドを綺麗にしてる間に時間を確認する。
もうすぐ3時か・・・。
「おいで」
俺を抱き上げようと手を伸ばしてくる世話焼きオオカミ。
シャワーも浴びて、ちょっと目が冴えちゃったんだよな・・・。
明日、じゃなかった今日は祝日でカイも休みだし、大丈夫だよね。
「ねえ、バルコニー行こ」
「星見たいの?いいよ」
カイは俺を抱き上げたまま、キッチンでホットミルクを作り、2つのカップに注いだ。
俺とカイで1つずつ持ち、バルコニーに出る。
「おおっ、満天の星空!」
「昼間も天気が良かったからね」
ハンギングチェアに座り、ブランケットを羽織ったカイに後ろから抱き込まれた。
手にはホットミルク。
・・・あったかい。
「明日・・・じゃなかった、今日、家でのんびりコースな」
「うん。内腿噛んじゃったし、痛くて歩けないんだよね?」
「・・・1日中抱っこしてもらうからな。あとおんぶも」
「願ったり叶ったり」
願うな叶うな。
この体勢だと、いつもなら首元にすりすりしてくるカイだけど、傷を心配してかしてこない。
その代わり、今回は無傷だった頸 にずーっとくっ付いてる。
・・・これ、吸ってるな。
吸盤でも付いてんのか・・・あっ、タコのぬいぐるみとか欲しいな。
「カイは金曜から連休なんだよね?」
俺は祝日に挟まれた平日も休みだけど、カイは仕事だから、今週の金曜から来週の火曜までが連休だったはず。
因みに、土曜から2泊3日でりっくんと玲央 と4人で旅行に行く予定だ。
最終日は旅行の翌日だし家でゆっくりしたいから、行くなら金曜だと思って。
「うん。どこか行きたいの?」
「水族館」
「海に帰れない仲間探し?前回とは別のとこ行こうか。シャチがいるとこ」
「うんっ!」
ホットミルクを飲み終わり、またカイに抱っこされて寝室へ戻った。
───────
「思ってたよりちゃんと濡れたぁっ!」
「ふふ、嬉しそうだね」
約束通り、シャチがいる水族館に来た。
ショーを見たんだけど、思ってた以上の水飛沫 に襲われ、2人して髪がびしょびしょだ。
「ごめんカイ、やっぱポンチョ買わなきゃだめだったね・・・俺が、せっかくだから水飛沫浴びたいとか言ったばっかりに・・・」
「これもいい思い出でしょ。それに、さっき買ったシャチのフード付きタオルが役に立つし」
「そんなのいつの間に買ってたの?」
被るとシャチになれる、フード付きタオル。
黒とピンクがあって、カイは黒、俺は案の定ピンクを渡される。
「カイ・・・なんか可愛い」
「こう見えて海のギャングなんだけどな。それに、璃都はいつでも可愛いよ」
シャチ2頭で手を繋ぎ、館内を観て廻る。
「ベルーガ、おでこぷよぷよ・・・」
「ここのアザラシもサービス精神旺盛だね」
「凄い、空飛んでるみたい・・・!」
「エトピリカ、だって」
レストランで食事して、クラゲゾーンでのんびりして、お土産屋さんで今日の目的である海に帰れない仲間探しをする。
タコ、いるかな・・・。
「いたぁ!」
「タコが欲しかったの?」
80cmもある、マダコのぬいぐるみだ。
妙にリアル・・・。
目が恐いけど、そこがまたいい。
「誰かさんから連想しちゃって」
「誰か・・・って、まさか俺以外から連想なんてしてないよね?」
「大丈夫、俺に吸い付くカイから連想したから」
「良かった」
なにが良かったんだか。
・・・あ。
「マンボウ・・・」
ネズミ色をした、ビーズクッションのマンボウ。
泳ごうという気がまったく感じられないぺたんこ感で、棚に横たわっている。
「それも連れて帰る?」
「うーん・・・海に帰りたいという気概を全く感じられない。不合格」
誰でも仲間になれると思うなよ。
タコくらい目に狂気を宿して出直してこい。
「ふはっ・・・ふ・・・くく・・・っ」
オオカミのツボに入ったみたい。
もぉ、笑ってないで、ちゃんと聞いてくれよ。
少し前屈みになって笑ってるカイに、下からちゅっとキスしておねだりする。
「これ、買って」
「璃都に不意打ちちゅーされちゃった。璃都食べたい。タコ 買ってすぐ帰ろう」
そう言って、俺を抱き上げてレジへ行こうとするカイ。
ちょっと待って!
水族館 で抱っこはやめて!
「こら、下ろせってば」
「やぁだ。逃したくない」
「逃げないって知ってるだろ」
暴れたところで無意味なので、結局カイに抱っこされたまま車へ運び込まれた。
助手席に座らされ、シートベルトをしてもらう。
膝の上には新入りのマダコ。
「マダコぉ、聞いてよ、俺の旦那が横暴なんだ」
「また俺の旦那って言ってくれた。それ好き」
「喜ぶなってば」
ご機嫌オオカミの運転で、車は1時間もかからず家に着いた。
・・・え、なんか往路 よりだいぶ早くない?
法定速度守った?
「着いた。おいで、璃都」
「んー、抱っこはいいんだけど、明日から旅行だから・・・」
「今夜はいっぱいシようね」
「違う、そーじゃない」
荷造りして早く寝る、でしょ。
朝早いって言ってたし。
「ところで、旅行先はどこなの?」
「あれ、言ってなかった?ルプス家の別荘に行くんだ。温泉もあるよ」
「へぇ」
別荘・・・どんなとこだろ。
去年初めて行ったけど、いいよな温泉。
また露天風呂あるかな。
それから2人で荷造りして、夕飯作って食べて、お風呂に入った。
「ねえ、璃都ぉ」
「だぁめ。明日朝早いんだから」
ベッドに入った途端、変態絶倫オオカミが覆い被さってくる。
こら、パジャマの中に手を入れてくるな。
「1回だけ」
「それカイだけじゃ・・・」
「璃都は朝出る時、寝てていいよ」
「ちょ・・・だめ・・・だ・・・ってぇ・・・っ」
バカオオカミめ・・・ほんとに俺、朝起きないからなっ!
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