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第60話

・・・んー。 なんか・・・呼ばれてる・・・気がする・・・。 カイ・・・じゃない・・・だれ・・・。 「おーい、起きろちょりと」 「・・・んぇ?」 ・・・玲央(れお)? なんで? あ、俺、寝てた? ここどこ? 「璃都(りと)、起きた?」 「カイ・・・?」 「ちょりとおはよー」 「りっくん・・・あ、旅行?」 俺は助手席に座ってて、カイは運転席、玲央は運転席の後ろで、俺の後ろにりっくんが座ってる。 え、いつの間に・・・? 「よく寝てたな」 「昨夜(ゆうべ)、虐められちゃったー?」 「・・・っ、りっくん、そーゆー事言うのセクハラだからね」 「ちゃんと1回で寝かせてあげたのに」 「カイは黙って」 カイが運転するSUVは高速を走行中。 どうやら俺は、寝ている間に着替えさせられ車に乗せられたらしい。 寝てる俺を乗せたまま、りっくんと玲央を拾って、今に至るのかな。 「サービスエリア付いたから、朝ご飯だよ」 カイが車を止め、自分と俺のシートベルトを外す。 外したついでにキスまでしてくる。 「んー・・・ふぁ・・・ぁ」 「あくび可愛い」 目元を擦りながら車を降りると、カイが来て手を繋いだ。 先に行ったりっくんと玲央も、当たり前のように手を繋いでる。 「僕ヒレカツサンドにしよー」 「朝からカツかよ・・・」 玲央はツンデレだって言ってたけど、手を繋ぐのは別に拒否らないんだよな。 俺は未だ、ほんの少し抵抗がある。 完璧イケメン獣人と手を繋いで歩いてるの、見られてるの恥ずかしいんだよ。 俺が、カイに釣り合ってないって、思われてる気がして。 「璃都は何食べたい?」 「んー・・・カイは?」 「牛串と特製肉まん」 朝から? ・・・でも、牛串はひと口欲しいかも。 「・・・そっか。じゃ、俺は・・・メロンパンにしよっかな」 先に中の店でメロンパンと飲み物を買って、外の店で牛串と特製肉まんを買う。 ・・・おお、牛串美味しそうだな。 「なあ、あっちのベンチ座って食おー」 「ああ」 「ちょりと、何買っ・・・メロンパン?女子か?」 「男子だよ。玲央は・・・ソフトクリームって女子なのそっちじゃん」 ベンチに並んで座り、仲良く朝ご飯。 メロンパン美味しい。 カイの口元に持っていくと、カイは俺の口元に牛串を差し出しながらメロンパンを齧った。 俺も牛串に齧り付く。 んー、旨い! 甘いとしょっぱいを交互に食べるの、いいな。 玲央はソフトクリームの一番美味しい頂辺(てっぺん)だけ食べて、残りのコーン部分はりっくんに押し付けてた。 りっくんも、当たり前のように受け取って食べてる。 「璃都、肉まん食べる?あの時、ひと口しか食べられなかったから」 「・・・食べない」 思い出したくなくて、俺が肉まん避けてるの知ってる癖に。 「なあにー?あの時って?思い出?」 「おい、聞いてやるな。ちょりとにとっては良い思い出とは言い難い」 玲央には愚痴大会で話したからな。 せっかく玲央が気を利かせ、りっくんを制してくれたのに・・・。 「璃都とのファーストキスの思い出だよね」 「ファーストキスと肉まんがどー繋がんのー?詳しく聞きたいー」 「おいシド、聞くなっつってんだろ。後で俺が教えてやるから」 「結局玲央経由で知られるんじゃん」 食べ終わって車に戻り、今度は玲央が運転席、りっくんが助手席、カイがりっくんの後ろで俺は玲央の後ろに座る。 目的地に到着するまで、俺とカイの出逢いの話とか、玲央とりっくんの出逢いの詳しい話とかで盛り上がってしまった。 「確かこの辺・・・あー、この道だ」 りっくんの道案内は曖昧だったけど、ちゃんとルプス家の別荘に辿り着いた。 ピロティタイプの駐車場に車を停め、りっくんが鍵を開けてみんなで中に入る。 「おお・・・」 入ってすぐ、広くて開放的な吹き抜けのリビング。 入って左奥にアイランドキッチン、右奥の階段から2階に上がると寝室が3つ。 階段の先にあるドアから隣の建物に入ると、ジャグジー付きの内風呂と、外に露天風呂があった。 「ねえ、滝がある!露天風呂に滝がある!お風呂に滝っ!」 「ふふ、滝だね」 「ちょりとって、たまに凄く子どもっぽくなるよねー」 「カイザルさんの調教の賜物じゃねぇの」 なっ!? は、はしゃぎ過ぎた・・・でも滝だぞ? 露天風呂に滝があるなんて思わないだろ? びっくりするだろ? 「リシド、余計な事を言うな。せっかく璃都が無邪気に喜んでくれたのに」 「悪かった。あ、そーだ、ちょりとにプレゼントがあるんだった」 りっくんが車に戻り、カーゴルームから何かを引っ張り出した。 なんだろ・・・でかい・・・紺色の・・・え、それって・・・。 「シーラカンス!?」 「海に帰れない仲間集めてるって聞いたからー。どう?仲間に入れてくれる?」 りっくんからシーラカンスを受け取る。 全長約120cm、ぱかっと開いた口、足みたいなヒレ、紺色に白の斑点模様、暗闇で光りそうな蛍光黄緑の目・・・。 「お前ももう、海には帰れないぞ・・・(うち)のリビングに住むんだぁっ」 「気に入ったみたいだね」 「良かったー」 「ちょりと、変わった趣味してんなぁ」 シーラカンスを抱いて、リビングに戻る。 ソファに座って、シーラカンスを観察していると、りっくんが紅茶を淹れてくれた。 「マカロン作ってきたから、どーぞ」 「りっくん、お菓子も作れるんだ?」 「うん。尊敬する?」 「・・・くっ・・・悔しいけど・・・」 「だから、悔しがるなよー」 カラフルで、店で売ってるみたいなマカロン。 ・・・これって、家で作れるもんなの? 「ちょりとだって、バレンタインにおしゃれなケーキ作ってたじゃん」 「うん、頑張った」 そうだ、俺だってオペラを独りで作ったし。 上手にできたから玲央に写真見せたんだよね。 「璃都にゃん先生は和食も上手だよ」 「「璃都にゃん先生?」」 「カイっ、黙りなさいっ!」 なんでそーやって俺の黒歴史をぺらぺら喋るかな? カイの黒歴史も・・・なんかあったかな・・・。 「ねえりっくん、カイの黒歴史知らない?」 「カイザルの黒歴史ー?たまに暴れてた事くらいかなー」 「あ、暴れ(その)ネタはいいや」 だって原因俺だし。 聞くと可哀想になって優しくしてあげたくなる。 その結果、俺が可哀想な事になる。 「んー、じゃあ、黒歴史って程じゃないけど、僕に弟子入りした話とか?」 「弟子入り?」 なんの? りっくん黒帯とか? 「おいリシド、余計な事を・・・」 「料理を教えてくれって、暫く僕の家に住み着いてたんだよー」 え、料理を習ってたの? カイが? 「カイザルさん、習わなくてもできそうなのに・・・」 「うん。カイもりっくんも、生まれた時から何でもできるもんなんだと・・・」 「2人とも、獣人に対しての認識が誤ってるよー?獣人だって習って練習しなきゃ、できないからね?」 そーなんだ、知らなかった。 獣人も練習とかするんだな・・・ほんとかな・・・。 「璃都、疑ってる?」 「うん。だって、やった事なくても最初からできるじゃん」 「たまたまだよ」 「ふぅー・・・ん」 「俺のネコちゃんが疑り深くて可愛い」 いや、疑り深いのと可愛いのは関係ないだろ。 「初めて作ったの、なんだったっけなー。大失敗だったんだよな?」 「だから余計な事を・・・」 「失敗?カイが?大失敗?」 なにそれ、あり得なさ過ぎて聞きたい! カイは知られたくなさそうだけど、俺は知りたい! 別に馬鹿にしようとか思ってるんじゃなくて、カイでも失敗するんだって、それでも練習してできるようになったんだって事が、なんか・・・。 「あっ、そーだ、オムライスだ!僕が丁寧に教えてあげようとしたら、それくらい独りでもできるとか言ってさ、面白いから黙って見てたんだけど、ケチャップライスの作り方がさー・・・」 「あれは!・・・知らなかったんだ、炒めるって・・・」 え・・・それって、つまり・・・? 「ボウルにご飯入れて、ケチャップかけて混ぜ始めたの。なかなか色が着かないからってすげーケチャップかけてさー。味付けとか、なし」 「・・・ケチャップを過信した結果だ」 「「「あはははっ!」」」 ケチャップを信用してたんだな、当時のカイは。 なんか、可愛いなぁ。 いくつの時なんだろ。 「カイがりっくんの料理教室に住んでたのって、何歳の時?」 「15。誰かさんに逃げられた後すぐかなー」 ・・・え、5歳の俺に会ってすぐ、料理習い始めたの? それ、もしかして、俺のため・・・? 「ちょりとの好物、1番がカイザルのオムライスって聞いた時は、僕も嬉しかったよ。カイザルね、きっとあの子はオムライスが好きだからって、根拠のない自信を持ってオムライスばっか練習してたからね」 なに、それ・・・。 カイの黒歴史を聞こうとしただけなのに・・・。 「璃都?可愛い・・・」 「あー、甘えたくなっちゃったかー。玲央もおいでっ」 「あんなの聞いたらちょりとでも素直になるだろ。俺は遠慮しとき・・・おいっ、放せって」 りっくんと玲央の前だけど、シーラカンスをソファに置いて、カイの膝を跨いで抱き付いてしまった。 玲央もりっくんに抱っこされてるだろうし。 失敗しちゃったカイが愛おしいなって思って、それでも練習してあんな上手になったの、俺のためだったなんて・・・。 俺も、カイのためになにか、新しい事できるようになりたい。

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