66 / 75
第66話
ルプス家で集まりがあるとかで、カイとりっくんが泊まりで実家に帰るから、玲央 がウチに来て一緒に留守番する事になった。
嫁なのに、旦那の実家の行事に参加しなくていいのかって聞いたら、みんな番は連れてこないのが当たり前なんだって。
「親兄弟にも番を奪われたくないとか、ヤバいよな。俺も毎年留守番させられて慣れたけど、最初は人間の男の嫁とか見せられないからだろって、シドにキレた事あった」
「そもそも、家族の番を奪うとかあんの?ないでしょ。俺も、独りだったら悪い方に考えまくって嫌になって門扉乗り越えて逃げたかも」
カイとりっくんは大量のおかずを作り置きしてから、今朝一緒に出掛けて行った。
帰ってくるのは明日の昼頃になるらしい。
俺たちは1階のプレイルームで、プロジェクターにゲームを接続して遊んでる。
「あ、この後初見殺しくるぞ」
「え?どんな・・・ぅにゃあっ!?」
「ネコかよ」
「うるさいツンデ玲央!」
午前中は旦那たちの愚痴を言い合いながらゲームして、昼はダイニングルームで旦那たちが作ってったご飯食べて、午後は庭で遊ぼうぜって玲央が言い出した。
「えー、俺暑いの苦手なんだけど・・・」
「だから水遊びしようぜ!こんなん買ってきた!」
玲央が取り出したのは、束になった水風船。
束の根元から水を入れると、繋がった全ての水風船が一度に出来上がるという代物だ。
「なにこれぇ。いっこいっこ水入れて縛んなくていいんだ?」
「いっぱい買ったから、全部このビニールプールに貯めていっきに遊ぼう」
「うわ、大人だからこその子どもっぽい遊び方だぁ」
Tシャツハーパン姿の俺たちは、ブツを持ってテラスへと出た。
先ずはセットになってた空気入れを使い、交代しながらビニールプールを膨らませる。
「あ"っっっづい"!」
「よし、プール完成!次はじゃんじゃん水を流し込む!」
ビニールプールをテラスの水道前まで持って行き、その上で水風船たちに水を流し込んでいく。
プールの中は水と、大量の水風船でいっぱいになった。
「よっしゃー!水風船風呂のかーんせーい!」
「とりあえず入りたい!暑い!入りたい!」
水風船をかき分けて、ビニールプールに身体を浸ける。
はふー・・・冷たくてきもちー・・・。
「ちょりとー、浸かってんなよー。ほら、水風船を持てるだけ持て!投げ合うぞ!覚悟しろ!」
相手より1個でも多くの水風船を抱えようと必死になりながら、庭の真ん中に離れて立って向かい合う。
え、ちょっと、玲央の目が本気 なんだが?
「行くぞちょりとぉ!」
「覚悟しろ玲央ぉ!」
暑さでおかしくなったのか、馬鹿みたいに声を上げながら水風船を投げ合った。
最初に投げたのは届かなかったので、走って玲央に近付きながらまた投げる。
よっしゃ当たった、と思ったら顔面で水風船が弾けてばしゃっと水がかかった。
ムキになって持ってる水風船をまとめて投げ付け、玲央に当たったのがばしゃっと弾けるのを見てからテラスへ走る。
水風船の補充だ。
そしたら玲央がプールごと庭の真ん中まで引き摺って逃げ、プールから直接掴んだ水風船を投げまくってくる。
俺も一緒になってプールから掴んでは投げ掴んでは投げをやり返し・・・。
「うあー・・・びっしょびしょー・・・」
「はぁ・・・はぁ・・・疲れた・・・」
「ちょりと、体力ねぇな。そんなんでカイザルさんの相手できてんのかよ」
「おかげさまで、これでも前より持久力はつきました・・・」
水だけが残ったビニールプールに2人で浸かりながら、プールの縁に頭をのせて空を見上げる。
青いなー・・・。
「・・・あ、なんか嫌な予感する。スマホ確認してくるわ」
玲央が立ち上がり、テラスのテーブルに置きっぱなしにしていたスマホを取りに行った。
嫌な予感って、なんだろ・・・と思って見てたら、玲央が自分のと俺のスマホを持って戻ってくる。
「着信アリ」
「え、やだ怖い」
自分のスマホを受け取り画面を確認すると「ダーリン」からの着信が。
玲央の方にも着信してたみたいで、やれやれって顔しながら電話に出てる。
俺も出るか・・・。
「・・・なぁに?」
『楽しそうだね』
「うん?え、なんでわかんの?」
『庭は監視カメラがあるから。最初から見てたよ』
なん・・・だと・・・。
庭に監視カメラなんてあったの?
最初から見てたってどーゆー事?
俺たちが馬鹿みたいに遊んでんの見られてたって事?
今も見てんの?
プールに2人で浸かりながら電話してんの見られてんの?
『タオルは用意したの?』
「へ?・・・たお・・・あっ!」
用意してない・・・。
え、どうする?
2人ともびしょびしょだよ?
乾くまで部屋に入れない・・・。
『ふふっ、そんな事だろうと思った。テラスのカウチにかけておいたから、使って』
「ほんと?ありがと・・・って、俺たちが庭で水遊びすんの知ってたの?」
『リシドが玲央くんにプールと水風船ねだられたって聞いたから、遊ぶんだろうなって』
タオルを用意し忘れるってとこまで予想するなんて、さすがだな。
玲央も似たような話をりっくんとしたみたいで、お互い電話を切ってからプールをひっくり返して水をこぼし、テラスの端に立てかけて干しながら、旦那が用意しててくれたタオルで身体を拭いた。
「なあ、監視カメラの映像な・・・」
「うん?」
「ルプス家のみんなで見てたんだと」
「・・・は?」
会ってもいない義家族に馬鹿みたいに遊ぶ様を見られた・・・だと・・・。
「恥ずっ!!」
「手遅れだ、諦めろ」
「帰って来たら殴る」
「俺も加勢する」
部屋に入り、お互い寝室で着替えてから、1階のダイニングルームで休憩。
俺は白ブドウジュース、玲央はビールを飲みながら、再び旦那たちの愚痴大会になった。
───────
旦那たちからの「もうすぐ着くよ」という連絡で目が覚めた。
時刻は9時48分。
・・・昼頃に帰ってくるんじゃなかったのかよ。
「やばい・・・」
「やばいな・・・」
昨夜は晩ご飯食べた後、風呂に入ってから地下のシアタールームでB級映画観まくって、そのまま2人とも寝ちゃって・・・。
だから、1階もテラスも庭も、散らかしたまま。
「ただいまー、2人ともいい子にしてたー?」
「璃都 ?どこ?」
慌ててシアタールームを出たら、1階 から旦那たちの声がした。
・・・まずい。
「どうする?」
「どうするって・・・とりあえず隠れてみる?」
玲央と相談し、シアタールームに籠城しようってなって、そおっと戻ろうとしたんだけど・・・。
「わるい子ちゃんみーっけ」
「捕まえたよ、いたずらネコちゃん」
「「ぅわっ!?」」
音もなく現れたハイイロオオカミたちに捕まってしまった。
俺はカイに、玲央はりっくんに抱き上げられて1階へ連行される。
「2人とも、楽しく過ごせてたみたいで良かったけど・・・」
「ちょーっと、散らかし過ぎじゃなーい?」
「「ごめんなさぃ・・・」」
叱られて大人しくなりそうになったけど、昨日の事を思い出して抗議した。
「ねえっ!監視カメラの映像をルプス家のみんなで見たってほんと!?誰に見せたの?なんで見せたの?俺たちの肖像権を無視していいと思ってんの!?」
「だって可愛くて。俺とリシド、テオドア兄さん、ヘラルダ姉さん、父さんと母さんと叔父さんと叔母さんで見たよ」
最悪だ・・・。
カイの兄姉と両親、りっくんの両親に見られたなんて・・・。
「ご感想は?」
玲央、そんなの聞く必要ないだろ。
「みんな、2人とも可愛いねーって褒めてたよー」
りっくん、それは褒めてたんじゃなくて呆れてたんじゃないかな。
「璃都が元気なの見て、安心してたよ。本当に生きててくれて良かったって」
「それは・・・どぉも・・・」
そっか、俺が5歳の時カイに噛まれたの知ってるから・・・。
まあ、元気に生きてる姿を見せられて良かった、と思うしかないか・・・。
ともだちにシェアしよう!

