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第71話

「あっははは!そっかそっか、それで2人してしょんぼりしてたんだ?大丈夫だよ、怒らないから。ちゃんと言えて偉かったねー」 俺が玲央(れお)に抱き付いてしまった事を正直に話したら、りっくんは笑って赦してくれた。 良かったぁ・・・。 でも・・・。 「か・・・カイも、怒らない?」 「それはどうだろう」 「「え!?」」 俺も玲央も、浮上しかけたのに再び叩き落とされた。 「まあ、俺がカイザルさんに叱られる事はないか。ちょりと、頑張れ」 「え?俺だけ?俺だけ叱られんの?玲央も一緒に謝ってよ!」 「俺はお前に背後から襲われた被害者だぞ」 「そんなぁ・・・」 最悪だ・・・カイもそろそろ戻ってくるってりっくん言ってたし・・・。 あ"ーなんで玲央に抱き付いたりしたんだ俺・・・。 「あ、カイザルから電話だ」 りっくんにカイから電話が入り、俺はびくびくしながら話が終わるのを待った。 「・・・ああ、わかった。ちょりとに代わる?」 「え"!?」 りっくんにスマホを渡され、恐るおそる電話に出る。 『璃都(りと)?』 「ぁ・・・あのね、謝らないといけないことがあって・・・」 『なあに?』 「その・・・あ・・・ってから言う。もう戻ってくる?」 電話では言い辛い。 ちゃんと顔を見て謝った方がいい気がするし。 『そう。ごめん、今日はそっちに戻れそうもなくて。アドルフにシェルター(そこ)の位置を知られる訳にはいかないから、俺は仕事の後、家に帰るよ』 「え・・・、あ、そっか・・・」 アドルフさんに後付けられそうなのかな。 そんなに警戒しないといけないようなヒトなのか・・・。 『明後日には帰るって言ってたから、アドルフたちが帰ったらすぐ迎えに行く。いい子にしてるんだよ』 「・・・・・・ぅん」 既にいい子を逸脱する行為をしてしまいましたごめんなさい。 でも、今この状況で言う事ではない、と思う。 「りっくんに、代わるね」 スマホをりっくんに返し、リビングのソファの隅っこに座る。 謝れなかった事もそうなんだけど、明後日までカイに会えないのも、なんか・・・。 「ちょりと、大丈夫か?」 「・・・ぅん」 俺は今スマホ持ってないから、自分からカイに連絡もできない。 会いたくても会えない。 声が聞きたくても聞けない。 「シド、ちょりと具合悪そう」 「えっ?大丈夫?お腹痛いの?カイザルに電話・・・」 「だめっ!!」 カイは普通に、明後日迎えに来るって言った。 それくらい会えなくたって、あの話し方からして大した事じゃないんだろ。 俺だけこんなぐるぐるして、電話して困らせるとか、嫌だ。 「平気だから。カイなんかいなくても別に大丈夫だし。もうこのまま、玲央に抱き付いたのもなかった事にしちゃおうかな。りっくんは赦してくれたし、カイが迎えに来る頃には匂いだってわかんなくなってるだろうし」 「あれー、ちょりとご機嫌斜めだー」 「さっきまでの(しお)らしさはどこへ・・・」 りっくんが昼食を作ってくれて、3人で食べた。 食べ終わったらりっくんは仕事に戻り、玲央はりっくんが持ってきてくれた仕事用PCで仕事するって。 俺は2階へ行き、本棚を物色した。 やっぱり、薬学関係の参考書が収まってる。 何冊か持ってリビングへ下り、玲央の邪魔にならないとこに座って読み始めた。 タブレット、持ってきてほしかったな・・・。 「ちょりと」 「・・・ん?」 「具合悪くなったらちゃんと言えよ。俺のスマホ持ってきてもらったから連絡できるし。シドがカイザルさんと交代してこっち来させてくれるから」 「・・・ぅん」 別に具合悪くなんてない。 カイにだって会わなくて平気だ。 あんな変態ストーカーオオカミ、いなくたって・・・。 参考書を読むのに集中して、玲央のタイピング音がどんどん遠くなっていった。 ─────── 「おーい、ちょりと!ご飯だよー」 「・・・・・・ぇ?」 顔を上げたら、困ったような笑顔のりっくん。 あれ、いつの間に戻って来たの? 「・・・お帰り。今何時?」 「もうすぐ8時。夕飯遅くなっちゃってごめんねー」 参考書をテーブルに置き、ダイニングへ。 りっくん、小1時間前に戻って来てて、夕飯の支度してたって。 全然気付かなかった。 玲央はダイニングテーブルに頬杖をついて、呆れ顔だ。 「なに?」 「お前、何回声かけたと思ってんの?いつもそんな風に勉強してんの?集中し過ぎ。身体壊しそうなやり方すんな」 そんなつもり、なかったんだけど。 普通に参考書読んでただけ・・・。 「はいはい、ちょりとを責めないの。食べよ」 りっくんが作ってくれた料理はどれも美味しい。 さすがプロ。 カイと味付けが似てるのは、カイがりっくんの弟子だからなんだろうな。 「そうだ。ちょりと、家から持ってきて欲しい物ある?明日の朝、カイザルから受け取ってくるよー」 「リュック。タブレットと参考書が入ってる」 「ここにいる間くらい勉強の事忘れたら?」 「玲央だって仕事してんじゃん」 夕飯を食べたら、リビングで映画を観て過ごす。 りっくんと玲央も、普通に座って映画観てる。 ・・・玲央、りっくんの膝に座んないのかな。 「俺に遠慮しなくていいよ」 「なにが?」 「りっくんの膝に座りなよ」 「はあ?座んねえから」 「そう?じゃ、おいでー玲央」 「やめろ!」 りっくんが玲央を抱き寄せて、玲央が拒否ってわちゃわちゃしてんの見て、ちょっと笑えた。 俺がいなかったら、もっとくっ付いてたのかな。 俺とカイみたいに・・・。 「・・・ちょりと、大丈夫?」 りっくんが急に真顔になって聞いてきた。 なにをそんなに心配してんの? 「大丈夫だって、なんともな・・・」 あれ、なんだろ、やばい・・・。 俺は立ち上がり、部屋を出た。 そのままトイレへ。 「ぅ・・・・・・っ」 さっき食べた夕食を吐いてしまった。 吐くなんて・・・小学生の時以来だ。 「ちょりと、我慢すんな。全部吐け」 いつの間にか玲央が背中を摩ってくれてる。 (こら)えようとしてたのに、胃が空になるまで吐いた。 「カイザル、お前のネコちゃん限界だぞ。こっち来い」 りっくん、まさかカイに電話した? 呼ばなくていいから。 カイなんか・・・いなくたって・・・。 「・・・ふ・・・っ・・・ぅえ・・・ぅぅ・・・っ」 こんな事で泣くなんて、情けなさ過ぎる。 トイレに座り込んで、口ん中気持ち悪くて、でも立てなくて。 玲央とりっくんにも迷惑かけてんのに。 しばらくそのまま泣いてたら、ガチャンって玄関が開く音と、誰か走ってくる音がした。 「璃都!!」 あ、カイだ。 こんな姿、見られたくない。 たった1日もひとりでいられないなんて、面倒臭いやつじゃん。 最悪・・・。 「おいで、もう大丈夫だよ。ごめんね、不安にさせて。吐いちゃったの?苦しかったね。もう大丈夫。頑張ったね」 俺を抱き上げて、背中を摩りながら声をかけてくれるカイ。 スーツ姿だ・・・まだ仕事してたのかな・・・。 「・・・ぅ・・・がい・・・したぃ」 カイが俺を抱いたまま洗面台へ行き、水を出してくれる。 両手ですくい、口を(すす)いで、顔も洗う。 少しすっきりした。 「ごめん・・・なさぃ・・・」 「謝らなくていいよ。もう平気?薬飲もうか」 「ん、いい、平気。りっくん、玲央、ごめんなさい」 「悪い事なんてしてないだろ。謝んな」 「そーだよ。ストレスで毛玉吐いちゃったんだよねー。仕方ないよ」 毛玉って・・・俺はネコじゃなくて人間だってば。 でも、カイに抱っこされて、かなり落ち着いてきた。 ストレスって、カイに昼間の事で叱られるのが恐かったからかな。 それとも・・・。 「璃都、寝る?俺も一緒に寝るから、もう寂しくないよ」 「・・・っ、トイレ掃除して風呂入ってから寝る」 自分が汚したのにそのままになんてしておけない。 でもカイに止められて、結局カイが掃除してくれて、その間俺はカイのジャケットを羽織ってすぐ傍に座り込んでた。 「ちょりと、なんか飲む?」 「ぅうん、大丈夫。ありがと、りっくん」 「カイザルさんから離れたくないんだよな。次からはもっと早く素直になれよ」 「・・・・・・ぅん」 心って、こんな顕著に身体に作用するものなんだな。 勉強になりました・・・。

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