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第72話

カイと1階の風呂に入ってから、スポーツドリンクもらって飲んで、俺が落ち着いたのでりっくんと玲央(れお)は2階へ。 俺とカイは歯を磨いてからベッドに入った。 「璃都(りと)、可愛い。俺の璃都・・・」 「・・・ぁの、カイ・・・昼間電話で言った、謝んなきゃいけない事なんだけど」 横になって、カイに抱き締められながらよしよしされてたんだけど、やっぱりちゃんと謝っておこうと思った。 またぐるぐるして具合悪くなったら、迷惑かけるし。 「ん?なあに?」 「玲央にVRホラーさせて、カイみたいに脅かそうとして、後ろから抱き付きました。ごめんなさい」 その上、吐いて呼び出してトイレ掃除までさせて・・・お仕置きされても文句は言えません。 「ふふ、そっか。それ言わなきゃって思って、具合悪くなっちゃったの?大丈夫だよ、怒ったりしないから。ちゃんと言えて偉かったね。いい子」 カイは怒るどころか、俺の額にキスをして頭を撫でてくれる。 でも、違う、それだけじゃない。 具合悪くなったの、それだけじゃない・・・。 「・・・カイが・・・俺に会えなくても、平気なのかなって・・・スマホなくて、カイに電話もできないし・・・明後日まで会えないって思って・・・っ」 「璃都・・・」 また涙が勝手に溢れてくる。 泣きたくないのに。 「ああ、可愛い。俺に会えないって思ったら具合悪くなっちゃったんだ?俺がいないとだめ?もうすぐ俺なしじゃ息もできなくなるね。可愛い・・・可哀想で可愛い・・・俺の璃都が愛おし過ぎる・・・!」 「いっ、息はできるっ」 可哀想で可愛いってなんだよ! そーゆー発想が恐いんだってば。 でも、このベッドで独りで寝る事になってたら、寝られずに朝まで参考書読んでたかも。 ・・・参考書、カイの代わりになるのでは。 「新しい参考書あれば、カイいなくても平気」 「参考書は撫でてもくれないし、抱き締めてもくれない、キスもしてくれないよ?いいの?」 「・・・・・・・・・良くなぃ」 いつもなら、いいって言い張れるのに。 俺は今かなり弱ってる。 ベッドに入ってからずっと、カイのスウェットをぎゅって握って放さないくらい、弱ってるんだ。 「まさかアドルフに感謝する日がくるとは」 俺にキスの雨を降らせながら、嬉しそうに言うカイ。 「じゃあ、アドルフさんに会ってお礼言っとく」 「璃都、旦那を殺人犯にしたいの?」 「冗談です」 眼がマジだ。 こいつ、ほんとに姉婿を()る気か? 「明日、仕事行くの?」 「・・・うん。アドルフの会社との契約会議だから、行かなきゃ。夜にはこっちに来るよ。俺のネコちゃんは独りで眠れないでしょ」 契約会議・・・それでアドルフさんはこっちに来たのか。 どの会社との契約だろ・・・サイバーセキュリティの会社かな。 「・・・そんな事・・・ない、けど・・・仕方ないから一緒に寝てやる」 「ふふっ、ありがとう。・・・あ、今日はこのまま寝かせてあげるけど、明日はすぐには寝かせないからね。覚悟しておいて」 「・・・明日も具合悪くなる予定なんで」 すりすりしてくるカイのオオカ耳をもふりながら、俺はゆっくり眠りに堕ちた。 ─────── 「お腹すいた」 「・・・ん?璃都、起きたの?」 身動き取れない。 これ、カイにがっちり捕まってるな。 あれ、俺今なんか言った? 「お腹すいて起きちゃったの?可愛い。顔洗ってキッチン行こうか」 カイは俺を抱き上げてベッドを下り、洗面所へ向かう。 顔を洗いキッチンに行くと、りっくんが朝食を用意してくれてるとこだった。 「あ、ちょりとおはよー。具合はどう?クロックマダム作ったけど、食べられそ?」 「食べる!」 クロックマダムはクロックムッシュに目玉焼きをのせたやつだ。 俺はクロックムッシュも知らなくて、前にカイに教えてもらったんだけど。 「玲央、おはよ」 「・・・はよ・・・具合ど・・・?」 「もう平気、ありがと。玲央は・・・うん、お疲れさま」 ダイニングテーブルに突っ伏してる玲央。 首が痕だらけだ。 4人で朝食を摂り、カイとりっくんは仕事へ。 玲央はリビングで少し仕事するって言うから、俺は2階で遊んでようかと思ったんだけど・・・。 「ゲーム機持ってきてリビング(ここ)で遊びなさい。参考書は没収」 なんでだよ。 参考書のなにがいけないんだ。 仕方ないので言われた通りゲーム機を取りに行き、リビングのソファに寝転んで静かに遊ぶ。 ・・・あ、飲み物出そう。 「玲央、なんか飲む?」 「ん。コーヒー」 「かしこまりました」 コーヒーを淹れて、カップに注ぐ。 玲央はブラック、俺は砂糖とミルクをたっぷり。 「お待たせいたしました」 「秘書?」 「執事(シグマ)の真似」 コーヒーをひと口飲んで、ぱちぱちとタイピングする玲央を観察する。 ・・・真面目に仕事してるなぁ。 玲央もちゃんと社会人なんだな。 「・・・よし。ちょりと、午前の仕事は終わったから遊んでやる」 「わーい」 2人でお菓子と飲み物を持って2階に上がり、対戦ゲームをして遊んだ。 カイが相手だと負けてばっかだったけど、玲央が相手なら互角に戦える。 「おい、ちょりとの癖に生意気だな」 「玲央がヘタクソなだけでしょ」 「シドはもっとヘタクソだぞ」 「え、獣人なのに?」 2人でけらけら笑ってたら、コンコンとノックの音が。 あれ、ドア閉めてなかったはず・・・。 「だぁれがヘタクソだってー?ちょりとは獣人に対する偏見を捨てなさい」 開けっぱなしだった部屋の入り口に、りっくんが立ってた。 もう昼ご飯の時間ですか。 「お腹すいてない」 「玲央、ちょりとにお菓子あげ過ぎ。お兄ちゃんなんだからちゃんと見ててあげなきゃ」 「俺もお腹すいてない」 「玲央もか・・・まったく、このかわい子ちゃんたちは・・・」 りっくんは呆れながらも、小さめのおにぎりを作って置いていってくれた。 玄関から出る前に、俺たちがお菓子を食べ過ぎたからおにぎり置いてくって、カイに電話で報告して。 「りっくん、余計な事を・・・」 「カイザルさんて、ちゃんと食事摂んないと怒るのか?」 「・・・いや、別に怒んない。じゃ、いっか」 「俺は怒られる。帰ったらナニされるか・・・」 ご愁傷様です。 午後は返してもらった参考書を読んだり、おにぎり食べたり、仕事してる玲央を観察したりしながら過ごした。 夜にはカイが来るってわかってるし、ぐるぐるする事もなく心は穏やかだ。 「はぁー・・・終わったぁー・・・」 「お疲れさま」 リビングの壁にあるフレームレスの壁掛け時計を見ると、もうすぐ19時。 そろそろりっくん戻ってくるかなって思ってたら、玲央のスマホに着信が。 「・・・ああ、わかった。大丈夫だって、ちょりといるし。ちょっと待って」 玲央がスマホを俺に渡してきた。 なんだろ? 「もしもし?」 『あ、ちょりと?ごめん、僕もカイザルと一緒にアドルフたちと会食する事になっちゃって。夕飯、ちょりと作ってくれる?』 「うん、わかった。カイは?」 『アドルフと一緒に先に行ってる。夜、遅くなるだろうけど、カイザルと一緒にちゃんと戻るから、心配しないで待ってるんだよ?』 「大丈夫だって。玲央に代わるよ」 玲央にスマホを返し、俺はキッチンへ。 中途半端な時間におにぎり食べちゃったし、玲央はアイスも食べてたし、夕飯は軽めでいいかな。 「玲央ぉ、パスタでいい?」 「おー。和風にして」 「りょーかい」 電話を切った玲央が、ダイニングテーブルのイスをキッチンに寄せて座る。 俺の料理するとこ見てるつもりか? 「俺はオオカミたちみたいに手際よくないぞ」 「シドはプロだし、カイザルさんはその弟子なんだから、比べようなんて思ってねぇよ。動画撮ってシド経由でカイザルさんに送ってあげんの」 「有料コンテンツです」 さっと作れる超簡単なやつにしよ。 パントリーの壁にかけてあったエプロンをして、ささっと必要なものを揃える。 パスタを茹でてる間に大根をおろして水気を切り、大葉を刻む。 ツナ缶をフライパンに入れ、麺つゆで濃いめに味付けしながら少し炒める。 茹で上がったパスタを皿に盛って、ツナ、大根おろし、刻み大葉をのせて完成。 「おまたせ」 「ちょりとの人妻感が凄い」 「玲央も人妻だろ」 2人でパスタ食べてたら玲央のスマホにりっくんから着信が。 出たらカイだったみたいで、すぐ俺に代わった。 「カイ?」 『俺の奥さんが可愛い!早く会いたい!璃都愛してる!』 「・・・はいはい」 ただ簡単な料理をしてただけの動画だったのに、熱烈な感想だな。

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