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第73話
「わたくし璃都 ・ルプスは、今後、番であり夫のカイザル・ルプス以外に抱き付きません。また、カイ以外にご飯は作りません。やむを得ず玲央 に作ってあげる場合は動画を撮影しカイに送信します。俺はカイが大好きで、一緒にいられないと具合が悪くなります。今後また、具合が悪くなりそうになったら、真っ先にカイに助けを求める事をここに誓います・・・にゃん」
仕事で来ていた義姉婿 さんが今日、お義姉 さんと帰ったので、俺と玲央 はシェルターを出所した。
帰宅して、最初にやらされたのが先ほどの宣誓である。
しかもなぜか、昨晩の会食時にお義姉さんから受け取ったという茶トラの猫パジャマと猫耳カチューシャをさせられて。
「よくできました」
満足そうな笑顔で、俺に向けていたスマホを下ろすカイ。
撮影されてました。
まじで、誰にも見せるなよ!
「おいで、俺の可愛いネコちゃん」
「・・・にゃん」
玲央に抱き付いた事、カイは怒らないって言ったけど、赦すとは言ってなかった。
なので、罰として今日はこのままネコ語で喋る事になっている。
「よしよし、上手に宣誓できて偉いね。璃都は可愛くて偉い。いい匂い。美味しそう」
「んにゃ・・・にゃにゃあ っ」
「ふふ。璃都のネコ語可愛い」
そんなとこ褒められても嬉しくないんだが?
首を吸うな舐めるな噛み付くなっ!
「んんっ・・・にゃ ん、にゃにゃに ゃにゃんに ゃ」
「お腹すいた?お魚がいいかな」
「にゃにゃにゃ 」
「お寿司?璃都にゃんがいいなら、食べに行こうか」
相変わらず俺のネコ語を完璧に理解しているカイが、片腕で俺を抱き上げ出かけようとする。
いや、この格好のまま連れてく気?
「にゃ に ゃ!にゃにゃんに ゃ」
「ええ、せっかく可愛いのに?仕方ないな、シグマに出前を頼もうか」
「にゃ?」
え、お店じゃなくてシグマに持ってきてもらうの?
なんで・・・。
「シグマ、俺のネコちゃんが寿司が食べたいそうだ。ああ、頼む」
カイは電話でシグマに連絡し、俺を抱き直してソファに座った。
なんか、シグマに申し訳ない事したな・・・。
「にゃにゃに ゃ、にゃう にゃにゃに ゃ?」
「ん?午前中は仕事してたよ?璃都を迎えに行く時に帰らせたけど」
例のシェルターは、カイとりっくんが家族にも内緒で用意した部屋らしく、シグマやローも知らないんだって。
だから、俺を迎えに行く時もシグマは来てなかった。
つまり、シグマは午後から休みだったって事か。
寿司食べたいなんて我儘言わなきゃ良かった・・・。
「にゃにゃにゃに ゃにゃに ゃにゃにゃんに ゃ?」
「まあ、それがシグマの仕事だからね。そんな顔しないの。シグマの家はすぐ隣だし、頼らない方がシグマに叱られるよ?」
「にゃーにゃに ゃ?」
シグマって隣に住んでたんだ。
確かに、カイが呼べばすぐ来てくれるし、近くに住んでるんだろうなとは思ってたけど。
だからって頼るにしても、いきなりお寿司持ってきてとか横暴過ぎない?
来てくれたらちゃんとお礼言わなきゃ・・・この格好でかぁ・・・俺の誠意が伝わるといいけど・・・。
───────
「カイザル様、璃都様、お待たせいたしました・・・あ、サビ抜きにしておいて正解でしたね。ネコさんには刺激が強過ぎますから」
カイと玄関で、シグマからお寿司を受け取った。
もちろん俺は茶トラ姿のままで、シグマはそんな俺に怯む事なくにこやかにネコ扱いをしてくる。
「ありがとうシグマ。ところでネコちゃんに生 姜 って食べさせても大丈夫?」
「少量でしたら問題ないかと。ただ、ネコさんによってはマタタビと似た興奮作用をもたらす事もあるそうです」
「それはいい事を聞いたな」
いったいどこがいい事だったんだ?
俺はワサビも平気だしガリだって普通に食べるぞ。
「・・・にゃにゃに ゃ、にゃにゃにゃにゃ う」
「どういたしまして。お外に出たくなかったのですよね。お察しします」
シグマにも俺のネコ語が通じた。
その上、この姿で外出させられそうになったのを回避するためだった事も察してくれるなんて。
本当になんて有能な執事なんだろう。
シグマが帰り、俺たちは2階のリビングへ。
カイがソファに座り、俺はその膝の上に座った。
「璃都にゃん、あーんして?」
「にゃぁー・・・んっ」
俺の好きな数の子が口に運ばれてきた。
んーっ、旨い。
こりこりぷちぷち咀嚼しながら、無事に家に帰ってこられて良かったな、と考える。
シェルターに連れてかれたのが木曜の朝、今日は土曜で、明日は日曜。
ネコパジャマで過ごす土曜か・・・嫌な予感しかしないな・・・。
「次はどれがいい?」
「にゃにゃに ゃ」
「璃都にゃん、たまご好きだねぇ」
このお寿司屋さんのたまご焼きは、ぷるぷるで甘くて美味しい。
寿司とは別に包んであって、焼き立てらしく温かかった。
「んーっ、んーにぃ」
「ふふ、ほんと可愛いな」
こんな格好でにゃんとか言ってて、なにが可愛いのかわからん。
俺、再来週には19歳になるんですけど・・・。
「にゃん 、にゃに ゃにゃにゃ い」
「急に悪口言うのどうして?」
カイと寿司を食べ、先に満腹になった俺は膝上から下りてソファに横向きに座り、カイを背もたれにしながらお茶を飲んだ。
カイは左手を俺の腹にまわして、そっと摩りながら寿司を食べてる。
・・・左側じゃなくて右側に座れば良かったな。
「んー・・・んんー・・・んーんんー・・・♪」
「俺のネコちゃんがご機嫌だ」
ご機嫌?
・・・あ、俺、鼻歌うたってた?
機嫌いいのか・・・なんでだろ・・・。
そうだ、帰宅してからリビングでスマホを拾ったんだった。
玲央に「無事に帰宅して寿司食った」とメッセを送る。
すぐに「俺はラーメン」と返信が。
ラーメン・・・そういや、最近食べてないな。
「にゃーにゃ ん・・・」
「あれ、お腹いっぱいじゃなかったの?」
「にゃん。にゃにゃに ゃ」
「明日のお昼ね。璃都にゃんは・・・鶏白湯が好きそう」
とりぱいたん?
まあ、カイがそう言うなら、たぶん俺が好きな味なんだろう。
カイも寿司を食べ終わり、お茶を飲んでる。
湯呑みをテーブルに置いた隙に、カイの膝の上に横になって伸びをした。
「んんー・・・っにゃ」
「なにそれ可愛い。先に言ってよ、動画撮りたかった」
撮られてたまるか。
俺はそのままカイの上でごろごろして、収まりのいい体勢を検討する。
うつ伏せは苦しい・・・仰向け・・・いや、横向きがいいな・・・カイの方向いて・・・ちょっと丸まって・・・。
最終的に、カイの腰に巻き付くような体勢になっちゃったけど、これ意外と落ち着く。
「お腹があったかい」
俺は腹巻きか。
別にいいですけど。
俺が巻き付いてるせいで、身動き取れなくなったカイが困るだろうと内心ほくそ笑んでいたのに、囚われのオオカミは存外に優しい手付きで俺の頭を撫でる。
茶トラのネコ耳カチューシャも、そっと外してくれた。
・・・そーゆーとこだぞ。
「別に、着けたままでもいいのに」
「寝るのに邪魔になっちゃうでしょ。起きたらまた着けて」
ネコ語も勝手にやめたのに、咎めない。
俺が眠たそうだと思ったんだろう。
「・・・なんでそんな優しいの」
変態で絶倫で、恐くて執着すごくてストーカーのくせに。
俺、迷惑しかかけてなくて、養ってもらってて、大学にも行かせてもらって、なんにも返せてないのに。
だから、せめて・・・。
「もっと俺の事、好きにしていいよ」
カイがしたいなら、監禁されてもいいって、思ってしまった。
毎日一緒に居てくれるなら俺、ずっとこの家から出られなくても、大丈夫な気がする。
「嬉しい事言ってくれるね。正直、今すぐお言葉に甘えたくなっちゃうけど、目標だった可愛い俺だけのダメ璃都には成りつつあるし、このまま甘やかしてどんどんダメにしていこうかと」
カイに会えない、連絡とれないってだけで吐くようになってんのに、まだ足りないと?
「これ以上ダメになったら、終生飼養 すんの大変にならない?」
「夫婦なんだから偕老同穴 でしょ。前にも言ったけど、俺なしじゃ生きられないようになって欲しい。璃都の自立心を根刮 ぎ奪って、俺がいなきゃ息も出来なくなって、俺が欲しくて欲しくて仕方なくなくなって欲しい。そうなってくれたら、大変どころか幸せだよ」
・・・やっぱ恐いな。
危うくとんでもないオオカミに堕ちるとこだった。
気をしっかり持たなくては・・・。
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