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第74話
今日は土曜で、朝からのんびり平和に過ごしてた。
ゆっくり起きて、カイに抱き上げられて、洗面所行って顔洗って、カイに抱き上げられて、キッチンでブランチを作るカイを抱っこされたまま観察して、カウンターチェアに座るカイの膝上でベーグルサンドとミネストローネを食べて・・・。
「カイ、どうしたの?起きてからずっとくっ付いてるけど、寒い?」
残暑もすっかり落ち着き、昼間は過ごしやすく、夜は寒くなってきた。
オオカミって寒がりなんだっけ?
「・・・璃都 、今日がなんの日かわかる?」
え?
今日?
10月4日・・・ええ、なんの日かって・・・なんだろ・・・。
「わかんない。あっ、投 資 の日、とか?」
「違うよ。俺たちにとって忘れられない日のはずなんだけど?」
俺たちにとって忘れられないって・・・・・・あっ!
「公園で拉致られた日だ!」
「拉致だなんて人聞きの悪い・・・」
そうだ、去年の10月4日、バイト帰りに公園で星見てて、カイが現れてそのまま車に乗せられて・・・。
「あれは拉致だろ」
「違うよ。寄り道してた婚約者を心配して迎えに行ったんだよ」
「その時点で俺は婚約に同意してませんでしたよね?」
5歳の時の事を夢だと思ってた俺からしたら、初対面な状態だったんだぞ。
それなのに、最初の自己紹介でカイは俺の夫だと言い張って・・・。
有無を言わさず車に乗せられて・・・あの時の恐怖は忘れられない!
・・・って、話題に上がるまで忘れてたけど。
「思い出したらまた恐くなった?逃げたい?」
俺を抱き締める腕の力が強くなった。
ちょ・・・前にこれで気絶させられたことあるんですけど・・・やめてぇ。
「逃げないって!カイはずっと恐いけど諦めてるし。玄関開けられないし」
「開けられるようになったら、どうする?」
「・・・・・・逃げない」
「ねえ、今ちょっと考えたよね?なに考えたの?ねえ!」
もお、なんだよ、また俺が逃げるかもって考えて、ずっと放さないようにしてたのか?
小心者のオオカミだな。
「あのさ、カイは恐いけど、俺は逃げないよ。カイがいないと具合悪くなるし。またトイレ掃除させられたくなかったら、ちゃんと毎日俺の面倒見るんだぞ」
「璃都のなら吐瀉物だって・・・」
「やめろ、それ以上言うな」
恐いじゃ済まされなくなりそうな予感がする。
「じゃあ、今日は俺たちの再会記念日って事?」
「初めて逢った日でもあるよ」
「・・・え、そーなの?」
初めて会ったって、12年・・・いや、13年前の?
カイが5歳の俺を誘拐しようとした・・・?
最初が誘拐未遂、2度目が拉致・・・カイザル・ルプスの犯罪記念日じゃん。
「13年前の・・・俺の運命に出逢った日・・・噛み付いて逃げられた、トラウマの日・・・っ」
「・・・と、トラウマって・・・だからもう逃げないって言ってるじゃん!それに俺にとってもトラウマだし!」
まあ、忘れてたけど。
忘れてたら、トラウマとは言えないのかな。
まさかカイは、12年間ずっと、10月4日が来る度に落ち込んでたりしたの?
定期的に暴れてたって、この日も暴れてたの?
「おい、変態ストーカーオオカミ」
「・・・はい」
返事するな、否定しろ。
お前は完璧スパダリハイイロオオカミ獣人だろ。
「ご結婚は?」
「してます」
「奥さんのお名前は?」
「璃都・ルプス」
「今、お前の腕の中で大人しく抱かれてんのは?」
「俺の・・・可愛い、命より大切な、番で妻の、璃都」
わかってんならうじうじするな。
「まったく、毎年10月4日が来る度に慰めてなんてやらないからな。今日で最後!カイも忘れなさい!」
「・・・これから毎年、一緒に居て。慰めなくていいから、普通にしてるから、暴れないから・・・10月4日は俺と一緒に居て。お願い、璃都」
・・・仕方ないな。
でも、そーゆうのって、6日後の方がいいんじゃないの?
「10月10日 は一緒に居なくてい・・・」
「10月10日は結婚記念日かつ俺の璃都の誕生日だよ!?午前0時から24時間ずっと一緒に居て一瞬も離れちゃいけない日!」
「あはっ、必死か」
うじうじオオカミが甘えんぼオオカミに変わって、俺の首にすりすり、肩にぐりぐりと顔を擦り付けてくる。
はいはい、好きなだけどーぞ。
・・・あ、そうだ、ついでにアレも聞いておくか。
「前にさ、妥協はしてないけど我慢してるって言ってたじゃん。俺をダメ人間にするのは、我慢した上での最たる希望だって」
「・・・うん?」
「恐くても逃げないから、我慢しない場合の希望、言ってみて?」
叶えてやるとは言えないけど。
聞くだけ聞いて、受け止めてやるから。
どんなに恐くても、今日も明日も、この先ずっと、一緒にいるから。
「言ったら逃げ・・・」
「逃げない。執拗 いぞ。俺の事信じてよ、番でしょ?あ、でも取り敢えず聞くだけだから」
予防線は張った。
首輪して鎖で繋いで監禁?
脚の腱 を切る?
ベッドに縛り付ける?
どんなに恐い事言われても、聞くだけだからな、どんと来い。
「璃都の葬儀をする」
・・・お・・・っと、そうきたか。
金の瞳から光が消えてますけど、その眼やめて。
まあ、想定の範囲内って思ってしまう俺、だいぶカイに毒されてるな・・・。
「璃都を社会的に死んだ事にした上で監禁する。そうすれば、俺以外もう誰も璃都に関われなくなるでしょ」
「・・・・・・ん?それ、俺って生きてんの?」
「生きててくれなきゃ俺も死ぬんだけど。あ、璃都が俺と別れて離れるって言うなら、璃都を殺して俺も死ぬ」
あ・・・酔っ払って言ってたの、やっぱ冗談とかではなかったんだ?
俺、本当にヤバいオオカミと結婚しちゃったなぁ。
まあ、でも・・・。
「意外とそんなに恐くないや。ただし引き続き我慢はお願いします」
「本当?泣いて逃げるとかしない?」
「しない。次またそれ言ったらオオカ耳千切るぞ」
俺を社会的に死んだ事にしたがってるハイイロオオカミに両手を伸ばし、抱き上げてもらう。
カイは抱き上げた俺の首をかぷかぷと甘噛みしながらバルコニーへ出た。
クッションを枕にして、カイがガーデンソファに横になる。
抱っこされたままの俺は、少し体勢を変え、カイの上にうつ伏せになった。
「うじうじオオカミのぉ、耳はもっふもふぅ、いつか捥 いでぇ、キーホルダーにしてぇ、リュックに付けて学校 行くぅー♪」
「可愛い声でなんて酷い歌を・・・」
「あはっ、泣きそう?逃げる?」
「ふふっ、俺が璃都から逃げるの?あり得ないね」
あり得ないって・・・ネコだってオオカミに噛み付いて勝つかもしれないだろ。
・・・いや、違った、俺は人間だった。
そうだよ、人間だってオオカミに噛み付いて勝つかもしれない。
もっと恐れろ!
「ああ・・・幸せ・・・もう絶対に放さない・・・俺の璃都・・・愛してる・・・」
オオカ耳を喰 む俺の背中に腕をまわし、ぎゅっと抱き締めるカイ。
大事な耳に噛み付かれてるのに幸せなんて・・・。
「カイが幸せなら良かったよ。面倒見てもらってるお返しに、いっぱい噛んでいっぱい幸せにしてあげる」
「俺の璃都が俺を幸せにしてくれる・・・最高・・・っ!」
あ、オオカ耳がぷるぷるしてる。
可愛い、これ好きなんだよなぁ。
「璃都」
「んー?」
「こっちでも、俺の事食べてくれる?」
背中にまわってた手が、俺の尻を掴んだ。
・・・いやいや、ちょっと待ちたまえ。
「バルコニ ーでじゃないよね?」
「バルコニ ーではまだシた事なかったね」
「いや待て脱がすな、待て!こら!」
待てができない駄狼に、待てと言うだけ無駄だった。
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