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第三話 森の中
漁村を後にした2人は森を進んでいた。
ハクは松明を掲げ先導し、周りを慎重に確認しながら進む。幸い、人が頻繁に通るのか道らしい道があり、そこを歩いている。
「近いとは言われたけど、村までどのくらいかかるんだろうね。もう日は完全に落ちたみたいだから、それなりに歩いたはずなんだけど…」
「まあ船に比べりゃ酔わないだけ、歩いた方が楽だがな」
船の乗り心地を思い出しげっそりし、暫く船は乗りたくないと思うハク。
「中途半端な所で野宿するのもめんどくせえし、さっさと進むぞ」
「うん、ハクちゃん無理はしないでね。休みたくなったら言うんだよ?」
「そんな柔じゃねえよ、心配すんな」
それからは黙々と進んでいた2人だが、ふとハクが小声で言う。
「…おい。アゲハ、気づいてるか?」
「うん…何人か周りにいるみたいだね」
周りを軽く警戒しながらアゲハが言う。
「どうにもいい雰囲気はしねぇな。…走るぞ!」
「うん…!」
ハクが言うと同時に2人は真っ直ぐ走り出す。
周りの気配も少し遅れて、同様に走り出した様だ。
「松明が邪魔くせえ…!」
「でも、捨てたら火事になっちゃうよ!」
ハクは舌打ちする。腰には刀、右手に松明を持っているのでどうにも走りにくいのだ。
走り続ける2人だが、どうやら囲まれたようだ。四方から人の気配が近づき、遂には目の前にボロボロの着物を着た桑をもった男が踊り出る。
逃げ道のなくなった2人は仕方なく止まる。
すると後方や左右からも、草刈り鎌や包丁などを持った男達が寄ってくる。
「おいおい。願いを叶える神子がいる島にしちゃあ、随分と物騒じゃねえか」
男達の目は松明に照らされているせいかギラついて見える。
桑を持った男が唾を吐きながら吠える。
「バケモンの仲間は許しておけねえっ…!」
「たく、直接バケモン呼ばわりかよ。つうか何の話だ?俺はお前らに何もしてねえだろうが!」
「うるせえ…!お前らやっちまうぞ!」
桑を持った男が叫ぶと他の男達が一斉に飛びかかってくる。
ハクは飛びかかってきた草刈り鎌を持った男を殴り迎撃する。
後ろを伺うとアゲハは避けに徹して、男達の攻撃をいなしている。
すると、利き手ではない左手で殴ったせいか威力が足りず、鎌を持った男はすぐ体勢を立て直し斬りかかって来た。
「ちっ!」
避けきれず左腕が薄く切れ、血が滲む。
すぐに傷口を抑えようとするも右手には松明を持っている。そうこうしているうちに、鎌がまた振り下ろされる。
痛みを覚悟した時…。
「ぎゃあ!」
鎌を持った男の悲鳴が聞こえる。突然ハクの目の前に現れた人物によって、男は腹を刺されていた。
その人物には長い角が生えていた。彼は包丁を抜き取り、再度突き刺そうとする。
「…っやめろ!アゲハ!!」
その人物…アゲハは、ピタリと止まる。しかし、今度はハクの後ろから殴りかかろうとする、桑の男の腹めがけて包丁を投げ突き刺す。
「キヒッ…!」
アゲハは笑いながら、鎌の男から鎌を奪い他の男達へと走りだそうとする。
「っアゲハ!」
それを見たハクはすかさずアゲハの名を呼び、首に手刀を入れる。気絶し角が消えたアゲハを痛む左手で、なんとか受け止める。
アゲハを止める事はできたが、この状況は変わりそうにない。
アゲハに襲われていない男は怯えながらも切りかってくる。
「そこ!何をしている!」
突然、よく通る太い男の声が響き渡る。少し離れた場所から松明の光が見えた。
松明を持っていたおかげでこちらが確認できたらしい。その男は近づいてくる。
「あいつは…!ちっ、お前ら逃げるぞ。怪我したやつを連れてくのを忘れるな!」
男達は怪我人を抱えて退散していく。声の主である、ガタイの良い男がハクの元までやってくる
「…お前達、何者だ?」
「俺達は巫女に会いにこの島に来た。さっきのやつらこそなんだよ」
「客人だったか…、すまない。
最近は野盗が増えている。さきほどの者達もきっとそうだろう」
男は気絶しているアゲハに気づき言う。
「怪我をしているのか?村に案内する。医者に見せよう。」
「コイツは怪我はねえよ。村に行ったら俺の腕の怪我治してくれねえか?」
「ああ、もちろん、客人は丁重に扱うのが掟だからな。では、案内しよう」
踵を返そうとした男に、ハクは顎でアゲハを示して言う。
「なあ、アンタの松明持っててやるからよ。コイツ抱えてってくれねえか?俺には重すぎる」
ハクも力が無いわけではないが、いかんせんアゲハがデカすぎるのだ。気絶して脱力したデカい男は流石に一苦労だ。
それに、ハクは血を流している。意識が戻ったアゲハが血の匂いで鬼になるかもわからない。
男は頷き、松明をハクに渡してアゲハを抱える。
ハクは周りを照らしながら、男の案内に従って進んで行く。
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