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その日はその後、奈月が現われることもなく、友人たちから茶化されることもなく、無事に帰路に着いた。 相変わらず、女子たちの目に止まってしまい、不躾な視線を感じることはしばしば。 「わ、見て見て、めっちゃイケメンじゃない?」 なんて言葉が嫌でも耳に入っても来た。 イヤフォンで音楽で遮断しても音楽に油断していた結果、女子たちに立ち塞がられていた過去がある為、なるべく早足だ。 「どうしたの?想ちゃん。あんまりお箸進んでないみたいだけど。勝手に海老フライにしちゃったけど違うのが良かった?」 姉兄との夕飯。 ネイビーブルーのスウェットの部屋着の想は、うーん...と海老フライを箸でつついた。 「ううん。なんか今日、変なことがあって...ていうか変な人?」 「お前が変だから変なやつに絡まれるんだろ」 兄の諒が即座に茶化す。 「もう!諒くん、そうやってすぐ想ちゃんをいじめるんだから!変な人?大丈夫だったの?何かされた?」 さすがに姉の玲香は痴漢にでもあったか、妙なスカウトでも受けたかと少々神妙な面持ちになり想の話しを聞くことにした。 「なんかね、いきなり、子作りしましょう!て言われた」 その瞬間、勢いよく諒は口に含んでいた味噌汁を吹き出した。 「わ!諒くん、汚いじゃない!」 「悪い悪い...いきなり子作りしましょう...?確かに変な奴だな」 諒は玲香からティッシュを受け取り汚したテーブルを拭いた。 「...うーん。ということはその子はオメガ、てことになるのかな?」 少々、理解し安堵した玲香は伏し目がちな想を見ながら箸を伸ばす。 玲香も諒もベータだが、一応それなりには知識はある。 「うん」 「発情してたとかか?」 「いや、そんな感じじゃなかったような...て、発情してるオメガとか見たことないし知識でしかわからないからあれだけどなんとなく...」 「本能的に想ちゃんとの子供が欲しい、とかかもね。私たちはベータだしわからないけど。想ちゃんとなら優秀な子供が出来ると感じたとか」 「こいつと優秀な子供!?ありえねー... まあ、想のその性格とか抜いたらまあ、何も言えねぇけど...ったく」 ガブ、と諒が海老フライにかぶりついた。 「でも、もしなにかあったら相談して、ね?想ちゃん」 「うん、ありがとう、玲香お姉ちゃん」 「ほら、冷めないうちに食べよっ。お代わりもあるからね!」 「うん!」 そして3日が経過し、奈月が現れることもなく、日常が戻った、と思いきや。 「想!お前にお客さん!」 教室の入口でクラスメイトに呼ばれた。 「...お客さん?」 ちら、と入り口のドアを見るとそこには奈月の姿があり、きょろきょろと首を左右に動かし想を探していた。 そして速攻、想は机の下に潜り込んだ。 「あー、悪い、想、今日、風邪ひいて休みなんだわ」 「え?そうなの?渡したいものがあったんだけど...いないなら仕方ないか」 そうして奈月はクラスを離れ、 「撒いてやったぞ、想」 「ありがと、仁くん」 友人たちの助けにより想は狭苦しい机の下から解放された。 が、その日だけでは終わらなかった。 諦めがつかないのか奈月は想を探し、見つけては追い、逃げる、もしくは奈月にとっては逃げられる日々が始まった。
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