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第4話 キャンプしています

「……」 「ご、ごめんなさい」  焚き火の前でふたり並んで座る。だばーっと泣いているタクトくんと、無表情の俺です。  一晩中長身男が乗っかっていたせいで、全身が痛い。  横で延々とタクトくんが泣きながら謝罪してくれているんだけど、一向に彼の顔が見れない。なんせ昨晩―― 『ベリちゃん好き~』 『タクトくん! そろそろ俺死んじゃう。重い!』 『一番大好き。……結婚したい……』 『ぐふっ……』  ってやりとりが頭から離れないんだ。俺が気絶したとこじゃなくて、結婚したいって言われたとこ。もちろん、別れた彼女さんに向けての台詞だったんだろう。それ以外は考えられない。ほほ笑ましいことだ。  だと言うのに、心に何かが引っかかっている。  でもその正体が分からなくて。  俺がこうやって考え込んでいるせいで、怒ってるって思っちゃったのかな。ずびっずびっと鼻をすする音がする。  いい加減切り替えるか。せっかく来たんだし。キャンプに。  すっと顔を上げると……酷い泣き顔と目が合った。 「はい。鼻チーンして」  あきれ顔で、でも笑みを浮かべてポケットティッシュを差し出す。 「ううっ。ベリぢゃ……。まだおごっでる?」 「ううん。考え事してただけ。怒ってないよ。次は無いぞ?」  笑顔で言ったのにタクトくんが固まってしまった。笑えてなかったのかな。  寒くて焚き火の前から動けないし。俺が動かないから、タクトくんもじっとしている。好きなことしてきていいのに。  垂れてきたようで、隣でヂーン! と鼻をかんでいる。  初心者用のキャンプ場。キャンプに初心者も熟練者もあるのかと思っていたが、慣れて無い人はキャンプ場で、こうして大勢で楽しむらしい。周りはわいわいと楽しむ声がする。  ――俺は何をしていいのか分からん。  ひたすら火を見つめている。や、でもこれ悪くないな。火を見てると落ち着く。  寒いので俺だけ真冬の装備だが。ベ〇マックスのように着ぶくれた俺が待ち合わせ場所に現れても、タクトくんは生温かい目をするだけで何も言わずにいてくれた。 「ね」 「ん?」 「何をすればいいの?」  分からないので真っすぐに訊いてみる。  タクトくんは張り切って立ち上がった。一気に顔が見えなくなる。 「キャンプ飯ですよ! 楽しいですよ。飯にしましょう」  やる気十分だ。鼻息が荒くて可愛い。一人じゃないから楽しいのかもしれないな。周囲を見ても変な人は見当たらないし、今日は大丈夫そう、かな。  飯か。  鞄から財布を取り出す。 「じゃあそこの施設で買ってくるわ。カレーでいい?」 「ベリちゃん。キャンプに来た意味が……」  若干引かせてしまった。  初心者丸出しのことを言ってしまったようだ。ここは大人しく従おう。 「指示ちょうだい」 「俺とハグして!」 「……」  この子……あれだな。王様ゲームとかで王様になった途端、調子乗るタイプだ。  白目になってしまったが、両腕広げて尻尾振っているので、「いやいいです……」と言えなかった。  二人で抱き合う。恥ずかしいが、二本の腕で抱きしめられると信じられないほど安らぐ。  「何してるの?」と聞かれても何も答えられないけど。 「タクトくん~。男二人でこんなことしてたら、変な目で見られるよ?」  昨夜を思い出すくらい抱きつかれている。なんとか顔を上げると、口角の上がったタクトくんが見下ろしてくる。 「変な目って? 目が四つくらいあるって意味?」 「…………」  脳内が真っ白になってしまったが、キャンプ飯とやらは楽しみだ。  タクトくんが満足してから離れる。 「チーズダッカルビを作ります」 「……」 「キムチ、食べれる?」 「あ、うん。好きだけど」  チーズダッカルビってなんだ? 聞いたことはあるけど見たことも食べたこともない。名前から、チーズが入っていることだけは連想できる。  タクトは焼き鳥の入った缶詰を取り出す。 「焼き鳥の缶詰とかあるの? すげー」 「えへへ。美味しいですよ。ベリちゃんの作ってくれるご飯の次に」 「はいはい」  アウトドアテーブルにガスコンロをセットする。 「焚き火で調理するんじゃ……ないんだ」  ちょっと残念。 「火加減が難しいので、ベテランにならないと焚き火では……。俺はまだガスコンロに頼っちゃう」  てへへと笑っているタクトくん。 「へえ。焚き火じゃあ、むずいのか。そうだよな。火加減が一定なわけないし」  俺はどうにも余計なことを言ってしまうな。 「ベリちゃん。そこの、スキレットを取って」 「誰?」 「人名じゃないよ⁉ そこの、ミニフライパンみたいなやつ」  ああ。あれか。確かに小さいな。 「ツッコミ用?」 「死にます。鉄なんで……」  駄目だ。俺は黙ってた方がいいかも知れない。  持ってみると重かった。 「可愛いフライパンだな」 「俺の方が可愛くないですか?」  なんでこの子は無機物と張り合ってるの。 「タクトくんは可愛いよ」 「えっへん。まあね! ベリちゃんもかわい……あっ!」
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