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第5話 チーズダッカルビ
無言でキムチを炒めるタクトくんと眺める俺。
「キャンプでもこういう、缶詰って使うんだ。なんか意外……。自然のもの中心かと思ってた」
「ふふっ。缶詰は保存も利きますし味付けもしてありますからね。ベテランさんも使いますよ」
あー。そうだよな。今の季節はともかく、夏場は痛みが早いし。荷物多いのに調味料まで鞄に入れてられないもんな。
「へー。勉強になる」
「誰かと一緒って、楽しいです」
「また、彼女さん出来ると良いな」
その娘がキャンプ好きだとなお良し!
「……」
急激にタクトくんが黙り込んだ。
背中に冷や汗が流れる。
あれ? 地雷踏んだ? そんな馬鹿な。別れてもフラれても、数日でケロッと復活するこの子が。まさか、引きずってるのか? 前の彼女さんを……?
それなら悪いことを言ったかもしれない。
「ごめん。無神経なこと言っちゃって」
「へ?」
「え?」
「「……」」
噛み合ってないことは理解した。
「いや。ま、前の彼女さんのこと、引きずってるのかと」
「? いえ。特に……」
――さっきの沈黙はなんだったのさ。びっくりしたなぁ、もう。
キムチがめっちゃいい香り。
しなしなとなってくると、缶を開けて汁ごと投入した。
「もう美味そう。この時点で、ご飯に乗せて食べたい」
「俺もいつもそう思っちゃうよー」
よだれ垂らしながらふたりで見守る。ぐつぐつしてくるとチーズをふりかけ、完成。
「初心者メシ! チーズダッカルビです!」
「っしゃー! めっちゃビールほしくなる香りだけど、車だからウーロンだ!」
涙を呑んで我慢する。車の振動で泡多めになったウーロン茶をビールだと思い込め自分。
紙コップに注ぐ。
「あっ。俺がやりますよ!」
「いいよ。俺ここにきて何もしてないから。このくらいさせて」
木製の鍋マットにす……す……なんだっけ? ミニフライパンを乗せている。お皿に取り分け、しないのかな?
「タクトくん。この量で足りるの?」
「ハッキリ言って足りないですけど。あまり荷物重くしたくないので、キャンプでは控えてます」
苦笑している。しかも今日は俺と半分こだから、さらに少ない。
普段あんだけ食べる子が……
鞄から財布を(略)。
「カレー買ってくるよ!」
「大丈夫だって! 熱々食べようよ!」
バッグハグされ、ドキッとしてしまった。服はふわふわなのに、見た目によらず筋肉質。そういえば重い物も軽々持ち上げてたっけ……。
固まっていると、顔を覗き込んでくる。
「ベリちゃん?」
「え? あ。……いやあの、お腹空かせたタクトくんを想像して……可哀そうになっちゃって」
優しく苦笑してくる。
「もう。平気だって。さ、食べよ」
アウトドアチェアに腰を下ろす。高さがちょうどいい。悩んで買ったからな。
「チーズダッカルビさぁ。お皿に分けたりしないの?」
「あう……。いつも一人なんで。お皿忘れちゃったや」
頭を掻いている仕草に和む。
「箸で摘むか」
「そうしよう!」
「「いただきまーす」」
箸で摘まみ上げるととろーりチーズがついてくる。
みよーん。
「すごい伸びる」
「チーズって想像よりあっついですからね! 気を付けてね! ふーふーしてよ」
「ふーふー」
そんな言わなくとも。分かってるよ。熱いよな。チーズって。口内にへばりつくし。
「はふっ。あひは。あふひっ」
いや、熱い熱熱い!
助けて!
「あわわ。一気に口に入れるから」
予想の五倍くらい熱かった。差し出されるコップを受け取り、ウーロン茶を流し込む。
「……ああー。助かった」
「気を付けてってば」
「……これ。タクトくんのコップじゃん。こっち飲みなよ。俺まだ、口付けてないから」
泡ウーロンがなみなみ入った未使用の紙コップを差し出すが、タクトくんは手の中の紙コップを取り上げた。
「はーい」
「はーい、じゃない! 使ってないのこっち!」
聞いてないな。わざと俺が口をつけたところからウーロンを飲んでいる。
カァッと、顔が熱くなった。
「っ、あのね。そういうことすると勘違いされるから。しない方がいいよ」
「? ウーロン茶とビールを、勘違いされても。俺、もう成人してるし……?」
「……」
「……?」
なんで俺たち、たまに噛み合わないんだろうな。仲良いのに。
「美味しいわ。チーズ……だ、だっ」
「ダッカルビ」
「ダッカルビ美味しいわ。家でも作ろうかな」
「いいですね。じゃあ俺は白米片手に食べに行きますね」
「そうそう! 白米と食べたくなるよな! ……食べに来るって言った?」
アルコールが無くとも盛り上がった。よほど一人が嫌だったのか、積極的に話しかけてくれる。俺はキャンプの質問ばっかりしてしまった。いやぁ。思ったより楽しくて。ハマりそう。
チーズダッカルビはあっという間になくなった。
「「ごちそうさまー」」
ふう。腹八分目かな。ちょうどいい。タクトくんは……物悲しそうな目をしているので、腹一分目もいってないだろうなきっと。
しばしゆったりしてから、洗い物タイムだ。
「洗い物は? どうするの? 川で洗うの?」
「いえ。水場があるので。そこで」
「川で洗っちゃ、駄目なの?」
「……川で、洗いたいんですか?」
また引きつり笑顔にさせてしまった。だってすぐそこにあるじゃん、川。
川に行かないように、手を繋いで水場に連行される。
ご飯時なので、周囲からお肉の焼けるいいにおい……。
「タクトくんさぁ。俺に合わせて初心者用のキャンプ場に来たわけ、だけど。楽しめてる?」
「すっごい楽しい! ベリちゃん色々聞いてくれるから。自慢できて楽しい」
素直だな。俺も色々教えてくれるから楽しいよ。
「俺も。そこまで虫いないし」
「夏場は、悲惨ですけどね。でも楽しいよ」
「……」
「黙り込んじゃった……」
想像しただけで泣きそう。
ちらっと周囲を窺う。
「洗い物多い人は大変そうだな」
「だね。場所によっては、水場まで五分ほどかかるところもあるし。そういうのも、調べておくといいよ」
タクトくんが頼もしく見える。
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