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第13話 人間基準
俺は、俺の上にいる生物を、どうやったところで退かすことはできない。
単純に体格が違う。筋肉や骨の密度。大岩も砕きそうな牙。冬月のような冷たい眼光。体重も、いくらくらいあるのやら。
彼が、優しいタクトくんでなければ、俺はもう気絶しているだろう。多少頭が働くからなんなのか。知力ではひっくり返せない圧倒的強者。
(そもそも人間って……血の繋がりのない者同士でも連携できるのが強みだし。単品にされたらどうしようもない!)
彼から漂う獣臭。人間でないと突きつけてくる現実。
真っすぐに目を見つめる俺に、タクトくんがやわらかく頷く。
「うん。理解できたなら、大人しく言うことに従ってね?」
「……あ、え」
「返事は?」
「……」
「あれ?」
泣きそうな俺の顔を見て、言葉が足らなかったと思ったようだ。
「ああ。違うよ。あんまり抵抗されたり焦らされたりすると、俺たちはついムキになっちゃうから。余裕のあるうちに、優しく抱いてあげたくて。……普段は言うこと聞かなくてもいいけど、交尾の時はね。俺に従って」
「ふあ!」
膝裏を持ち上げられ、彼の前に股間を晒してしまう。
「おお。いい眺め」
「うわああああ! そんないきなり! 見ないでよ!」
強制的にM字開脚させられる。
大事なところと恥ずかしい穴を同時に鑑賞され、顔から火が出そうだった。
手で隠そうにも、腰どころか背中までが浮いてしまっているため身体を支えるのに必死だ。
「ぅ……見ないで。馬鹿! そんな、とこ」
「そそる顔するよね。きれいな色してるし、いいニオイ」
「ひうっ」
ペニスに鼻を押し当てられスンとにおいを嗅がれる。触られるより恥ずかしくて、めちゃくちゃに暴れ出す。
「やめ、やめて!」
足で蹴飛ばそうとするが、掴まれた脚は全く動かせない。足は腕の三~四倍の力があるとされるが。それでも。
「……っぐ」
「ふふっ。本当に弱い。弱くてかわ。えっと。煽情的だよ」
ワンピースのように裾の長い上着が胸までずり下がり、おへそも見えてしまう。
「いいね。全部見せてほしい」
「ちょ、頭に血が上るから、下ろして」
ほぼ逆さまに近かったのだ。そっと足を下ろされるとホッとした。
「ごめん。興奮しちゃって。ちゃんと優しくするから」
「……ほんとに? 優しくする?」
逃げられないのなら腹をくくるしかない。ええい。俺も男なんだ! 相手はタクトくんだ。死にはしないはず。
きっと睨むと頷いてくれる。
「狼男基準で優しくするから」
……やっぱ。駄目かも知れない。
「人間基準で優しくしろおおおっ! 俺は人間だ!」
隣のリビングを掃除していたミキ君が飛び上がった。
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